第9話「罠にはまった」
三十五日目、やらかした。
情報源から「ダリオス侯爵家の書類が動く」という連絡が入ったのは昼過ぎだった。アルヴィンとクロードは別の案件で席を外していた。
連絡を入れようとした。した。でも返事が来る前に、時間が迫っていた。
(少し確認するだけなら、すぐ戻れる)
そう思って、一人で動いた。
愚かだったと、後で分かった。
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指定された場所は王城の外れの古い倉庫だった。
入った瞬間、おかしいと気づいた。
情報源のはずの人物がいない。代わりに、三人の男が立っていた。
(罠だ)
逃げようとしたが、入口は塞がれた。
「クレシェント令嬢。少し、お話ししましょう」
男の一人が笑った。品のある笑顔だったが、目が冷たかった。
「ダリオス侯爵家の調査を、やめていただきたい」
「……誰ですか、あなたたちは」
「それはどうでもいい。あなたには、王子殿下の仕事を助けるのをやめて、大人しく令嬢としてお過ごしいただきたいのです」
「断ります」
「強情ですね」
男が一歩近づいた。
(まずい。本当にまずい)
体が動かない。前世でも今世でも、こういう状況には慣れていない。
──その時、扉が吹き飛んだ。
「アルディア」
アルヴィンだった。
剣を抜いていた。こんなに速く動けるのかと思う暇もなく、男たちとの間に立ちふさがった。
「離れろ」
その一言で、空気が変わった。
男たちが顔を見合わせて、後退した。アルヴィン殿下を相手に戦うリスクは、彼らにとっても計算外だったらしい。
「今日は退きます。ですが次はないと思っていただきたい」
男たちが去った。
静寂が戻った。
アルヴィンが振り返った。
怒っていた。表情は変わらない。でも怒っているのが分かった。
「怪我は」
「ないです」
「そうか」
「すみませんでした」
「……後で話す」
それだけ言って、アルヴィンは剣を収めた。
クロードも来ていた。扉の外で、息を切らしていた。
「アルディア、無事か」
「無事です」
「よかった」
でもクロードも、普段より顔が硬かった。
(二人とも、本気で心配した)
それが分かって、情けなくて、少しだけ泣きそうになった。出さなかったけれど。
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*次話:「アルヴィンの本音」*
本作は『転生したら悪役令嬢でしたが、攻略手順をうろ覚えすぎました』の続編です。アルディアがなぜ転生者なのかは前作で描いていますので、よろしければあわせてお読みいただけると嬉しいです!




