SS13~支部長の抗議~
どうも皆様、ご無沙汰しております。弐式水戦です。
先ずは投稿が大幅に遅れてしまい、申し訳ありませんでした。
理由としては、第98話を投稿してからどのように展開を繋げるかを考えたものの良いアイデアが出ず、そのままズルズルと引き摺る事になった上に、仕事(と言ってもバイトですが)やゲーム、ハーメルンで書き始めた新作にかまけてしまい、こうなったといった感じです。
今後の投稿についてですが、先ず書き始めた当初のようなペースでの投稿は無理だと思われますし、今回のように次の話までかなりの期間が空く事も多々あると思われます。
ですが、投稿そのものを止めるわけではありませんのでご安心ください。
それでは長くなりましたが、最新話です。どうぞ!
神影が予想外の人物との再会に言葉を失っている頃、ヴィステリア王国王都の城下町を、騎馬の小集団が進んでいた。
「ふぅ……王都に来るのは、随分久し振りだな」
先頭を歩く馬に跨がった、ウェーブしたクリーム色のロングヘアに赤い縁の眼鏡を掛けた女性、ルージュ冒険者ギルド支部長、イーリス・カートリップが、町を見回しながら呟いた。
今日、彼女がこうして王都を訪れた理由は他でもない。先日起こった、勇人を始めとした一部の調査隊メンバーによる不正な引き抜き行為に対する抗議文を叩きつけ、賠償の支払いを確約するために来たのだ。
後ろに続く3頭の馬には、彼女に護衛を頼まれた冒険者パーティー"アルディア"の3人が跨がっている。
「それにしても、ミカゲとエーリヒも災難だったわね。連中の勝手な都合で連れ戻されそうになった上に、2対10で試合させられるなんて」
"アルディア"のリーダー、アメリアの言葉に、チームメイトのオリヴィアやニコルが相槌を打つ。
未だ城に居た頃の2人がどのような扱いを受けていたかを知る者として、今回の話は不愉快極まりないものだった。
理由や立場こそ違えど、ステータスや肩書きといった表面上の情報だけで落ちこぼれも見なされ、理不尽な扱いを受けてきた神影とエーリヒ。彼等は何ともないように振る舞っているが、少なくとも城で生活していた頃に心が休まらなかったのは間違いないだろう。
そんな中で過ごし、遂に城の連中を見限って冒険者となった2人は、ステータスや肩書きで差別されたり国の事情にも巻き込まれたりもせず、自分達のペースでのびのびと成長出来る、自由な立場や生活を手に入れた。それをむざむざ手放したくはないだろうし、先ず冒険者ギルドという独立機関に所属しているため、貴族や国の上層部であっても、おいそれと手を出す事は許されない。
だが、今回の騒動を起こした張本人である勇人は、今の彼等の立場や気持ちなど知った事ではないと言わんばかりに自分の主義主張を押し付け、挙げ句の果てには2対10という公平さの欠片も無い試合を無理矢理行わせて連れ帰ろうとしたのだ。
しかも彼が行わせた試合には、勇者と王国軍の人間が数人ずつ参加している。
勇人以外の連中がどのような思いで参加したのかは不明だが、彼等の行動が自分達冒険者を敵に回すものであったのは確実だ。それにアメリア達からすれば、彼等の勝手な都合で初恋の相手と引き離されそうになったのだから、彼女等が抱く怒りはかなりのものである。
「ねぇイーリスさん。もし調査隊に参加していた連中に会うなら、ボクからも一言くらい言って良いかな?こう見えて、腹に据えかねているんだ」
忌々しげに城を睨みながらそう言うオリヴィアだが、イーリスは首を横に振った。
同僚として、そして神影達の友人として文句を言いたい気持ちは痛い程分かる。だが、今の彼女等にそれを言わせる訳にはいかなかった。
だから彼女は、支部長としての顔で釘を刺した。
「気持ちは分かるけど、今の君達の立場はあくまでも護衛だ。そこのところ、忘れてはいけないよ?」
