SS11~その頃の幸雄達~
神影とエーリヒが夜の遊覧飛行を満喫している頃、王都・ルビーン間の街道には2人の少年の姿があった。
大切な親友を愚弄し続けてきた連中を吊し上げて勇者パーティーを離反した瀬上幸雄と、その親友である篠塚太助だった。
王都を出てからと言うもの、2人はひたすらルビーンを目指して歩き続けていたのだ。
「やれやれ。馬車に乗っていた時は気づかなかったが、まさかこれ程までに暗くなるとは………」
「つくづく"暗視"を手に入れといて良かったよな。いやマジで」
両脇を森に挟まれた真っ暗な街道を進む2人が、ブツブツと呟いた。
因みに、幸雄が言った"暗視"とは特殊能力の1つであり、名前の通りどんなに真っ暗な空間でも見渡せるようにすると言う能力だ。
迷宮での実戦訓練で暗闇エリアに入る事もあり、其所で行動している間に自然と身に付いていたのだ。
「特殊能力が増えたのは良いが………やはり、レベルが上がりにくくなっているのが響くな。道中に何体も魔物を倒したが、あまりレベルは上がっていないし」
そう言ってステータスプレートを取り出す太助に、幸雄も相槌を打った。
彼等のステータスは、各々以下の通りである。
名前:瀬上 幸雄
種族:ヒューマン族
年齢:17歳
性別:男
称号:勇者
天職:剣士
レベル:42
体力:1460
筋力:1460
防御:1390
魔力:800
魔耐:840
敏捷性:1840
特殊能力:言語理解、一刀流剣術、二刀流剣術、移動速度向上、気配察知、全属性耐性、物理耐性、高速回復、暗視、鑑定、斬撃威力向上、斬撃速度向上
名前:篠塚 太助
種族:ヒューマン族
年齢:17歳
性別:男
称号:勇者
天職:戦士
レベル:42
体力:1700
筋力:1650
防御:1640
魔力:800
魔耐:860
敏捷性:1500
特殊能力:言語理解、格闘術、身体強化、物理耐性、気配察知、全属性耐性、高速回復、暗視、部分強化、拳撃威力向上、移動速度向上
神影を追い掛ける事を決意した日から訓練に励み、今でも勇者パーティー全体ではトップ10、男性陣に絞ってもトップ5に入る程の実力をキープしている2人だが、何時か神影やエーリヒが感じていたように、レベルが高くなる程、次のレベルへ上がるために必要な経験値も当然多くなる。
しかも、王都を出てから2人が出会した魔物は何れも大してレベルの高くないものばかりだったため、それなりに多く倒した割りには、1つか2つ程度しかレベルは上がっていなかったのだ。
「そう考えると、古代もエーリヒって奴もマジ凄いよな。腐っても強い聖川や他の奴等を軽々ぶちのめす程強くなってるなんてよ」
幸雄が、今でも信じられないと言わんばかりの表情を浮かべてそう言った。
何せ神影は、勇者パーティーではトップの座に君臨している勇人のみならず、他数人の勇者や騎士・魔術師団員10人を相手に、自分とエーリヒの2人だけで迎え撃って蹂躙した上に、往生際悪く"限界突破"まで使った勇人を軽くいなしたのだ。そんな事をやってのける人間が少し前までは落ちこぼれだったとは、誰も思い付かないだろう。
「ああ。それについては、私もそう思うのだが………」
「……?そう思うのだが、何だ?」
いまいちパッとしない反応をされて首を傾げる幸雄に、太助は言葉を続けた。
「いや、どのようにすれば、あんな急成長を遂げられるのかと思ってな」
彼の疑問は最もだった。
城や迷宮でずっと訓練を積んでいた勇者パーティーのメンバーの中でも、レベル60を超えた者は誰1人として居ない。
勇者パーティーではトップの座に君臨している勇人でさえ、未だに57なのだ。
そんな彼等を平然と迎え撃ち、騎士・魔術師団員共々捩じ伏せたと言うのだから、神影やエーリヒのレベルは80以上、何れだけ低く見積もっても70以上だと言うのは容易に想像出来る。
だが神影は勇者ではない上に、エーリヒはそもそも現地人であるため、勇者と比べると成長は遥かに遅い筈だ。
真っ当にレベルを上げても、勇者数人と騎士・魔術師団員を叩き潰すと言うのは、普通に考えれば不可能だろう。
だが、実際に彼等はやってのけたのだから、太助が2人の急成長に疑問を覚えるのは至極当然の事だった。
「成る程………言われてみれば、確かに気になるな」
それを理解して、ウンウンと相槌を打つ幸雄は、何か急成長出来るきっかけになるようなものはあったかと考えを巡らせる。
