(7)
「おばあちゃん、この、おじいちゃんのとなりのは、だれのなの?」
幼い少女は、不思議そうな顔で隣にいる人物――彼女の祖母だろう――に声を掛けた。幼子特有の短い人差し指で、彼女は仏壇を指している。
大きな黒いもの。さっきそれは、彼女のおじいさんの『おいはい』というものだと教わった。『ほとけさん』の、おうちだそうだ。その『おいはい』の隣にある、小さいもの。形からして、おじいさんのものよりは小さいけれど、それが『おいはい』なのだということは少女にも分かった。
「あぁそれ? それはね。桐子ちゃんのお姉ちゃんのだよ」
「おねえちゃん?」
オウム返しのように言うと、少女は不思議そうに首をかしげた。自分には確か、姉などいなかったはずだ。一度だけ、欲しい。と母親にねだってみた事はあるが、そんなこと出来ないわよ。とおかしそうに笑われただけだった。
「いたんだよ、昔ね。生まれてくる前に、天国に行ってしまったのだけど」
そう言って微笑む祖母の顔は、心なしか寂しげだった。
「ふぅん」
そう呟くと少女は、もう一度小さい『おいはい』に視線を向けてみる。赤ちゃんだから、赤ちゃんが住むサイズなのかなぁ、と思った。
「せっかく望まれてできた子なのに……赤ちゃんはねぇ、弱いんだよ。生まれて来ることは、難しいんだよ? もう予定日間近で、名前まで決まっていたっていうのにねぇ……」
だから桐子ちゃんが生まれた時は、本当に嬉しかった。と祖母は付け加えた。幼い少女には、祖母の言っている事の半分も理解はできなかったけれど、生まれてきてくれて嬉しい。と言われて、とても暖かい気持ちになった事だけは、よく分かった。
――桐子ちゃんは、私にはできなかった事ができたんだもの。
姉は……死産だったのだそうだ。私が生まれる前の事なので、もちろん私は知らないのだが。もし生きていたら一歳違い。丁度、高校生になっている頃だったという。
――きっと上手くいく。私はずっと応援してる。