8章-08 猿狩りと狂った尻尾だよっ
大雑把で奇跡の起こりやすいファンタジー世界なんて、ニュートン力学で、しかも近似値で十分っ
それでもかなり未来の技術なんだよね(ニュートンさんは17世紀の人です)
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ゴガッ、ガララララ・・・
アタシが単身近づくと、無造作に積みあがった赤い岩が動き出す
今回の作戦でのアタシの役割は『囮』
マー君とマミさんが防御系魔法をかけてくれてはあるんだけど、あの巨体に殴られたら多分気休めにしかならない気がする、もちろん全力で回避するけど保険になるといいな
「まずは注意を引かないとね」
組みあがっていくジュエル・ゴーレム
アタシは気合を溜める、手には鉄球のようなヘビーナックル
どーせ刃物は通用しない、威力はともかく重い衝撃の出せる武器をセレクト
ズシン、ズシン、ズシン・・・
変形合体を完了した宝石巨人はアタシの方へと歩を進めてくる
もう少し・・・あと少しで間合いに入る
ズシン、ズシン・・・
- スキル発動、縁理流格闘術、壱の拳『収束拳』 -
圧縮・収束された気を爆発させて一直線に加速する
前に使った『瞬突拳』に近いけど、こちらは溜めた分威力が上がる
反面、速射性はないけど
すっごぅんっっ!!
鉄の拳は巨人の踝を強打する・・・踏み出して着地する寸前の足が弾かれて振り子のように跳ね上がる
ぐらあぁっ・・・ズ・・・ズゥゥン・・・
巨体が砂塵を上げて転倒する。着地寸前の足を払われたら二足歩行であるかぎり転倒は免れない
巻き込まれないように急いで離脱
歪んでしまったヘビーナックルはインベントリへ収納(※1)重いからね
グギュゥゥゥン・・・
巨大ロボ特有の動作音を響かせて起き上がる巨人、こいつにどの程度の知性があるのかは分からないけど、すっ転ばされて無関心でいられるはずがなかろうて
巨大兵器(?)のプライドへし折ったわけだしぃ
「おいでっ、おいでっ、こっちだよっ!」
ぴょんぴょんと、岩から岩へ跳ねるように移動する、要はかく乱、これも作戦のうち
アタシがこうしてジュエル・ゴーレムの目を引き付けている間に火口周囲の山へと登り、攻撃の準備を進めるって寸法
ごぅん・・・キュィィィィィ・・・
足を止めた?! この音は・・・くるっ!
岩から岩への八双跳びを中止し比較的平らな地面へと着地、地面へ手を伸ばす
「土遁・履鬼威!(※2)」
大地の一部がめくれ上がり壁を形成する。本来なら立ち上がった壁はそのまま前方に倒れこみ打撃を与えるスキルなのだが今回は垂直のまま維持して盾とする
ジュアッ!!
掃射される熱線が地を走り薙ぎ払われる。着弾ラインは分断されアタシの左右後方の地面に湯気を立てる!鉱物臭い蒸気が辺りに立ちこめる
耐熱性が高く熱伝導率の低い火山岩、熱光線の貫通は遅い
厚さがそれなりにあるので固定照準による1点集中照射ならともかく掃射なら十分に防ぎきれる
予測通り連射は利かないようだ。
複数いて乱戦状態ならまだしも、相手がこいつ1体だけなら十分捌ききれる
身を守るだけならば、さほど大きな脅威ではない
撹乱&誘導、なんとかなりそうだねっ
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一方、山の上では落石を起こす準備が着々と進められていた
ジュエルゴーレムには、2名の監視、いや精密観測が張り付いている
地上側には測量士であるサベイア、山の上側にはレンジャーのパック
実はこの2名が作戦の要なのだよっ
落下予定地点の整地ならびにマーキングも平行して行う
突貫工事
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「おっと、そこはトラップだじぇいっ!」
どぉんっ!
踏み込んだ足元がいきなり爆発、バランスを崩したたらを踏む巨人
「もーいっちょ、火遁・暴龍牙痕!(※3)」
符をつなげた投げ苦無、足下に並んで突き刺さる
どどどどぉんっ!
