第79話~決着………かと思いきや~
総合話数が100話を突破したけど、本編では未だ79話と言う複雑な状況………
「ゆ、勇者………ですか?」
「そう、それも異世界から召喚された存在なんやで?」
神影が勇者パーティーへの復帰や協力を拒否した事に反発した勇人によって強引に取り付けられた、神影達"ジェノサイド"と調査隊チームによる模擬戦にも決着の時が見え始めた頃、ルビーンの長官宅の大広間では、マーカスが神影の正体を教えていた。
「「……………」」
自分達を守ってくれた存在が異世界から召喚された勇者であると言う事に、エリスとエミリアは驚きを隠せず、目を見開いて互いに顔を見合わせる。
「まあ正確に言えば、"成り損ない勇者"なんだがな」
口に出す事に嫌悪感を感じつつ言葉を付け加えたグースは、どういう意味なのかと首を傾げる2人に神影の境遇を教えた。
本来ならば、現地人より数倍高いステータスと"勇者"の称号を持っている筈だったにも関わらず、神影には両方共無かった。
称号は"異世界人"で、ステータスも敏捷性を除けば非常に低かった。
一応、現地人の平均と比べれば高いのだが、勇者パーティーとしては最弱だった。
そのため、彼は"成り損ない勇者"と言う不名誉な二つ名を付けられ、形見の狭い生活を強いられてきたのだ。
「そ、そんな………」
「幾ら何でも、理不尽です………」
自分達の都合で勝手に呼び出しておきながら、期待に沿うようなステータスでなければ役立たずとしてぞんざいな対応をする王国上層部に、エリス達はショックを隠せない。
「ついでに言うと、エーリヒ…………ああ、さっきミカゲと居った金髪の男の子の事やけど、ソイツは元魔術師団員でな。このルビーン出身であるのと、学生時代は成績がイマイチやった事からずっと蔑まれてたんや。理不尽な暴力受けたとも言ってたしな」
「「…………」」
最早開いた口が塞がらなくなるエリスとエミリア。
いきなり聞かされた身の上話だが、自分達の恩人が受けてきたあまりにも理不尽な境遇に、ショックを受けていた。
「まあ、それが今では国の悩みの種だった盗賊団"黒尾"を壊滅させた英雄にして、迷宮攻略や依頼達成を連発している超腕利き冒険者になってるんだがな」
先程の不快感に歪んだ表情とはうって変わって、グースは微笑を浮かべる。
「そう思うと、国の上層部はホンマに惜しい事したモンやで。その辺の石ころや思うて捨てたものが、ダイヤモンドレベルの宝石…………ん?」
話を途中で中断し、ある一点に視線を向けるマーカス。
彼の視線の先では、小さく呻きながらゆっくりと目を開けるブルームの姿があった。
「うぅ……俺は、どうなって………?」
起き上がろうとするブルームだが体が思うように動かず、芋虫のように体をくねらせる事しか出来ない。
だが、それは無理もない事だ。何せ彼は、神影達が模擬戦をするために家を後にする際、自分が居ない間に目を覚ましてエリス達へ襲い掛かる事を危惧した神影の要求で、ゴルト共々縄で縛られているのだから。
「彼奴、漸く起きたみたいやな」
ソファーから立ち上がったマーカスがブルームへ歩み寄り、傍でしゃがんだ。
「よう、随分遅いお目覚めやな」
「?貴様は…………って、何だコレは!?」
マーカスに気づいたブルームだが、それより自分が縛られていると言う状況に驚く。
「貴様、俺が気絶している間に何をした!?」
「見ての通り、もう1人のデブ共々縄で縛らせてもらったんや。武器も預からせてもらったで。起きて早々この嬢ちゃん達に襲い掛かられたら堪ったモンやないからな」
淡々とした口調で、彼等が今置かれている状況を説明するマーカス。
彼が放った『嬢ちゃん達』と言う単語に反応したブルームは、動きが大きく制限された体を揺すって広間を見渡し、怯えた表情で自分達を見下ろすエリスとエミリアの姿を視界に捉えた。
「う~ん、何だよ五月蝿いな………!?ちょちょっ、なんで僕縛られてるのさぁ!?」
「お、おいゴルト!暴れるな!」
彼等のやり取りが目覚まし代わりになったらしく、ゴルトも起きる。
自分が縛られている事に気づいて左右にゴロゴロ転がりながら叫ぶゴルトに、マーカスはブルームの反応を重ね合わせた。
「もう説明すんの面倒やから、後で其所の騎士にでも聞け。それから、今ミカゲ達がちょっとした事情で出払ってるんやけど、帰ってきたらお前等にはやってもらう事があるからな。それまで精々寝転んどけや」
先程の一件でブルームとゴルトへの信頼を完全に失っているマーカスは、それだけ言い放ってグース達の元へ戻る。
それからは、罵詈雑言を飛ばしてくるブルーム達に怯えるエリス達を励ましつつ、神影達の帰宅を待つのだった。
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「はぁっ、はぁ………まさか、こんな展開になるなんて………」
