3章-12 すすめ~すすめ~ものど~も~だよっ
MMORPGとかのゲーム世界って 魔法とかアイテム作成なんかは、システムにあるものを“選択”するだけなのが常識なんだよね
TRPGだとGM許可により、一部の人が捻じ曲げた使い方する
チーレム転生主人公って、めいっぱいひねくれた使い方してるよねっ
「おわわっ・・・」
「ううっ・・・」
「きゅ~~~」
ゆっくりと、光る魔法陣が空中を進む
マミさんの魔改造呪文「フローティング・ディスク改」で空中移動中
「ハイ動かない喋らない、バランス崩したら全員あの世行きだよ」
・・・人の太腿撫で回しながらそんなこと言われてもねぇ
光る円盤の上には総勢8名がひしめき合っている
重量級は中央付近に、軽量なのはその周りに配置してバランスを取っている
アタシの位置は、前回(【2章-09 職がないよっ】参照)と同じく術者のすぐ前、飛行中はずっと触リ続ける気らしい
ひょっとして、この呪文使う時はセクハラしないと上手く制御できないのだろうか
少々安定感を欠く空中浮遊に、半分悲鳴に近い声が
静かなのは既にこの呪文に慣れている鎧さんと、セクハラに耐えて口を噤んでいるアタシだけ
「きゅー!」
「わわっ、揺れるッ」
「んっ・・・」
「ひっ!」
「でゅふ」
「ひぇぇっ」
悲鳴に混じって聞こえた一言で判った、確信犯だコレ
・・・着陸した後にゲンコツを1発落としたのは正当な権利だと思う
殴られた方か「ごほうび」とか言ってたことはあえてスルーしたいよっ
『大回転棍棒』を何とかクリアしたので奥の扉へと進む
扉に関しては専門家に任せたので良く判らないけど、問題なく開いた
まー、あんな罠があるなら厳重な鍵なんて要らないでしょう
扉の向こうは下りの階段だった
数回折り返すように2フロア分くらい下がった辺りだろうか
奥の方から喧騒が聞こえてくる、明らかに人の声と剣の音
この奥で冒険者が戦っている?
「?」
階段の終点は奇妙な行き止まりだった
階段の幅と大差ない床は、ジグザグに波打っている
よろい戸と言うかセンタク板と言うか
角材をびっしりと並べた状態で、そのまま1本1本を45度傾けたらこんな感じになるだろう
階段の角度が急に変わって「水平」になっているかのようだった
戦う音は真下から聞こえてくる
鎧さんが視線を送りながら口を開く
(フルフェイスヘルメットだから、あくまで推測だけどね)
「タツアン・・・」
「わーってらい、皆まで言うなってーの」
盗賊工具を手に、サイドの壁辺りを操作するタツアン氏
よく見るとフタが開いてて中の仕掛けが少し見える、そんなフタあったんだー
「ホントなら、ここは下の戦いが終わったら開く場所なんだぜ」
えっ?えっ?ダンジョンで一戦終わった時に自動で開く扉は見た事あるけど
ここってその扉の裏側?初めて見たよっ
「床が開くぜ、足元に気をつけな」
ふと足元の接地感が消え一瞬体がふわりと浮く
細長い今いるフロアの床全体が落ちた、
降りてきた階段側を蝶番として回転するように片側だけが落下
そして上から続く階段と一直線になる角度になると、スライドして伸びて下のフロアへと接続する。上の階へと続く階段の完成っ
う~ん、この世界の一般的には知られても無いでしょうけど絶対にコレ『天井収納の階段』 階段の一部が天井の蓋と一体化しているタイプ
隠れ家的なものを自宅の一部に求めるヤンチャなパパさんが建築オプションで選びたがるユニットパーツ、それ以外には考えられない
可動する建築物ってのは、何処の世の殿方にとってもロマンらしい
なんて思考を展開していると
「もう待ちきれんっ!一番槍は取らせてもらうっ!」
ゲニム爺さんがアタシの脇を駆け抜けて下のフロアへと飛び込んでいった
手にした得物は槍じゃなくて長柄戦斧だけどね
「援軍到着!もう心配いりませんよっ!」
