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航空傭兵の異世界無双物語  作者: 弐式水戦
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第94話~否定する奴など居ない~

「ちょ、ちょっと待ってミカゲ」


 顔合わせ兼話し合いが始まると、早速アイシスが待ったを掛ける。


「普通にサラッと流されたけど………アンタ、今ハーフエルフって言った?」

「ああ」


 その部分に食い付いてくる事など最初から予想していたのか、あっさりした様子で頷く神影。

 隣に居るエーリヒも、『やはりこうなったか』と言わんばかりの表情を浮かべている。


「何だ、問題あったか?」

「いや、別に問題あるとか無いとかそう言うのを言ってるんじゃなくてね…………」

「お、お二人は…………本当に、ハーフエルフなのですか……?嘘、とかではなく?」

「ああ、こんなの嘘ついたってしょうがないからな」


 そう言った神影はエリス達に各々のステータスプレートを出させ、論より証拠とばかりにアイシスとユリシアの前に置く。

 プレートを手に取るや否や、アイシス達は真っ先に種族の欄を睨むようにして見る。

 決して神影の言う事を疑っていると言う訳ではないのだろうが、やはり目の前に居る2人の少女が、この辺境の田舎町に住んでいればどのような形でも会う機会など皆無に等しい他種族との混血児ハーフだと言われれば、やはり実際に自分達の目で見て確かめたいと思うものなのだろう。

 ついでとばかりにエリス達が長い髪を掻き上げ、エルフの特徴とも言える長くて先の尖った耳を見せる。

 ステータスプレートに加えてエルフとしての特徴を見せつけられた2人には、信じる以外の選択肢は無いも同然だった。


「どうやら本当みたいね…………それにしても、半人半亜なんて種族初めて見たわ」


 アイシスの言葉に、コクコクと相槌を打つユリシア。

 そして2人は、礼の言葉を添えてエリス達にプレートを返した。

 因みに、エリスとエミリアのステータスは各々以下の通りである。




名前:エリス・ガートルード

種族:半人半亜 (ハーフエルフ)

年齢:16歳

性別:女

称号:追いやられし者

天職:軽戦士

レベル:26

体力:290

筋力:250

防御:240

魔力:560

魔耐:560

敏捷性:500

特殊能力:剣術補正、弓術補正、詠唱破棄、全属性適性、全属性耐性、移動速度向上




名前:エミリア・ガートルード

種族:半人半亜 (ハーフエルフ)

性別:女

年齢:15歳

称号:追いやられし者

天職:魔術師

レベル:24

体力:200

筋力:150

防御:160

魔力:500

魔耐:500

敏捷性:420

特殊能力:詠唱破棄、全属性適性、全属性耐性、移動速度向上




 先日の戦闘訓練で、神影やエーリヒの手助けを受けつつもかなりの数の魔物を討伐しただけあって、それなりのレベルアップを遂げていた。

 特殊能力も1つ増えている事や当初は戦うのを恐れていた事から考えると、鍛練としては上々の結果だと言えるだろう。


「ところで、チラッと見えた"追いやられし者"とか言う称号は何なのよ?大体よく考えれば、人間主義掲げて他の種族見下してるこの国で、亜人族との混血児が奴隷の首輪をつけてないってのも変な話だし」


 バッサリと斬り込むように疑問を口にするアイシス。

 エリスやエミリアからすれば、それは出来れば触れられたくない話だったのだが、残念ながらアイシスには通じない。

 何故なら彼女は、基本的に自分の思った事は何の躊躇いも無く、ストレートに言うタイプの人間なのだから。


「「………………」」


 アイシス自身に悪意は無い事は何と無く分かるものの、やはり彼女の言葉で暗い過去が脳内に蘇ってしまい、表情を暗くしてしまうエリスとエミリア。


「………あ、あれ?アタシ、何かマズい事聞いちゃった?」


 その様子からただならぬ雰囲気を感じ取ったアイシスが、『やっちゃったかも』とばかりの表情で言う。


「ああ、その事なんだが………ん?」


 あまり触れないでやってほしいと言おうとした神影だが、突如として突き出されたエリスの右手によって中断される。

 神影がそちらへ目を向けると、ちょうどエリスも神影を見つめていた。


「………良いのか?」

「ええ。コレは、自分で言わなければならない事ですから」


 そう言ったエリスは、エミリアにも確認を取った後にアイシス達へと向き直り、自分達の出自や、先日の調査隊メンバーとのいざこざを交えたこれまでの体験を話した。

 全て話し終わった時のオールダム姉妹の反応は………


「…………やっぱ、選民主義思想の強い奴なんてロクなモンじゃないわね。ホント聞いてて胸糞悪いったらないわ」

「お父さんもお母さんも殺されて、ずっと迫害されるなんて………酷いですぅ……」


 神影やエーリヒから選民主義者の事を聞かされていただけあって、アイシスは最早怒るどころか呆れ返っており、ユリシアは2人が住み処も両親も奪われた上に、混血児である理由で理不尽な扱いを受けてきたと言う事で涙ぐんでいる。


