20
食事を終えて、アーシュラは扉の外に待機していた女性にトレイを返した。その背後でエレノアは寝台にもぐりこんでいる。
半開きになった扉の向こう側を女性は短時間で確認すると、トレイを持ってその場を後にした。
廊下の曲がり角の向こうで、待機している衛視に会釈を交わし進んでいく。
扉には鍵がかかっていない。しかし、扉から死角になる位置で、セレクの腹心の命を受けた部下達が、その扉を監視していた。
女性が後ろを向いたとき、扉を薄く開けて、女性が、誰かに会釈するようなしぐさをアーシュラは確認した。
どうするつもりもない、今のところは。
とりあえず推測を確信に変えただけだ。
エレノアはベッドについたとたん寝息を立てていた。これも警察官の職業病だろうか。規則正しい生活を送れないので、とりあえず空いた時間にすばやく眠ってしまえるのは。
窓の向こうは無人の中庭、その中心に巨大な樹木が植わっている。そしてその周囲に、なんとなく種類の違う背の低い植物が生えている。
眺めるものはそれしかない。
「あー退屈」
ベッドの脇で愚痴っても聞いている人間は誰もいない。
それから三日間二人はその部屋で過ごした。
執務机にはたっぷりと書類がたまっている。その書類を裁きながら、セレクは傍らの側近に尋ねた。
「あの二人はどうしている?」
灰色の髪に灰色の瞳、着ているものまで灰色の男。それ以外の姿を見たことがなかった。
それは表情を最低限しか動かさず答えた。
「まったく動きません」
実際、食事を差し入れる以外の接触は行っていない。
二人はそこで静かに、寝台に座っているか。何事か話し込んでいるか、それとも片方が眠りこけているかだ。
どうやら夜に眠ると言うこともしていないようだ。
かなり不規則に眠ったり起きたりしているようだ。
「必ず片方が眠りこけているそうだな」
セレクが書類を書く手を止めて呟く。
「どうやら、警戒は解いていないようだ」
「そう思われますか?」
「ああ、片方が眠っているときはもう片方が起きている。何事か起こったときに備えているつもりなんだろう」
そう言って傍らの側近を見やる。
「そろそろ、様子見をやめたほうがいいようだな、アルファ、適当につれまわす準備をさせろ」
側近、アルファは無言で頷いた。
「妙なまね、と言ってもあの二人は、正真正銘二人きりのはずだな」
セレクは目を細める。
「適当に、話を聞きだす連中をあてがえ、と言っても、こちらの調子を狂わされてもかなわんが」
セレクの口調が苦くなる。
「それならばレイチェルが適任と思われますが」
「ああ、それでいい、レイチェルに話を通しておけ」
それだけ言うと、セレクは再び書類に向かう。そしてアルファは、ひそりとも足音をさせずその場を後にした。