ルビーンの外では、神影達"ジェノサイド"と調査隊チームによる模擬戦が最終ラウンドに入っていた。
ラストスパートとばかりに猛攻を掛ける神影達に、フィーナは模擬戦開始前に慢心しきっていた自分を恨んでいた。
そもそも彼女は、神影がブルームを殴り飛ばして気絶させ、エーリヒが平野全体を覆う結界を一瞬で作り出した時点で、彼等が城に居た頃とは全く違うと言う事に気づくべきだったのだ。
しかし、プライドが高く、また神影達はどうしようもない落ちこぼれだと言う強い先入観を持っていた彼女は、彼等が城を出てから鍛え続けていた事を知らされても、所詮はその程度だと、自分達には及ばないと考えていた。
その結果が、たった2人を相手に10人で挑んでもまるで歯が立たず、メンバーが次々に倒されていくと言う状況だ。
そして今、ずっと見下し続けていた神影に圧倒される事に業を煮やした恭吾と功が殴り掛かり、エーリヒの火炎放射攻撃で焼き炙られて大火傷を負わされた挙げ句、神影に顔面を殴られ、更に蹴り飛ばされて結界に叩きつけられ、戦闘不能になった。
その光景は最早、模擬戦のそれではない。
2人が決めた各々のTACネームを体現しているような、1種の公開処刑のようなものだった。
「…………!」
もう、あの時のように慢心していられるような状態ではないと言う事をつくづく思い知らされたフィーナは、残された力を振り絞って飛び出し、エーリヒに肉薄する。
「はぁっ!!」
そして繰り出される、彼女の十八番である高速の連続突き。
それは、かつて自分を取り囲んだゴブリン集団を一瞬にして全滅させた、あの技である。
「………ッ!」
だが、最早その技も今のエーリヒには通じない。
彼女が飛び掛かってきた事に気づいたエーリヒは、次々に襲い来る連続突きを悉く躱し、魔力で自分の背丈程度の棒を作り出すと、それを振るってレイピアを弾き飛ばし、武器を失った彼女の腹に、その棒の先端での突きを喰らわせた。
「かはっ……!?」
それをモロに受けたフィーナが、肺の中の空気を一気に吐き出す。
それでよろけたのも束の間、エーリヒは棒を消して背後に回り込み、その無防備な首筋に手刀を叩き込んだ。
「ぁっ………」
直ぐ後ろに立っているエーリヒでも僅かに聞こえる程度の小さな声を漏らし、意識を失ってその場に倒れ込むフィーナ。
「…………目標撃破」
そんな彼女を見下ろしながら呟いたエーリヒは、相棒の姿を探す。
「おっ、居た居た」
勇人と向かい合っている神影を見つけたエーリヒは空高く飛び上がり、神影の傍に降り立った。
「お待たせ、ミカゲ」
まるで待ち合わせをしている恋人のように声を掛けるエーリヒ。
それに気づいた神影も、『おう』とだけ返した。
「他の奴は片付けたのか?」
「うん。其所に居る勇者君以外は全員始末したよ」
「………その表現の仕方は止めとけ。めっちゃ物騒だから」
口調や一人称はそのままに、随分と過激な表現をするようになった2番機に苦笑を浮かべつつツッコミを入れた神影は、改めて勇人に向き直った。
「さて、今から俺等2人で攻めていく訳だが………まさか、『2対1なんて卑怯だぞ!』とかは言わねぇよな?」
「………!」
確認するように訊ねる神影に、勇人は反論出来なかった。
何故なら、自分達は2対10と言う理不尽な組み合わせで戦っていた事に対して、神影とエーリヒは真っ当に戦い、調査隊チームのメンバーを次々に倒して今の状況を作り出しただけ。
そんな彼等に向かって卑怯だ何だと騒ぎ立てるのは、流石にお門違いな話だと分かっていたからだ。
「………ああ、勿論だ」
それ故、同意する他に選択肢が残されていない勇人は、コクりと頷いた。
「……それで良い」
そう言う神影だが、内心では面食らっていた。
何時もは自分の理屈ばかり押し通そうとして神影の主張は聞こうとしない勇人が、今回に限っては随分と素直に頷いたからだ。
「(まあ、一応こう言うのに限っての常識は、あるんだよなぁ………)」
『それをもう少し別の事にも回してくれたら良き友になれたのかもしれないのに』と、神影は溜め息をついた。
「でも1つ、どうしても納得出来ない事がある」
そうしていると、今度は勇人が話を切り出してきた。
「古代も、其所の………確かエーリヒと言ったか?君も、それだけ強いなら城に戻っても十分やっていけるのに、何故戻ろうとしないんだ?」
「………さっきも言ったろ。学校でもこの世界でも理不尽な目に遭わせやがった連中に、力を貸す気はねぇんだよ」
「と言うか、今まで散々見下して要らない子扱いしておいて、ちょっと強くなってたら手のひら返して仲間面して『協力しろ』だなんて、図々しいにも程があるよ」
神影に付け加えるエーリヒは、絶対零度とも言うべき冷めきった眼差しを向ける。
