8章-09 帰ろ帰ろ お家へ帰ろうだよっ
やっちゃったよっ、戦っている中で最も油断の発生する時・・・そう
『勝利を確信したとき』
あらかじめ仕込んでおいた作戦、隠れて磨き続けていた切り札の必殺技、会心の一撃
決まった瞬間の爽快感、A-10神経系からドーパミンがほとばしる
・・・その後の事まで頭がまわらなくなってた、不覚っ!
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まさか自分で砕いたゴーレムの破片に埋もれてしまうとは・・・
バラバラと降り注いでいる間なら動けたけど、山となって動きを止めてしまうと掻き分けようにも動けないね、それなりに隙間があるから窒息はしないけど、こーなっちゃうと事実上お手上げ
雪崩にあった時は、「まだ流されてて雪が動いているうちに上へ向かって泳ぐように進むべし」なんてサバイバル方法をどこかで見たことがある
動きが止まるとそのまま生き埋めなんだそうな
動いてる間は起こっている液状化現象が静止と同時に収まって固まっちゃう
たーすーけーてー
脱出用の爆裂系スキルもリミッター解除で力技で抜け出すのもやりたくないー
少なくとも身内以外の目があるところでは、アタシはか弱いオンナノコー
いや屈強な男子だって、この状況からは抜け出せまい
ほぼ垂直に高く上げていた右手の指先だけはかろうじて外に出ているらしいので
ぴこぴこ動かしてここにいるよアピール
時としてポリシーは退けられる苦痛を甘んじて受けることもあるのだよっ
ざっく、ざっく、
宝石の山、掘られてる
がしっ、ぐいいっ、ずぼぉっ
手がつかまれて引っ張り上げられる、ちょっちおめめキラキラ
だってさ、コレって宝石風呂だよー
ほら、成金的表現の1つに札束とか金貨とかで満たしたバスタブにはいるって絵柄があるじゃない
お風呂どころか、全身宝石に埋もれるなんて体験、そーそーあるもんじゃないよっ
「これだけあったらひと財産だよっ、指輪とかネックレス、ブローチ・・・アクセサリとかいくらでも作れそう」
今まで生きて来て、アクセや宝石にあまり縁の無い人生だっただけに発想が貧困なのはご容赦願いたい・・・
「おじょーちゃん、テンション上がってるところをわるいんだげども、この石は宝石なんかじゃあねーんだがや」
ドワーフ二人がハモりながら突っ込む
これ・・・宝石じゃない?
「うん、厳密に調べたわけじゃないけど、十中八九これはルビーとかじゃないよ」
ハーフリングのダメ押し、細かい説明は老エルフが引き継ぐ
「一度は使った事があるはずだよ。熱気球を使ったのだったら」
え? この赤い石って・・・まさか・・・
「フレームジュエル、燃料だよ」
・・・え゛? ひょっとしてアタシ、エネルギー鉱石殴ってたの?
ジャガイモ程度で大型熱気球を飛ばすだけの熱量を発生させる石
もし、こいつの全身がエネルギー化反応していたら、この山の半分以上消し飛ぶぞ
熱線レーザーの火力も、その辺りを考慮すると、控えめどころか微々たる物だったんだね
もちろん、そんな危険なもの装身具に加工したくは無い。
「表情から思ってることは大体わかる。でも心配は要らない、
フレームジュエルはウィル鉱石触媒以外では点火できんのだから」
へー、いちおー安全面に問題はないのかー
技術的な詳しい事は、ミッション終わった後に教わっておこう
「しっかしまー、めンづらしい事もあるもんだ」
「ふづーは火口付近や麓の冷えた溶岩の中から掘り出すもんだがや」
「掘り出す手間が省けたっちゅーもんだがや」
とりあえず持って帰れるだけ持って帰ろうという話で落ち着いた
銘々が鞄や収納袋にフレイムジュエルの欠片を詰め込んでいく
「Call サムソナイト! ツーリスタ! トゥミ! リモワ!」(※1)
アタシもインベントリ容量の大きい荷運び用召喚獣を呼び出して、手足とかの大き目の破片をメインに収納
『大は小を兼ねる』だかんね
4頭分のインベントリを使ってなんとかフレームジュエル原石を収めたよっ
厳密には他の面々が仕舞いきれなかった分をかき集めたんだけどね
これで、もったいないオバケに呪われる事はなさそうだよっ
「とりあえず目の前の障害物は取り除けたんだし、ベースまで帰還した方がいいな」
ヴィン氏が髭をいじりながら、照れくさそうに言った
「・・・助かったよ、君達が来なかったらずっと洞窟の中で過ごす事になってた」
「こちらとしても、無事に帰還するまでがクエストだ、出発しよう」
鎧さんの一言で帰路へ向かう2パーティ
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帰り道はたいした魔物も出現せず、順調に進んでいった
「そーいや、この辺りって黒豹の生息地じゃなかったっけ?」
「その辺りは多分問題ないんじゃねぇか?
