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情熱と音楽の国の桜


「あなたの前世は、救国の歌姫でありました。一万年の遥か昔、貴方は自らの魂をもって我がベル神の罪を贖罪し、信徒を蜂起させ、神と魔王との戦いに終止符をうたせたのです。貴方は我々の神の勝利の礎、そして魔王追放の英雄であります。貴方の御魂は七つの世界を巡り転生し、そして完全にその傷が癒えた今、我々の世界に再び召還させていただいたのです。言葉が判るでしょう? 僭越ながら眠っている間に魂の記憶を呼び起こさせていただきました」


「は、はあ……はあ? はあ…。」


大理石のテーブルに、所狭しと並べられた御馳走。宝石と黄金で彩られた豪奢な応接室

キラッキラのシャンデリアは、まだ灯りのともる時間ではない。


ふっかふかの坐り心地のよさそうなソファを堪能できないのは、なんとまさかのディルのお膝抱っこで抱え込まれてしまっているからである。

代わりにごつごつ筋肉質な男の太ももをお尻で堪能する。

堪能しすぎて、衝撃過ぎる自分の魂の来歴も運命もろくろく耳に入らなかった


まあつまり、この人たちが電波でないとすれば、ここは地球でも、それどころか太陽系ですらなく異世界ということになる。


異世界


ああー、ふつうこういう場合どう考えてもこの人たちが電波さんで、私が攫われたか超大掛かりなドッキリと考えるのが妥当であろう。


さっきから、この人たちが手も使わずにふわふわ紅茶を注いでいたり、指先から炎が出て暖炉にぱっと火をつけるのを見てしまっていなければ。


こうなるとがぜん現実味を帯びてくるのが異世界である

こういうのすっごい本とかネットとかで読んだことあるぞ。逆に言えば本とかネットとか画面越しの世界ででしかないわけで。


しかし、魂の記憶が刻み込まれているのかなんとなくデジャブがあって、驚くほどすんなり事態を受け入れている私がいた。

昔から飲み込みだけは早いのだ。実技がからきしなだけで。


大丈夫大丈夫、おーけーおーけー。大体飲み込めた。

たぶん、ここからこの王様たちに泣きつかれて、すごい世界救っちゃう過酷なたびに駆り出されたりするわけだ。どうやら一万年前の私は魔王と闘って死んだみたいだし。

うん、泣きそう。


しかし言葉が通じているだけまだイージーなのかもしれない。

出発は城だし、発起人は王様っぽいし。

ちょっと高級な装備も用意していただけるだろう。

まさかヒノキの棒に裸足などという、無課金アバターのような装備からスタートすることはあるまい。


「あの、サクラ、大丈夫? 混乱してない?」

あんまりすんなりとわたしが大人しく話を飲み込んだので、拍子抜けしたのは向こうも同じようだった。


「サクラ、本当に大丈夫? 少しベッドで休む?」

ディルが心配そうにのぞき込む。瞳が煌めいて、湖底の青に溺れそうになる。

お顔の距離10センチ

こちらの方はかなりやばい。

何がやばいかというと、このディルとかいう美王子は大変私のことを心配してくださっているらしく、下手をするとベッドの中までついてきて添い寝してくれそうな謎の気迫を感じるからだ


「えっと、もうだいじょうぶ、大丈夫だから!ていうか降ろしてください!」

慌てて顔を逸らす。腕の檻から零れ逃れんと何度目かの逃走を試みる。

よじよじばたばた

「サクラ、暴れちゃだめだよ」

うんしょっ!とディルの男らしい腕に抱え直されて、あえなく収監。

青い王子様の檻にずぶずぶ沈む


なんなの!?


これがこの世界の文化なのだろうか、ご婦人は紳士のお膝の上に座るのが正しいエスコートなのだろうか、どうも他のご兄弟のあきれ顔から察するに違う気がする。


たっ、頼むから、お膝の上にすぽっと抱え込んでギュムッと押し付けるのはやめて下さいー!

当たるんですいろいろなものが!


