SS12~クルゼレイ皇国での話~
ご無沙汰です。
文章どうしようかと考えてたら1ヶ月近く更新していないと言う状態に………orz
因みにその間、作者は映画見に行ったりプラネタリウム(planetarianバージョン)見たりしてました。
てか、ハーメルンでplanetarianの二次創作書く人居ないかなぁ……
神影達が今後についての話し合いを終わらせた頃、魔王グラディス・ヘルシングは、何時もの菓子を手土産にクルゼレイ皇国女王、ナターシャ・シェーンブルグの元を訪れていた。
前回、仕事をサボって彼女との世間話に興じていたために妻からこっぴどく叱られ、その上娘にも呆れられた事を反省したのか、今回は仕事を一段落させた上での訪問である。
と言っても、それが何時もと変わらぬ転移魔法を使ってのアポ無し訪問であるためにナターシャからは相変わらず呆れられており、訪ねた際に盛大に溜め息をつかれた上に『事前に連絡の1つくらいは寄越せ』と文句を言われたのは余談である。
「………と言う事が、昨日あったらしいんだ」
「まあ。前回の彼等に続いて、また新たに2人も離反者が出るなんて………」
グラディスからの報告に、目を皿のように丸くするナターシャ。
彼等が話している内容は言うまでもなく、先日の幸雄と太助による男子生徒とカミングスの吊し上げ&2人の勇者パーティー離反事件や、それが起こった経緯についてだ。
部下の1人であり、今は密偵としてヴィステリア城に忍び込ませているレイヴィアから、新たに勇者パーティーの中から離反者が出たと言う報告を受けたグラディスは、本来は3日かけて片付ける予定だった仕事を徹夜で一気に終わらせてナターシャの元へとやって来たのだ。
普段は仕事の息抜きをするためにクルゼレイ皇国を訪れているグラディスだが、今のように新しい情報が入った際にも一番先にこの国へとやって来る。その理由は、此処がヴィステリア王国にとっての第1目標だからだ。
共存主義国家の代表国とも言われているクルゼレイ皇国は、人間主義国家の1つであるヴィステリア王国からすれば邪魔な存在。当然、王国はこの国を叩き潰したくて堪らないだろう。
これまで戦争を仕掛けられなかったのは、ヴィステリア王国とこの国の戦力がほぼ互角であり、たとえ向こうが他の人間主義国と結束して挑んでこようとも、此方にも他の共存主義国に加え、魔人族陣営と言う強力な後ろ楯があったからだ。
しかし、最近行われた勇者召喚によって彼等が戦力の大幅な増強に成功し、召喚された勇者達も日々の訓練でメキメキと力をつけてきている今、彼等がやろうとする事に対する警戒レベルを上げなければならなくなるのは当然の流れだと言える。
そのため新たな情報が入れば、それがどんなに些細な事であろうと、彼等が戦争を始めた時に真っ先に狙ってくるであろうこの国にそれを伝える必要があるのだ。
勿論グラディスは、この事を他の共存主義国家にも伝えに行くつもりである。
人間主義を掲げる国々から狙われているのは、クルゼレイ皇国だけではないのだから。
「お話を纏めると、王国は調査隊を派遣したものの"黒尾"を倒した冒険者の正体は突き止められず、ミカゲ・コダイ殿とエーリヒ様を連れ戻すのにも失敗。その翌日、ミカゲ・コダイ殿のご友人2人の離反によって戦力はダウン………と言ったところでしょうか?」
「ああ、大体そんなところだ」
グラディスは頷き、皿に盛られた菓子を口に放り込む。
ナターシャが然り気無く、エーリヒを"様"付けで呼んでいた事についてはスルーだ。
「(まあ仕方ねぇ、何せあの夫婦の息子だからな)」
魔王である自分よりも遥かに上の存在でありながら畏まった態度を嫌い、特にプライベートでは完全に友達感覚で接してくる夫婦と、その1人息子であり、未だ交流があった頃は自分に懐き、娘ともよく遊んでいた少年姿を思い浮かべるグラディス。
彼の表情には、自然と笑みが浮かんでいた。
「んんっ!まあ兎に角だ」
咳払いをすると共に表情を引き締めたグラディスは、今回の話し合いの纏めに入る。
「今の連中は、例の件による戦力ダウンや勇者達の精神面での問題があるだろうから他国への侵攻は出来そうにないだろう。だが決して油断はするな。くれぐれも警戒を緩めないように」
