10章-04 デカさは強さ?だよっ
権力者ってのはヒマになると大抵は余興に凝るようになるものらしい
たとえ平和で大した問題もおこってない国のフレンドリーで善良な王であったとしても、その嗜好は変わらないらしい
なまじ人望があるだけに、周りも特に咎めたり反対したりしないで乗ってしまう分、なおさらだったりする
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「儂は強い者が好きじゃ」
「わかってましてよ」
「あの冒険者たち、2名の非戦闘要員を除いても、なんか不安が残る」
言ってくれるなー、聞こえてるよっ聴力強化使うまでも無く
「あら、思いの他猛者ぞろいなんじゃない?魔法使いに関しては
王都タウラ魔道トーナメントの前年度の優勝者と本年度の優勝者・・・」
あわわわ、姿違うぞー、そんな人はしりませんっ
王妃は歩み寄ると腰を屈めて(身長差の都合)小声でつぶやいた
「精霊はウソをつけない、そして精霊にウソはつけないのよ」
王妃はそのまま国王の隣へと歩いていった
むー、精霊使い怖いなー
精霊的なジャミングは、今後の大課題かもしれない(※1)
「魔法か・・・儂は戦う為には肉体面こそが大切だと思うのじゃが」
「ホントあなたってば頭の中まで筋肉なんだから
・・・私まで否定するってこと?」(※2)
「いや、そーいう訳では・・・」
腰に手を回したり顎をさすったり、これ完全にイチャついてるぞー
熟年バカップル、元喪女にはきつい、幼女には教育上良くない、どっちかって? 両方だよっ
・・・目の前にいるのが王族でなかったら即この場を退場するぞー
「きゅっ・・・きゅぅぅ・・・」
マー君なんか耳を押さえて後ろ向いちゃってる、清いね
夫婦喧嘩は犬も食わない、もちろんネコもタヌキも
キツネは良く分かってないようだけど
大人3名は微動だにしないで待機
「おーさまァ、納入完了しましたァ」
極めて口出しの難しいこの状況を動かしたのは、完全な第三者の声
城の裏手から出てきたようだ
「おー、蔵元のバムトンか、こっちへこい!」
国王が先ほどの声の主を呼びつけた
「へい、何か追加でもあるんですかい?」
「いまからこの庭で試合しとくれんか」
ぬっと現れた声の主は、国王より巨体の持ち主、4mを越える丸っこいシルエット
縦にも横にも巨大、ほぼ球体に手足の付いているような大男だった
超巨漢にニット帽、酒焼けっぽい赤ら顔だが目は優しい
「余興ですかい、王様」
「紹介しよう、元・近衛兵筆頭のバムトンだ。『鉄拳のバムトン』と恐れられていた闘士だった」
「へぇ、今は引退して酒作っとります」
元兵士の酒匠かぁ、ジャイアントは拘る職人気質だからいいものができるんだろーな
「へぇ、ヴァンドールウィスキーとか?」
「お嬢ちゃん、小さいのに詳しいじゃねぇか、そいつのベースになってるモルトがオラが作っとるヴァーレルウィスキーなんだぜ」
身長差が3倍以上違うのを気遣って腰をかがめて話しかけてくる気のいいおっちゃん
惜しむらくはその全身から漂うアルコール臭・・・まー酒匠なんだから仕方ないのかな
「バムトン、試合の相手はその娘だ」
「へぇ?」
「戦の時、真っ先に狙われるのは一番弱い者・・・年端の行かない女子供や新参兵、そこから突き崩していくのが兵法の基本
だから集団の実力を見極めるなら、最も小さき者で測るのだ」
王サマの言い分はもっともだ、対集団戦でウィークポイントを突くというのは基本中の基本だぁね。
ただ、アタシは見た目と中身が一致しないからねー
「おーさま、それはないんでないかい? いくらなんでも生まれたての赤子程度の大きさしかない子供を相手にしろだなんて」
むー、新生児ですかー・・・確かに大体人間の2倍サイズのジャイアントなら、生まれたてでも20~25kgはある計算になるよねー、アタシの体重は今30kgでそのうちシッポだけで6kg
間違ってはいない、間違ってはいないんだけど・・・
「国王が納得してくれるってんならアタシはそれでいいよっ」
むー、なんか事有る毎に試されてばっかだにゃあ
