11章-02 Faster Than The Star ~だよっ
機械のカメラなら中央も端の方も均一に同じ解像度というか均一に情報を受け取れる
ところが、人間の目って言うのは、視野の中央付近と周縁部で受け取れる情報量が異なる。
視野周縁だけでなく、脊椎動物には盲点と呼ばれる見えない所もある、昆虫の複眼やイカ・タコでない限り、盲点は存在する。
だから大抵の動物は2つ以上の目をもち、盲点をカバーし合っていたりする。
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ふつう人間の両目は左右に並んだ配置をしており、視界も上下より左右に広い。
真上の死角を取られる事は、それだけで状況の有利不利を左右する。
理論だけじゃないよっ、経験からも言い切れる。制空権大切。
かつて参戦した魔道トーナメントでもベテランが対人戦経験の浅いアタシの奇襲を食らい続けていた。死角さえ突ければどんな敵だって、さほど怖いものではないよっ
でも、こんどのは立場が逆
川下のホブゴブ集団を照準中のアタシも気づくのが遅れた
まさか、視野の外、崖の上から直接ボーディング奇襲をかけてくるなんて・・・
だだんっ!
2匹のホブゴブリンが、曲刀を片手にイカダに飛び乗ってきた。
アタシは進行方向をロックオン中で振り向けない(※1)
近接戦に関しては鎧さんがいるけれど、彼はイカダの上をあまり移動できない
その重量が仇となって中央付近から外れるわけには行かない。
タツアンは操舵中、タヌ子とオギは戦力外、マー君がどこまでやれるか・・・
実力はあるんだけどメンタル的に不安が残るんよね。
「マミさん、奇襲部隊の方頼める? 川岸の方はアタシが押さえるから」
「でゅふふっ、任された!」
むーっ、あまり使いたくないんだけれど・・・『マナ・コンバージョン(※2)』起動っ
このスキルはON/OFF切り替えタイプの持続型スキルで、本来自然と回復するスタミナやHPなどの「自己回復機能をすべてマナの回復に割り振る」スキル。
この後川の終点まで続く連射砲台と化すための準備。
「いぃっくよぉぉーっ! 撃ちまくるじぇ~~っ!!」
テンションを無理やりに上げまくって射程に入る端から消し炭にかえてやるッ!!
HA!HA! さぁ It’s ShowTime!
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ゴブリンは人間より小柄な「小鬼」であるが、その上位種ホブゴブリンは2mくらいはある大型種だ。
けっしてザコでは無い。ゴブリンの上位種といわれるだけあって、すべての点で進化しているのだ。
体躯とパワーこそオーガには敵わないまでも、個体によっては弓や魔法を使ってきたりと、頭の良さと器用さではオーガを上回る。
鎧さんこと戦士アマドは、やや苦戦していた。普段の彼なら格下の取るに足らない相手なのだけど、環境があまりにも悪すぎた。
イカダ全体のバランスを崩してしまう為ろくに移動することもできず、激しく踏み込むこともできない。
丸太をロープで接続しただけの筏なので意外と揺れるたびに船体は歪む、もし接続部分を傷つけてしまったらたやすく分解してしまうだろう。
執拗にまとわり付くように攻撃を仕掛けてくるホブゴブリンに防戦一方の展開。
せめてもの救いは、ボブゴブリンの曲刀程度では、彼の重装甲を貫通することはできない点くらい。
「ったく鎧ちゃんは、わたしがいないと・・・『絶望の極微螺旋』(※3)」
軽快な動きで攻め続けていたホブゴブリンが急に白目を剥き泡を吐く
この好機を逃す戦士はいない、逆袈裟に斬り上げられ、それぞれのパーツが水中に沈んだ。
「基本的に鎧ちゃんは総受けだもんねぇ・・・でゅふ」
「誤解狙った言動は勘弁してくれ」
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帯電ピークで砕け散れ!
もっともっともっともっとDEATH サンダーブレイキング!
むー! ハイテンションが止まんないよっ!!
破壊神? なにそれオイシイの?