「そういや、その日ママから絶対に外へ出るなって言われてたけど、あれそう言う意味だったのね………」


 調査隊が到着した日にアイシス達と会わなかったのは、どうやら彼女等が親から外出禁止令を喰らっていたためらしい。

 恐らく、エーリヒに先導されて家の前を通り過ぎていく騎士・魔術師団員や勇者を見た親が、すかさず娘達に外へ出ないように言ったのだろう。


「えっと、エリスとエミリアとか言ったわね?」

「は、はい。そうですが……!?」


 コクりと頷いた瞬間、突然身を乗り出してきたアイシスが2人の手をガシッと掴んだ。


「安心しなさい。このアイシス・オールダムとユリシアは、アンタ達の味方よ!」


 一切の迷いも感じさせない眼差しを向けて宣言するユリシアに、涙目でコクコクと頷くユリシア。


「「……………」」


 そんな彼女等に、エリス達は思わず呆気に取られてしまった。

 自分達の味方をしてくれるのは確かに嬉しい。それこそ感動のあまりに泣いてしまう程だ。しかし、神影やエーリヒと言い、グースやマーカスと言い、目の前の姉妹と言い、人間主義思想が蔓延っているこの国の人間なのに、何故こうもあっさりと自分達の味方になると言えるのかと言う疑問が出てくるのだ。


「………1つだけ、聞いてもよろしいでしょうか?」


 だからエリスは、不謹慎だと分かっていながらも、この質問を投げ掛けずにはいられなかった。


「良いわよ。何?」

「どうして皆さんは…………こうもあっさり、私達の味方をしてくれるのでしょうか……?」


 自分とエミリアは、格下だと見られている亜人族の中でも更に底辺に位置付けられている混血児だ。

 他種族との共存主義を掲げている国ならいざ知らず、人間主義を掲げている国で奴隷になれば、間違いなく純血の亜人族より更にぞんざいな扱いをされるだろう。

 しかし、この場に居る者達は誰も自分達を亜人族との混血児と言う理由で迫害しないし、奴隷扱いもしない。普通の少女として接してくる。しかも神影に至っては、自分達を『可愛い』と評する始末だ。

 ある程度人に慣れたとは言え、何年も周囲から白い目で見られ、迫害されてきた事によって心の中に植え付けられた、『自分達は最底辺の生き物だ』と言う価値観は、そう簡単には上書き出来ないものなのだ。


「なんでも何も、別に極悪非道な事した訳じゃないんだから敵扱いする理由なんて無いじゃない」


 愚問だとばかりの表情を浮かべ、あっさりした様子で言ってのけるアイシス。


「それに、確かにこの国じゃアンタ等亜人族への当たりはキツいものよ。でも皆が皆そうって訳じゃないわ」

「でも、昨日のミカゲさんやエーリヒさんもそうでしたが、私達を庇えば………」

「………国の連中が良く思わないだろうって?」


 言おうとしていた事を続けるアイシスに、エミリアは頷く。


「フンッ、そんなの知ったこっちゃないわね。ただエリート面してるだけの馬鹿共に口出しされる筋合いは無いっての」


 鼻で笑うアイシスの隣では、ユリシアがコクコクと相槌を打っている。


「良い?誰に味方をするかは個人が決める事。つまり己の心の有り様なのよ。ミカゲもエーリヒもアタシ等も、アンタ等に味方すると決めたの。誰に何を言われようが、それは変わらないわ」


 その言葉を受け、目を見開いて固まるエリス達だったが、徐々に目尻に涙を浮かべていった。

 

「そ、それなら……」


 震える声で、エリスが口を開く。


「私達は………此処に、居ても……良いのですか?1人の女として暮らして、良いのですか………?」

「ええ、勿論よ。此処にはアンタ等を否定する奴なんて居ない。自分を卑下する必要も無いの」


 その言葉で遂に涙腺が崩壊したエリス達は、ワッと声を上げて泣き出した。


「……よく言った、アイシス」


 神影はアイシスに近寄り、称賛の言葉を投げ掛けた。


「だってこの2人、放っといたら勝手に死にに行くような事すらしそうだもの。アンタだって何と無く察してたでしょ?」


 そう訊ねてきたアイシスに、神影は短く『まあな』とだけ返した。

 そう。この顔合わせにおいて、神影達はこのハーフエルフの姉妹に欠けているものが何なのかを悟っていた。

 それは、自分達の存在を肯定し、長年の辛い生活で植え付けられていた自分自身への負の価値観を完全に壊してくれる存在だ。


 幾ら安全な場所で保護して仲間を作ったとしても、彼女等の根幹の部分にある負の価値観をどうにかしなければ、この姉妹は自己犠牲どころでは済まされないようなレベルで自分自身をぞんざいに扱ってしまう。それこそ、自ら平気で捨て駒になろうとするような事すら行うだろう。

 もしそのような事になって死なれでもすれば、保護して色々と施した意味が無い。

 だからこそ、先ずは味方になった上で彼女等と言う存在を肯定し、自分達が決して穢らわしい存在ではなく、ゴミのように扱われる必要も無い。各々が1人の少女として生きて良いのだと分からせる必要があったのだ。


「それよかミカゲ、目の前でお嬢ちゃん達が泣いてるのに何もしなくて良いの?頭くらい撫でてやんなさいな」

「……はいはい」


 妙なところで姉御気質を発揮するアイシスに苦笑混じりに返した神影は、エリス達の背後へと回り、泣き止むまで優しく撫でてやるのだった。

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