エーリヒからすれば、神影をずっと見下して理不尽な扱いをしてきた事への謝罪も無しに、当然のように協力させようとしている勇人の気が知れなかった。
だが勇人は、それでも納得出来ないとばかりに尚も叫ぶ。
「そうやって何時までも終わった事をグチグチ言っていても仕方無いだろ!それに、この模擬戦が終わったら富永にも謝罪させるんだから、これ以上拒否する必要だって無い筈だ!」
「だからテメェは………ん?おいちょっと待て、謝罪って何の謝罪だ?」
言い返そうとする神影だが、先程の勇人の言葉で引っ掛かった謝罪について訊ねる。
その質問を受けた勇人は、模擬戦で功が不正を行った事やその後の出来事、そして功達に下された処分の事を交えて、謝罪の意味について説明する。
それを黙って聞いていた神影は、彼の話が終わると見せつけるかのように大きく溜め息をつき、エーリヒは不快そうな表情を浮かべた。
「何それ、ふざけてるの?見下すだけじゃ飽き足らず不正するなんて、最早人間の所業じゃないよ」
そしてエーリヒは、心底蔑むような眼差しを向けて言う。
「ふ、ふざけている訳が無いだろ!富永達だって反省してるし、古代だって何時までも終わった事をズルズル引き摺って──」
「……もう良い、聞く気失せた」
小さくそう言った神影は、一気に勇人との距離を詰めて無防備な腹に拳を捩じ込んだ。
「ぐおっ………!」
不意打ち同然の攻撃に対応出来なかった勇人は、それをモロに受けて体をくの字に曲げ、腹を押さえながら2、3歩後退りしてその場に座り込んだ。
「反省だの和解だの聞こえの良い言葉ばっか並べ立ててるけど、俺はもうお前等の事なんて微塵も信用してねぇんだよ。あの野郎の謝罪なんか聞く気もねぇ」
「ッ………な、なら……どうしようと、言うんだ………復讐でも、したいのか……?」
余程腹を殴られた際のダメージが大きかったのか、途切れ途切れになりながら訊ねる勇人。
「別にそんな事思ってねぇし、ましてや力をつけて逆に見下したいとも思わねぇ。一言で言えばどうでも良いんだよ。お前等なんて」
神影は淡々と答えた。
勿論、幸雄や太助、沙那達への恩は感じているし、彼等は例外として考えているが、それ以外の連中に対しては、特に何とも思っていないのだ。
見下されていた事やいじめを受けていた事等を理由に復讐したいとは思っていないし、逆に何かあったら力になりたいとも思わない。あくまでも中立。
依頼を出してきたなら一応受けるつもりだが、その際には内容に合った報酬をきっちり払わせ、払えないならギルドの方で下される処分に則る。状況酌量には応じない。それだけの事だった。
「大体、さっきも言ったが俺にはやる事がある。そして今は、それに向けて準備中なんだ。なのにテメェの都合で城に戻されるなんて堪ったモンじゃねぇ。俺の目的の邪魔すんな」
「ッ………お前は、何て事を……」
まさかこれ程冷たい言葉をぶつけられるとは思っていなかったのか、勇人はショックを受けたような表情になる。
「(やれやれ、まさかこんな言葉が出てくるなんて…………知らん内に、傭兵根性みてぇなモンが身に付いちまったのかな…………)」
殺し合いや死闘を経験してきたためか、以前と比べてかなり乱暴な言動を取るようになった事に加え、クラスメイトにそのような考えを抱いてしまっている事に、神影は苦笑を浮かべた。
「(この性格、今の内に直しておかねぇと後々ヤバい事に………ん?)」
乱暴になってしまった自分の性格を直そうと考える神影だったが、其所で勇人が立ち上がるのを目にして一旦考えを中止する。
「古代………!」
いつになく低い声で名を呼んだ勇人は、全身に白いオーラを纏う。
「(あれっ、何か変なスイッチ入れちまったか?)」
神影がそう思っている間にも、勇人は鞘に収められたままの聖剣を構えた。
「今のお前の考え方は間違ってる!ならば俺はクラスメイトとして、勇者パーティーのリーダーとして、お前の考えを正してから城へ連れて帰る!」
「(うわぁ、やっぱり変なスイッチ入ってたぁ………)」
どうやら勇人は、勇者パーティーへの帰還の拒否や、それを邪魔と見なした神影の考えのショックで暴走したらしく、鋭い目で神影を睨む。
「ミカゲ、一応君のクラスメイトだからこんな事言うのもあれだけど………馬鹿なの?彼奴」
「………もう彼奴関連の事についてはノーコメントで頼むわ。何か一々返すの面倒臭くなっちまった」
ドン引き状態の神影とエーリヒがそんなやり取りを交わしている間に、勇人は残された力を一気に解放するのだった。
「コレで、本当の最終ラウンドだ………行くぞ、"限界突破"!」
いただいた感想を取り入れ、キリの良いところまで書こうとしていたら今回の話では終わらなかった…………
次回で決着つけられるように頑張りたいけど、上手くいくかなぁ………?