1章-04 初めての実践だよっ
世の中には、ゲーマーと呼ばれる超絶テクニックを駆使する人たちがいる
そういう人は異世界転生とかしたら無双しまくるんでしょね
アタシゃ不器用でスーパープレイヤーとは程遠い、でもね
アクションゲーム苦手のダメダメちゃんでも、何年も繰り返していれば何とかなるものなのだよっ
アタシはMAPの縮尺を変更して探査範囲を拡大してみた
MAPの左側、西には森が続いていて、東側には草原、さらにMAP右側の端っこの方に南北に走る道があった
敵MOB(※1)は・・・いたいた道の近くの方、マークの数は3つ、
残念ながらMAPではどんなヤツかは判らない
アタシはてくてくと歩いて近づいていく、騎乗用ペットのコマンドはまだ試してないし、この世界でペット召喚が一般的なのかも判らない
距離もそんなに離れていないみたいだし歩いていく。道も近い位置なので、誰かに見られたら悪目立ちしてしまうかもしれないかんね
アタシはこの世界でのんびり怠惰に生活していくんだ、そう決めてるんだ
大抵の転生主人公は大きな事件に関わっては無双して目立って
領主とか貴族になって采配とか社交とかで神経すり減らすんだ、アタシゃそんなのゴメンだよっ
ぶつくさ独り言を言いながら歩いていくと、微かにグルルルとうなるような声がする
大体予想はつく、さらに近づいていくと見えてきた、予想通りオオカミだ、人間よりちょっと大きな灰色の毛並み
いや、アタシが小さいんだけどね
見えるより先に声を察知できるネコミミの能力に感謝、
相手の認識範囲に入らないようにゆっくりと近づく、この辺りでいいかな
多対1の状況は避けたいから1匹だけ注意をこちらに向けよう、ゲームで言う『釣る』とか『タゲとり』ってヤツだぁね
「アイス・ボルト」の呪文を意識ショートカットから実行する
この呪文は氷の短矢を打ち出す初級呪文、相手を氷結させるような効果はないが、弾速が速く消費マナも隙も少ないので攻撃魔法の基本呪文になっているって聞いてる
両手が無意識の内に15cmほどの玉を持ったようなポーズをとり、マナのエネルギーが収束される
0.5秒ほどでポーズは解除され、目の前には8面体(8面ダイスの形)を細長く引き伸ばしたような氷の結晶が浮かんでいる
この呪文は生成と発射の2段階で構成されており、生成してしまえばいつでも発射できる
生成をストックできるのは6個まで、つまり最大6連射が可能、でも今回は1個だけ
目標は一番近くにいる1匹・・・発射!
氷の結晶は一瞬高速でドリルのように回転したかと思うと、キラリとした残像を残し目標へと撃ち出された
ヒュッ、ドパンッ!
・・・・・パサッ
ひえぇっ、見たく無いモノ見ちゃった・・・大口径対装甲ライフルのヘッドショット
一瞬で首から上が吹っ飛んじゃった、その直後草叢に隠れるように倒れたんで死体は見えないけど
調整して火力ランク下げるの忘れてた、釣るどころじゃなくてオーバーキル
攻撃系スキルは・・・、皆まとめてランク5に統一でいいや、複数選択の要領で一括して設定
火力下げてもう一度
ヒュッ、ドンッ!
オオカミはこちらに向かって駆けてくる、『ディフェンス』
ドンッ!
迫り来る牙をシールドで受け流す
『ディフェンス』スキルは単なる防御ではなく、攻撃をいなし相手に隙を作るスキル
作り出した隙に剣を振るう、2撃目でノックバック(※2)が発生し間合いが開く
さぁここからが読み合いだ
オオカミは、疾走するでもなく常歩でこちらを伺うように回りこむ足取り
全ての足が地面から離れる事のない足運び・・・ディフェンス体勢だ、気負って斬り付けると反撃を食らう
『ガードブレイク』スキル発動と同時に間合いを詰め、渾身の力で斬り上げる
ぎゃうんっ!
悲鳴と血しぶきを上げて灰色オオカミが吹っ飛ぶ、二匹目撃破!!
『ガードブレイク』それは「強打」スキルの一種、相手のディフェンスを無効化し渾身の一撃を叩き込むスキル
反面出掛かりに隙があるため、コンパクトなスイングの通常攻撃には打ち負ける、大振りなら相打ち
通常のアタックとディフェンス、ガードブレイクはちょうどジャンケンのような関係に相当する
「戦いとは、常に二手三手先を読んで行うものだ」
思わず一人ごちてみる、誰が聞いてるわけでもないのにね
最後の1匹が、猛烈な勢いで突っ込んでくる、リンク(※3)した?
勢いよく斬り上げたアタシはいま空中にいる、着地まで無防備だ
殆どのスキルには発動から効果が出るまでの準備時間がかかる、この分だと着地直後の行動は殆ど間に合わない
考えろ!猶予は後1秒も無いけど・・・ウェイト差からして弾き飛ばされたら厄介だ
アタシの取った対抗策は、着地の瞬間に身を投げ出すように斜めに跳び、地面を転がる事
『アヴォイドロール』緊急回避スキル、数少ない発動時間ゼロの防御スキル
本来飛び道具をすり抜けて間合いをつめるスキルだけど、出掛かりの一瞬に完全な無敵状態がある
1回転して立ち上がったアタシはすかさず『ディフェンス』を発動
先ほどと同じようにキバをいなし、反撃で斬り付ける・・・が、少し変えてみた
ザンッ!・・・ここで2撃目を入れずに少しディレイ(※4)、ノックバックを起こす前に再度斬り付ける
ザン、ザンッ!
普段なら2撃入れたタイミングで間合いが開く所を3撃目を入れる。
ここでノックバックが発生し、大きく間合いが開く
1撃余計にいれてダメージを1.5倍にするテクニック、ゲームの時と同じに使えた!
スザーっと滑るように押しのけられたオオカミは四肢に力を溜め反撃に出ようとする
「読めた!」
突進してくるオオカミのキバを刹那で見切り、その勢いを利用するように剣を振り抜く
交差法・・・『カウンター』、数多くのスキルの中で、アタシが最初にマスターランクまで極めたスキル
相手の攻撃力に自分の攻撃力を上乗せし、ランクごとの係数で倍化して叩き込む攻防一体の技
オオカミは真っ二つになり草叢へと落下していった
「見事な太刀筋だ・・・だけどまだ軽い・・・」
いきなり知らない人の声がした。
拙い作品をお読みいただきありがとうございます
無双フラグ?主人公はそれだけは避けたいって言うはず・・・
ゲーム用語に詳しくない方のために、ちょっと解説
知ってる方は無視して構いません
(※1)MOB:Moving objectの略、ぶっちゃけ倒しても構わない敵モンスターの事
(※2)ノックバック:連続攻撃した際に間合いが開いてしまう事、必ずしも悪い事とは限らない
(※3)リンク:同種族の群れや、近くにいたMOBが攻撃された時、釣られて臨戦態勢になる事
(※4)ディレイ:待つ事、タイミングを合わせる為に意図的に入力・行動等を遅らせる事
ブックマーク、評価、とかはあまり気にしてませんが
ご意見、ご感想、誤字脱字のご指摘、メッセージ等あると非常に嬉しいです
よろしくお願いいたします!
『メタもベタも極めてみせるよっ!』
次回更新予定は18:00です