10章-16 アリムタ杯 だよっ
巨人族の国で生まれたモータル・ボールは他の国に振興することが出来るのかな?
よほどの氷雪地帯でないとコースが作れないし設備も装備も大変だ
コロシアムなんかより高速移動する分だけ危険度も増す。
文化として定着してくれたらいいな
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「さて、始りました。国家公認第一試合」
「これまでは地下興行としてひっそりと黙認される形で続いてきた爆闘球技が、正式に国技の1つと認められました」
「今回のその記念すべき第1試合、リーグの垣根を取っ払ったエキシビジョンマッチ」
「数年ぶりの春の訪れを記念に開催されたという、この一戦『アリムタ杯』!
もうこれは神事です、選手の入場です」
あれ?なんだろ、この実況の声どっかで聞いた事あるぞー
「ゼッケン11、タキエラ選手、Aリーグの疾風、レディ・ファーストで今回ポールポジションを取得」
「いいえ、スターティンググリッドは厳選なくじ引きをもって決定されています」
「M・Bでは数少ない女性選手です、華麗な走りで今回も魅せてくれるのか?!」
「彼女の弟はBリーグでがんばってますからね、赤い鎧は姉弟のポリシーでしょうか」
「ゼッケン22、スグラ選手、Aリーグの重鎮、大ベテラン、バランスの取れた攻守が売り」
「彼の長いリーチを掻い潜るのは至難の技、攻めるにしろ守るにしろ判断をミスると一方的にやられちゃいますからねぇ」
スグラ・・・数日前に廊下で会ったアイツかぁ、気の良さそうなオッサンだったけど、あーゆーのが実戦では容赦なかったりするんだよね・・・
「ゼッケン33 ザリーキー選手、巨躯の武闘派選手です。両手の巨大なハサミに選手生命を絶たれた数は数え切れません」
「このハサミ、火山サソリを模して作られたとも言われております。巨大な斧のような一撃が怖い」
むー、雰囲気がヒャッハーな感じだにゃあ、地なのかキャラ演出なのか分からない。
ヒール枠として入れられたんでしょうね・・・
「ゼッケン44、ギヌヴァ選手、二つ名は『破壊王』、情報によると新武装が完成したとの事です」
「ボールそっちのけでバトルに興ずる選手ですからねえ、新兵器の実験場になってしまうのか?」
巨漢なのにそれ以上目立つ巨大なガントレット、これが新兵器なんでしょね
ヒャッハーというよりは黙々と相手を倒していくタイプ?
「ゼッケン88 カジャティ選手、Bリーグの覇者、貫禄です」
「当試合はAリーグ・レギュレーションですので武器使用が可能なのですけど彼は無手です。
あくまでも自分のスタイルを貫くようです。」
「彼の強さは状況判断と駆け引き、転倒したとしても、それを利用するテクニックでしょうなぁ」
このカーキグリーンの選手は要注意だ。パワーやスピード、火力とかのフィジカルでのアドバンテージなら対処のしようもあるけど、経験に基づくテクニックだけは太刀打ちしようがない、経験不足だけはどう足掻いても埋められない
「そしてゼッケン99、帝王ガシュザン、」
周りから歓声が上がる、トップスター選手だって事がわかる
「冷静かつ大胆、必殺の、『歯車拳』はいかなる防御をも貫いて勝利を掴む、まさに帝王、甘いマスクは女性人気も高い」
騒ぎが落ち着くまで数秒の間をおく。ベテランの実況者だな
「そして今回はのエキシビジョン・マッチはリーグの壁だけでなく種族の壁も越えてしまったのです」
「今回アリムタ杯のゲスト選手、ゼッケン00 オーリ選手、巨人族の競演に迷い込んだ、たった一人の人間族、ちいさな、あまりにも小さな彼女ですが心配はいりません」
「とある情報によりますと、しばし前に行われた御前試合において、バムトン元将軍との一騎打ちにおいてこれを討ち破っております。
ガリュー王以外無敗を続けた元猛将が負けを認めた猛者中の猛者! 外の国にはこのような強者がいるという証なのでしょうか」
観客製から歓声が上がる
どうやらアタシは格闘家と思われているらしい。それに合わせてポーズをとる、こーゆーのはエンターテイメントだよっ
「儂、見た事があるぞ、あの娘・・・ダヌパの鬼教官じゃねぇか」
商人らしい初老の人間がつぶやいた
「つええのかい? あのちっせぇのが?」
「ああ、剣を取ったら鬼神といってもいい、こんな所でまたあの勇士が見れるとはな」
試合開始を告げるサイレンの音が響く、コースチェックのスタッフが走り出す。
チェック完了したらスタートだ、各選手達はルーティンワークに入る
アタシも装備のチェックをしておこう
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数日前にさかのぼる