撃ちぬけ! 星より 速く
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「きゅっ、これはっ、試練」
マー君ことマーベリック、彼は聖職者ではあるが前衛戦闘職ではない。
犬型獣人である彼は人間より優れた運動能力を持つが、それを発揮するにはこの筏は狭すぎる。
たまに牽制を繰り出しつつ膠着状態が続く。不慣れな分 相手側の手数が多いが、防具の差がバランスを対等まで持って行ってくれている。
でもこのままではジリ貧・・・そのとき何かが動いた。一陣の黒き風
それはオギ、『隠遁の力』で背後ぎりぎりまで接近、ホブゴブリンの後頭部にしがみつくように現れた。彼の手には小さなダガー
そのまま右手が頭部を抱え込むように目隠しするかのように巻きつき、一気に引かれた!(※4)
ごく浅くではあるが、両目を切り裂かれたホブゴブリンは叫声を上げ一瞬動きを止める。
その間に少年はすばやく離脱し気配を消した。
ギィィヤァァッッッ!!
・・・ゴキャッ!
動きの止まったホブゴブリンの頭部にメイスが叩き込まれる。強靭な肉体を持っていたとしても筋肉に力の入ってない状態で打撃武器に耐えることは難しい。頚椎を叩き折られたそいつは、反射で一歩だけ足を突くも川面へと倒れこんだ
「神よ、せめて魂だけでも救われんことを・・・」
マーベリックは知っていた、魔物のホブゴブリンは輪廻の輪から外れてしまった存在である事を・・・
埋め込まれた魔結晶コアのある限り、肉体が朽ちてもしばし間を空ければ再度湧き出る不死身。そもそもホブゴブリンとは突然変異したゴブリン族、魔物しかいない救いの無い生き物(※5)
やるせない気持ちが胸を締め付ける。分かっている、理解してはいる。
何度も戦い、倒し、コアにある魔結晶をどうにかするまで輪廻の輪には戻れない。魔物を救う唯一の方法はこれしかない。魔物を倒すのは救済・・・魔物は絶対悪などではない、むしろ可哀想な被害者だ。もしこの世界に絶対悪が居るとするならば、この歪んだ輪廻を生み出した者こそがそうなのだろう。
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「ごめんでさぁ、冒険者のダンナたちィ・・・」
オラ達ゴプリンはホブには逆らえないだ。集落を守る為には仕方のない事だで
恨まないでくれとはいえないけんど、祟らないでくんろ
桟橋付近の筏屋ゴブリンとその仲間、イカダ作成担当ゴブリンたちは川下へ向けて黙祷をささげた
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雷光とオゾン臭の漂う中、イカダは進み
アタシはトリガーハッピー(※6)になりかけていた
「あははっ! 一匹残らず消し炭にしてやんよっ!」
ターン・・・ドドドーン!!
「ほぅ、見事なジャンプだねー・・・でもロックオン済みなんだよっ!!」
崖の上から躍り出たホブゴブが空中で雷を受け、炭化し弾けて塵となって消えていく
一般的な雷撃は天地の電極の間にある対象を貫通するが、アタシの呪文は対象そのものを電極と化すため空中の相手を貫通しない。ロックオン対象に触らない限り感電はしない
船旅の事を思い出したもの、こんな不安定なところでは戦えない。
一匹たりとも筏へは近づかせないっ!!