そして最初に見せてもらった神影のステータスを思い出した時、彼の頭の中で豆電球が光った。
「そういや彼奴の天職って、確か"航空傭兵"とか言うヤツだったよな?」
「ああ。どんな天職なのかは分からず終いだったが」
「………もしかしたら俺様、それ含めて謎を全部解いちまったかもしれねぇ」
「何?それは本当か!?」
これまでずっと話しながら、ルビーンへ向けて動かしていた足を止めて幸雄の両肩を掴む太助。
「お、おう………」
その気迫に怯みながらも頷いた幸雄は、肩に置かれた手を退けて自分の考えを話した。
「先ずは"航空傭兵"って天職がどんなものなのかについてだが…………多分、航空機を使う天職だな。それもただの航空機じゃない。戦闘機とか爆撃機とかの、所謂航空兵器だ」
「なっ………!?」
思わず言葉を失う太助。彼がこのような反応を見せるのは無理もない事だった。
何せ、他の勇者達が剣やら弓やら魔法やらを使うのに対し、神影が使うのは機銃やミサイルや爆弾を積んだ航空機だ。つまり彼は、大量殺戮兵器を使うと言う事になるのだ。彼が驚くのは当然だろう。
「ホント、なんでもっと早く思い付かなかったんだろうな?俺様、自分自身に呆れちまったぜ」
『参った参った』と呟きながら、苦笑混じりに後頭部をポリポリ掻く幸雄。
だが、彼の話はこれだけでは終わらない。未だ神影の急成長の秘密が残っているのだ。
「んで、後は古代の急成長だが、それも"航空傭兵"って天職が絡んでると見ているぜ」
話を続ける幸雄が言うには、"航空傭兵"と言う事天職には、その天職を持つ者にしか得られない強力な特殊能力があり、それが神影の急成長に繋がっていると言うものだ。
彼の言う事は完全に的を射ており、実際、"自動強化"と言う特殊能力がある事に加え、この天職は耐性系の特殊能力を獲得しやすくする他、後天的ながらもステータス値の向上を促進する効果を備えているのだ。
おまけに、その天職の持ち主である神影ですら知らない効果も未だ幾つか備わっているのだが、それについては一先ず割愛させていただこう。
「ふむ、今のところその案が最有力だが…………なら、エーリヒについてはどうなる?彼は現地人だ、少なくとも"航空傭兵"の天職は持っていないと思うが」
「それなら、天職をコピーしてもらったとかで説明出来ねぇか?」
しれっと答えを返す幸雄だが、常識的に考えてそれは有り得ない事だった。
自分の天職を他人にコピーする能力など、見た事も聞いた事も無いのだ。
しかし、それ以外に現地人である筈のエーリヒが神影と共に勇者達を蹂躙する程の急成長を遂げる理由が見つからないと言うのも、また事実。
それに太助は、あの模擬戦においてエーリヒが戦闘機のような動きを見せていたのを覚えている。
あの時見せられた動きは、少なくとも戦闘機の"せ"の字すら知らない現地人がやるようなものではなかった。
となれば、これについても幸雄の案が一番信じられるだろう。
「もし、君の考えが全て当たっているとしたら………」
「ああ。古代がこの世界で空軍なんてモンを作っちまうかもしれねぇな…………いや、彼奴は傭兵だから、航空傭兵部隊ってところか」
航空兵器を扱う能力に加えて自分の天職を相手にコピーし、同じように航空兵器を使う力を与える能力。そんなものを手に入れているとなれば、幸雄のような考えも自然と浮かび上がると言うだろう。
「…………逃がした魚は大きいとよく言うが、古代の場合は大きいなんてものじゃないな」
「ああ、彼奴の場合は鯨レベルだぜ。いや、天職の凶悪さからすれば鮫や鯱かな?」
味方につければ間違いなく超強力なカードになる存在を、ただ初期のステータスや称号だけで無能だと判断して蔑んできた国や勇者パーティーの連中の見る目の無さに哀れみすら感じる2人。
だが、連中が今更悔やんだところで過去は変えられない。
神影はこの国を見限っており、その上勇者パーティーにも基本的には協力しない、そもそも興味も無いと宣言しているのだ。
せめて、元の世界に帰る方法を見つけた際に他の者達が便乗する事を許してくれたら万々歳だろう。
「でもまあ、俺様達や天野達への興味が無くなってないのは良い事だな」
「ああ。どんなに攻撃的になっても、彼の本来の優しさは変わっていない。それだけでも十分だ」
そう言って笑い合った2人は再び歩き出すのだが、"暗視"があるとは言ってもぶっ通しで歩き続けるのは得策とは言えない。
そのため、運良く見つけた村の宿に入り、旅の疲れを癒すのだった。