「そいつがオマエさんの武器じゃ」
アーマーの両腕に取り付けられた片刃ブレード、長さは50cm程度、ショートソードくらいだね
手首と肘の2点で腕に固定されている。
トンファーとゆーか逆手持ちの極端な形とゆーか、切っ先は肘から後ろへ伸びている
「この取り付け方、攻撃間合い的に不便じゃない?」
「何を言っとるんじゃ、お主のスタイルは格闘戦じゃろ? 拳のジャマになるようなセッティングはできんじゃろうて」
いや、それは御前試合で格闘戦しただけだから、剣も魔法も並以上には使えるよっ
まー、だからサマルなんだけど・・・
改めてブレードを確認する。かすかに青み掛かった刃に黒い模様が細かく浮き出している
やや厚め刃のエッジはさほど鋭くは無い
「刃も甘いわね、不思議な模様が浮き出てるけどアーティファクトかなにか?」
「刃が甘いじゃと? 勘違いしないでくれ、名前こそ『モータル』じゃがスポーツだ、殺し合いじゃない。これはあくまでパーリングブレードじゃからぶった斬るもんじゃない
あと刃に浮いた模様は自然発生したもので魔法的なもんは一切無い
、超多層鍛造法で打ちあげておる」
この人、『超多層』にこだわるのね、打って重ねて打って重ねて・・・日本刀に近い構造なのね
いや、ダマスカスかな?
「超多層鍛造法というのは不純物を各種加えた複数の鋼を重ねて打ち合わせたものじゃ、とてつもない耐久力と粘り強さが特徴じゃ・・・まさに不純物が鋼に命を宿らせる」
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コースチェックの連絡が入り
アタシ達プレイヤーはスターティング・グリッドへとスタンバイする。
アタシのグリッド位置は6番、後ろから2番目
前門の虎、後門の狼、武闘派2名の間・・・運がいいのか悪いのか
そして・・・
- スタート・フラッグが振り下ろされる -
各選手が加速に入る、この辺りはスピードスケートだ。
この後コースは下り坂になり徐々に加速をのせてくるのだ。ボブスレーに近い。
むしろボブスレー同様に初期加速がすごく重要になる。
「さぁ、各選手一斉にスタート! 先頭はポールポジションの11、タキエラ選手」
「先行逃げ切り型の選手ですからねぇ、いかに初期のうちにリードできるかが勝敗の鍵となります」
この初期加速時のトラブルを避けるため、ルールでは定められている
『スタートから50mの間は攻撃禁止(※1)』
先頭集団から離れ過ぎないように目いっぱい加速しないと・・・
『!』
視界のすみにアラートマークが映り込む、後方警戒のサイン
一人アタシの背後から接近してくる奴がいる
スターティンググリッドがアタシより後ろだった
33番、ザリーキー、名前はザリガニみたいだけど巨大なカニ男だ
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試合前に受けたラガオー氏のレクチャーが脳内再生される
「一人だけ実戦経験がないのは不利過ぎじゃろうて、要注意な選手についての情報を伝えて置こう」
ありがたいよっ、ベテランと渡り合う為には何より情報が必須
「ザリーキー、どこで見つけて来よったのかこの地にはいない海の動物が好きでの。
このワシに巨大なハサミを作ってくれって言いおった」
「へぇ、アレもおやっさんの作品」
みんなの万能メカニック、立花藤兵衛やん
「あのハサミは油圧駆動で1回挟んだらまず外れん、ボールを取られたら奪い返すのは酷じゃろ」
うっわ、でもボール狙いに行かないよね、あの選手
「いいか、くれぐれも挟まれたりするでないぞ、その超多重積層装甲は打撃や斬撃、刺突には強いが、動作の自由度を重視した構造の都合押しつぶすような圧迫や各層を剥いでいくような削りに対してはさほど強くない。
もっとも打撃武器として使う事が主じゃが」
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フツーは、背後から接近されたなら振り向いて確認。応戦するなら背面走行に切り替えて対峙するものだけど、あえてアタシは振り向かない。
・・・だって見えてるもの
アタシには、後方目視カメラが付いてるんだから(シッポの先)
「攻撃禁止エリアをぬけ、早速仕掛けていく 33番、ザリーキー選手!」
「ぶるぁぁあ!」
斧のような巨大なハサミが振り下ろされる
向こうはこちらが気づいて無いとでも思っているのだろうか
ついっと進路変更して打撃をかわす、真上からの打ち下ろしなんて体幅分だけ移動すればいいのでカンタン
「んごぉぉお!」
ドカン! ドカン! ドカン!
