第8話~役立たず~
「ゆ、"勇者"の称号が無いとはどういう事だ!?」
「な、何かの間違いだ。壊れているのではないのか?」
「いや、しかし………ステータスプレートが故障するなんて事例は、今まで聞いた事が無いぞ」
謁見の間に響いたカミングスの言葉に、文官達が戸惑いを見せる。
王妃や2人の王女達も信じられないと言わんばかりの表情を浮かべ、互いに顔を見合わせていた。
幸雄と太助の2人も、神影のステータスが非常に低かった事に戸惑いを隠せず、口をあんぐりと開けている。
カミングスが黙り込んでいる中、フランクが口を開いた。
「え、えっと…………まあ、何だ。この世界でのレベル1の人間の平均ステータスは10だからな。別に、低すぎるって訳でもないぞ………一応な」
微妙な表情を浮かべたフランクが何とかフォローを入れようとするのだが、明後日の方向を向いて放心状態になっている神影には、殆んど聞こえていない。
いや、仮に聞こえていたとしても、気休めにもならないだろう。
神影の周囲が何とも言えない雰囲気に包まれているが、全員がそんな気分になっている訳ではない。
中には別の反応を見せる者も居り、笑みを浮かべていた。
…………残念ながら、その笑みは悪い意味でのものだが。
「おいおい、1人だけ勇者じゃないとか、何の冗談…………くはっ、マジかよ!本当に勇者の称号持ってねぇぞコイツ!」
何時の間にか神影の傍に来てステータスプレートを覗いていた功が、声を張り上げたのだ。
すると、彼の取り巻きである2人の男子や、他数人の男子生徒がワラワラやって来て、功が引ったくった神影のステータスプレートを覗き、腹を抱えて笑う。
「ブッハハハ!何だよこのステータスは!?コレ絶対女子より弱いだろ!」
「おまけにコイツの特殊能力、言語理解除けば意味不明なのばっかりじゃねぇか!間違いなくクラスで一番最初に死ぬってコイツ!」
「日本じゃただの戦闘機マニアで、異世界じゃ役立たずとか…………もう生きてる価値無いだろお前!」
謁見の間に、男子生徒達が神影を嘲笑う声が響き渡る。
「ちょ、ちょっと皆!止めようよ!」
「そ、そうです!ステータスが低くても、出来る事はある筈です!」
「2人の言う通りよ、その不快な笑いを今直ぐ止めなさい!」
沙那、桜花、奏の3人が言うものの、神影の周囲で爆笑している男子達の耳には入らなかった。
男子達の輪には入らなかった勇人や一秋も流石に不快そうな表情を浮かべていたが、これと言って動きを見せたりはしなかった。
「へぇ、古代のステータスってそんなに弱いんだぁ」
そんな中、神影と同じ黒縁の眼鏡を掛け、ひょろっとモヤシのような体型が特徴の少年が、実に嫌味ったらしい笑みを浮かべて歩み寄ってきた。
彼の名は桐村 恭吾と言い、神影のクラスメイトの男子生徒だ。
彼は神影以上のオタク男子で、神影が男子生徒達から嫌われるようになる前は、よくアニメの話をする仲だった。
だが、神影が男子生徒達に嫌われるようになると直ぐ様彼との関係を切り離し、神影に敵意を向ける男子側に回っていた。
「うわっ、ホントだぁ。勇者の称号も無い上に、特殊能力だって役に立たなさそうなものばっかり…………元の世界で調子に乗ってた罰でも当たったんじゃないのぉ?」
不快な笑い声を小さく響かせ、神影と肩を組む恭吾。
他の男子生徒も、彼と同様の笑みを浮かべていた。
余程、神影のステータスが低い事が嬉しいようだ。
男子生徒達が神影に嘲笑を向けている中、我に返った幸雄や太助が口を開いた。
「でもよぉ、この航空傭兵って天職は見た事ねぇな…………なあ、フランクさん。コレってどういう天職なんスか?」
「ああ。もしかしたら、何か強力な能力を持った天職かもしれませんが?」
そう訊ねる2人だが、フランクは首を捻っていた。
「それが問題なんだが…………残念ながら、俺達もそんな天職は聞いた事が無いんだ。それに特殊能力も、言語理解以外はまるで意味が分からないものばかりからな」
「まあ、傭兵とありますから…………一応は戦闘向けの天職だと、私は考えております」
苦々しい表情を浮かべるフランクに、カミングスが続けた。
その後、チラッと神影に蔑むような視線を向けた後、彼は生徒達に向かって言った。
「まあ取り敢えず、皆様のステータスは全て確認出来ました。皆様、これからよろしく頼みますぞ」
カミングスがそう言うと、生徒達から自信に溢れた返事が返された。
自分達が勇者の称号に加えて高いステータスを持ち、さらに勇人や一秋、そして沙那達のような高いスペックを持つ者が居るのだから、訓練を重ねれば、自分達の勝利は確実だと思っているのだろう。
だが神影には、そんなもので盛り上がっていられるような余裕は無かった。
自他共に認める戦闘機マニアである一方でオタクでもある彼には、これまでの自分の境遇や、判明した自分のステータスから、自分が今後、男子生徒達からどのような目に遭わされるのかは容易に予想出来る。
「(やれやれ……こりゃ本当に、前途多難だな………)」
何時の間にか床に放り捨てられていたステータスプレートを拾い上げてポケットに突っ込みながら、神影は深く溜め息をつくのだった。