2章-12 適性試験だよっ[魔術士編]
最善の正しい結果を出せるとしても、場合によってはその方法を使ってはいけない事もままあるものです。縛りプレイってヤツ?
気を利かせて善意で最善手を使っても「その方法は教えてないだろう」と叱られた経験あったりします。
今度は、魔法使いの適性検査だそうで、一人隣の部屋に移動する
アタシ以外の人は、別の部屋から見学する事になるんだそうな
部屋は意外と狭く細長い射撃ブースのようになっていて、となりにもう1部屋あるようだった
ローブを着た“いかにも”な老人の試験官が待っていた
「ほっほ、実地試験を行うのは久しぶりです
はじめまして、ワシの名はゾートン、見てのとおりの老いぼれじゃ」
老教官は、満面の笑みを浮かべていた
ホントに実地試験するのが楽しみだったんだろうにゃあ
「では、あの樽に向かって魔法を放ってみてくれますかの?」
よかった、今度は射撃訓練風の試験みたい
また実戦形式でバトルなんて試験じゃなくってホントよかったよっ
このお爺ちゃんと魔法バトルなんて展開はしたくなかったから
「力加減は?」
「めいっぱいで、あの樽には水が入ってますから、遠慮は要りませんよ」
水の入ったった的?火力の測定かな?
確か昔ネット動画で、水の入ったポリタンクを拳銃で撃ってるのを見たことがあるよっ
無声かつ口の中で詠唱を開始する、目の前に短めの炎の矢が発生する
まだだ・・・さらに詠唱を重ねる、炎の矢が一回り大きくなる
さらに重ねる、合計5発分重なった。炎の矢はボンレスハムくらいまで太く大きくなっている
「これは? 火が大きくなってますが」
「重合詠唱です、呪文を重ねる事で威力を増しています」
「ファイア・ボルト!」
ボォンッ!!
放たれた炎の矢は的の樽に当たると弾け、樽を砕きながら吹き飛ばす
中に充填されていた水の一部が蒸発し、辺りが水蒸気と湯気で覆いつくされる
パンパンパン・・・
「すばらしい、樽の水がほとんどなくなってしまいました
たいした威力です」
試験官は手を叩きながら褒めてくれた
「一般に知られている『炎の矢』と少し違いますね、どのようなアレンジを?」
アタシが呪文を作ったわけではないので、ゲーム時にあった説明でお茶を濁しておく
「着弾と同時に爆発し衝撃を生みます。ほとんどの敵は吹き飛ばされ転倒するでしょう」
「まったくもってすばらしい、この呪文なら魔術師全般の弱点である接近戦を仕掛けられることなく、常に距離を保つ事が可能です
今までいくつかの呪文アレンジを見てきましたが、これは革命的です
もっとも貴方は接近戦も得意のようですが」
・・・ベタ褒めされるとなんかバツが悪い
「いいですか?魔道師の強さとは呪文の数と威力だけではないのです
状況に応じた判断、工夫する知恵こそが最大の武器なのです」
うんうん、正論だぁね
古今東西ファンタジーでリーダーは戦士系でも司令塔は魔術師だもんね
『心は熱く、頭はクールに』って誰が言ったんだっけ?
「では、次の試験に入ります」
隣の部屋へと移動する
「さて、次の試験は対応力を見ます
合図しましたらあそこにある床のマークまで速やかに移動してください
途中でターゲットが見えましたら魔法による攻撃を当てる事
ターゲットは仮想敵なので、一定時間・・・
だいたい向こうから攻撃する程度の時間が超過すると引っ込みます
当然打ち漏らしは減点です」
目標地点のマークまで20mくらい、一気にダッシュすれば着く距離だけど、打ち漏らししたら元も子もない
途中には遮蔽物となる壁や木箱とかが置いてある
まるでインドアコンバットシューティング訓練だねっ
「では、始めますよ・・・スタート!」
いきなりだにゃあ、実戦は待っちゃくれないってお話って事なのね
『ラピッドキャスト』
『アイス・ボルト』
目の前に6本、氷の短い矢が生成され正6角形に並ぶ
ファイア・ボルトと異なりアイス・ボルトは重合詠唱しても火力は上がらない
その代わり最大6発までストックできるのが特徴
6本のストックを維持したまま注意深く進む
・・・カタンッ!
シュドンッ!
左手に的が起き上がる、反射的に1発を発射して的確に中央を射抜く
ストックの氷結晶はリボルバーの弾倉のように回転してポジションを整える
・・・カタタンッ!
今度は右手に的が!しかも2枚
シュドンッ!
シュドンッ!