ずぅぅんっ!
バランスを崩した所に追い討ち、地響きを立てて転倒
この御札は一定範囲内に動きを感知すると爆発する、ぶっちゃけ地雷
地雷のように設置型トラップとして使用することが多いが、今回のように相手の足元に投擲して吹き飛ばすという使い方もある。
ダメージはあまり期待できないけど、誘導と煽りとしてなら十分
アタシは追いかけっこを続けながら歩いてくる巨人をひたすら転ばしまくった
「だいぶ時間も稼いだし、そろそろかな」
実はこの行為にはもう1つ狙いがある
問題はコイツにどれだけの学習能力があるかだ
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「この作戦で最も重要な事は、動き回るゴーレムに確実に落石を当てる事です」
「確かに止まって待っててくれる訳ないからな」
「では、簡単な実験をお見せしましょう」
鎧さんが立ち上がって片手をあげる、手には小さなマスコット人形
アタシは少し離れて地面に玩具の弓をセットする、
木切れで作った角度を固定する保持具がくくりつけてあるので固定照準になっている
「あ~っあたしのリーザちゃんマスコットぉ!」
「オイラの弓ぃ!」
そばうどんコンビが声を上げるが、実験を敢行する
「この弓は玩具なので大して飛びません、向きはぬいぐるみに向けられてます
普通弓は落下する分等を加味して少し上を狙いますが、ここでは“正確に”狙いを合わせてあります」
食い入るように実験装置に注がれる視線
「それじゃ絶対に当たんねぇがや」
「では実験スタート、3,2,1、GO!」
アタシは適当に引いた弓を放ち
同時に鎧さんはぬいぐるみから手を離した
ひゅ~~~~っ、ぽふっ
山なりの軌道を描いた玩具の矢は、自由落下するぬいぐるみに当たって弾き飛ばした
玩具の矢なので刺さったりはしない
「「当たった!」」
「最初につけた狙いが正しい限り、矢の放たれる強さはどの程度だとしても必ず当たるのです」
「ンなバカな、俺がやってみる」
サダかカルかどっちかわからないけど、ドワーフの一人が弓を引く
「3,2,1、GO!」
ひゅんっ、ぽふっ!
「当たったがや!!」
実はこれ『モンキーハンティング(※4)』という 高校物理の演習問題として有名な現象
木の上にサルがいて地上に狩人が居る状態で
矢を『射るとと同時』に猿が木から落ちた場合、最初の照準・発射角度が猿に正確に向いていたら矢の速度は速かろうが遅かろうが『必ず当たる』という物理現象
「この実験では、上の方に獲物、下から矢で狙いましたけど・・こう考える事もできる
上から落ちてくるのが岩、下から飛び込んでくるのがゴーレム、ゴーレムのスピードがどの程度だったとしても、タイミングと最初の向きが合っていたなら必ず当たると」
入れ替わり立ち代り実験を繰り返し、何度も確かめる面々・・・
「はぅっ、何度も地面に落っことされて・・・」
「シショーはホンモノもってるじゃんかよー」
・・・空気よめ、そばうどんペア
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だいぶ巨人を誘導できた・・・火口の端、切り立った崖のふもと
自然な落石等で岩のゴロゴロしている場所だけど、点々と平らな部分も見える
地雷トラップにハメまくったせいで、巨人の足取りはかなり慎重になって来ている。
正確な誘導をする為にはある程度速度を落とさせる必要があるもんね
岩雪崩を発生させられるポイントは限られている
岩を射出しているわけでも投げているわけでもない、自由に狙いを付けられるわけではないのだ
1箇所に付き1つの着弾点、今回は3つの準備が用意できたとの事
落石予定ポイントには印が付けられている
・・・位置よし、方角よし
「履鬼威・MAXッ!」
両手を地面に叩きつけるように気を流し込む、10m四方が捲り上がり、その上にあるものを勢い良く跳ね上げる(普段はタタミ一畳分程度)、巨人もろとも・・・ついでにアタシ自身をも巻き込んで
『角度あってますよーに!』
実はこのふっ飛ばし、ダメ出しが多くて、これで3度目なのだよっ(※5)
ジュエルゴーレムに注目している2名の監視が反応した
ゴーレムの飛び掛ろうとする軌道が山頂で待ち構えているメンバーの方向に一致したと
計測用スコープで追い続けていたサベイア氏が報告
対応するポイントで落石指示を出すパック氏
「いまだ!落とせ!」
「照準ぴったり、いっけぇっ!」
跳び上がったゴーレムは空中で落下してきた岩と激突する
所詮は陸戦兵器、空中では思うように動けない
一緒に飛び上がったアタシは、足場の無い空中でも姿勢制御可能
どかっ、ばきっ、ごんっ!