そんなにくっつかれるとふわっと香る男らしい香りとか、さらっと流れる御髪の音とか、よく鍛え上げられた上腕二頭筋の感触とか、ぐっとお腹に組まれてがんとどかされる気配のない大きなおてての温もりとか、本人意識していないんでしょうけど色んな刺激的なものに当てられてクラクラしてしまう、


そしてクラっとよろめこうものならたちまち

「何処か具合が悪いのか??熱があるのか!?」と心配そうに目をうるうる潤ませて口付けせんばかりに顔寄せておでここっつんしてくるのはやめて下さいー! 熱があるのは貴方のせいです!あと、たまに髪の毛をすんすん嗅ぐのもやめて!バレてるからね!


「サクラ……可愛い」

逸らした顔をぐいと戻されて、じいっと見つめられる。ひい。私何か悪いことしましたか。澄んだ瞳は氷のよう。その氷の様に美しいディルさんのお顔がどんどん蕩けてきているのは気のせいだろうか。


「ディ、ディル…」

なんとか声をひりだす

「はい! なんでしょう」

ぱああ!!!! っとディルの顔が輝く、ただでさえハリウッドスターも裸足で逃げ出す超絶美形なのである、その満面の笑み直撃を至近距離で食らった私たるやひとたまりもない。おもわずひいっと小さく声が漏れて縮み上がってしまう


「おおお、降ろしてください」


しゅーーーん。


途端にディルの顔が塩をかけたナメクジの如くしおれてしまう。一体本当に何なんだ!?


「……だめです」


ぎゅ、っと、逆に私を抱く腕に力が籠められる


「だってサクラ、震えて真っ赤で気絶寸前ではないですか!そんな状態で手放せません!私の支え無しでは立つこともままならないでしょう!?慣れない異世界で驚き戸惑われている姫を支える事こそ我が務め。」


それはあんたに魂奪われそうなほど見つめられとるからやーーー!!!!!

あんたが離してくれたらそれはもうすっくと立ち上がって見せたるわ。

スーパーボウルハーフタイムショーのマイケルジャクソンの如くすっくとな!

そして支えるってすごい全身全力物理的だな!!!


「ディル、張り切りすぎー」

ユーリがこしょっと王様に耳打ちしている


かくして食虫植物の蔓の中で消化される羽虫のごとき心境で、私はこの世界に関するもろもろを勉強する羽目になった


***


ユーリ先生質問です

恐る恐る手を上げる


「あのあの、私って救世の歌姫だったんですよね?やっぱり私の呼び出された目的ってそういう……やっぱり魔王と闘わされたりするんですか?」


「魔王? ああ、確かに魔王ルーインが一万年ぶりに復活したらしいけれど、神の戦いは基本人間ごときでどうこうできないし、サクラにできることはないなあ」


え、ええー!? 


魔王復活してるよ、なんかすごい時に来ちゃったな。大丈夫なんかこの世界


「で、でも前世の私が魔王と闘ったって……」

「ああ、あれは一万年の間に色々神話に尾びれ背びれ足びれついて神格化されただけで、サクラが魔王と対決したのは本当に成り行きでたまたまだから」


え、ええーーーーー……

成り行きで世界救っちゃったのか前世


「じゃ、じゃあ、私の知識で文明を発達させるとか? えーっと、この世のすべての物質は原子から構成されていて、…でもそれよりもっと小さな素粒子があって、相対性理論は光の速さが……ええと、ごめんなさい、わたし、あんまりお役に立てないかも……」


真っ白に輝く髪を揺らして、くすくすユーリが笑う


「サクラ、ぼくたちの世界は神と魔法に依存しているから、科学知識は要らないし、きっと物理法則もサクラの世界とは違うと思います」


魔法世界!

魔法かあ、なんてファンタジー! 憧れだなあ。やはり一度は使ってみたいものだ


ユールが優美に微笑んで続ける


「でもサクラの肉体は地球で育ってしまったから、法力は使えないですよ。それに」

「駄目です!!!! 魔法など!! そんな危険なもの絶対に使わせません! サクラは私が守るので、魔法なんて一生使わなくていいんだ!」


ぎゅむぎゅむぎゅむぎゅむ!!!!