カミサマの悪意を感じるぞ
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「オラはこれでいい」
バムトンは、ロープを取り出すと拳にギリリと巻きつけた(※3)
さて、アタシはどーしよっか
実は、アタシは鈍器の扱いが比較的苦手、一応マスターランクではあるんだけど、ほとんど使ってない、理由はたった一つ『シュミに合わない』 それだけ
でも防具すら着けていない相手を剣で切り裂くのもねぇ・・・王様の目の前で血生臭いことになっちゃうのは避けたい、刃物は避けよう
う~ん、そだ! イフリート戦で使ったあの武器で行こう
手首から指へ向けて青く光るラインの走る金属手袋、縁理流格闘術に特化した格闘戦用武器
『帝王の拳』コイツなら刃も付いていない
それに、相手の得意分野で真っ向勝負して見せれば実力のアピールにもなる
現役の近衛兵さんが冒険者を相手したなら国家としてのプライドとかもあるだろうけど、現役引退した「元」な人ならその辺りのしがらみも少ないんでしょうね
肩をほぐすかのように軽いシャドウのジャブを放つおっちゃん
・・・んっ、パンチ速い
0.5秒、リーチ2m・・・秒速4mすなわち時速144kmのパンチ、あくまで概算、しかも速度重視のシャドウ(素振り)だからの速度なんだろうけど鋭い、重量を考慮して計算すれば純粋な破壊力は人間の約30倍くらい?(※4)
こりゃ直撃したらヤバいなんてもんじゃないなー
やっぱ『重さは強さ』? バトル○ックぢゃあるまいし・・・
なら強さって何? ゲームならレベルとかパラメータ、でもこの世界はそんな単純なもんじゃない
アタシは実感している「RPGの世界では、努力と経験は絶対に裏切らない」と言う事
地球の「ファンタジーではない世界」との一番の違いがこれ。
― 報われない努力は無い ―
約500年に相当するこことは別世界の経験、プラス、大量の多種多彩に渡る異世界作品の知識ならびに没入による仮想体験
全てが今のアタシの力になっている!
「準備はよろしくて? 始め!」
王妃が開始の号令をかけた
あまり時間を掛けてたら、この後に控える依頼とかの分の時間が減っちゃう気がする
武人は一番槍を誉れとするもんだし、先手を取るよっ
縁理流格闘術、壱の拳『雷走撃』
フェイントを交えたジグザグのステップ、本来回避動作であるウィービングがそのままパンチの溜めになっていて漕ぎ続けて速度を上げていくブランコのようにパワーを累積させていく攻防一体型の一閃(※5)
スイカサイズの巨大拳のジャブをかいくぐり、巨体にボティフックが打ち込まれる
「ここから、コンボにつなげ・・・」
・・・・・・られなかった。
『壱の拳』から繋がる『弐の拳』のほとんどは宙に舞い上がり相手の頭部を狙う技がほとんど
今目の前には、高く丸く聳え立つ腹肉のオーバーハング、頭部なんて見えやしない
「んん~、いいパンチだ。だけど小さすぎて中まで届いてないねえ」
Σ( ̄□ ̄;) 拳法家殺し?!
バムトンおじさんの巨大な手が上から伸びてくる
「こーんなミミしてても所詮子供なんだよなぁ、ちったぁ大きくなってからがいいんでない?」
・・・! 触られた
チビは言われ慣れた、発育はこれからだからいい、でもアタシのポリシーであるこのミミを愚弄するのだけは許せないッ、
『この耳に触れるもの皆地獄行き』
勝手に酒臭い手で触るなっ、このフーセン玉オヤジ
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「オラも出し惜しみしないだぁよ」
ドォンッ!!
踏み込んだ足が地面を打つ、震脚? それは大抵が打撃技に体重を乗せるためのもの
勢い良く踏みしめる事で実際の体重以上の重みを乗せる事ができるのだ(※6)
こんな技喰らうわけには行かない、回避のサイドステップを行おうとした際、異変に気付いた。
『足の力が地面に伝わらない?!』
現在試合場となっている王宮前の庭は、踏み固められた雪の大地
その雪が急に緩く半ば液状化している!
