12章-02 鬼教官復活だよっ
武器ってのは本来「殺すための道具」だ。
剣術とかの経験の無い現代人であったとしても、斬り付ければ普通に重傷を負わせられるし、当たり所によってはあっけないくらいに人は死ぬ。
だから生き残りたいと思う者は戦場ではまず身を護る
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「・・・ったく、マミはやり過ぎなんだよ」
「うきゅぅ・・・体力・スタミナ、かなり消耗してます。
意識半濁、あまり強くはありませんが全身の痙攣が治まりません・・・」
「姐さん、これは酷過ぎるんじゃないんスか?
俺ッちも高Dex職だから分かるんスけどね、鋭敏な感覚もってるとくすぐりとかには弱い
しかも、言いにくいんスけど・・・年端も行かない子供にああいった刺激(※1)はマズイと思うんでさぁな」
鎧さん、マー君、タツアン、パーティの男性人は口々に責めた
「おーちゃんはくすぐられるのに弱いって初めて会った時から知ってただろうに・・・」
「どうしてあんなことした」
「正義と愛と・・・ちょっとばかりの私欲で・・・」
わしっ
「あ、やめて・・・イタイイタイ・・・首取れる・・・」
頭を鷲掴みにされ、ぷらーんとぶら下げられたまま部屋から連れ出されるマミさん
お世話役のタヌ子とヒーラーのマー君を残して部屋から出て行った
アタシがベッドから起き上がれるようになったのは翌日のお昼近くだった・・・
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ひさしぶりだなー、この鬼教官コーデ
カーキグリーンのダブル合わせのジャケット、肩口の階級章っぽいデザインに太腿から膝まで少し膨れた同色のパンツに黒ブーツ、腕章と眼帯は遠慮したけど、どうしてもい言うので帽子だけは斜めに引っ掛けている。(きちんとかぶらないのはネコミミとツインテにぶつかる為)
これ、どーみてもドイツ系軍服だぞ、もちろんそんなモンこの世界にあるわけがない(ドイツ自体ない)
マミさんの服飾デザインって奇抜って言われてるらしいけど、
未来先取りし過ぎなんだって改めて納得した。約2000年は先取り過ぎ。
でもこの服着るとなんか目つき鋭いまま口だけ笑顔になっちゃうんだよなー(ゲス顔ともいう)
空も飛ぶし幼女だけど、軍人ではないんだけどにゃあ、おのれ存在×め~
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事の理由はどうであれ、アタシがダヌパに長居すると捕まるんだよにゃあ・・・
別に悪いことしてるわけじゃない。けど拉致られた結果、ここに今立っている。
「いいか!本日からいよいよ攻撃用スキルの特訓に入る」
訓練生たちからどよめきの声が上がる
「今ここにいる者どもは、基本過程を完璧に身に付け研鑽を欠かさず鍛え上げてきた者のみだよな?
