表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
航空傭兵の異世界無双物語  作者: 弐式水戦
102/124

第81話~模擬戦後~

 調査隊メンバーのギャラリー組は、今日と言う日を生涯忘れる事は無いだろう。

 目の前で行われた、2人の少年による容赦無い蹂躙劇。ある時は殴り、蹴り飛ばし、またある時は魔力弾の雨を降らせ、炎で焼き炙る。それで対戦相手が何れだけダメージを負おうと、彼等はお構い無しに更なる攻撃を仕掛ける。


 勿論ルールは守っているため、神影達は誰1人として殺してはいないし、腕や足を欠損させてもいない。

 だが、それでも2人の立ち回りは、調査隊組が思う模擬戦の範疇を大きく超えていたのだ。

 彼等が思う模擬戦とは、本気を出すと言いつつも何処かで力を抑えてしまっている。

 それは相手を殺さないように、はたまた大怪我を負わせないようにと変な気を使ってしまっているからなのだ。

 だが神影とエーリヒは、殺さないようにしているとは言え、一切の容赦が無かった。

 神影は女性であるフィーナが相手でも平気で殴り掛かり、またエーリヒは、至近距離であろうがお構い無しに、恭吾達を炎で焼き炙って火達磨にした上に、満身創痍の勇人には"三乱砲トライ・ガトリング"による魔力弾の掃射攻撃を喰らわせていた。

 その姿は、戦場で戦う軍人のようにも見えていた。

 今回の模擬戦を一言で表すなら、『殺し合いの1歩手前』と言ったところだろう。


「古代…………君は一体、どんな生活を送ってきたんだ……?」


 自分達の方へ歩みを進める親友を見つめながら、太助は小さく呟いた。

 エーリヒと共に日々鍛え、依頼を受けたり迷宮を攻略したりしながら過ごしてきたと言う事は聞いているが、それでもあの容赦の無さには、流石に戸惑いを隠しきれなかったのだ。


「…………」


 奏も口にこそしなかったが、エーリヒと共に容赦無く相手を蹂躙し、全滅させた神影を呆然と見つめていた。


「おっす」


 だが彼等に歩み寄ってきた神影は、先程の蹂躙劇など無かったかのように声を掛けた。


「あ、ああ………」

「お疲れ様……」


 戸惑いながらも返事を返す太助と奏に、神影は『やっぱりこうなるよな………』と内心呟き、苦笑を浮かべた。

 幾ら親友とは言っても、流石に目の前でクラスメイト達を蹂躙するような光景を見せられたら、当然戸惑いもする。

 特に奏の場合、勇人の身勝手な言い分が原因で始まった事とは言え、目の前で幼馴染みが叩きのめされる光景を見せられたのだから、尚更戸惑っているだろうと考えていたのだ。


「えっと………悪いな。あんまり良くないモン見せちまって」


 そう言った神影は、バツが悪そうに指で頬を掻く。

 冒険者としての日々を過ごす内に攻撃的な一面を見せるようになった神影だが、だからと言って、相手を気遣う事を忘れた訳ではないのだ。

 

「………良いのよ。今回の事は、全部勇人が悪いんだから」


 それを悟った奏は、苦笑混じりにそう返した。

 何れだけ強くなっても、攻撃的になっても、神影の本来の性格はそのままの姿を留めているからこそ、彼女も普段通りに接する事が出来ていた。

 太助もそれを察したのか、先程まで抱いていた戸惑いを脇に置いて、神影の肩を優しくポンポンと叩いた。

 

「君が気にする事ではない。君は自分達の生活を守るために戦い、勝った。それだけの事だ」


 『また暫く会えなくなるのは残念だけどな』と付け加え、太助は笑った。

 そもそも城での神影の立ち位置を理解していた太助は、幸雄と共に城を出て神影に合流する事など関係無く、彼を王都へ無理矢理連れ戻すと言うのは反対だった。

 そのため、勇人が勝負を持ち掛けた際には反論しようとしたのだが、そうするより早く模擬戦を行う事が決定されてしまい、大人しく成り行きを見守るしかなかった。

 そしてルビーンの外で模擬戦は行われ、どうなるのかと固唾を飲んで見守っていたが、神影達の勝利で終わった事で安堵してもいたのだ。


「それにしても、"限界突破オーバードライブ"を使った聖川をあっさり叩きのめすとは………強くなったんだな、古代」

「い、いや。その…………強くなったと言うか、何と言うか………」


 自分達の強さは、その殆んどが"航空傭兵"と言う天職の補正によるものだと理解している神影は、何ともパッとしない反応を見せる。

 神影達自身も確かに強くなろうと努力したが、それでも天職の補正と言うものが付きまとう。加えて何もしなくてもステータス値が上がっていくと言う、正にご都合主義満載の特殊能力、"自動強化"を持っているのだから、尚更だった。


「ああ、それは私も思ったわ。城を出てから今日までの短期間で、勇人をあっさり超えていたなんてね…………もしかして、今まで力を隠していたの?」

「………それについては必ず話すから、取り敢えずノーコメントで頼む」


 自分とエーリヒは戦闘機を扱う能力を持っており、勇人達を軽々あしらえるようなステータスもそれが影響していると馬鹿正直に伝えた時、どのような反応が待っているかは言うまでもない。

 これ以上面倒な事が起こるのは真っ平な神影は、今は何も答えない事を選んだ。


「まあ、それはそれとして………」


 そう言って話を一旦終わらせ、神影はイリーナへと向き直った。

 あの約束の確認をするためだ。


「一先ず勝負には勝ったんだ、約束は守ってもらうぜ。俺等は城には戻らねぇし、そちらさんも、それには一切文句を言わない………それで良いよな?」

「あ、ああ………勿論だ」


 神影の視線に怯みながらも、イリーナは頷く。

 元より彼女も、神影を無理矢理連れ帰る事には反対だった上に、そもそも勝負を持ち掛けた勇人本人がボロ負けしたのだから、約束は当然守らなければならない。


「………良し」


 彼女の答えに満足したのか、神影はコクりと頷いてエーリヒに向き直る。

 視線を向けられたエーリヒも、これまで通りの生活を続けられる事への嬉しさに笑みを浮かべていた。


「やったね、ミカゲ」

「おう」


 そう言って拳を突き合わせる2人。それを見た一行は、『どんだけ戻りたくなかったんだ』と内心呟いていた。


 それからギャラリー組によって、あちこちで転がされている勇人達が回収されて治療が施されたが、神影やエーリヒの攻撃によるダメージが思いの外大きかったのか目が覚めなかったため、彼等は1台の馬車に纏めて運び込まれた。

 その際、そんなに入るのかと疑問に感じていた神影とエーリヒだが、彼等が乗ってきた馬車は1台1台がそれなりに大きかったため、詰めれば何とか乗せる事が出来たのだ。


「さて…………それでは、長官殿の自宅に戻ろう。未だやらなければならない事があるからな」


 イリーナが言ったやらなければならない事とは、言うまでもなくブルームとゴルトの一件だ。

 彼等の目が覚めたら、2人に恐怖を植え付けられたエリスとエミリアに謝罪させる約束だったのだ。


「………そうだな」


 彼女の言葉に頷いた神影とエーリヒは、先に立って歩き出す。

 調査隊組も、イリーナとソフィアを除いた騎士・魔術師団員を勇人達の見張り役として置き、神影達に続いてグースとマーカスの自宅へ向かうのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