岩雪崩をその末端肥大気味の両腕でガードするゴーレム
さすがに岩による大質量物理攻撃は防ぎようもなく、腕にひびが入り肩に亀裂が走り腕自体が砕けた。
・・・でもあと一歩、コアのある上半身ブロックだけは守り抜いたみたい
じつは・・・落石で倒せるなんて思っちゃいなかったよっ
全ては、このチャンスを作るため
「殴打撲殺MODE!」
降り注ぐ岩塊のうちの1つに隠れて接近したアタシは
空中で身を捻り、渾身の力をこめて尻尾を叩きつけた
ドシィィッ!・・・ィィィィイイインッ!!
アダマンタイトの棍棒が両腕を失ったゴーレムの胸板にブチ当たる
高速振動尾『CRAZY-TAIL』
爆圧回転子により駆動される小型加速ホイール
その回転と振動・共鳴が・・・激突する硬質物体の全てを粉砕するッ!(※6)
ビキッ!ピシ、ピキキ・・・ゴバァッ!!
打撃点から網目のようにヒビ、亀裂が走り
ついにはばっくりと割れる
破断面のほぼ中央、灰色銀っぽい角ばった結晶のようなものが見える、あれがコアだ!
ヒュヒュンッ
ヒュンッ!
文字通りの「矢継ぎ早」に一斉射撃が飛んでくる
オイこら、アタシはまだここに居るんだよっ
矢の1本がコアを砕いた。その数瞬後、ほぼ硬直していたジュエル・ゴーレムは動き出す
厳密には各関節を駆動・保持していた魔力が消失し、重力に任せるように崩れ始めた
当然尻尾に全体重をかけてたいアタシも落下する
しまった!『CRAZY-TAIL』稼動しっぱなしだ
赤い岩ボディが連鎖するようにひび割れ、砕かれてゆく
尻餅をついたアタシの頭上から雨あられと降り注ぐ赤い宝石
はわわわっ、宝石ってのは大きいものほど価値が上がるのに・・・
ふと手に何かが触れる、赤い欠片に混じった色の違う部品、シーチキン缶くらいの短い円筒(厚い円盤)、コアとも違うなー・・・レンズ? コレ多分単眼だ、
『多分なんかの役に立つ』とアタシのゴーストが囁く
数個のボディの欠片とともにインベントリにしまっておく
「おーい、大丈夫かー」
ほぼ生き埋めになっちゃってるんだよね
赤い宝石の山に埋もれる・・・めったに出来ない経験かも
この状況を気合一発で脱出してもいいんだけど
アタシゃゴリラじゃないので、引っ張り出してもらえるまで待ってることにする。あざとい?