「ええ、分かっております」
チームメイトの離反により、弱体化すると共に精神面でも大なり小なりダメージを受けているとは言え、それも一時的なものだ。時が経てば、敵も勢いを取り戻すだろう。
そのため、何時宣戦布告を受けても対処出来るように警戒を緩めないよう忠告するグラディスに、ナターシャも覚悟を決めたような表情で頷いた。
「さてと………それじゃあ、俺はこの辺りで」
「あら、珍しくお早いのですね」
普段の彼らしくもなく早々と席を立つグラディスに、意外そうな眼差しを向けるナターシャ。
「ああ、他の国にも報告に行かなきゃならんからな。余った菓子は…………まあ、ドアの向こうで盗み聞きしてる娘さんにでもやってくれ。それじゃな」
そう言い終えるや否や、ナターシャが言葉を返すのも聞かずにさっさと転移魔法を発動させ、部屋から姿を消してしまうグラディス。
だだっ広い部屋に1人ポツンと取り残されたナターシャは、数秒の沈黙の後にドアの方へと振り返り、未だにドアに張り付いているであろう娘に声を掛けた。
「其所に居るんでしょう?入ってきなさい」
その言葉に答えるかのようにドアがゆっくり開き、水色のドレスに身を包んだ1人の少女が入ってきた。
母親と同じ、海のように青いロングストレートの髪に加えて黄色の瞳を持つ、大人しそうな雰囲気を纏った美少女だ。
「……貴女だったのね、シルヴィア」
そう呼ばれた少女は、ドアを閉めると恭しく一礼した。
「ごめんなさい。通り掛かったら聞こえたものでして………」
「良いのよ、何時かは貴女達にも伝えなければならない事なのだから」
国家の存亡に関わる話なら、自分だけの話にする訳にはいかない。
大臣や兵士は勿論だが、娘達にもこの事を伝える必要がある。
そのためナターシャは、シルヴィアが盗み聞きしていた事について咎めるような事はしなかった。
「そう言えば、ベールはどうしたの?一緒じゃないの?」
「お、お姉様でしたら………」
そう言いかけたところで、気まずそうに視線を逸らしてしまうシルヴィア。
その反応から何かを悟ったのか、ナターシャは手で顔を覆う。
「またですか…………あの娘も懲りないわね。それに、もうすぐ出発だと言うのに」
今日は別の町で会議を行う事になっており、事前に伝えてあるにも拘らず平然と出掛け、出発間近になっても戻ってこないもう1人の娘に、ナターシャは呆れを隠せない。
「出発前にはちゃんと戻ると言っていたので、もうそろそろ帰ってくるのではないかと…………」
取り成すようにそう言うシルヴィアだが、ナターシャの表情は曇ったままだった。
「確かに、あの娘が時間に関する約束を破った事は無いわ。でもそう言う問題じゃないの。そもそも王女が護衛もつけずに出掛ける事が異常なのよ。それが散歩なら未だしも、魔物退治に行くだなんて」
何の事情も知らない人間からすれば活発な王女に聞こえるだろうが、同じ王族であり、母親である彼女にとっては堪ったものではなかった。
確かに、いざと言う時に自衛出来る程度の強さは必要だ。
そのためナターシャは、自分や娘達に武術の専属講師をつけて稽古を行っている。
しかしベールの行動は、最早稽古の範疇を超えて趣味の域に到達している。
相手が魔物とは言え、返り血や泥に塗れながら殺戮行為を働く王女など洒落にならない。
本来王族に求められるのは、気品があり、淑やかな振る舞いであり、敵を一方的に虐殺する暴力ではないのだから。
「………まあ良いわ、貴女は先に馬車に乗って待ってなさい。あの娘が戻ったら、私も直ぐに向かうわ」
そう言われたシルヴィアはコクりと頷き、部屋を出ていった。
「はぁ………人間主義国家との争いもそうだけど、家の問題児にも困ったものね」
グラディスが残していった菓子を袋に詰めながら、深く溜め息をつくナターシャ。
そうしていると、部屋の外で数人のメイドが何やら騒いでいるのが聞こえる。
「噂をすれば何とやら、ね……」
そう呟いて立ち上がったナターシャは、ノコノコ帰ってきた問題児に説教をくれてやると共に、今頃馬車で待ちわびているであろうシルヴィアの元へ引き摺っていこうと心に決め、部屋の外へと出るのだった。
(今更だが)pv100万突破!本作をお読みくださった皆さん、ありがとうございます!