7章-03 船旅満喫だよっ
船旅のいい所は交代制のクルーが運行をしっかりやってくれるから、船は夜通し進んでくれる事なんだと思う。見通しの悪い夜は減速はするんでしょうけどね
昨日はなにか変わった事があったような気がしたけど・・・よく覚えてないよっ
昨日の事は一部の人を除いて『真実は闇の中』
ふにゃあぁぁっ
朝の光まぶしくて・・・
我々冒険者たちは船上で朝を迎えた
船旅2日目の朝だー
今アタシが居るのはマストの天辺に作られた見張り台
マスト加工の際に木組み用のホゾを作っといたんで、出航してから組み立てた(許可は取ったよっ)
単に人一人が上がれる程度の狭い床に、申し訳程度の手すりが付いてるシロモノ
もちろんこんな所で一晩を過ごしたわけじゃないよっ
ちゃんと船室のベッドで睡眠はちゃんと取ったかんね、朝起きてその後ここまで昇ってきた訳ってワケ
じつはこの見張り台、ほとんどアタシ専用になってる
理由は・・・ハシゴとか階段とか、付けて無いンよね(¬~¬;
この場所から景色を眺めたかったなら、マストをよじ登ってくる以外にない
当然ながらそんな物好きはいない
まー、上っても狭いからねー
高いところは落ち着く、落ち着くと眠くなる。船の揺れがかえって眠気を誘うにゃあ
そーいや、通勤電車の帰り道、座ってると眠くなって、少しずつ身体が全屈してくるのは何故だろう
大抵は息苦しくなって目が冷める。後ろに体重掛ければいいのに、ホントなんで?(※1)
問いかけてもツッコミの感想欄が返ってくることは最近無いので解説の方で調査結果を(※2)
「朝ごはんできましたよー!」
下の方で船員さんが呼んでる
アタシは無造作に見張り台から空中へその身を投じた
「にゃん、ぱらぱらぱら~り!」 とんっ
空中で屈身の抱え込み3回転からの着地、着地音はほとんど無し。25mくらいの高さだからねー
伸身で後転した方が見栄えがいいけど、この技は実戦向けなので、空中で攻撃を食らわないように小さく回るのがポイントだ。聞いた話によると、猫に弟子入りした柔術家が編み出したといわれる受身技で放り上げられるような投げを食らったときに1本取られないよう足から着地するんだそうな
由緒正しい技らしいので、アタシも敬意を持ってオリジナルに近い形で使う
スペ○ンカーは約1.5mの落差で死んでしまうけど、アタシの落下耐性スキルはマスターランク、35mまでは叩き付けられてもダメージすら受けない。さらには空中機動スキル(※3)が、その上限をさらに上げてくれる、ついでにシッポのオートバランサーが空中機動を強化サポートしてくれる
倍率ドン!さらに倍!(※4)
でも、もっと身も蓋もない話をしてしまえば、アタシ自身飛行可能だったりする (¬▽¬;
(今回は飛んでないよっ)
「うわっ、初めてじゃないけど驚かされるなぁ。足音からして甲板にダメージとかはなさそうだし」
呼びにきてくれた船乗りさん、既に数回驚かしてます
「ごめんごめん、食堂開いたのね」
アタシは船内の食堂へむけて駆けていった
――――――――――
「うんうん、過酷なたびになるかと思ったけど船旅って快適ねー」
「意外とゴハンもおいしいですぅ」
「なんか勘違いしてないかキミ達・・・」
大航海時代くらいまで続いたといわれている、船での食事が酷かったという件は、その航海が数ヶ月から1年以上になる大陸間の超大規模な航海のことを言ってるんだぞー
量的に積めなかったと言う事と、長期の食品保存ができなかったというのが原因だよっ
たかだか4~5日程度の航海で、食糧問題が起きる訳ないでしょーに
食事が終わるとお客である冒険者はヒマになる
まだ航海は半分残ってるんだよね
あ、そーだ、ティル村で仕込んでおいたアレがもう熟成したかも
船の厨房を借りに行こう
「きゅ? 何か作るの?」
マー君がついて来た
「村で仕込んでおいたのが熟成し終わったから仕上げしとこうかと・・・そっちは?」
「ボクは手遊びにお菓子でも作ろうかなーって」
「ししょーっ、置いてかないでくださぁい」
おっと、タヌ子乱入
料理好き3名で厨房へと足を運ぶ
朝食の後片付けが終わって休憩中な調理師さん達に声をかける
「すみませーん、厨房の隅貸してくださーい」
アタシは、ティル村で仕込んでおいた大き目の瓶詰めを取り出した。
作成途中の調味料、いい具合に熟成してそう
お鍋を借りて、ビンの中身を加熱、水分を飛ばして煮詰めていく
辺りに混合されたスパイスの香りが漂う
タマネギ、ニンジン、さらに香味野菜(セロリ・パセリ・ローリエ・タイムetc)、コショウと
