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短編集『休日、事務所のソファーにて』  作者: めけめけ
第3章 休日、事務所のソファにて
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未来を映す鏡

未来を映す鏡



 それは、とある小さな町に昔から住んでいる人々の間で密かに囁かれている単なる噂ばなしであった。その話を聞いても、実際に試してみようと思う者はほとんどいなかった。いや、もしかしたらいたのかもしれない。その噂ばなしの巧妙なところは、ことの真相を確かめた人間がいたとして、『そのことを誰かに言えない仕組み』になっていることである。その噂とは、町ができるよりもずっと以前からその土地にある神社に、ご神体として祭られている古い鏡に関するものであった。ある手順を行うことで、その鏡には10年先か20年先なのか、いろんな説があるようなのだが、ともかく未来の自分の姿を映すというのだ。


 たとえば10年後に事故で死ぬのだとしたら、頭から血を流し、眼球が飛び出た自分の姿が見えるとか、病気であれば、病院のベッドに横たわる姿が映り、成功しているのなら札束に埋もれた姿や立派な椅子に腰かけている姿だとか、そういうものが見えるのだという。しかし、鏡に映ったもののこと、見た内容を他人に話した瞬間に、その未来は潰えて、命を落とすのだという。


 ゆえに真相を確かめた者が仮にいたとしても、誰にも言うことはできないというのだ。たとえばその神社が、誰でも簡単に侵入できるような人目につかない場所にあるのなら、いたずらに試してやろうというものもいたかもしれない。しかしその神社というのが由緒正しく、他の町からも参拝客が来るような有名な神社であったから、そんな無謀なことをしようという者は、現れなかった。


 ところがある日、とんでもないことが起きた。なんとその神社に泥棒が入り、中からご神体の鏡が盗まれたというのである。その犯人は三日ごに地元の警察に捕まり、無事にご神体は神社に戻されたのだが、問題はこの犯人である。警察の取調べに対して、ほとんど正直に答えたというのだが、その神社に忍び込みご神体を盗んだときの様子については、完全に黙秘を貫いた。警察としては調書を取るために何とか犯人に白状をさせようとしたが、とうとうその犯人はそのことについて語ろうとしなかったのである。


 服役を終え、出所したその男は、しばらくは普通の暮らしをしていたらしいが、やがてなぞの死を遂げる。この『なぞの死』というのは、死因自体はべつにどうということはなかった。単なる事故死であり、それは不運としかいいようがなかった。酒を飲み、3軒目の店を出て路を歩いているところに居眠り運転をした車が突っ込み、彼は即死だったそうだ。そこには、なんの事件性もなかった。しかし、その3軒目の小さなスナックのママによれば、その男はこんな話をしていたらしい。


「ふんっ! ママ。みんなそうやって、のんきにしていられるのも今の内さ。みんなそのうち死んでしまうんだぜ」

誰の目にもその男の酒は過ぎているのがわかった。

「お客さん! そりゃいつか誰でも死ぬに決まっているじゃないか。物騒なことをいうものじゃないよ」

「ちがうんだよ。いいか。俺は知っているんだ。あと何年先かは知らねぇが、みんな死んでしまうんだよ。一人残らず。この地球上の生き物すべてがさ」

「なんだい、なんだい。この店にはとんでもないエセ預言者が客に紛れ込んでいるみたいだね」

「俺は、見たんだよ。真っ赤に燃える大きな石が……いや、あれは石なんてものじゃねぇ。巨大な火の玉が大地にぶつかってぇ……」

 そこまで言ってその客は急に青い顔をして、勘定を払って店を出たのだという。


 ただの酔っ払いのたわごとだと、誰も気にしなかったのだが、私がその男が盗んだという、鏡に関する噂ばなしを教えると、死んだ男が最後に訪れた店のママと数人の客は、一瞬、押し黙るしかなかった。


「でもね。お客さん。仮にその噂とやらが本当だとして、いったいぜんたい、いつおきるんだい。そんな物騒なこと」

「さぁあ、それは誰にもわからないんじゃないですかね」

隣に座っていたサラリーマン風の男が話に割り込んで来た。

「大昔に地球に巨大な隕石がぶつかって、恐竜は滅びたって、あれは本当のはなしなのかね? そういえば、なんていうタイトルたっけ? 隕石が地球にぶつかるって内容の映画が前にあったなぁ。とにかく今日明日って話じゃないだろう?」

「もちろんそうです。おそらくは1年前には予測出来るでしょう。あるいはもっと前かもしれません。2年とか、3年とか……」

「だったら、やっぱりあのお客さんが言っていることは夢か幻ってことでしょう?」

ママは、少し気味が悪いといった顔をしながら言った。

「そうですね。あとは誰かあの神社に行ってその未来を映し出す鏡とやらを覗き込んでもらうしかないでしょうね」

「誰が、火中の『石』を拾うか……、でしたっけ?」

サラリーマン風の男が、箸でお新香をつまみながら言った。

「いえ『栗』を拾うかですよ。でもまぁ、この場合は『石』で正解かもしれませんね」


 私はその店を出た後、未来を映す鏡があるという神社に行ってみることにした。道具はそろっている。確かめなくてはならない。私の観測データが示す恐ろしい未来が本当に来るのかどうかを。私が見つけたあの天体が、この地球にぶつかるまでの予測時間は、あと2年と数か月。



 あるいはもっと……


 


おわり


SFっぽいのがないじゃないか!


と、あわててこの話を書きました。

うーん、でもあくまでSFっぽいというだけで、どちらかといえば怖い方の話ですかね


ともかく鏡は僕にとってとてもとても怖い存在です

真実を映すとしても、虚構を映すとしても


12年9月、ちょっぴり改訂

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