鎧さんも後へと続く
ベテランなのに軽率な・・・敵も確認してないのに
とは思ったものの、魔物と戦う人がいる事は分かっている
「いくぜ!今戦っていると言う事は、一方的に蹂躙されているってワケじゃあないって事なんだぜ!」
スピー司祭とプールー女史も後を追って階段を駆け下りる
アタシも後へ続く
あのー、アタシが先陣を切らなかったのにはちゃあんと理由があるんだってー
“助けが来た!”って思ったところに小さな女の子が出てきたら士気が落ちるかもしれない
ここは“いかにも”な屈強戦士に飛び出してもらったほうが期待も持てるというもの
それに士気がどーのこーのと言うより、そのままアタシが乱入して暴れまくったら確実に目立つ
大多数のチーレム主人公のようにピンチに颯爽と登場するオイシイ勇者英雄を目指す気は無いんだよっ
「やーね、せっかちな男どもは・・・
支援魔法くらい掛けさせなさいってーの」
駆け出さず階段を降りるマミさんがつぶやく、この人はマイペースだ
「すまんが待ってな、固定が終わったらすぐ向かうからよ」
階段が勝手に引っ込まないようにと天井の奥、上のフロアから一言
タツアン、彼も職人だった
飛び込んだフロアは、かなり広いスペースだった
アタシのMAP機能の表示が更新される、
一瞬地形が何も表示されて無いかのように見えたけど、サブウィンドゥの枠ほぼいっぱいに広がった正方形の大ホール
この地形って目印が無いから方眼紙でマッピングしたらめっちゃ大変そうなイヤラシイMAPだー
自動MAPを持つアタシにゃ関係ないけど (¬▽¬;
敵対する魔物を示す赤いマークは・・・ひのふの・・・10個
それぞれに緑のマーク、2~3人が対峙している
ホール全体に散開しているみたい、こりゃ好都合
なんたって“多タゲ(※1)”される心配がないからねっ
MAPを移動する白マーク、この表示はパーティメンバー
ダブらないように他のメンバー向かっていない方向へ進む
ホールの壁の角に3人ほど固まってる状態と、そこへ迫る魔物
これ、追い詰められてるよっ、絶対
魔物の進路を塞ぐ位置を狙って駆け出す、視界に映ったのは真っ黒な魔物
「ファイア・ボルト!」
詳細の確認は後!敵であることは判明してるのだから、とりあえず先制攻撃!
進行方向の直角方向から炎の短矢を食らった魔物は真横にもんどり打って転倒、数m吹っ飛ぶ
「アタシが来た! はっはっは・・・」
相手の属性・耐性を考慮なんかして無いし、多重詠唱による強化もしてない炎の短矢・・・目的はダメージじゃないから
アタシの炎の短矢は命中と同時に爆発して相手を強制転倒させる!
要は冒険者達を追い詰めさせなければいいのだ
転倒してできた隙に観察、背中に皮翼、頭部に2本の角、髪はなし、皮膚の質は磨いた石像の様・・・ガーゴイルってやつだぁね
見た目どおり石っぽいヤツだから、炎とか耐性あるかもね
「でも、そんなの関係ないよっ! ファイア・ボルト!」
起き上がるところにもう1発!立ち上がる暇を与えず床を転げるガーゴイル
「まだまだっ! ファイア・ボルト!」
立ち上がらせない、魔法もスキルも使わせない、ダメージは多くないかもしれないけど。何もできずに吹き飛び床を転げ続けるがいい
これが、簡単お手軽『ファイアボルトはめ』。実際に使用するにはかなりの魔力キャパシティと鍛えぬき高速化された詠唱速度が必要だけど、転倒しない固有能力でも持っていない限りこのハメ技からは脱出不可能
「ファイア・ボルト! ファイア・ボルト! ファイア・ボルト! ファイア・ボルト! ファイア・ボルト! ファイア・ボルト! ファイア・ボルト! ファイア・ボルト!」
アタシはどつき回すように突き飛ばすように、ガーゴイルを運んでいく
魔力?自然回復する分を除いてもあと200発は撃ち続けられるから問題なしっ!