拙い作品をお読みいただきありがとうございます
科学の知識はみんなの為に・・・
『CRAZY-TAIL』は、アニメ等でよくある『超音波兵器』を実際に可能(?)な形にした設計理論
共鳴ってのはやってみると解るけど タイミングを合わせて指でつつくだけで、公園にあった時計付きの柱やブランコの支柱をユサユサと動かして見せたりしたものです(2.6~3Hzくらい、周りの子供が目を丸くしてました)
固有振動のタイミングさえつかめてたら、剛体構造の柱だってお寺の鐘だって指1本でブランコのように揺すれます。金属ポールなんかは、ミシミシいいます。やりすぎると公共物破損になりますので注意です。
ちなみに『CRAZY-TAIL』の効果があるのは『脆性材料』のみです
脆性材料とは破断までにほとんど塑性変形を伴わない材料のことをいいます。代表的な材料としては鋳鉄やガラス、セラミックなどがある。要するに『割れる素材』
なお、その逆は『延性材料』といい、 破断するまでに大きい塑性変形を伴う材料。
代表的な材料としては金、軟鋼やアルミ合金、ゴム、生木などがある。要するに『折れずに曲がる素材』これらには効果は期待できない
生物相手の場合骨だけを砕くけど、金属の剣や盾にあたっても効果は薄い(始めは痺れるだけ、骨の振動数でしばらく押し当てる必要がある)
【解説】
(※1)歪んでしまったヘビーナックルはインベントリへ収納:MMORPGおよび転生モノにほぼ標準装備の収納機能「インベントリ」、大抵はどこに隠し持っていた?というほどの容量を持ってる、作品によっては無限の容量をもつ主人公もいる
おーちゃんはMMORPGから飛ばされてきたクチなので容量は有限で既に色々(お取っとき武器など)入ってる為さほど余裕は無い。(¬▽¬;
その代わりといっては何だけど荷物の重量は別口扱いで、生ものの鮮度を保つ機能はある
(※2)「土遁・履鬼威:縁理流忍術の技の1つ。大地の一部をめくり上げ壁もしくは盾とした後に壁倒しによる攻撃するスキル。某格ゲーの片腕姐さんとはちがって空中では無理だけど、地面さえあれば何処でもつかえる「変形畳返し」
めくりあがるサイズは基本的に畳1枚分だけど気合しだいで加減は可能
(※3)火遁・暴龍牙痕:爆発する御札をつなげた投げ苦無、地雷としてトラップに使うもよし、直接足元を狙ってもいい。対地攻撃として有効
元ネタの判ってしまった人へ補足しておくと、対地攻撃しまくっても2号機、3号機は現れません
地味に対地攻撃を続ける初代無印のPC版のネタ。
(パワーアップ毎に歌がついているのはFC版『Ⅱ』の方です)
(※4)モンキーハンティング:要するに無重力状態でお互い衝突するコースで動く物体は、同時に重力がかかった場合は影響を受けずに衝突する。
重力の影響は両者に同じように掛かるので両者の相対的位置関係にはまったく影響が無いのです。
・・・ただしこれは理論上であって、実際には風とか空気抵抗とか色々あったりするんよね
このあたりは両者とも岩で高密度大質量だから空気抵抗の影響は少ないし、なによりこの世界には『思い』の補正があるって事で・・・
(※5)これで3度目なのだよっ:打ち上げた→角度が合ってないからダメ、やり直し(落石なし)
こんなの繰り返す描写、見てて面白くはないでしょ?
(※6)その回転と振動・共鳴が・・・激突する硬質物体の全てを粉砕するッ!:昔からよくあるネタで『超音波で物体を破壊』なんてのがあるけど、単に振動を与えるだけでは物は壊せない
でもまったくのウソでもない、中学生の理科で習う『共鳴』を利用することで可能
実際にやるとなるとかなり面倒くさい
まず、対象の固有振動数を計測しまったく同じ振動を生成する
対象の振動と位相を合わせて振動を送り込む、位相がずれないことが大切なので常時測定&演算、調整を行う必要アリ
固有振動数と同じ振動数の力が加わると、振動する物体はエネルギーを無限に受け取り続け、振幅は無限大へと発散してしまう。
実際は無限なんてありえない訳でその過程中で破壊される
(音叉じゃあるまいし、そんなキレイな振動なんて起こらないと言う方もおりますが、振動は基本的にsinとcosの和になります。
運動方程式は割愛するけど、同じ振動数のsinとcosが混ざっても、振幅と位相のずれたsinになる。要するに部分的に別の振動する事はあれど、一定点にて計測する限り『歪な振動』とはならない)
ブックマーク、評価、とかはあまり気にしてませんが (あると嬉しいのは事実だけど)
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『メタもベタも極めてみせるよっ!』