「……ディルが使わせないんじゃないかなー」


勇者でもない、魔法も使えない


「じゃあ、私はこの世界で一体何をすればいいの?」


15年間育った世界を捨てて、家族と離れ離れになってまで。


「それは…」


皆の視線がディルに集中する


桜も、んっ、と体を捩って、真っ青な瞳を見上げる


ディルの瞳がほんのわずかに震えた、ような気がした


「ええっと、…………特に何もないんです。貴方はそこにありさえしてくれればいい。この国の姫として。大丈夫! 貴方の一生はこの私と王家が保証します」

気のせいだろうか、張り詰めていた空気がふっと緩んだ気がした。「あー…逃げた」王が吐息のようにつぶやいた

まさか何もしなくてよいと言われるとは思わなかった。


「帰りたいって言ったら帰れるの?」

「……ごめんね」


帰れないんだ


いきなり知らない世界に連れてこられて

全然知らない人ばっかり


でも、わたしの心の深いところは、喜んでいて、懐かしい思いが一杯で、たぶんこれが魂の帰巣本能というものなのだろう。


「わか……らない、全然わからないけど、わかりました。わたし、この国でお姫様をしたら…いいのね。」

「サクラ!?」

「まあ……だって……仕方ないし。」


まあ。暫くは異文化に戸惑うかもしれないが、言葉は通じるし、なんとかなるだろう。なんとかするしかないのだ。

頑張れ桜。

なんとかなるなるが信条だろう?

突貫で自分の信条を作る


「おお、姫よ! 恩に着る! 我が王家で不自由なく暮らせるよう計らうからな!」

「やったー! よろしくね、可愛いサクラ!」

 王様がほっと破顔して、ユーリが無邪気に笑う


そしてディルは……


「おお……」


何か様子がおかしい。全身ぶるぶると震え出した。

抱え込まれた私のお尻もふるふる震える。マッサージ器のよう。


「ああ、あなたはけな気すぎ……そして愛らしすぎる……私の心に灯ったのは…愛……るー……。るるるーーーーらー!!!らららーーーー!」


!?


突如、くわっ!と括目し、天を仰いで歌いだすディル。凄まじいバリトンである


ええっ、


うたうの!?


この流れで歌っちゃう!?何で!?


「おお…氷の王子ディルが愛に目覚めた…!めでたい……! らーらららー!」


「ああ、お兄様の喜びは僕の喜び~!!! らららー!」


仰天する桜一人を置いてきぼりにして皆が総出で歌い踊りだす。


いや、正確には感極まったディルに抱えられて、くるんくるん回されているのだが


え、ええーーーーーー!?


なんか周りみんな歌い出しちゃったよ!すごいな!

王様がメイドを頭の上でぐるんぐるん回転させている。

メイド執事総出で大合唱なものだからかなりのド迫力である。


あのクールそうな弟さんも踊ってるよ!


「ここは音楽と情熱の国、私たちは感情が限界に達すると歌うのです!」


くるくる踊りながら解説してくれるユーリ。


おおう、解説ありがとう。そして早速の異文化遭遇である。しかもかなりハードルが高い


しかし何事も勉強とおもって早く順応せねば。


ああっ、でも、恥ずかしい。見てるこっちが照れてしまうやつだ!


「ああ、サクラ。」


ひとしきりくるくる部屋を回されて、大きな手のひらで頬を掬われる。

ああ、もう一度踊るのね。もういっかいくるくるするんですね。

いいですよ付き合いますよ。

異文化コミュニケーションですからね。


あれ、どうしてそのきれいな顔がどんどん近づいてくるの


あれ? と思う間もなく。


真っ青な青が視界に広がって


唇に柔らかな感触が触れる


どくん


胸が麻痺寸前で痺れる


それが何か頭で理解する間もなく、もっと柔らかなものが侵入してきて


「んんんんんんんー!!??」



お母さん、桜は異文化コミュニケーションで、王子様にファーストキスを奪われてしまいました


ディープなやつでした




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