振り向きざまに2連射
・・・残弾数残り3発
リロードするタイミングが肝だね、こりゃ
ちなみに、発射の時の音は『シュ』で射出『ドンッ』で着弾している音だよっ
比較的近距離で撃ってるから音がつながって聞こえる
「ほー面白くなってきました、大抵の新人さんはここで1つ逃すのですけど」
試験官の独り言なんだろうけど、アタシには聞こえちゃうんだなー
『アイス・ボルト』
設置された壁に身を寄せるように身を隠し
追加詠唱、残弾数に1発追加
『ラピッドキャスト』はリキャストタイム中で使えないから1発だけ
とりあえず進もう
イメージしろアタシ、これは実戦を想定した試練なんだ
カカンンッ!
2つの音、視界に的は1つ・・・挟み撃ちかっ
右斜めの的へ1発と同時に身を投げ出し床を転がりながら背後の的を射抜く
残段数2、少々ヤバい
目標地点は目前だけど、まだ的は出て来そう
あの木箱の陰で追加詠唱を・・・
ガコッ!
遮蔽物とばかり思っていた木箱のサイドが開き的が飛び出した
距離が近い!完全に裏をかかれた
普段のアタシなら即座に剣に切り替えて叩くのだけど、これは魔法の試験
ちっ、魔法使いは接近されない立ち回りが基本だってのにぃ
1mを切る距離で的を撃つ
その刹那、ふと何かの気配を感じて本能に従って後ろへ飛ぶ
さっきまでいた場所を真横から樽のようなものが高速で横切った
大きな振り子だ、これにも的が付いている
まだ着地すらしてないが空中から動く的を打ち抜き破壊する
・・・これ、ぶつかったらかなり痛いよっ
カカーンッ!
着地した地点の近くに畳みかける用に的が起き上がる
距離は10mほど離れていたけど的の数は3つ並んでいる
アタシの氷の矢のストックはゼロ!
ついさっき撃ち尽くしてしまった
3つ並んだ的は人の走るくらいの速度で接近してくる
『スパーク・ボルト!』
アタシの持っている攻撃呪文で最も詠唱速度の速い呪文
電気の塊を放つ呪文
ストックせずに直接ぶっ放す!
ダーンッ!バリリッ!
生み出された火花の玉は、3つの的の中央の1つに当たり・・・弾ける
小さな稲妻が命中点から広がり左右の残り2つの的へと伝染するように伸びる
命中した標的の少々周りまで巻き込むのがこの呪文の特徴
すかさず次の襲撃に備えてスパークボルトの詠唱ストックを用意
次は・・・?
パンパンパン・・・
拍手?
「試験終了です、的は全て撃破されました」
「お見事です、連射速度、挟み打ちへの対応、不意打ちへの対処、高速移動の敵への対応、集団の突進への対処・・・全てクリアです」
う~ん、考えてある試験内容だにゃあ
戦士試験の大雑把さとは大違いだよ~
「・・・で、合格できたんでしょうか?」
「ええ、減点箇所が見つからないくらいのパーフェクトです
大抵は的を逃したり対応が遅れたりと何らかの減点があるのですが
見事な機転で乗り切ってくれましたね」
「身体が感じたままに、本能的に動いてただけなんですけど・・・」
「それは、魔法自体が既に身体の一部となっていると受け取っておきますよ
威力重視の火炎呪文、連射力のある氷呪文、で、最後に使ったこれは?」
まだアタシのそばに漂っている火花の光球を指差す
「これは静電気・・・冬場にバチっとくるあの火花を集めたもの、小さな雷です。
素早く唱えられますけど、あまり長い時間ストックしておけないという欠点があるのです」
浮いていた光球が薄れるように消えていく
スパークボルトは詠唱してから1分と持たない、自然放電してしまうのだ
賞味期限はせいぜい45秒って位かな
「初見殺しと言われてたこの試験、と~んとここしばらくチャレンジする人が居無かったんですよ
ワシが趣味のトラップ技術を総動員して作り上げた試験装置
こうも完璧にクリアされてしまうとは・・・もっと精進せねば」
あのね、これ以上難易度上げたら合格者でなくなるよっ
拙い作品をお読みいただきありがとうございます
銃のない世界でインドアコンバット、
魔法って大抵詠唱が必要だったりするから弾倉交換みたいに素早くはリロードできないんだよね
主人公の使う『アイス・ボルト』は、ピースメーカーのようなスイングアウトしないリボルバー(装填は1発ずつ)をイメージしていただけると判りやすいかな
『ラピッドキャスト』はスピードローダーみたいなもの
実はこの呪文、多重詠唱できる全ての魔法に応用が利く上位スキルです
ブックマーク、評価、とかはあまり気にしてませんが
ご意見、ご感想、誤字脱字のご指摘、メッセージ等あると非常に嬉しいです
よろしくお願いいたします!
『メタもベタも極めてみせるよっ!』
【訂正】
2017/05/30 前書きの一部が本文に重複していましたので削除いたしました。