そう言われたオリヴィアは食い下がろうとするものの、アメリアに諭される。
今回の主役、つまり抗議文を叩きつける者はイーリスであって、自分達ではない。ただ護衛として来ているだけの自分達がしゃしゃり出る幕ではないのだ。
もし彼女の忠告を無視して勝手な行動を取れば、逆に自分達の立場が悪くなる上に、イーリスからの信頼を裏切る事になる。
ここは私情を捨て、大人しく護衛任務に集中するべきだった。
「……大丈夫」
そんな彼女の横に自らが駆る馬をつけ、ニコルが声を掛けた。
「……あたし達の分まで、イーリスさんがキッチリ言ってくれる」
相変わらずの小さな声で言うニコルだが、その言葉には説得力があった。
一番の被害者は言うまでもなく神影とエーリヒだが、イーリスもまた、今回の騒動における被害者の1人であり、内心では当事者達への怒りに燃えているのだ。
冒険者ギルド支部長の座についている彼女は、『冒険者の立場は基本的に絶対中立』というルールの元、冒険者達を外部の不当な圧力から守らなければならない。
そのため、もし神影達が連れ戻されるような事になっていれば、その約束が守られないという事になる。
そうなれば、所詮ギルドは国家の犬として認識され、冒険者からの信用の失墜という大きな損害を被ってしまうのだから、責任者として看過出来ないのだ。
しかも勇人は、勇者パーティーへの復帰を拒む神影から冒険者の立場について聞かされたにもかかわらず、『関係無い』と一蹴した。これはつまり、冒険者の立場など、勇者パーティーや王国からすれば大したものではないと言っているようなものである。
更に付け加えると、神影とエーリヒは冒険者登録をしたその日に、国家規模での悩みの種であった盗賊団"黒尾"を壊滅させて捕まっていた女性達を全員無傷で救出し、FランクからCランクへの飛び級昇格を果たした大型新人であり、イーリスもあの一件以降、彼等には大きな期待を寄せている。
勇人がやろうとしていた事は、そんな期待の新人を自分の許可無く強引に奪おうとした事と同義だ。
"勇者"という肩書きと、自分達現地人より高い身体スペックしか持たない子供風情に己の領域を土足で踏み荒らされ、挙げ句の果てには多大な損害を被らされそうになったのだから、イーリスは徹底的に当事者達へ制裁を下すだろう。
だからニコルは、自分も当事者達に文句を言ってやりたい気分でありながらも、イーリスの言葉に納得し、オリヴィアに声を掛けたのだ。
「今回の件では全面的に向こうが悪いし、ギルドのトップが出てきているのだから、奴等も大きく出る事は出来ないわ。だから私達は、一先ず護衛の任務に専念しましょう?それが、今やるべき事よ」
「……ああ、そうだね」
オリヴィアは頷き、心の中で渦巻くドス黒い感情を抑える。
そして城の前に着くと、門番から立ち入り許可を得て入っていくイーリスに続き、城の敷地内へと足を踏み入れる。
そして彼女等が案内されたのは、勇者達が使っている訓練場だった。
中では勇者達が、騎士や魔術師達の監督の元、訓練に励んでいる。
「そこで少々お待ちください」
門番はそう言って中へと入っていき、少しすると戻ってきた。
「騎士団長から、此方で話してくれと」
「分かった、ありがとう」
イーリスがそう言うと、門番は持ち場へと戻っていく。
それを見送ると、3人を連れて中へ足を踏み入れ、フランクに言われたのか整列している勇者達の前に立った。
偶然にも、この日は離反した神影や幸雄、太助を除いた勇者パーティーのメンバー全員がそこに居た。
「(ミカゲ君が言っていた通り、皆若いな……大人は1人だけか)」
軽く全体を見渡した後、イーリスは咳払いの後に口を開いた。
「初めまして、勇者の皆さん。私はイーリス・カートリップ。ルージュ冒険者ギルドで支部長をしている者だ。そして此方が、護衛の冒険者パーティー"アルディア"の3人だよ」
