10
馬車が止まるまでの小一時間。二人は片手を荷馬車の縁に、もう片方の手を互いに握り合って耐えていた。
ようやく馬車が止まった時、二人は心のそこからほっとした。
二人に毛布が投げ渡される。
「今日はここで野宿をする」
そう言われて、周囲を見回すと、天幕を張る準備をしている男たちがいた。
そしてどうやら、二人はそこで寝ろといわれているようだ。
互いに目を見交わしあう。
そして、荷台に詰まれた殆ど用を成さない枯れ草のクッションと毛布を見比べた。
「どっちにしろ、ここのとこコックピットの椅子で寝てたよね」
アーシュラの諦めたような言葉に言葉に、エレノアは、頷くしかなかった。
彼の元に、小鳥が再び舞い降りた。
お茶を片手に小鳥を指先にとまらせる。そして彼は小鳥を傍らの従者に差し出した。従者は小鳥の足からくくりつけられていた手紙をはずし手紙を主に渡す。
彼は手紙を開く。
『内部から、二人の女性が現れる。
一人は闇色の髪と瞳をしている。もうひとりは日の光色の髪と空色の瞳をした女性。
こちらに保護し、連れ帰る予定。
明日早朝にはそちらにつく。例のものには、数人見張りとして残した』
内容を確認すると、彼はため息をつく。予想外だ、女性二人とは。
さぞや部下たちも対抗に困っただろう。
困惑の表情を浮かべている部下たちの顔を想像して苦笑する。
そして天文博士と、別分野の部下たちに、その手紙を渡すべく立ち上がった。
彼が廊下を歩いているとすれ違ったものはぎょっとして飛びのいた。彼は本来なら廊下を歩く時間ではないのだ。
彼が扉を開けると、別の場所で執務に当たっていた部下は、仰天して振り返る。
「わざわざおいでにならずともお呼び下されば」
そう言って恐縮しきりに頭を下げる。
「なんとなく、歩きたい気分だったんだ」
その頭を見下ろしながらそう言って、手紙を渡した。一瞥した手紙を見て部下は、恐る恐る顔を上げた。
「これはどういうことでしょうか」
「さあな、すべては明日だ、女性の客人のため、部屋を用意しておくべきだろうな」
「うら若いとは限りませんよ」
冗談だろうかと思ったが、のってやる気もなかった。
「ああ、美女か、醜女かも書いてないな、もう少し詳しく書くようあれにはいっておかねば」
つまらなそうにそう言って、当分は他言無用を命じておいた。
「ああ、いい夕暮れだ」
西日が地平線を赤く染めていく。
彼はバルコニーから飽きもせずそれを眺めていた。