『そして世界に生命が満ちる』 機動仏闘伝マッハラカーン 最終話
それは世界を揺るがし、未来を不明にするための最終決戦。
「やめろ、お前達は何をしているのか――解っているのか?」
「ハ! 解っているし悟ってる! いつまでもてめぇの掌の上にいるとカン違いしてんじゃねぇ!」
創造顕在神ミロクを睨むシャッカンの念圧が高まり無毛の頭が赤く耀く。巨大念動仏像『魔破羅漢』は、乗り込んだシャッカンの舎弟達の熱き真言に全身が軋むほどの念力をみなぎらせる。
「やるぜ! お前ら声を上げろ!」
「「南無! 神も仏もクソ喰らえ!」」
巨大念動仏像、魔破羅漢と直結信念して己の肉体とするシャッカンの号令に、舎弟達は仏罰上等の真言を唱える。
魔破羅漢の拳に巻かれた概念数珠が念の輝きを放ち拳を仏質変換、六道を越えて異界に干渉する力を得る。
「ガッデム真言パァァァンチ!!」
本来ならば触れ得ぬ領域、六道の外から叩き込まれた魔破羅漢の拳は異相の壁を貫き、触ることすらできぬはずの創造顕在神、ミロクの顔面を捉える。
「おおお? 有り得ぬ、有り得ぬぅ!」
「人間ナメんな! 神様よ!」
殴られた顔を押さえてよろめくミロク。人の念相攻撃が史上初めて創造顕在神に届いた。
「何故、何故このようなことを?」
悲しげな声でミロクが問う。
「何故、お前たちは暴虐を止めぬ?」
「ミロク! お前が俺達人間を作ったんだろうが! 今更何を言ってやがる!」
「違う! 確かに私が生命を創った。だが生命とは、ただ殺し食らうものでは無いのだ! 殺すため死なせる為の生命では無い!」
「熱あるものはやがて冷め、形有るものはいつか壊れる! 熱力学法則ってんだ、覚えとけ!」
「違う! 違う! 愛は不変、想いは永遠、生命はそれを称えるもの、そのために人に知恵を授けたのだ!」
「だったらただの設計ミスだ! 際限無く暴走する煩悩を満たすために知恵を使うのが人なんだよ! 食欲と性欲を満たすために頭を使って工夫するのが人ってもんだ!」
「違う! 違う! 違う! 生命とはそれだけのものでは無い! 友情、愛情、より良き未来のための努力、その為の知恵を!」
「いいや違わない! 生命なんてものはただの性感染する性病と同じだ! 人はち〇ことま〇こと胃袋を満足させるために肥大した脳ミソ吊るした奇形児だ! それを創ったのがお前だから文句言いに来たんだよ! この下手くそが!」
魔破羅漢が飛び上がり両足を揃えてミロクに巨大仏質量のドロップキックを放つ。
「ファッキン仏罰キイイイック!!」
「オオオオオオ!」
たまらずのけ反って仏っ飛ぶミロク。
「何をする? 何を思い上がる? 人よ」
「ハ! 思い上がらなきゃなんにもできないように人を創ったのはてめぇだろうがよ。ならどこまでも思い上がるだけだ。ひたすら思い込むだけだ! 我こそ王だと、我こそ帝だとな! 決めるぞお前ら! 斉唱!!」
シャッカンの強礼に魔破羅漢に乗り込む舎弟達が一斉に座禅を組む。遥か遠く創造顕在神のもとまで共に戦いの旅を続けた舎弟達の魂の結束は不動。
シャッカンへの熱い信念を乗せ全員が声を揃えて読経開始。
「「我帝、我帝、我が帝、我こそ帝王、ボッチとか言うな」」
高まる念圧に魔破羅漢の姿が黄金に光り耀く。
「なにを、何をすつもりだ?」
「ミロク! てめぇにあーだこーだと指図されんのはもうウンザリだ。六道を崩壊させてお前が人界に干渉できなくしてやる!」
「なんだと? 止めよ!」
「創造顕在神のてめぇを仏っ殺してやりたいが、不滅不死身なら遠くに追っ払うしかできねぇからな」
「シャッカンよ、我の導き無くして人は何をするつもりか?」
「決まってんだろ、旨いもの食ってイイ女を抱くんだ。お前が創った生物の営みって奴だ」
「人はそれだけの生物では無い」
「うるせぇよ。だったら次はもっとマシに創りやがれ!」
魔破羅漢の内部指令室、計器を観測する舎弟モッガンが叫ぶ。
「念圧最大限界値まで上昇! 念力充填200%、異相干渉、仏質変換開始します!」
「やめよ! 神を失ってどうするのだ! 人よ!!」
「ハ! これがてめぇの創った人の力と信念だ! 仏っ飛べクソ野郎!!」
黄金に耀く魔破羅漢の両手に念力が集まる。高まる念圧に概念数珠が振動、耐えきれずにヒビが入る程の最大念圧に空間が歪み、後光がオーロラのように揺らめく。
「食らえ! 六道崩壊! 禁言アトミック羅真言!!」
「やめろぉぉぉぉぉぉ!!」
嘆きを唱えるミロクも魔破羅漢も、全てが概念崩壊の光の渦の中へと巻き込まれて――
六道世界は崩壊した。
◇◇◇◇
無限に広がる大宇宙、そこに両手を失った巨大な人型兵器、魔破羅漢の半壊した姿が浮かぶ。
真空の宇宙の中、魔破羅漢の指令室だけは生命の音がある空間。
指令室の中央、だらしなく身を投げ出し横たわるシャッカンがやれやれと呟く。
「あー、やっと終わったか?」
「終わったけどこれからどーすんのさ?」
舎弟のひとり、シャッカンの片腕サリプーが訪ねる。
「魔破羅漢もここじゃ修理できないし、これじゃ地球に帰れないよ?」
「帰れないなら別の方法考えるしか無いだろ。近くに人が住めそうな星は無いか?」
「こんなとこで見つかるかな?」
「見つけられなきゃここで宇宙の塵になるだけだ。我ら命汚ない生命としちゃ、なんとかしぶとく生き伸びてやろーぜ」
シャッカンの呟きに舎弟達が明るく笑う。これまでシャッカンと共に戦い何度も危機を乗り越えてきた舎弟達には、この程度のことは慣れたもの、いつものこと。
「未だ無き記録、未録の奴を概念時空の向こう側に吹っ飛ばしてやった。奴が六道を直してこっちに干渉できるようになるまで、56億7千万年かかる。それまでこの世界は俺達、人のもんだ。人の天下だ。やっと俺達が好き勝手できる世界にしたんだ。ここでつまらん死に方できるかよ」
「待ち望んだ無法の末法世界の夜明けだね」
「おうよ。これからはやりたいようにやってやろうぜ。旨いもの食って、旨い酒を飲んで、イイ女を抱いてよ。おもしろ楽しく暮らしてやろうぜ」
「それからは?」
「ハ! 俺達は人で、生命と言う名前の性感染する病原体だ。だったらウイルスの如く全宇宙に拡がってあっちこっちに感染しまくってやろーぜ」
シャッカンは笑い、両手を大きく開く。広がる宇宙を抱きしめるかのように。
「世界は俺達に犯されるのを待っている」
シャッカンの言葉に舎弟達が笑う。制限無き自由と暴力が侵食する世界の未来に、悦び笑う。
「喰らって犯して、産めよ増やせよ地に満ちよ、だ。世界は俺達、人のもんだ!」
――そして世界に生命が満ちる。