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愛の日々



音楽と情熱の国に今日も花びらがまう


遠く鐘が響いて大気を揺らす


桜とユーリがお庭でティーパーティを開いている

青いバラの園

一番甘いスイーツは桜の恋のお話だ


「でね、私がディルのこと大好きっていったら、ディルがもっと大好きだよって言ってくれて、でも私の方がもおっとディルの事大好きだと思うの!でもディルはそんな私よりもおおおっと私の事大好きだって譲らなくて、そこから私はもう何も言えなかったの! だってディルの唇が私の口をふさいで……」


うえっぷ、喉から砂糖が吹き出て窒息死しそうなほどの惚気である

聞かされるユーリもげんなりだ。若干目が死んでいる


「でもねでもね、ちょっと怖いの。ディルに…愛されすぎちゃって怖いの! 愛は燃えるものでしょう。私たち一生添い遂げるはずなのに、流れ星みたいに燃え尽きちゃったらどうしよう!」

「その時は僕が…」

「そうよね! 運命の恋が燃え尽きるはずないわよね、ちょっと幸せすぎて怖くなっただけ。本当にディルったら格好良すぎて、見るたびに惚れ直してしまうの!」


「……僕ちょっと胃痛が…。」

がたっと色々限界に達したユーリが席を立つ


「食べ過ぎ?」

きょとんと小首を傾げる桜。


「激甘でろでろシロップバケツで一気飲みさせられたような気分……」

胸を押さえてディルが退散していく。

もう、とにかく桜とディルはあれ以来ラブラブである


神の定めし運命の吸引力はものすごいらしく、最初の誤解すれ違いが嘘のよう。喧嘩一つせずひたすらラブラブ。最初は面白がって惚気話を聞いてくれていたユーリも、しまいには降参して逃げ出される始末。


ラブラブな二人は怒涛のようにデートをしまくった


地下に怪人が住まうと言うオペラ座、危ないキスの乱れ咲く仮面舞踏会、陽気なせむし男さんの鐘突き体験ツアー、美女と野獣の結婚式、巨大な真珠貝ステージが圧巻の、人魚姫の海上コンサート。


知れば知るほどこの国は不思議と音楽に満ちている

よくお姫様は退屈だってお話があるけれど、飽きる日は来そうにない

ディルの瞳の煌めきを眺めるだけで永遠に退屈しないだろう


「サクラ、私を選んで後悔していませんか」

美しい瞳の主が問いかける


「少し、しているかも……もっと早く出会いたかったなあって!」

「サクラ!! またそんな事を言って!ただでさえ貴方に焦がれて幸せで死にそうなのに! 私の胸を焼きつぶすつもりか」


たちまち固く抱き抱かれて青の檻に閉じ込められる。降り注ぐキスの雨嵐。

これ以上はないと思った限界をはるかに超えて、幸せな二人がお互いの熱に溺れる


毎日が賑やかで煌びやかで、愛に満ちたカーニバルのよう

青い王子の腕に沈んで、桜は幸せをかみしめる


***


けれど、この国の夜は現代ではありえないほど静か

信じられないほど深く美しい、濃紺の夜の底


「はあ……」


一人広いベッドに身を沈めて、桜は小さくため息をついた

誰かが吹くフルートの音が遠く響く

その音色はとてもきれいなのだが……どこか寂し気で

その郷愁は桜の心にも伝染する


「なんか、眠れない……」


なんだかディルにくるまれてないと落ち着かないなあ。末期かも……


でも、おはようのぎゅーからおやすみのぎゅーまで、ほぼ一日中くるんと包まれて「サクラ、サクラ……」「愛している」と耳元で呟かれながらひな鳥がごとく温められて、しかもなんかもう最近は御飯までお膝抱っこであーんと餌やりされて、もはや徒歩で歩くこともできなくなり全移動お姫様抱っこで終始甘々なのだ。なくなるとなんかすーすーするし固い地面の感触に違和感。やっぱり末期だ