「我は放つ、怒りの黒刃!」(※7)
隣からすっと手が差し出され、アタシのロックオン範囲ギリギリ外れのホブゴブを黒い光が貫いた
∠(○△○;)ゝなー
「一人で全部抱え込もうとしちゃ良くないって・・・ん? 何か驚かせるような事した?」
「マミさんが・・・普通っぽい魔法使ってる・・・魔改造されてないフツーの呪文・・・」
「・・・そこ? ( ̄△ ̄)」 フニオチナイ
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しつこく襲撃を受けながら川を下る筏、
そらを飛べても~ この波をゆく~
この中で飛べるのはアタシだけだし、ジェットもウォーターガンも無いけどね
1隻に対して四方八方から狙われ続ける状況は、敵の数をいかに素早く減らせるか、シューターの役割が大きい
むー、おっぱいさんだらけの水上レースとは違ってこっちは死活問題だー(※8)
主だったホブゴブリンは、アタシの雷撃の餌食となり消滅してゆくが、発射間隔やロックオン範囲の隙間を突いて向かってくる個体をマミさんが撃ち落す。
それでも数の暴力はパーフェクトィを許さず、稀に1~2匹が跳び乗って来る。
そっちは近接部隊にお任せ、多分一定数以上に乗り込まれると筏が破壊されるかなんかしてミッション失敗ってのは経験したっけ・・・ゲームではないこの状況では不謹慎だよね。
「襲撃が・・・止んだな」
「テリトリーを抜けたんじゃない?」
「どうやら終点らしいぜ・・・っと」
簡素な桟橋が見える
手馴れた操船で筏を着岸させるタツアン、この人はホント器用だにゃあ
「終点だって理由は?」
「あの下流のほうを見てみると、霧というか、水煙というかが充満してるだろ?
つまり、あそこから先は滝だ。俺っちの見立てでは、落差30mって所かな」
いちおーミニMAP機能で地形を確認するけれど、真上からの図案化されたMAPだと分かりづらい。パーティに野外活動に強いレンジャーやトレジャーハンターが居なかったら危なかったよっ、
完全に初見殺しの地形トラップ。
桟橋に筏を固定すると、足早に全員下船する
滝壺まっ逆様は絶対に嫌
筏上で白兵戦もあったせいもあり、このイカダもけっこーガタがきている。
丸太をつなぎ合わせているロープも数箇所切れかけている
「今になって見直すと、危なかったな」
「うきゅ~~、後2回も戦ったらバラバラなってたかも」
とっとっとっ・・・・・・ぽんっ!
子狸が1匹、イカダを駆け下りると人型に変化した。
「ずっと隠れてたの? 勇気はなかったけど、一番の正解」
タヌ子は子狸形態でイカダの舵支柱の陰に隠れていたんだとの事
戦闘力のない味方が乱戦に参加したら、かえって戦いにくい
一応、改造強化型多目的クロスボウを渡してはあるけれど、今回の状況で有効に機能するとは思えないからねー、正しい判断だよっ。
どこぞで聞いた事がある
『強いから勇者なのではない
勇気ある者だから勇者なのだ』(※9)
けだし名言だと思う、さらに続く
『ただし勇気だけを持った勇者は、
名を知られる前に消えていく』
うん、蛮勇と勇気は違う、さらに言うなれば
戦場で生き残るのは『強者』と『臆病者』であって、『勇者』は生き残れない
「ちかれたー、タヌ子、いつものー」
「はいですぅ、大量討伐お疲れ様なのですぅ」
メイド服のコルセット部分の紐を引っ張って結び目を解く。これを忘れると癒し効果半減
最近またサイズアップしたクッションに身を委ね大型ダブルヘッドレストに後頭部を埋める
「む~・・・おながすいたぁぁ・・・」
自然回復をマナ回復に全振り設定しちゃってたからスタミナが底をついている。
ぎう゛みー すいーつ!
生活面と癒しのエキスパートであるタヌ子は戦えなくていい、
気力がgdgdになると同時に体力が回復してゆく・・・タヌ子もパワーアップ?