執拗な連打を振り返りもせずに連続回避
別に煽ってる気は無い、避けないと痛いから避ける
横向きになぎ払えばいいのにって思った人も多いだろう、でもここは氷のコースの上、あんなでかくて重い重機のような金属の腕を振り回したらバランスの取りようが無い
「どぅああっ!」
「そんなに熱く・・・」
スライド移動しながら左足を内側からぐるりと回すように振り上げ・・・
どんっ!
「なりなさんな、だよっ!」
そのまま一挙動で今いた所に打ち下ろされたハサミを踏みつける!!
「な゛っ・・・!!」
踏みつける勢いを打ち下ろしに追加されたハサミは、氷のコースに深く突き刺さる
- この時速100km近い世界で・・・ -
急停止したハサミの切っ先、前輪だけ急ブレーキしたバイクのように(※2)つんのめってそのまま跳ね上がる
「むー、ハデに飛んでったー」
「33番、ザリーキー選手、自らコース進路を傷つけ自滅か?!」
「あれは00番 オーリ選手の頭脳プレイでしょうね、あえて振り向かずに避ける事で冷静さを奪ったのでしょう」
ザリーキーをかわして先頭グループに追いつこうとする所、背面走行のまま手招きする金色の甲冑
細マッチョのイケジャイ、ゼッケンNO.99 ガシュザン、通称『帝王』だ
「格闘を得意とすると聞いている、お手並み拝見といこう」
背面走行のまま構えを取る『帝王』、堂々たる隙の無い構えだ
ここは誘いにのってあげるが世の情け・・・っつーかエンターティナー
「次に誘うは『帝王』ガシュザン、帝王は相手が誰であっても手を抜かない!」
地に足を着けての通常の近接戦闘と、コースを一方向に滑走し続けるM・Bのバトルではかなり勝手が違ってくる。
MBの基本的には『先行・攻め有利、後続・走り有利』と教わった
踏み込む時減速すればいい先行側の方が攻撃には有利、急減速するだけで最大時速100km近く攻撃に上乗せできるからね
反面、コースに背を向けて走行しなければならない分、走りは疎かになる。入り組んだカーブや障害物のある所では高度な技術を要する
アタシも構えを取る。それを確認した後に
鋭いジャブ、手刀、掌底等が飛んでくる
まだ刃の並んだ腕アーマーは回転していない、アタシはかわせるものは回避し、一部の攻撃は腕に付いたブレードで受け流す。
滑らかでバネのような2本の刃は、巧みに攻撃を滑らせて受け流す構造になっている。
滑走しなくてはいけない為、基本的に手技が中心となる。安定性を欠く足技はは禁物だ
打撃で殴り倒さなくとも転倒させるだけで高速で流れる地面がダメージを与えてくれる。
「では、そろそろお終いにしよう」
ガシュザンは足のエッジだけでなく、コースの外壁に肩アーマーを擦り付けてブレーキング
彼の肩にはブレーキ用の歯車、拍車が取り付けられている
キュイィィィィ・・・・・
彼の手首から肘にかけての部分が回転し始める
・・・来たッ! これが話に聞いた必殺技
「我が身は回る歯車、この拳は捌けまい!」
「ついに出たぁっ!! 帝王ガシュザンを帝王たら占めている必殺拳っっ!」
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試合前のブリーフィングを思い出す
「一番に注意が必要なのは、『歯車拳』の使い手、ガシュザンかの」
「ぎあ・くらっつ?」
「歯車状になっている腕の装甲を回転させて放つ正拳突きじゃ、素早く重い。
受け止めれば弾き飛ばされ、払いのけしようとすれば、回転する刃に抉られる」
むー、巨大なフライス盤の刃、しかもジャイロの安定性つきかー
地球ゴマに限らず独楽ってのは慣性モーメントが大きいほど安定する。大きく重いほど、同重量なら回転半径が大きいほどジャイロ効果が強く働く。
なお、アタシの尻尾『Auto-Tail』は、構造の都合で回転半径があまり取れない(※3)所を極限まで回転速度を上げる事で補っている。
「奴の間合いで打ち合うのは危険じゃ、しかし逃げるわけにいかない時もあるからの・・・あの回転刃に触れたら多層装甲といえど半分以上削り取られる、通常の装甲なら確実に抜かれるな」
「何でそんなに詳しいの?」
「奴の武器はわしが作ったからだ。仕様や構造は本人の言うとおりにしたがな」
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両肘を押し出すように両腕装着のブレードを平行に並べてガード、肘・肩関節のバネに加えてインパクトのタイミングにあわせて足元はエッジを立てて急減速、衝撃をかろうじて逃す。
よく聞く『後ろに飛んでダメージを抑えた』っぽい感覚
「必殺技、『歯車拳』炸裂~~っ!!」
「だがしかし、オーリ選手は倒れない!! 自ら減速してダメージを和らげた!!」
こりゃ そう何発もガードできないかも、打ち合いになったらこっちが不利過ぎる
「よく耐えたな、次は打ち抜く!」
再度攻撃態勢に入るガシュザン、腕歯車の回転数が跳ね上がる
このジャイロ突きは受けも掃いも難しいだろう・・・でも
「ジャイロ効果の応用なら、アタシだって使い込んでるよっ」
一瞬だけ爪先のエッジを氷面に突き立て、前進してきた力をつかってのほぼ垂直ジャンプ
相手がジャイロ効果の安定強化で安易に弾く事の出来ない拳なのなら
その力を応用するのみ!