「緊急回避、フェリシアステップ」
足での機動力を封じられても、アタシにはまだこのシッポがある
全体重の2割を超える重量、これを振る事でほんの身体1つ分ではあるが、瞬時に平行移動できる。ジャイロ・タービンはまだ起動してないからその移動距離は1mもないけど
ボッ!!
先程まで立っていた地点にほぼ垂直な一撃が降って来た。弧を描いて打ち下ろされるハンマーのような一撃
「オラの必殺コンビネーションを避けるとはたいしたもんだ」
踏み込んだ衝撃で相手の足元の雪を液状化させて動きを止め、最も体重の乗る垂直に叩きつけられる拳を叩き込む
これの直撃を喰らったらKO間違いないだろうしガードしても雪の中に杭のように打ち込まれてしまう
「オラの必殺メリコームパンチは、1発で白熊すら半分埋まる、2発で生き埋めだぁ」
はわわ、ネーミングセンスが・・・(¬▽¬; いちおー赤いけどさー(※7)
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ズドォンッ!! ボッ!
ズドォンッ!! ボッ!
連発される必殺コンビネーション、もちろん当たったらオシマイなんでひたすら回避
せめてもの救いは技発動から効果への間にわずかながらタイムラグがあるって所
「足ズドン」から地面液状化の間と、液状化からパンチが降ってくるまでの間にわずかながら間がある
「うむ、いい動きだな」
王様ご満悦で観戦
こっちは一瞬の気も抜けない状態だよっ
デカくて長い攻撃は、その分フォロースルー含めて技後の隙も長くなる
「瞬突拳っ!」
シュドンッ! ・・・ばるるんっ
踏み固めてあるとはいえ、雪の上はダッシュ力半減
腹肉を大きく波打たせるだけだった
「これはなかなか、ちこっと効いたがや
これなら兵士連中にも通用するんでないかい」
むー、ダメだー、打つ手がないー
拳法家殺しはズルイよーっ(※8) ∠(≧△≦)ゝなー
仮に殺意もって渾身の抜き手を突き刺したとしても、大したダメージにはなりそうに無い
肩が当たるまでブチ込んでも脂肪層に穴を開けるだけだよっ
向こうにしてみれば、ちょっと大き目のトゲが刺さった程度
一応御前試合なんだし、突き刺してそのまま切り裂くわけにも行かないよねぇ
・・・ん?御前試合? ならあの手があるじゃないの
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「そこは深雪だぁ、動きが取れまいっ」
わかってるよっ、・・・足で走るならね
AutoTailのタービンを起動する
「雪ン中埋まって、アタマ冷やすだぁっ」
ハンマーパンチがまだ柔らかい雪につきこまれ激しく舞い上がる
――そしてアタシは
舞い上がった雪煙に隠れ、一気に間合いを詰める
右手を真下から大きく伸ばしたまま1回転半の円を描く、これがインテーク
気で描かれた円から渦を巻くように大気の流れが収束してゆく
その集まった気を左の掌底が一塊に圧縮し、ひねりを加えながら打ち込まれる
狙うは1点、最初の『雷走撃』でできた、小さな服の裂け目
「裏奥義、命爆蜂撃・改ぉっ!!」(※9)
この後の事を考慮してバックステップで間合いを開け、後ろを向く
「おわわぁっ、なんじゃあ!」
ほぼ球体のバムトンの太鼓腹が激しく振動したかと思うと
ぶわぁっ!!
さらに巨大に膨れ上がりそして
ボンッッ!!