そちらに向かう時に群れ1つをほぼ壊滅させたから」
「なら新たに群れが完成するまで数日は掛かるんじゃないかな」
そろそろ夕方だけど、アタシのMAPに集結するMOBの動きは表示されなかった。
行きとほぼ同じ高台にて野営の準備
強敵はクリアリング済みとはいえ、油断もムリも禁物! ベースキャンプまでは目と鼻の先というあたりまで戻ってきたけど、ここは強行なんかしたりしない
今日は早めに休みたいから夕食に時間の掛かる煮込み系は作らない
お手軽にささっと食べれるもの・・・そーいやまだキンペーが残ってた
スライスして塩もみして保存してある・・・もっともアタシのインベントリ内で鮮度は落ちない
昨日の晩にタツアンが大見得切っちゃってくれたから、キンペー焼きでも味わってもらおうかなーってね
濃厚ソースもマヨネーズも宴会時に作ったのが残っている
手間の掛かるところがクリア済みなんで準備は簡単、ちゃちゃっと生地その他を用意しちゃうと焼き始める。
具材ぽいぽい、生地追加・・・くるりんっとひっくりかえして・・・でっきあがりっ
「これが、昨日言ってたキンペー焼きだよっ」(※2)
身を乗り出す調査隊メンバーに大皿を渡す、ソース・マヨ・カツオブシはかけてある
初めはおそるおそるだった調査隊面々であったが、1個口にした後は我先にとむさぼり始める
「づぉ、なんだこれ、んめぇ」
「うわさに聞く海の悪魔が、こんなにも美味とは知りませんでいた」
「あぢぢ・・・」
「くはっ、エールが欲しくなる」
「仕事中は飲まねえって決めるんじゃなかった」
説明しようかと思ったけど聞いちゃいない
「タヌ子、追加分焼くのは任せた」
さて、自パーティの分を・・・と思ったら既に焼き始めてた。
鎧さん、タコヤキ用鉄板持ってきてたんだ
「おーちゃん、やっぱこれ売れるんじゃない?」
「マミの悪巧みには普段賛同しないけど、これは帰ったら広めたい。
個人的にはもう少し大きい方が食べやすい」
「焼くのにゃ少々コツがいるけど、慣れてしまえば比較的カンタンだしな」
マミさん鎧さん、ついでにタツアンまでもなんだかなー
アタシにタコヤキで事業展開させたいのかいな
「まー、多くの人に食べさせたいって意見と受け取っとくよっ
・・・でも実行するには問題点があるよ、タヌ子!わかるよね?」
タヌ子に振る。抜き打ちテストみたいなもんだよっ
意地悪ではない、この先アタシの弟子として一緒に暮らすのなら
「えっと・・・えっとぉ・・・あっ、あ・・・・
白い卵のソースは公開したけど
メインの黒い秘伝ソースは、まだ未公開なのですぅ」
タヌ子、正解! 機密情報の把握は必須だからねっ
いろいろ世界観破壊なレシピとか教えちゃってるからね
料理無双テンプレ展開、別名『食文化侵食』は極力避けたい
「そこは提携した料理店へ特製ソースを卸し販売するって事で・・・」
フランチャイズ展開かよっ、マミさん食いつくね~
この人の儲け話への執着は、趣味煩悩の次にハンパない・・・
「きゅ・・・あのぉ・・・キンペーの肉って定期的に獲れるものなのですか?」
「「「「!」」」」
そーいやそーだ
そもそもコスト的に割に合わなさ過ぎ。あんな死闘もうやりたくない
そもそも今保存してある足(※3)だって、ウチの『F-15 ストライク』ちゃんが拾って来なかったら入手出来てなかったのだしね
食事を終えたら早めに就寝、今日は夜空の散歩には行かないよっ
毛布に包まって雑念に身を任せる
お散歩してタコヤキ食べて、寄り道して親子丼・・・なんてね
そーいや親子丼も近いうちに作りたいなー、卵もトリも普通にあるし、醤油も入手済み、出汁はこの旅路で複数入手したし・・・
あー、熱気球、今度こそ乗りたいなー
ぐだぐだ考えてるうちにまどろみ始めた・・・
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朝になり出発、黒豹はいないし、トカゲやサソリはこの人数なら脅威にならない
・・・で、たいした苦労もなく一行は崖の頂上まで戻ってくる
「問題はここからなんだよなァ」
