第5話「貴族社会の闇が深い」
十八日目、新しい案件が来た。
「ガルディア男爵家とセルヴィア子爵家の土地争い」とだけ書かれた書類を読み始めたら、芋づる式に別の名前が出てきた。
ヴァイン伯爵家。先日リリアの件で「ご注意」を入れた家だ。
(また出てきた)
さらに読み進めると、もう一つ名前が出てきた。
ダリオス侯爵家。
(知らない名前だ)
アルヴィンに報告すると、一瞬だけ表情が固まった。ほんの一瞬だったが、見逃さなかった。
「主任、この名前に心当たりがありますか」
「……少し」
「教えていただけますか」
「今は言えない」
(言えない、か)
初めて情報を止められた。ということは、これは単純な土地争いではない。
「調査を続けてもいいですか」
「続けろ。ただし」アルヴィンが低い声で言った。「単独で動くな」
(単独で動くな、か)
「分かりました」
返事をしながら、胸の中に引っかかりが残った。
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クロードと二人で調査を進めた。
ガルディア男爵家とセルヴィア子爵家の土地争いは、表向きは境界線の確認問題だ。でも実際は、その土地の地下に何かがある。鉱脈、か、水源、か。
「これ、どちらかの家が煽られてる」クロードが言った。「自然に始まった争いじゃない」
「同じことを思っていた。誰かが意図的に火をつけた」
「ヴァイン伯爵家が間に入っている記録がある」
「そしてその上にダリオス侯爵家が」
「ダリオス侯爵家って何者だ」
「私も分からない。でも主任が顔色を変えた」
クロードが真剣な顔になった。
「アルヴィン殿下が顔色を変えるって、相当だぞ」
「知ってる」
二人で顔を見合わせた。
(これは、前回より大きい案件かもしれない)
ダーリン侯爵家の一件は、貴族の派閥争いだった。でも今回は、何か別の匂いがする。
「クロード、引き続き調べましょう。でも」
「単独で動くな、だろう。主任の言い付けは守る」
「ええ」
クロードが立ち上がった。
「アルディア」
「何?」
「今回は、慎重に行こう。何か嫌な予感がする」
クロードが「嫌な予感」と言うのは珍しい。この人の勘は、外れない。
「分かった」
私は頷きながら、書類の中のダリオス侯爵家という名前を、もう一度見た。
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その夜、執務室に残っていたらアルヴィンも残っていた。
二人きりの静かな部屋で、私は思い切って聞いた。
「ダリオス侯爵家のこと、いつか教えてもらえますか」
アルