閑話2-02 扉がひらくよっ
ドアがあった、建物は無くドアだけがあった
タコのようなイラストの描かれたプレートがついていた
「TAKOYA・・・」
うーん、鳴り響くファンファーレ・・・
世界の外から総ツッコミが入りそうだ
でもこの世界の神様はむしろそれを望んでる
ここで安易にドアを開けてはいけない、お約束的につながっている先が予測できるとしてもだよっ
アタシとタヌ子、2人で街道を歩く
王都の周りは比較的何も無い開けた平野だ。
都市から離れるにつれて道の周りは草木が増え始めていく、たまに岩場とかもある
街道といったって、こんなもんかー
草とかはないものの、きちんと舗装されているわけでもなく
某ゲームのように “一定間隔” で魔物が徘徊している訳でもなく
転移してきた身には森のそばを通る田舎道程度にしか思えないのだった・・・
魔物に出会うってのはダンジョンの中や森の中を掻き分けて進むのでもない限り、早々あるものではない
魔物だって野生動物だって、人間の道に顔を出して進んで関わろうとはしないものだぁね
た・だ・し、例外はある! 人間の味を覚えてしまった魔物・・・おいでなすった
「タヌ子、魔物だよっ、戦闘準備」
「は、はいシショー・・・あわわ」
アーバレストのコッキングにてこずってるようだ
初の実戦なんてそんなもの、少しずつ慣れていけばいい
現れたのは真っ黒なクマ、俗に言う『ヒグマ』ってヤツ、小MAPでの位置指定アイコンのカラーはRED、確実にこちらに敵意を向けている
その数2頭、角度的には120度程度の挟み撃ちまがいの位置取り、アイコンの移動速度からして、ほぼ同時に襲撃を受ける。守るべき存在がいる場合ある意味サイアクだよっ
「いい?、プロの専門家でも無い限り、2発目を撃つ機会は無いと思う。怖くても確実に当てられる距離まで引き付けるのよ」
「は、はいっ」
こっちは、できるだけ派手に動いて注意を引き付けないとね
残念ながらアタシにはヘイトをコントロールするスキルは無い
だいぶ近づいてきたので、1頭目を早々に屠る事にする
左右の腰からクロスするように剣を抜き一気に飛び上がる!!
狐巫女のコスチュームじゃないので地磁気のグリッドは見えない、でも感覚は身体が覚えてるから目視範囲内なら問題ない
「フォックスカリバー・レプリカ!」
体を捻り独楽のように回転しながら斬りつける
上空から自由落下の加速を加えた2刀が魔物熊の頭蓋を断ち割る
さて、もう1頭は・・・
アーバレストを持つ手が震える、それでも勇気を振り絞って両足に力を入れて踏ん張る
距離にして約10m、魔物熊は威嚇のためか後ろ足で立ち上がり、前足を広げる
バスッ!!
一瞬何が起ったのか、熊もタヌ子自身も分かってなかった
しばしの沈黙の後、熊の口から大量の血が吐き出される、そしてそのままゆっくりと崩れ落ちた
放ったR・I・Pボルトが熊の腹部に当たり、内臓をミンチに変えたのだった
前面の刺さった傷は比較的小さく5箇所、だかその矢は体内で4本に別れ、中身を盛大にかき乱して背後には抜けずに留まった
腹部の傷は毛で隠れてほとんど分からないが、既にほぼ致命傷である
ぺたりと座る込むタヌ子
「よくやったよ、がんばったね」
アタシはタヌ子の頭に手を置いて優しくなでた
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夕闇も深くなってきたので、野営をする事にする
道から少し離れた所に程よい平らな場所があったのでテント設営
初日だし、タヌ子と2人だけで隠す必要もないので、インベのなかにあった、テントセットを使う事にする
取り出すとパタパタっと開いて円錐形のテントが出来上がる
中は大体6畳間程度、中央には焚き火のできる囲炉裏っぽいのがあり煙は天井の排気口から抜ける為、中には篭らない
中で火を起こす、程よい小さめの焚き火
ダテにキャンプスキルをマスターランクまで上げていない
少し深めのフライパンのような万能鍋を取り出すとオリーブオイルで鳥肉を焼き始める、仕上げにちょっとハーブ
スタック可能なインベントリの常備素材を組み合わせたお手軽料理だ
ちなみに料理スキルはカンスト済み、このスキルにはマスターランクが実装されてないんだよにゃあ(ランクB(十進数の11)が上限)
「お皿洗うのも面倒だからパンに挟むよ、これスライスしといて、2人分4枚」
タヌ子に大体1斤くらいのパンの塊とクッキングナイフを渡す
「欲張って厚く切りすぎるとかぶりつけなくなるぞー、具を挟むんだから」
お、けっこー器用に切れてるなー、一応均一な厚さになってる
焼きあがったお肉をパンに乗っけて即興ハーブ焼きチキンサンド、
カップにミルクを注いで、夕食にする
個人的にはけっこー手抜きの夕飯だけど、実際の旅路の食事は保存食の干し肉とかを齧るのが一般だって事は知識には有ったりするよっ
とりあえず、いっただきま~っす
はむっ、んーなかなかの改心のデキだったなー
「・・・・・」
どした? タヌ子、ポカンとした顔で固まって・・・フレーメン反応?
この料理は臭くはないはず、ハーブは効かせて有るけど
「・・・・・ぷはぁ~っ」
お、再起動した
「ししょぉ~っ、ぶらっでぃさんに会って来ちゃったっスぅ~~~」
「ほえ? なんなの、その『ぶらっでぃさん』とやらは」
「シショーは知らないんですか? ぶらっでぃさんのお話。
冒険者が息絶える直前に、魂はぶらっでぃさんにチェックされて、そのまま連れて行かれるか帰されるかが決まるって言い伝えですよ~」
むー、この世界での死神みたいなものなのかな
「ぶらっでぃさんは黒い服に白い髪の女性ですぅ、あたしは追い返されたので戻ってこれたのです」
むー、さっきのハーブ焼き、クリティカルでたのかな?
ゲームでは料理のクリティカルは、幻覚や臨死体験などの『超絶リアクション芸グルメアニメ』の様な特殊ムービーが見られたりする事がある
余談だけどムービーを見ている間、当人は硬直しているがその間は一切の当たり判定が無くなる。ドラゴンのブレスすらすり抜ける事が出来たりするけど、召喚獣に騎乗してたりすると食べた瞬間の地点に取り残されるというバグ的な現象も起きたりする。
「ほんとシショーは何でもできちゃうんですね、戦っても凄まじいのに料理まで」
「褒めたところで何も出ないぞ」
「でも食事は出たのです、アタシのオナカもポンポコポンなのです、狸ですし」
そーいや、出会ってそんなに経っていない割には何かタヌ子の体型が変わった様な気がする。食生活のせいかな、ウチらの一行は皆大喰らいだしね
鎧さんはあのガタイだから当然だけど、アタシもほぼ同じだけ食べるしね
マミさんは・・・一応『理不尽の黒魔女』だしね
そー言えば、特撮番組の女優さんが、話数とともに体型が変わっていくのって、回りの食生活が原因なんじゃないかと勝手に憶測してみる
料理というのは、転生者・転移者がバトル以外で無双できるチートコンテンツだ
世界によっては、料理しかしないで無双チーレムまっしぐらな主人公だっている、戦闘チート持ちさんでも一度や二度は料理無双をしている事がほとんど
食文化というものは、長い年月をかけて少しずつ進化&洗練されていく
そんな世の理をぶち破って数世紀未来の手法やテクニックをひけらかすのである
もっとも、世界を外から見守っている傍観者さん達にしてみれば、それはごく日常であり、ちょっとやってみよう程度の気軽さでチーレム主人公と同じ事ができてしまう
ぶっちゃけ『剣振るったり魔法はムリでも、料理なら自分でもできちゃうよーん』って
お手軽極まりなく最高の優越感をゲット可能、感情移入の必要すら必要無い万能感
しかもガード不可な味覚と食欲という生物の根底にある部分へのダイレクト・アタック
異世界から来たキャラならこんなに美味しい行動はない
アタシだって一応スキルとかじゃなくって料理は出来るよ、お菓子だってたまに自作する。とくにクッキー焼くのはかなり得意・・・だったよっ
でも、それをおおっぴらに広めたりするつもりはない、異なる世界のものを持ち込んで世界を変えちゃうってのはちょっとねぇ・・・
アタシはこの世界を別に「好みの味に作り変えたい」って訳じゃない
むしろこの世界を「味わいたい」
世のチーレム主人公さんの文化無双は、レストランのテーブル上で元の料理に味がぼやけるほどに調味料をブチ込んでしまうようなもんなんだと思うよっ
そして何より、この『近代料理無双』には、致命的な問題点が!