「ファイア・ボルト! ファイア・ボルト! ファイア・ボルト! ファイア・ボルト! ファイア・ボルト! ファイア・ボルト! ファイア・ボルト! ファイア・ボルト!」
むやみに連打してるわけじゃないよっ、タイミングを計って起き上がりの瞬間を吹き飛ばし続けてるんだよっ
「ファイア・ボルト! ファイア・ボルト! ファイア・ボルト! ファイア・ボルト! ファイア・ボルト! ファイア・ボルト! ファイア・ボルト! ファイア・ボルト!」
突き飛ばし続けてフロアの壁近くまで運んできた。吹き飛ばすたびに壁に激突して物理ダメージが入っているみたい
壁に貼り付けられたガーゴイルに近づきながら連射を浴びせる、ベタだけど壁にクモの巣状のヒビが広がって行く
「むー、やっぱ石っぽいだけに炎属性の効率悪いにゃあ」
「フリーズ・ブラスター!」
突き出した掌から霧のビームが「貼り付けガーゴイル」を直撃する
この呪文はファイアボルトより射程が短い
連打から開放されたガーゴイルがこちらを見下ろして口元を歪めた
判ってるよ、アンタの言いたいコト
『今度は冷やしてくれるのか?』とかなんでしょね
「ハイおしまい、サヨナラだよっ」
アタシは腰から剣を抜くと、かる~く ガーゴイルの頭をたたいた
コン・・・
ビキッ! ピシッ・・・ガゴッゴトン、ガララッ
ガーゴイルの全身にヒビが入り、粉々に砕けて崩れ落ちた
岩石ってヤツは硬くて強いけど展延性(※2)ってのがほとんど無い、要するに弾力が無い
しかも引張強度と圧縮強度の値が大きく異なるんよね
押された時と引っ張られた時で、頑丈さが10倍から30倍くらいは違う
コレが何を意味するか、解るよね
同じ塊の中で押す力と引く力が発生した場合、片方が負けるということ
一部で加熱して膨張し、一部で冷却して収縮したら・・・あとはお察し
アタシがやったのは、『科学』と呼べる程のものではない『初級理科』に過ぎない
コレ位なら『現代人の科学知識チート』にはならないでしょう
テンプレのカミサマ、ざんねんでしたー
ホール隅に追い詰められていた冒険者達へ、魔物は倒した事を伝えた
女性3人、明らかに非戦闘員だ
1人が目をキラキラさせて何か言いたそうだったけど、まだ敵は片付いて無いので丁重にお断りしておいた
「自己紹介とかはあとでっ!今は戦いを終わらせるよっ」
アタシはMAPの表示を頼りに探した次の敵へと襲い掛かる
吼えろ!アタシの中の『けだものフレンズ』
弱者に対してのみ威勢を張る卑劣な魔物を討ち払え!!
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「くっ、上から来る気かっ」
翼を開き、上から雷撃主体で攻撃してくるガーゴイルに、スピー司祭は苦戦していた
「|コントロォーオルトデルッ《堕ちたる窓》!!」
天井付近に四角い魔法陣が現れ、ハエ叩きのように宙を舞うガーゴイルを地面に叩き落す
「ツメが甘いわねイディ君、攻撃は臨機応変に切り替えていくものよ」
マミトリ・ラキシモフお得意の魔改造風呪文
ゴンッ! ガゴォンッ! バキンッ!
「落ちろ! 墜ちろ! 堕ちろ! 飛んでる奴は窓ごと落ちろォ!」
空中にいたガーゴイルたちが次々と落ちていく、ガーゴイル達の頭上に現れた四角い“風の窓”ごとに地面へと叩きつけられていく
マミさん、鬼気迫っててちょっち怖いんですけどぉ・・・
落下の衝撃で手足や翼等を砕かれる個体も続出した為、戦局は一気に傾いた
さー、あと少し!
拙い作品をお読みいただきありがとうございます
【用語解説】
(※1)多タゲ:「多数」の敵に「ターゲット」される事
ぶっちゃけ複数モンスターを同時に相手する事
万全のタンク役でも無い限りこの状況は厳しい
(※2)展延性:叩いたり引っ張ったりした時に変形したり伸びたりする事
金属はこの性質があるからプレス加工とか刀が打てたりする
ガーゴイルって何なんでしょね?
リアルに存在するのは鬼瓦&雨樋なんですけどね
モンスターとしては、石っぽい悪魔ってのが一般的
これ、動く彫像やゴーレムとどう違うのだろう
生き物側に分類されるのがガーゴイル、人造物側に分類されるのがゴーレムって事でいいのかな?
マミさんの魔改造呪文、けっしてOSが落ちた八つ当たりでは・・・ないということにして下さい
ブックマーク、評価、とかはあまり気にしてませんが
ご意見、ご感想、誤字脱字のご指摘、メッセージ等あると非常に嬉しいです
よろしくお願いいたします!
『メタもベタも極めてみせるよっ!』




