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9


 軍人たちはその場で対象となる物体を観察していた。

 直接触れる勇気は軍人といえどなかった。どれほどの沈黙の時間が流れただろう。そしてその時間は唐突に終わった。

 紡錘形の脇の部分がいきなり開いた。そして、ほっそりとした人影がのぞいたかと思うと身軽に飛び降りてきた。

 奇妙な黒衣を身にまとっている。ずいぶんと短く切った黒髪が揺れた。

 その背後からもうひとりそれよりやや大柄なといっても彼らの感覚ではずいぶんと細身の人物も同じように飛び降りた。

 暮れつつある夕日に、きらきらと輝く珍しい金色の髪が映えた。そして今まで見たこともないような銀色の衣装を身につけていた。

 黒髪のほうが、ゆっくりと近づいてきた。


 アーシュラは脱出ハッチから飛び降りると、眼前の男たちを見た。

 直接目にすればやはり大きい。

 エレノアが同じように飛び降りてきた。

 それを振り向かず気配だけで感じると、アーシュラはそのまま前に進んだ。

 緊張で掌に汗をかく。

 足元で炭化した植物の残骸が崩れるじゃりじゃりとした音が耳につく。

 足音は二人分。そろそろと二人は男達に近づいていった。

「お前たちはどこから来た」

 アーシュラは目を見開いた。そして始めて背後のエレノアを振り返る。

「どうしよう」

 エレノアは完全に意表を突かれた顔をしていた。

 二人ともこの事態は予想していなかったのだ。まさかあっさり言葉が通じるとは。

 もちろん言葉が通じるのはうれしいが、こちらの情報も駄々漏れになる。

 それがアーシュラには気に入らない。

「ここはどこ」

 エレノアがそう言えば、向こう側の男たちも困惑しているようだった。

 お互いに会話が成立する可能性が低いと思っていたことはどうやら間違いないようだった。

「ここはドール王国だ」

 アーシュラにはまったく耳に覚えのない名前。エレノアもぱちぱちと目を瞬かせながら困惑した表情だ。

 位置に関する情報がまったく役に立たない。

「とにかく来てもらう」

 そう言って、男達がアーシュラを連れて行った場所には見たこともない生き物がいた。

 まず目にはいったのはその巨大さ。耳の位置がアーシュラの背丈の二倍はあるだろう。

 細長い四足で胴体を支えている。

 そこだけ妙に長い毛の生えた長い首に細長い顔がついており、何かを咥えさせられている。その咥えさせられたものから紐が垂れ下がっている。

 その生き物が馬と呼ばれる生き物で、口から下がっているのが轡と手綱と呼ばれる道具だと二人にわかるはずもなく。

 呆然と馬の前で立ち尽くしていた。

 植物のみならず、生き物も、人間より大きいものを見たことがなかった。

 放心している二人を見た男達は二人を馬に乗せるのを断念した。

「馬に、乗れそうにないな、あの荷車に乗せろ」

 そう言って指し示したのは、馬につながれた木製の荷車だった。

 車輪も木製で、タイヤもついていない代物だ。

 枯れ草を筵でくるんだものを敷いてその上に女二人座らせた。

「しっかりつかまっていろ」

 アーシュラとエレノアは、わけもわからず頷いた。

 ごとごとと荷馬車が動き始める。アーシュラやエレノアにとってあまりにゆっくりとした加速だった。

 通常人の走るほどの早さだろうか。

 まるで危ないものみたいな言い方をされたと二人は疑問に思ったが、十分もしないうちに言われた意味を理解した。

 舗装していない道を木製の車輪で走る。下に敷いた枯れ草入りの筵など物の役にも立たなかった。そして初めての感覚が二人を襲った。

 まず最初にエレノアが、口を押さえて青ざめる。

 アーシュラは馬車の振動がまともに腰に来て脂汗を流し始めた。


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