その言葉を合図に、"アルディア"の3人が揃って頭を下げる。
自分達と大して歳が変わらない少女達も冒険者をしているという事に驚く者も居る中、イーリスは早速本題に入った。
「さて、今回こうしてお邪魔させていただいた理由だけど………君達の中に、我がギルドに所属している冒険者を不当に引き抜こうとした者が居てね、その抗議をしに来たんだよ」
すると、その件に参加していた者達の表情が凍りつく。
各グループの教官役をしていた騎士や魔術師の中にも参加者が居たのか、その者達も気まずそうな表情を浮かべた。
「その冒険者………つまりミカゲ・コダイとエーリヒ・トヴァルカインは、確かに元は君達の陣営に所属していた。それは本人達の口から聞いている。でもね、過去はどうあれ、今は我等冒険者ギルドの所属だ。それも2人の意志によって決められたものだから、君達に口出しする権利は最初から無いんだよ」
そう言うイーリスの表情は冷たく、ギルドのトップに君臨しているだけあってか、身体中から威圧感を発していた。
「しかも彼等は、此方では酷く冷遇されて、それが黙認されていたらしいからね。それで強くなってるなら、仲間なんだから戻って協力しろだなんて、烏滸がましいにも程がある。更に言えば、冒険者は絶対中立で、貴族や王国上層部でも容易に手を出す事は出来ない。ましてや、君達のように"勇者"という称号と私達現地人より高いスペックしか無い子供風情が口出しするなど、言語道断なんだよ」
イーリスの言葉が、その場に居る全員に重くのし掛かった。
勿論彼女も、この件に全員が関わっていた訳ではないという事は分かっているが、だからと言ってこの抗議を全員が真摯に受け止めるという確証は無い。だからこうして全員に聞かせる事で、今回の件が如何に重大な事か、そして彼等の行動が何れだけ愚かだったのかを知らしめ、2度とこのような真似が出来ないようにするのだ。
「しかも我々は、今回の件で所属している冒険者からの信頼を失い、大きな損害を被っていたかもしれなかったんだ。そちらの勝手な都合でね」
「………ッ」
彼女からの抗議で多くの者が俯く中、納得出来ないと言わんばかりの表情を浮かべる者が居た。
それが誰なのかは言うまでもなく、勇者パーティーのリーダー、聖川勇人だ。
あの吊し上げが終わってから、イリーナやソフィア、教師のシロナから他の参加者共々散々説教された事で、一先ず冒険者がどのような立場にあるのかを再確認した彼だが、神影やエーリヒの態度には、どうしても納得出来なかった。
勇人が抱いている彼等の印象は、『自分達が魔王討伐に向けて死に物狂いで訓練に取り組んでいる中、終わった事をやり玉に挙げて好き勝手に過ごしている勝手な連中』といったところだ。しかも、彼等は以前より強くなり、十分戦力になり得る程の力をつけているにもかかわらず、過去の事を引き合いに出して協力しようとせず、寧ろ邪魔だと言い張っているのだから、余計に許せないのだ。
彼が心の中で不満を募らせている中でも、イーリスの話は続いた。
「──であるからして、少なくとも君達は、ミカゲ君達"ジェノサイド"と、我々ルージュ冒険者ギルドに対して大きな損害をもたらそうとした。そのため我々は、君達にその報いを受けさせる」
そう言って、イーリスは神影に報告を受けてから書いていた抗議文の紙を1枚取り出し、その要求やペナルティの内容を伝えた。
先ずは、日を改めてルージュのギルドへ謝罪に来る事と、その際にギルドと神影達の双方への賠償金を支払う事。彼等2人への不正な引き抜き行為に関わった者達の謹慎処分の要求。それからペナルティとして、彼等をギルドにおける要注意人物として登録し、今後再び問題を起こすようであれば、彼等からの依頼を拒否する事もあり得るというものだった。
「……ちょっと、それは流石に──」
「勇人ッ」
遂に我慢の限界を迎えたのか抗議しようとした勇人を、奏が強い口調で止めた。