恥ずかしがらずとも良い、自信のない者は申し出ろ! 基礎組みへ戻れ
過信や見栄を張ってはならん・・・死ぬぞ!」
二人がおずおずと手を挙げ、まだ日の浅い基礎鍛錬グループへと移っていった。
「よし! アタシの役割はオマエ達を鍛え上げる事であって壊す事じゃない」
「これより伝授する技は『ガードブレイク』という。守りの堅い敵に対して防御を無効化し大ダメージを与えるスキルだ」
「「「イエス、マァム!!」」」
久しぶりに聞くいい返事だ。
「まずは基本理論だ、心配は要らない。お前達のぎっしり筋肉の詰まった頭でもわかるように教えてやる」
アタシは用意しておいた鉄球を手に取った。直径11センチほど、重さは5kg程度、レディ向け砲丸投げのコピー品だ。黒くて半つや消しのまん丸。
「これはただの鉄の玉だ、アタシのような子供でも持ち上げられる程度の重さだ」
「「「・・・・・」」」
一瞬全訓練生達がジト目をした・・・が、すぐに真剣な表情に戻る。(※2)
ずっとジト目のままだったら、思い切りこの鉄球を投げつけてやるところだったが、よく堪えた。偉いぞアタシ。
「そこの長剣使い、仕掛けとか無いか確認してみろ」
最前列にいた剣士にかる~く鉄球を放って渡す。
剣士は普通に鉄球をキャッチすると捻ったり揺すったりあちこちから眺めたりしてチェックした。
「教官、ただの鉄の玉です。継ぎ目の1つもありません」
鉄球が戻ってくる。
今度は集団の端の方にいたバルガ班長、ちょっと距離が離れてるから少しだけ高い弾道になるけどほぼ同じスピードになるように投げ渡した。
「念のため、師範も確認して!」
「心得た!」
鉄球は受け取りやすいよう胸元へのゆっくりとした球筋。
人間としては巨漢髭マッチョの師範が両手を伸ばしてキャッチ・・・その時
シャウゥゥゥゥゥゥゥ・・・
激しい摩擦音を立てて両手を突破する鉄球
ごんっ!
鉄球は足の上に落ちた
「おわわぁ~~~っ!!」
脚を抱えて転げまわってる・・・
痛そう・・・一応ブーツは履いてたから骨までいってなさそうだけど
師範には悪いが、続けさせてもらおう
「お前ら! 今の2人の違いがわかったか?」
お互い顔を見合わせるが、答えは出てこないようだ。
「よく考えてみろ、投げたのはまったく同じ軽い鉄球。投げた強さも大して変わりない」
「片方はすんなりと受け止められ、もう片方は受け止める手を弾き足を直撃した」
「つまり、これが『ガードブレイク』の原理だ! ゆっくり飛んでいった鉄球の片方は運動エネルギーを高めてある、それは・・・」
「回転・・・でござるか、教官殿」
あちゃー、ここは訓練生に悩んでもらうところだったのにぃ
師範のアンタが答えちゃダメでしょ! ドウギちゃん
「正解だ、ドウギ師範。だが訓練生に考えさせるのも修行の内、師範は困ったときに手を貸す側だ」
ピンと立っていた耳がへにゃりと垂れ、シッポも力なくぶら下がる。オオカミ獣人の彼は寡黙だがものすごく感情が分かりやすい、明らかにしょげ返ってる。
「回転は、見た目上静止していても強い力を内包してる、この力を攻撃に合わせ乗せるのがスキルの全てといってもよい、難易度は比較的高いのでじっくりと進めていく」
「アタシの教える『縁理流』の根底には常に回転が伴う、この事を頭の片隅に入れておけ!」
「「「イエス、マァム!!」」」
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「さて、これより型の稽古にはいる! この技には『盾割』『盾貫』の2つの型がある
違いは使用する武器に向き不向きが有るという事だ。自噴の得意とする武器によってグループ分けを行う。
両手剣、斧など振り回す武器を愛用するものは『盾割』へ、
片手剣、槍、等の突く動作が決め手となる武器は『盾貫』へと別れるように
弓師は、また別のスキルとなるので別グループだ」
「この『盾割』にもっとも適した武器、それは『両手剣』だ、
長く重く鋭いと このスキルのためのような武器だ。
他にはバトルアックス系列、ジャイアントの武器全般の『叩き割る』武器用の型、それが『盾割』だ」
壇上から眺めて見つけといた一人に、ととっと近づく
「オマエの剣を借りてもよいか? お手本用だ」
訓練生はおずおずと差し出すように背中の剣を差し出した。
「いま借りたのは市販品の『両手剣』だ、何の仕掛けも無いし、魔剣でも名剣でもない、ついでに言うと使い込まれてもいない」
「そしてそこの、これを持ってろ」
大柄な訓練生に棒を持たせる。
3mちょいの棒の先にミディアムシールドがくくりつけられている。
ガード無効技を実演するのに、訓練生に盾を直接持たせるわけにも行かない。
「よし、手本を見せる、しっかり見とけ!」
「「「イエス、マァム!!」」」
標的のシールドへ向かって剣を立てたままダッシュ、走りながらテイクバック・・・そのまま斜め上へと斬り上げる!!
