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航空傭兵の異世界無双物語  作者: 弐式水戦
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SS9~勇者パーティー会議~

 時は少し遡り、今は午前6時。ヴィステリア城で生活している勇者達の数人が、眠い目を擦りながら起きる時間帯である。

 そんな中、太助は幸雄の部屋を訪ねていた。


「しっかし、今日の話し合いの時間に実行とは、また急な話だな………あ~眠い」

「あははは………それについては、さっきから何度も謝っているじゃないか」


 寝ぼけ眼で普段着に着替えながら呟く幸雄に、太助は苦笑混じりに返した。

 昨日のルビーン訪問の際に勇人達が一悶着起こした事により、遂に勇者パーティー離反計画を実行に移す決意をした太助は、何と5時に起きて自分の用意を済ませ、幸雄の部屋に入って彼を叩き起こし、用意をさせていたのだ。


「それにしても、いきなり出ていく事に決めるなんて………向こうで何かあったのか?」


 あまりにも計画の実行が唐突過ぎる事に疑問を感じて訊ねてくる幸雄に頷いた太助は、先日のルビーン訪問で起こった出来事を全て話した。


 ブルームやゴルトの身勝手な振る舞いや、亜人族の少女達への理不尽な扱い。勇者パーティーへの復帰を巡る神影と勇人の対立に加え、神影が勇者パーティーへの復帰や功達との和解を真っ向から拒否した事で、勇人が無理矢理にでも言う事を聞かせるために取り付けた、2対10と言うあまりにも理不尽な人数配分での模擬戦。

 それを聞かされた幸雄の顔が怒りに染まるのは、当然の事だった。


「あの馬鹿共、やっぱり仕出かしやがったか………だから彼奴等を行かせるのは反対だったんだよ。なのに、あのクソジジイは………!」


 勝手に調査隊に同行するメンバーを決めた事でこの最悪な結果を招いたカミングスや、自分の思い通りにならなければ独善論を振りかざす勇人。そして、彼に便乗するようにして神影を潰そうとした功や恭吾達への怒りを露にする幸雄。

 勿論、幸雄が怒りを向けているのはカミングス達だけではない。

 ブルームやゴルト、そして神影やエーリヒを挑発したもう1人の男性騎士へも怒りを向けていた。

 神影が王都を出て以降、主に彼を貶していた騎士・魔術師団員が彼等だからだ。


「…………漸く納得したぜ、太助。こんな所、さっさとおさらばしちまおうや」


 話を聞くだけで腸が煮え繰り返りそうになった幸雄だが、その光景を実際に見た太助の怒りは間違いなく幸雄以上のもの。

 あれだけ腹立たしい光景を見せられたら、誰だってこのような集団に居たいとは思わないだろう。


「ああ、分かってもらえたようで何よりだよ…………さあ、早く準備してしまおう。もう直ぐ朝食の時間だし、それが終わったら直ぐ話し合いだからな」

「マジかよ。こりゃ急がねぇとヤバいっしょ!」


 先程までは寝起きであるが故にのんびりした動きだった幸雄だが、今ではそれが嘘のように機敏な動きをするようになった。

 そして瞬く間に用意を終わらせ、自分達が出ていく事を告げれば間違いなく困惑するであろう沙那達に事情の説明を兼ねた手紙を書く。

 その後、食堂へ同行するために2人各々のメイドがやって来ると、彼等は自分達が神影を追うために此処を出ていく事を伝えた。

 神影が出ていった後から荒れ気味になり、神影の陰口を叩く連中と何度も問題を起こしていた彼等を見ていたメイド達は、何と無く2人の心理を悟ったのか、何も言わずに了承した。

 こうして勇者パーティー離反計画実行の準備を整えた2人は、この城での最後の朝食を摂るべく、各々の専属メイドと共に食堂へと向かうのだった。



──────────────



「………では、話し合いを始めましょうか」


 朝食を終えた召喚組は、予め用意させていた大きな部屋へ移動していた。

 調査隊に同行した者達が居残り組の前に出て、代表としてシロナが話を進める。

 因みに勇人は、口を開けば一番厄介だからと言う理由で許可が出るまで喋らないように言われており、彼が口を開いたら直ぐ閉じさせる事が出来るよう、奏と太助が彼の前に立っていた。


「先ずは、昨日の事から話しましょうか」


 最初に話題に上がったのは、ルビーン訪問で神影を見つける事は出来たのかと言う事だった。


「先ず結論から言うけど………古代君には会えたわ。どうやらエーリヒって人と一緒に、冒険者活動をして暮らしているみたいよ」


 シロナがそう言った瞬間、居残り組にざわめきが広がる。

 沙那や桜花は、失踪してからずっと行方不明だった神影の居場所が漸く判明した事を知り、互いの両手を握り合って喜んでいた。


 それからシロナは、神影が城を出てからどのような生活をしていたのかを話した。

 幾つも迷宮を攻略したり、依頼をこなしたりしてきた事から、レベルもそれなりに上がっている事に加えて冒険者の中でも高ランクになっている事を伝えられた居残り組の面々は、神影が今では"無能"だと蔑まれるような存在ではなくなっているのではないかと考える。