この辺りまではお肉抜きのブイヨンと変わらない
さらにスパイス
シナモン、ナツメグ、クローブ、セージ、クミン、カルダモン、ジンジャー(生姜)、ガーリック
チリペッパー(とうがらし)、岩塩、酢はワインビネガー
りんご、完熟トマト、お砂糖、隠し味にちょっとお醤油
刻んで煮込んでトロトロになったのをビンの中で熟成させといたんよね
この説明で、なに作ってたか分かった人いるかなー、あとで言うけど
「なんだ、この匂いは・・・食欲をそそる」
「朝飯食ったばかりだってのに」
フクザツに混合したスパイスの香りが辺りに広がる
まー、スパイス&ハーブの組み合わせってのはぶっちゃけ漢方的だからねー
「ごめんねー、ちょっと香りが強くて」
「嬢ちゃん、これはいったい何なんだ?」
ここの料理長らしきおっちゃんが問いかけてきた
「調味料かな、もうすぐ完成するから試食頼むよっ」
うん、大分煮詰まってきたよっ。こんなもんかな
火からおろして荒熱をとる
冷ましたら試食だけど、コレはあくまで調味料、単体で食するものではない
「タヌ子、これ焼いといて。サニーサイドアップの焦げ目なしで」
インベ取り出した卵を渡す。焼き方の色々な指定については伝授済み
ついでに言っちゃうと、タヌ子はケイティさんにも手ほどきを受けている
豪華絢爛な宮廷料理とかは別として、家庭料理なら何の心配も無い
余談だけど、タマゴ自体は小型の荷物持ちペットのインベントリから少々前に取り出しといた。
転倒とかの激しい動きで割れちゃう事があるからね
物陰でこっそり召還できるサイズで、走ったり転げたりで勝手にタマゴ割っちゃうような事のないコに持たせてたりしてね(※5)
じゃっ、しゅぅぅ~~~っ
弱火でじっくりと熱を通し、仕上げは少量の水分投下でフライパンに蓋、少しだけ蒸し焼き
人によっては蒸し焼きなしのふち部分がこんがりパリパリしたのを好む人が居るけどあくまで今回の試食は調味料であって卵の方ではない
焦げ目からくる苦味とかの少ない焼き方がベスト
「タマゴかい?傷さえつかなきゃ長持ちするいい素材だよ。比較的短期の航海には欠かせないね」
海の料理人は保存性で食材を選ぶか・・・理に適ってる
「ししょ~、焼けたですぅ」
焦げ目なしの目玉焼き、黄身はちょっと半熟、いい焼き加減だー
この世界の一般的な食べ方はお塩か せいぜい塩コショウ
「・・・で、ここにコレをちょっとかける」
煮詰めてた黒い少しだけとろみのある液体をちょこっとかける
そう、この液体はソース
洋食で味付けとして掛けられる液体・ペーストはみなソースだけど
コイツは『中濃ソース』だよっ
「とりあえず試食、まずはあっさりとした白身のところ」
はむっ
うん、ちょっと甘めだけど懐かしい味、しっかり日本の中濃ソース
ティル村のリンゴは想定してたより甘かったみたい
「つづいて、ちょっと黄身をくずして、ソースと合わさったところを・・・」
はむむっ
「んん~~っ! マイルドなってる」
この味、懐かしさも手伝って思わず顔が緩む
はっ、はっ、はっ・・・
「じじょぉぉ・・・わ゛た゛し゛も゛ぉ・・・」
目を血走らせ、よだれを垂らしかけたタヌ子が詰め寄ってくる
「渡したタマゴは1つだけじゃないでしょ、あと3つ焼いちゃいなさい」
「3つ?」
「アンタとマー君、そしてそこにいる料理長さんの分」
「了解ですぅ」
――――――――――
「新しい味なのですぅ」
「脱帽だ、ただの目玉焼きがこんなご馳走に化けちまうとはな」
「きゅっ、フルーツと野菜とスパイス、こんな組み合わせもあるんだ」
むー、このテの料理無双って、感動できるのは味覚初体験となる現地の住人だけで
作った側は『懐かしい』ばかりで感動までは届かない
この地には存在しないであろう物を作り上げたっていう『達成感』はあるけどね
「いやぁ、美味いもん食わせてもらった。礼というわけじゃねぇがここにある材料なら何でも使っていいぞ」
そんなに美味しいもんなのかな? 珍しい事は確かだけど、よくある食べ方の1つでしかも1番の主流ですらない(※6)
あ、そだそだ、ここにならあるかもしれない、聞いてみよう
「ねぇ料理長さん、ここの食料庫に干し魚ってある? 出来るなら古くなってて、カラッカラに乾ききっちゃったヤツ」
「おかしなモン欲しがるんだな」
「乾かすことによってエキスが凝縮されるのよ。できたら青魚のがいーな
普通は干し魚って乾燥し過ぎちゃう前に食べちゃうし、古くなり過ぎたら捨てられちゃうじゃん。」