それでもやっぱり夜は一人寝なわけで。ひろーいお部屋にたったひとり

結婚までは寝室は別なのが習わしだそうだ。貴族間での婚前交渉はなしという古式ゆかしい貞操観念らしい


(守る人は非常に少ないらしいが)しかしながらディルはきっちり守るつもりらしい。なんかもはや、そこしか守るものがないきもするのだが。


静かな夜の底に悲し気な笛の音が響く

微かな旋律がこんなにも胸に響くなんて

奏者の想いが桜の心を揺さぶるよう


寂しい


「ちょっとお散歩しようかな……」


と呟いても一人なのが余計むなしい。

お散歩したって皆寝静まって一人には変わらないのだけれど……


あ、ユーリならまだ起きているかもしれない

さくさく真っ赤な絨毯を踏みしめて


自然と書庫に足が向かう


廊下にあたたかい明かりが漏れていて、桜はほっとした


こしょっと覗きこむ


椅子にユーリが身を預けて

頬杖をついて卓上の青薔薇をぼんやり眺めている

その瞳は物憂げで、なんだか思い詰めているような気がした

「ユーリ」

そっと桜は声をかけた


驚いたようにビクリとはねてユーリが瞳を上げる。白い指先で撫でていた仮面がカランと回った

戸惑いを取り繕うようににこりと笑う。ルビーの瞳が煌めく。

その瞳が思いのほか熱く感じて、桜は戸惑った


「また調べごとをしているの?魔術の調査だっけ」


「……うん。魔王の事考えてる」


魔王!? どファンタジーな上になんだかダークそうだ。

そういえば、一万年ぶりに復活したとか凄く物騒なこと言ってたな


「以前、魔王ルーインが復活したと言ったでしょう? その影響が表れ始めている。法力と魔力、同じ胆力で使える術の威力が格段に変わったのです。由々しきことです。」


「法力? 魔力? 何が違うの?」

「神への信仰で使える力は法力。魔王への信仰で使える邪な力は魔術ですよ」

そ、それってつまり、魔王の力が増大してるってこと!?


「ええ、これからどんどん魔王を信仰する人間は増えるでしょう。この国のトップとして現状を常に把握し押さえておく必要があります。」


危機管理…というやつだろうか。

昨日青年になったばかりのような、華奢なユーリの瞳は真剣そのもの真っすぐで

まだ同い年なのに瞳にこもる熱量が違う。王族としての自負


「ユーリ、魔王に太刀打ちできるの? 確か人間の力では太刀打ちできないって…」


「魔王の強大な力には太刀打ちできないけれど、眷属たる悪魔が活性化しているのです。凶悪犯罪が増えるでしょう。それには対策を練らなければならない。」


「……戦争が起こったりするの?」


「復活した魔王がどう行動するかは予測できませんが、起こるとすればそれは宗教戦争でしょう。魔王を信仰する者が増えれば増えるほど、魔王の力は増します。」


しゅ、宗教戦争、日本人には全く縁のない言葉だ……。

一番に思いつくのは某林檎信者とビルゲイツの戦争くらいだぞ


「魔王は元はこの国の国教神でありました。今の神との戦いに敗れて邪教となり、魔王に堕ちたのです。また神へとのし上らんと画策するかもしれません。悪魔がこの世を支配し世界は恐怖と混沌に落ちる…」

「誰も魔王を信仰しなければいいわ。」


「どうでしょう、どの神を信仰するかは自由なのです。人にはいろいろな思惑がありますから。それに悪魔の誘惑は強力です」

ふっと、ユーリの瞳が暗く濁った気がした。ランプの瞬きの見せた錯覚だろう


「今の神は科学の発展に制限をかけていますから、魔王を支持するのは迫害され気味の科学者でしょうね。」

唇をゆがめるユーリ。


「魔王は人間の欲望に制約をかけませんから。」

皮肉めいた微笑みも隙なく美しい。けれど、痛々しいほどに張りつめていて


華奢な肩に、この国は重すぎるのではないだろうか

ましてや魔王との戦いだ


「……ユーリ、少し息抜きしたほうがいいわ」


「火遊びさせてくれる?」

そっと手がのびて白い指先を絡められる


キラキラと真っ赤な瞳が輝きを増す

いたずらな微笑みにそぐわぬ凄艶な瞳のきらめき

どんな娘さんだっていちころだ


私だってディルがいなければ、ころっと参ってしまったかもしれない


「お兄様の事、初めて憎いと思ったな」



ディルが軽口をたたいてくすくす笑う。眩しそうに桜を見つめて


その瞳の底が少しも笑っていないことに、桜は気づかなかった


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