「目には目を、ジャイロにはジャイロ、ブレイジングタービン起動っ!!」
回転する歯車部分には触れるわけには行かない、狙うは一点、回転していない部分!
「縁理流格闘術、『重力崩蹴』!!」
突き出される拳の手の甲に乗る! いや全体重+『気』による強化+ジャイロパワーをこめたシッポの反動を両足に集めて踏みつける!!
回転する物体は、その向きを保ち続けようとするが、回転軸方向への移動は妨げられない
故に弾かれない拳となる。これが、『歯車拳』の原理
軸の片方だけを保持したまま水平に回転する地球ゴマ。実際は水平方向にゆっくりと旋回している。
これは縦方向に力がかかっているから、高速回転するジャイロは掛けられた力に対して直角方向に挙動する。これがジャイロ効果!(※4)
ぐいんっ!! ドガァッ!
ガシュザンの身体が腕を中心に横方向へ振られる・・・そしてコーナーの氷壁に激突する!
進行方向に背を向けていたのが災いした、転倒し視界の後方に消えてゆく・・・
「帝王まさかのクラッシュ!!
『歯車拳』破られる~~っ!」
「M・B選手としては『帝王』だったかもしれないけど、ジャイロの扱いならまだアタシの方が慣れていた。それだけだよっ」
さぁ、急いで先頭集団へ追いつかないと・・・
拙い作品をお読みいただきありがとうございます
モータル・ボール 始りました。
自分の倍以上ある巨漢が高速でかっとぶ戦場です。
多分怖いだろーな・・・
最近のおーちゃんはシッポに頼り過ぎてる傾向があるなー、スキル使えよって思うかもしれませんが、戦闘系スキルって基本魔物MOB向けで対人ノンリーサルにはあまり向かない。
余談では有りますが、巨人族の場合、男の子の場合、強く育つようにと名前に濁音が入ります。女の子には入りません。
風習的なもので絶対ではないのですけど、この法則から外れると『らしくない』ってからかわれる事もあるとか。
種族が違うのに風習や常識が同じになるなんて有り得ないと思ってたりする
【解説】
(※1)スタートから50mの間は攻撃禁止 : ちなみに50m地点にはボールが置いてある(厳密には吊るしてある)
このルールはスタートライン付近の密集時に乱闘が起こると、巻き込まれず加速できた者との差が付き過ぎてゲームの面白みが減るため。
バトルは加速に乗ってから
(※2)前輪だけ急ブレーキしたバイクのように : バイク芸の1つにジャックナイフってのがある。前輪急ブレーキで後輪を持ち上げる技らしいけど、今回のは急ブレーキでは済まない。
ただ打ち付けるだけならそのまま滑走し続ける事も可能だけど、先端切っ先まで氷に突き刺してしまったらほぼ急停止だ。むしろ棒高跳びに近い
(※3)構造の都合で回転半径があまり取れない : ジャイロの直径を増やせば尻尾が太くなる。そうすると複数連結した場合互いに干渉してシッポを曲げる事が難しくなる。
何より可愛くない! 手首くらいの太さは妥協点の結果
(※4)これがジャイロ効果! : ロール回転するジャイロにピッチ方向の角度変化を加えるとヨー方向に駆動力が発生する。
ちなみに回転方向が逆だと発生する力の向きは逆になる、Auto-Tailは10個のフライホイールを組み合わせる事で機動力を得ている
ブックマーク、評価、とかはあまり気にしてませんが (あると嬉しいのは事実だけど)
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『メタもベタも極めてみせるよっ!』