「ちと待ってな、たしか干し魚の中に古いのが混じってたと思う」
食料庫へ料理長が入っていく
あ、調理台に生姜があった。薄くスライスして甘酢に漬け込んでおこう。梅酢があればよかったんだけど無いものは代用できる範囲で工夫・・・これだとガリだよね
「よお、ホントにこんなもの使えるのか?」
トートツに料理長が戻ってくる、放る様に渡されたのは・・・
カチコチでやや飴色になりかけてるこれ、鰹節だ。カビ付けしてないから枯節じゃない、その前工程の荒節(鬼節ともいう)だねー
「ありがとー
うわ~まさに理想、よくこんなの見つかったねー。ありがたく頂戴していくよっ
あ、ちょっと小瓶あったら貸して」
「ポーションの空き瓶、こんなんしかねぇけど」
アタシはソースを小瓶1本分わけてあげた
「い、いいんかい? 貴重なタレなんだろ? で・・・なんて言うんだい、これ」
「中濃ソースだよっ、焼いたものにかけてもいいし、炒める時に混ぜてもいい」
食生活が豊かになるのはいい、でもアタシが本領を発揮できるのは20世紀以後の料理だけ
その為には調味料だけは再現できるものだけでも集めとかないとねっ
そうだ、せっかく船で海に出てるんだし、海の幸もストックしとこう
そーいや、昔読んだ異世界モノの中には、お肉をただ焼いただけで料理無双してたのもあったっけ
あと料理無双でよくあるのが、素材や調味料は元居た世界から取り寄せできるケース、
通販で取り寄せできるスキルがあったり、定期的に世界を往復するタイプだったり、店の裏側は元の世界に繋がってたままとか、仕入れの問題点を設定がカバーしてる作品も多かったね
アタシが料理無双したくないのは、テンプレートな人生歩みたくないってのもあるけど、異世界料理で手を広げてしまった後の維持継続が大変かつ難しいからってのがあるよっ
拙い作品をお読みいただきありがとうございます
エイプリルフール企画の番外編はキニシナイでください
そもそも始めから1日のみの公開予定でしたので
その1日を逃してしまった方には更新間隔が随分と開いてしまった事をお詫びします。
あんまし船旅満喫してませんね、タイトル変えたほうがいい?
現代人が料理するときに使う調味料って、ファンタジー世界では存在してない事が多いんですよね
まずはそこから作っておかないといけない。ハーブとか野菜類とか素材に相当するものはあるのでしょうけどね・・・美味しいものが食べたいならそれ相応の苦労が必要
キャンプのようなファンタジー飯も悪くは無いけど現代人はアレコレしたくなると思う
【解説】
(※1)後ろに体重掛ければいいのに、ホントなんで?:考えられるのは、重心が前にあるせいだと思う。
観察してみると居眠りで左右に傾く人は後ろにもたれかかり。前屈する人は、ほとんどが猫背で前に傾いてる。猫背の理由は大抵、後ろに荷物が置いてあるか、前に荷物が付いているかのどちらか
幼女になる前のおーちゃんは後者
(※2)解説の方で調査結果を:解説は後書き部分、マンガで言うならこのコマの外。
私はこの解説多用パターンを『小説シロマサスタイル』と名づけたい。
(※3)空中機動スキル:別名『バルクール』『軽業』『アクロバット』とも呼ばれる。飛び上がったり飛ばされたりした場合のバランス制御および着地関連のスキル。コレを鍛えておけば、体操選手やサーカスのトラピストになれる
(※4)倍率ドン!さらに倍!:分かる人だけ笑ってください (かなり古いネタです)
(※5)勝手にタマゴ割っちゃうような事のないコも持たせてたりしてね:小柄な愛玩用ペットは飛び跳ねたり転げたりと落ち着き無いことが多い、だから落ち着いてて他者からちょっかい掛けられる事のまずない、それでいてタマゴの扱いを知っているペット、キングコブラの松崎さん
普段は斥候とかの担当だけど、ご存知の通り有名な毒蛇なんでちょっかい掛けられる事も少ない、もちろん好物はタマゴ、殻のまま丸呑みして体内で割るという食べ方する
意外かもしれないけどキングコブラって実はおとなしい性格だったりする【本当】
(※6)よくある食べ方の1つでしかも1番の主流ですらない:1位は醤油、2位は塩コショウ、3位にやっとソースが来る。(2015年日本データ)
この世界にも醤油は存在することが確認されたけど、流通はほとんどしていない(4章-17参照)
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『メタもベタも極めてみせるよっ!』