「未だ分からないの?冒険者というのは絶対中立で、貴族や国の上層部でも簡単には手を出せないの。そんな組織に世間知らずの子供が喧嘩を売ったんだから、こうなるのは当然の事よ。寧ろ、これだけで済むんだからありがたいと思いなさい」
そう言う奏の目は鋭く、有無を言わさぬ迫力があった。
あまり素性を知らないエーリヒの事は別として、神影は此方の世界へ来る前から理不尽な目に遭っており、召喚後は更に拍車が掛かっていた事は知っている。
他の全員が"勇者"の称号を獲得する中で1人だけ獲得出来ず、更に初期のステータスが極端に低かったために、一部の心無い者からは生きる価値すら否定される始末だった。
その後も大したケアも無いままパーティーを外され、挙げ句の果てには模擬戦の際に功達が行った不正行為だ。そしてここでも、被害者である神影は放置された。
そのような事があった上で強引に引き抜かれ、自分の生活を狂わされそうになったのだから、神影やエーリヒが怒るのは当然の事だ。何なら復讐されても文句は言えない。
だが、今回はそうならず、イーリスからの説教と賠償で済むのだから、言い方は悪いかもしれないが安上がりだと、奏は思っていた。
「それに、彼等が城で冷遇されていたのも事実よ。しかも殆んどがそれを黙認していたんだから、彼等が強くなってると分かった瞬間に手のひら返して『仲間なんだから協力しろ』だなんて、虫が良すぎるのよ」
「……………」
マシンガンのように言い募る奏に、勇人は何も言い返せなくなる。
「分かったら、大人しく罰を受け入れなさい。今の貴方達に、文句を言う権利は無い筈よ」
それっきり、奏は口を開かなかった。
その後イーリスは、フランクや魔術師団長のハイネス。そして勇者パーティーの最年長として出てきたシロナの4人で日程等を話し合い、王族を含めた上層部へ向けた文書を渡すと、"アルディア"の3人を連れて訓練場を後にしようとする。
「……ああ、そうだった」
だがイーリスは、ふと何かを思い出したかのようにそう言って、奏の方に近づいてくる。
何を言われるのかと身構える奏だったが、イーリスは先程までの厳しい表情から一転し、優しげな笑みを向けていた。
「ミカゲ君から聞いたよ………君や他の娘、確か、アマノとかユキクラって言ったかな?彼女等も支えてくれてたって。それに君は、強引に引き抜こうとする連中を止めてくれたらしいね」
「えっ……あ、はい」
身構えていた矢先にこの言葉を受けた奏は、戸惑いながら頷く。
「……止めようとしてくれて、ありがとね」
そう言って奏の頭を優しく撫でると、イーリスは今度こそ訓練場を後にした。
こうして、ルージュ冒険者ギルド支部長による抗議は幕を下ろしたのだった。
如何でしたでしょうか?
結構考えて書きましたが、約半年ぶりの投稿なので文の構成がイマイチかもしれません。
これは、今後の投稿で直していきたいと思います。
因みに、本来なら第99話を書く予定でしたが、文章構成の都合上、先にサイドストーリーを入れさせていただく事にしました。勝手で申し訳ありませんが、何卒ご理解いただきたく存じます。
さて、ここからは余談ですが、本日、7月10日をもちまして、私、弐式水戦は20歳になりました!いやぁ、今日まで長かったような短かったような……
去年は胃腸炎に苦しみながら誕生日を迎えましたが、今回は健康体で迎えられたので安心しています(笑)
ここ暫くの間は、働いているホテルで振り回されたり、一時的にハーメルンにログイン出来なくなったり(本サイトやハーメルンでの活動報告を参照。尚、既に解決済みです)、自転車を買い換えたりとイベント盛り沢山でした。
これからも色々ありますが、頑張っていこうと思います。
取り敢えず、早く車の免許取りに行かないとな……それにお酒も飲めるようにならないと駄目だし……