第7話「クロードの告白未遂」
二十八日目、昼食の後だった。
クロードと二人で調査書類を整理していたら、急に静かになった。
クロードが静かになるのは珍しい。いつもなら「腹減った」とか「肩が凝った」とか、どうでもいいことを喋っている。
「どうしたの」
「……少し、聞いていいか」
「どうぞ」
クロードが書類から目を上げた。真剣な顔だった。
「お前のことが」
「え」
「お前のことが、俺は」
その瞬間、ドアが勢いよく開いた。
「アルディア、ガルディア男爵家から急報が──」
アルヴィンだった。
「今すぐ対応が必要だ、来い」
私は立ち上がった。
「はい、主任」
クロードが何か言いかけたが、仕事の呼び出しには逆らえない。
「クロード、後で」
「……ああ」
執務室を出ながら、後ろでクロードが小さくため息をつく音が聞こえた。
---
(聞こえていた)
案件を処理しながら、頭の片隅でずっとそのことを考えていた。
「お前のことが、俺は」
その続きは、だいたい分かる。
クロードとは幼なじみだ。ずっと隣にいた。この気持ちが、いつから始まったのかも、おそらく知っている。
でも。
(どんな顔をすれば、いいんだろう)
私の中に、答えがない。クロードのことは大切だ。信頼している。いなくなったら困る。でもそれが「恋」なのかと言われると、分からない。
分からないまま返事をするのは、クロードに失礼だ。
(だから聞こえなかったことにしよう)
卑怯だと分かっていた。でも今は、それしかできなかった。
---
夕方、執務室に戻るとクロードが一人で書類を片付けていた。
「遅くなってごめん」
「いや、仕事だろ」
「さっきの話、続ける?」
クロードが少し間を置いた。
「……いや、いい」
「いいの?」
「まだ、言う必要ないと思った」
(言う必要ない)
クロードらしい答えだと思った。焦らない。待てる。この人はいつもそうだ。
「クロード」
「何」
「ありがとう」
「何に対して」
「全部に対して」
クロードが少し笑った。
「相変わらず、お前は変なやつだな」
「よく言われます」
「俺は嫌いじゃない」
「知ってます」
二人で笑った。
何も解決していない。でも何かが壊れることもなかった。
それでよかった。今は。
---
◇
──クロード・バレンシアの日記より。
『言えなかった。でもまだ時間はある。焦らなくていい。お前がちゃんと笑えるようになるまで、俺は待てる』
私はその日記を知らない。でもきっと、そういう人だと思っていた。
---
*次話:「新しい黒幕の影」*
本作は『転生したら悪役令嬢でしたが、攻略手順をうろ覚えすぎました』の続編です。アルディアがなぜ転生者なのかは前作で描いていますので、よろしければあわせてお読みいただけると嬉しいです!