あー、この辺りは風が温かいなんだなー、たまに飛んでくる水飛沫がきもちいい
ホブゴブさん達のほとんどは、もうしばらくもすれば再発生してくるでしょう
それが幸せなのか不幸なのかは分からない。
ホブゴブは悪と決め付ける気もない。強いて悪者を挙げるのならば、魔結晶とそのシステムを使って輪廻の輪をいじった奴だと思う。
拙い作品をお読みいただきありがとうございます
オギ君アサシンとして覚醒? イフリートにもらった『隠遁の力』を早速使いこなしている とゆーか
年齢的なものを考えると恐ろしい。
元よりオギってのは獣人としての「人」の部分を学び終わる前に(事故で)里を放り出され野を彷徨うことになってしまった幼児なんで、人の面より獣の面が強いメンタルを持っていると思われる
実は生き残る為に狩もしてたので小動物の血の滴る肉も平気
(ティル村奥の山でキタキツネの家族にお世話になっていた)
ちなみに彼を追ってきたタヌ子の方は、愛嬌と人当たりのよさを武器に人里を渡り歩いてきた。
【解説】
(※1)ロックオン中で振り向けない : 厳密にはロックオン準備をしたまま、射程内に入るのを待機している最中。ロックオン自体はほぼ一瞬。
イカダは川を下っているので、徐々に近づいてくる下流にいる集団を一瞬でも先に補足・攻撃するためには、詠唱等を先に済ませ、ロックオン射程に入るのを待ち即座に放つのが最善手
(※2)マナ・コンバージョン : 疲労回復、自己治癒等の回復能力をすべてマナ回復だけにまわすスキル。スキル作動中は傷を負っていれば自然回復が遅れるし、疲労は回復しなくなる。
その代わりマナの自然回復能力は桁外れに跳ね上がる。
ちなみにこのスキルでHPが減ることは無いが、スタミナはゴンゴン減っていく。
おーちゃん的には、自分の欠点を広げるスキルだけにあまり使いたくないけれど魔法特化をする時は背に腹はかえられない。
(※3)絶望の極微螺旋 : マミさんの魔改造呪文、対照の肉体の一部分を捻り激痛を与える。腕などを雑巾絞りのように捻るのに近い、サブミッションの遠隔魔法
今回どこを捻ったのかはマミさん以外分からない。
・・・彼女のオリジナル呪文は基本的に激痛を与えるものが多い
(※4)目隠しするかのように巻きつき、一気に引かれた : 一般に暗殺者が狙うのは首筋だけど、オギは自分の力で確実に頚動脈を断ち切れる保障がつかめなかった。
眼窩にダガーを突き立てるにしても、確実に刺せる自信もなかった(実は眼球って凄く硬い)
視力さえ奪えばいいのなら傷は浅くていい。ただし2つとも斬る必要がある。
自分が片目を貫かれて死に掛けた経験が、ここまでの判断を導いた。才能開花そのもの。
両目の表面に刃物が走るシーンを創造して背筋ゾワゾワなった人、ゴメンナサイ
(※5)救いの無い生き物 : 体格・運動神経と戦闘力を得る代償に、人としての善良さを失ってしまった魔物。武器を振るう力はあれど繊細さは無く、魔法を使う頭脳はあれどよりよい生活を作る知恵は無い。
子供ならびに集落が発見されていないため、「魔物」ではないホブゴブリンは存在しないという説が現在有力。
(※6)トリガーハッピー : 『引き金戻せない症』よりも単調さから現実感の薄れていく離人症に近いかも
ひたすら続く単調作業って感覚おかしくなるよね
「目標をセンターに入れてポチっとな、目標をセンターに入れてポチっとな、目標をセンターに・・・」
(※7)怒りの黒刃! : 他にも「熱りの黄色刃」とかもあるらしい、属性を乗せた魔力の刃を打ち出す比較的オーソドックスな呪文。ほかにも数多くの色があるとか、この系統の射出型カラフルブレードを総称して「凰編シリーズ」というらしい
比較的お手軽に属性が乗せられるので重宝との事
ちなみに「怒りの黒刃」は闇属性、黒魔女と相性がいい
(※8)おっぱいさんだらけののレースとは違ってこっちは死活問題だー : この世界に動力付きで走る小型船はまだ無い、でも好きだったアニメは最終回ちょいくらいまでに一度はネタにする派
あの作品って女の子が引っ付き合うのを描きたかっただけっぽい
前回もタイトルの後に「わっほー わっはー」って付けようとして思い止まった。
(※9)『強いから勇者なのではない 勇気ある者だから勇者なのだ』 : 「ゆうしゃ」なんかになりたくも無い、戦うのは立ちふさがるものがあるからだよっ
ミスリード、ブラフ、初見殺し、卑怯と言われようと生き残る、死んだらおしまいだからね。
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『メタもベタも極めてみせるよっ!』