ズッカーーン!!
鉄板を貼られたミディアムシールドは真っ二つに断ち切られた。
「さて、今の特殊なフォームが気付いた者はおるか?」
どよめきが急に収まり、一部がもじもじする。
丁寧にメモを取っているのがいたので問いかけてみる。
「こたえてみろ」
「・・・走りこんだ全身の勢いを斬撃の1点に収束したものと思われます」
「30点だ、一番大切な瞬間を見落としていたようだな」
「もう一度、ゆっくりと型を見せる、アタシの足元に注目しろ」
今度は足元が見やすいように壇上で行う。
ダッシュ、爪先を地面に突き立てる、その勢いで回転しながら飛びあがる、脇を締め回転速度を上げ加速の頂点で斬撃を放つ、着地・・・
そう、インパクトの直前、高速横スピンが掛かっている、フィギュアスケートの回転ジャンプと同じ原理。(※3)
「これだけゆっくりやれば、お前たちにもやり方がわかったろう」
「「「イエス、マァム!!」」」
「職人さん、例のものを」
私が合図するとゴロゴロと櫓のようなものが運ばれてくる
細身の櫓からは水平に棒が延び、そこからロープでシールドがぶら下がっている
「固定した盾を割るのは簡単だ、力さえこめればいい」
「人の持つ盾はそうは行かない、受け流したり受け止めたりする。
当たってから、受け流される前に割る事を身に刻め」
練習のステップは3段階! まずは型の修得、回転を見切られなくなるまで修練しろ。
2番目は型を覚えたら正確に狙えるように的を狙う。
ロープを切ってしまったり的の盾が壊れた場合はすばやく交換しろ
盾を壊した者は、交換直後の盾に再度挑戦、確実に割れるようになったら最終ステップだ」
「そして最後の仕上げの3ステップ目は、力の浸透していく感覚をつかむことだ。実際に弱めたガードクラッシュを身をもって体験してもらう」
壇上から見下ろすように、やや見開いた目のまま口元にだけ笑みを浮かべて
「いいか、生き残れ」
拙い作品をお読みいただきありがとうございます
おーちゃん、目一杯ゲス顔してますW
壇上に立つと持ち前のレイヤー魂から鬼教官と化してしまって、後で後悔するんですよね~
レイヤーさんとか自撮り写真とかやってる人って、その時はノリで楽しいのだけど、後になって写真とか見返すと恥ずかしい、そんな感じ。
【解説】
(※1)ああいった刺激 : 人前で鎧を脱がない鎧さんや成人したて聖職者のマー君と違って、アラサーのタツアンは娼館の経験くらいはあります。この作品は健全なので描写しませんが。
鎧さんは、そもそも人前で脱ぎませんし人間相手ではサイズが合いません。
マー君は教会で清く正しく育った箱入り息子です。
(※2)一瞬全訓練生達がジト目をした・・・が、すぐに真剣な表情に戻る : 処世術である
訓練生のほとんどは非力だと言い張っても信じてない(「6章-11」参照)
(※3)フィギュアスケートの回転ジャンプと同じ原理 : もっとも素人目には回転していることを気付かせないくらいの高速1回転、厳密にはさらに腰の捻りの分も剣速に追加されている。
余談だけど脇を締めて回転速度を上げても、斬りつけるために腕を伸ばせば回転速度は落ちる。
その、速度の変化する直前に斬撃を当てているという・・・ファンタジー理論、俗に言う『刹那』
ブックマーク、評価、とかはあまり気にしてませんが (あると嬉しいのは事実だけど)
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