異世界の料理で大感動できるのは、 “その料理を知らなかった” 現地の人間のみ
転生&転移者の場合、 “知っている料理” が出てくる事になるのだよっ!
ソレって『懐かしい』思いはあっても『カルチャーショック』はないよね
・・・・・!!
何か特異な気配を感じた、魔物とかの類ではない
タヌ子に待機するよう指示してテントから出る
気配を感じた方向を見ると、そこにはいつの間にか扉が有った。
魔動的な仕掛けや紋章・魔方陣の類は見当たら無い、ごく普通に建物の入り口に付いている様な扉
ムーンゲート、ワープゲート、ポータルゲート、呼び方はいろいろあるけれど、離れた場所をつなぐ門ってのはRPGの世界では定番の設備、だけど目の前のは何か雰囲気が違う気もする
滑らかな硬質の木の扉はごく控えめな装飾があり磨きこまれた細かな木目も美しい、
単なる一枚板の一般家屋のドアではなく、貴族の屋敷にあるような扉、
そして、何よりもドアにかかったプレート
アタシの最大のチート能力「メタ的異世界モノ知識」がこのドアがどこに繋がっているかをほぼ確信する。
きっと運命を変えるような出会いがあるかもしれない
・・・で、今アタシたちの前には、いきなり現れた扉がある
でも、アタシにはこの扉を開ける資格を持っていない
この扉の奥へ進めるのは、ここへ繋がるドラマを持つ者だけ
最低でも小説1話分かアニメ15分以上の描写に耐えうるだけの・・・
身もフタも無い話だけど、ドアはある
この奥は異世界なんだろーな
- うず・うず・うず・うず・・・・ -
えぇい! お約束でも何でもこいだよっ!
好奇心に負けて、扉をそっと開けてみる
多分ここの主なのだろう、ずんぐりとした禿頭の人型とギリギリ言えそうなモノがこちらを見た。
『イラッシャイ・・・』
言葉ではなく、直接頭に流れ込んでくる挨拶
その顔には口髭のように無数の触手が蠢いている
どんよりと薄暗い中、奥の方にはまたいくつかの人影らしきものが・・・
不定形な泡立つ影のようなモノ・・・
複数の光球の核を包む炎のようなモノ・・・
黄色いローブのようなクラゲのようなモノ・・・
触腕、鉤爪の多数絡まったゴチャついた這いずるモノ・・・
いあ! いあ! ふんぐるい むぐるうなふ!
ドアをそっと閉めた。ドアは音も無く消えていった
SAN値というステータス概念を持ってなくってホントによかった
拙い作品をお読みいただきありがとうございます
「異世界○堂」とみせかけて「異世界神話」
店内で荒事はご法度だったとしても、落ち着いて食事とかはできそうにありませんね
呪われませんように・・・
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『メタもベタも極めてみせるよっ!』