「そ、それなら、もう此方に戻ってきても十分やっていけるんじゃ………?」


 居残り組の女子生徒の1人がおずおずと言ってシロナを見るが、当の本人は首を横に振った。


「残念だけど、彼は勇者パーティーに戻る事を拒絶しているわ。理由は………まあ言わずとも分かるだろうから、敢えて言わないわ」


 その言葉に、幸雄や太助を始めとした一部の生徒達は、当然だと言わんばかりの表情を浮かべていた。

 日本に居た頃は学校中の男子生徒から敵視される上にクラスの男子からは嫌がらせを受けてきた事に加え、異世界に召喚されて"無能"だと蔑まれるようになってからは、女子生徒からも見下したような目線を向けられる。

 そんな集団に戻りたいとは、神影でなくても思わないだろう。

 おまけに、神影が肩身の狭い思いをしながら過ごした期間は日本に居た頃と合わせて1年近くになっているのだから、尚更だ。


「私からも、言わせてもらって良いだろうか?」


 シロナに言われた女子生徒が俯いていると、今度は太助が口を開いた。


「古代が言っていたんだが…………彼は一部を除き、もう勇者パーティーへの興味は無いそうだ」


 その言葉にショックを受けたような表情を浮かべる居残り組の生徒達。

 勇者パーティーへの興味が無いと言う事は、つまり自分達の事などどうでも良いと考えている事と同じなのだ。

 

 それから太助は、神影が自分達に協力する気が無い事に怒った勇人が無理矢理行った、神影の今後の生活を景品にした模擬戦の事を話した。

 その話に、模擬戦に参加した勇人達が表情を不快げに歪める中、当然ながら居残り組の生徒達の間には、動揺が広がっていた。

 

「よ、容赦無いね………」

「ああ。桐村達を燃やしたエーリヒとか言う奴もそうだが、燃やされたりして傷だらけの奴等に追い討ち掛けるって…………」

「何つーか、人の形をした怪物って感じだよな………」


 同郷の人間だとか、クラスメイトだとか、そんなものは一切関係無く勇人達を叩きのめした神影の話に、居残り組の生徒達は震え上がっていた。

 もし神影が何らかの拍子に自分達への復讐を考えついた時、その容赦無い攻撃が飛んでくる事を想像したからだ。


 それから太助は、震える居残り組の事は一先ず脇に置いて模擬戦の結果やその後の出来事を話し、ルビーンでの話に幕を下ろした。


「さて…………夢弓先生、勝手に話を終わらせてすみません。続きをお願いします」

「え、ええ……」


 そう言ったシロナは、咳払いの後に話を再開した。


「この話を聞いて分かったとは思うけど………今の古代君は、一部を除いて勇者パーティーのメンバーには何の興味も持っていないし、前と比べて攻撃的な性格になっているわ。それについて、皆はどう思う?」


 シロナの質問に、生徒達は返答に困った。

 日本に居た頃は理不尽な扱いを受ける神影を見て見ぬふりしており、男子はそれに加担していた事や、異世界に召喚されてからは、"勇者"の称号を得られなかった上にステータスも最弱で、日に日に訓練についてこられなくなる神影を蔑んでいた事もあり、彼が自分達への興味を失い、協力も基本的にしないと言った事については、『身勝手だ』、『ちょっと強くなった程度で性格が歪んでいる』等と言って非難する事は出来ないのだ。

 幸雄や沙那達は、『それでも自分達の大切な人だ』と発言しようとしたが時間切れらしく、既にシロナは調査隊に同行した太助達へと目を向けていた。


「…………じゃあ、直に会った貴方達はどう?」


 その質問を受けた太助は、幸雄が『自分達の代わりに言ってくれ』とばかりの視線を向けている事に気づいて早速発言しようとするが、彼より早く口を開いた者が居た。


「んなモン決まってんだろ。ただのクズだ」


 秋彦が、あからさまに侮蔑の言葉を並べ立てる。

 彼が言うには、今まで散々自分達に面倒掛けた癖に、強くなったら見下したような事を言い、自分達に協力しようともしない最低な人間との事だ。


「そうだね。富永がせっかく和解したいって言ってたのに踏みにじるような事も言ってたし………人間としてどうかと思うような言動だったよ、うんうん」


 秋彦に便乗するようにして言った恭吾だが、それで睨まれる事を警戒したのか、『元とは言え友人を悪く言うのは心苦しいけどね』と付け加えた。

 そんな事など微塵も思っていない癖に、ペラペラと嘘八百を並べ立てる恭吾。

 そして功も、秋彦や恭吾に賛同して被害者面を始めた。


 それを聞いていた沙那や桜花は勿論怒りの声を上げ、奏も絶対零度の眼差しを向ける。

 本来なら、此処で幸雄と太助が激怒して飛び掛かり、何時もの暴力騒ぎを起こすのだが、意外にも、今回はそうならなかった。

 待ってましたと言わんばかりの表情を浮かべた太助は、幸雄に視線で合図を送る。


「(遂に実行か………OK、やってやろうじゃねぇか)」


 合図を受け取った幸雄は、両手を胸の前に持ってくる。

 そして………


「お前等マジ凄いよな。もう弁論大会にでも出りゃ良いんじゃねぇのか?」


 ふざけたような笑みを浮かべてそう言いながら、大袈裟に両手を動かして大きな拍手を部屋全体に響かせた。


 それは、幸雄と太助の離反計画実行と、日頃から神影を蔑んできた連中への吊し上げを開始する合図だった。

すみませんが、今回はここまで。SS10に続きます。

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