大音響とともに爆ぜた
・・・・・・服だけ
拙い作品をお読みいただきありがとうございます
最後の最後で中年おっちゃんのハダカ・・・すみません
圧搾空気打ち込んだのはあくまで服の中、『ひでぶ』してないからね
俗に言う『御不浄負け』
出来るだけ相手を傷つけない方向で闘わねばならない「試合」は、自重の加減が難しい
デカいとそれだけで強い? 概ねそう、他の条件が同じなら大きいほうが有利なのは揺るがない
これは時代が進んで「銃の時代」になるまでは続いていく事でしょう
余談だけどバムトンさんパンチ速度速すぎ、実際はもう少し遅くていいと思った。
今は巨体過ぎて機動力ないけど、現役当時はどれだけ強かったのだろう
あ、それくらいでないと近衛兵筆頭にはなれないか・・・
【解説】
(※1)精霊的なジャミングは、今後の大課題かもしれない :実はおーちゃんに精霊使いの素質は無い。理由は|元居た世界《MMORPG「MAGI」》には精霊使いの概念が無かったから
ただし精霊を利用したスキルが無いわけではない、その辺りは追々描写していく事になるのでお待ちください
(※2)私まで否定するってこと? :元々巨人族の場合、魔法の普及が人間より進んでいない。
言い換えるなら精霊術や魔術の使い手は、少数派として軽んじられる傾向にあると言う事
反面、建築や工業技術に注力している種族
(※3)ロープを取り出すと拳にギリリと巻きつけた :多分納入に用いた墫を固定してたロープ、ボクサーのバンテージのようなもの
(※4)重量を考慮して計算すれば純粋な破壊力は人間の約30倍くらい? :この場合は誤差を含めた概算で考えてる。これ厳密には運動量の計算値、重量8倍、速度3~4倍としての大雑把な計算、厳密な計算してもいいんだけど、ここでは意味がないので・・・
運動エネルギーで考えると重量(質量)は2乗しないといけない事になるのでもっと大きな値となる
(※5)攻防一体型の一閃 :変形デンプシーロール。相手の一瞬の虚を突く一直線突進型の『瞬突拳』との2択が縁理流格闘術の主軸となる。
ちなみにコンボ始動技。壱の拳は他にもあるので攻めが単調化することはない
(※6)実際の体重以上の重みを乗せる事ができるのだ :慣性の法則を応用した拳法の基本、体重を瞬間的に増やす事なんてのは、誰でも簡単にできる。体重計の上で、一瞬腰を落とし即座に踏ん張ってみれば体験できる
技術を要するのは、その一瞬だけ増えた体重をうまく拳や蹴りに乗せ伝える部分であり、その部分こそが「拳法」の技
そして、巨人族の達人なら大地に衝撃波を流す事も出来たりする
(※7)いちおー赤いけどさー :『メリコー○パンチ』といえば、全身真っ赤な巨大ロボット(2作目)の技の1つ、バムトンさんは赤ら顔してるけどロボットじゃないし、ロボットのように手の甲から刃が出たりもしない。
余談だけど、パンチというのは人間の手の構造上、手首-拳間の手の骨が垂直に当てられた場合は比較的耐久力が有るという理由で用いられている。(他には掌低など)
ロボットのマニピュレータが指の付け根の関節を打撃に使用するメリットまったくない。
ぶっちゃけ、ロボットがパンチするのはロマン以外の何者ではないと言う事・・・
(※8)拳法家殺しはズルイよーっ :誰もが思いつく事は「腹じゃなくて頭狙えば?」
跳び上がってもせいぜい3m(リアル世界記録が2.45m)、頭は4mの位置にある。
仮に4m跳べたとしてもジャンプ頂点付近はほぼ静止状態・・・叩き落とされるのが目に見えてる
当然のことだけど飛行してるところを第三者に見せる訳にはいかない
(※9)命爆蜂撃・改 :縁理流格闘術の禁じ手、傷口や開口部を狙い、大気を圧縮して発勁と共に打ち込む、対象は爆ぜる!(オイ)
原理的にはワスプナイフ(圧搾ガスで内部破壊を行うナイフ)そのまんま
動作原理は気の力を併用して無理やり再現したターボジェットエンジンもどき、最初の回した右手が空気吸入&圧縮、左の掌底が二次圧縮&爆発
本来対人戦に気安く使ってよい技ではない
今回「改」と付いているのは、服の裂け目を狙い服だけを爆ぜさせるように『やさしく』放っているとの事での命名
実戦で人間に放ったらR-15どころかR-18Gになってしまう
絶対禁じ手、やったら「ひでぶ」確定
全力で戦わせちゃったら一方的になりすぎて、世の『俺Tueee!』になってしまうので自ら枷をはめる・・・ある意味「あえて進む茨の道」
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『メタもベタも極めてみせるよっ!』