タツアンは軽く肩を回すと小さな岩山に掛けておいた布カバーを外す
気嚢だけ畳んだ大型熱気球、異常が無いかチェックに入る
「ほぅ、熱気球の用意があったのか」
「熱気球なら任せろ、地元なめんながや」
「扱いなれてるからな、本土にはまだ無いんだろ」
この地ならではの交通手段かもね、新天地ラズハで生まれ実用化した気球が本土の方へ輸出されていく、自力で出せる速度はほとんど有って無いようなものだけど上手く風を捕らえればそれなりに速く飛べる。何より障害物一切無視の空中直線コースが取れる事が一番大きい。
問題があるとすれば、燃料となるフレームジュエルがこの地でしか採れない事かな(※4)
点検完了して、気嚢を膨らまし始める熱気球
浮上するにはまだまだ早い時期にゴンドラに乗り込んでおく
だって、だってさ・・・行きは一人だけ乗れなかったんだもん
こーゆーのって何事も経験だよね? 例え自分が召喚獣で飛行経験があるとしても
自力で飛行が可能だったとしても、それはそれ、熱気球に乗った事なんて一度も無かったからね
「お譲ちゃん、乗りたくってしょうがないって顔だな」
「むー、行きは乗れなかったんだから帰りくらい乗りたいよっ、熱気球」
「行き?・・・」
こちら側の来るまでの行程は知らないヴィンさん
ワイバーンも寄って来ないし(※5)、ここさえ降りればあとはベースキャンプまで目と鼻の先
さぁ、帰ろう
拙い作品をお読みいただきありがとうございます
飛行機は乗ったことあるけど、気球の搭乗経験は無い作者です
人間ってのは罪深いもんで、本来自分に出来ない事でも道具等で無理やりに補って実施してしまう
地上最速の獣を超える速度で地を駆け、光届かぬ海の底まで潜り、翼を持たないくせに空へも手を伸ばす、生物として内装スペックではなく道具という外部パーツを進化させてきた特殊な生き物
どこぞで、元から生物としてのスペックが高く、空も飛べて力も強い何でも出来てしまうような種族は
特に工夫する必要が無い為、科学や文化が発展しないと聞いたことがあります
冒険者に限らず、人々のスペックが異様に高い、低くても上げられるのがRPG系ファンタジー世界
だから中世モドキでなかなか進歩しない? ンなバカな・・・
例え人間が飛べたとしても、欲張ってもっと速く、もっと高みへと工夫し続けるような気がします
歩けるけれど走れるけれど乗り物は作ってますからね
「オレ、船乗りなんだけど・・・泳げないんだ、実は」
「心配ない、私もパイロットだけど空飛べない」
・・・なんて古典的なネタを・・・
おーちゃんは自力で飛行可能ですが、代償が特殊なので出来るだけ生身では飛びたくない派
※フェアリィ・ウィングはマナでもスタミナでもなく、メンタルのエネルギーで飛行する。
しかもメンタルのエネルギーはパラメータとして数値計測されないので管理が難しいのです
【解説】
(※1)サムソナイト! ツーリスタ! トゥミ! リモワ!:召喚獣の名前、インベントリ容量の多い大型犬。
ちなみに名前の由来はどれも有名な旅行鞄ブランド
(※2)キンペー焼きだよっ:よーするにタコヤキ、正式名称は「キンペー仕返しに食ってやる焼き」
(※3)今保存してある足:正確には『腕』なのです、イカ足は『ゲソ』って言うけどタコだとなんて言うのかな? 教えて詳しい人
(※4)問題があるとすれば、燃料となるフレームジュエルがこの地でしか採れない事かな:法的管理の事についてはあえて何も言わない。
だってさ、道交法もないのに航空法ができるわけないじゃん
(※5)ワイバーンも寄って来ないし: そりゃ行きにドラゴンで脅してあるからね、でもワイバーンのトラウマのシンボルが気球に描かれたマーク・・・パンツのワンポイントマークであった事が判明するのはしばし先のお話
ブックマーク、評価、とかはあまり気にしてませんが (あると嬉しいのは事実だけど)
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『メタもベタも極めてみせるよっ!』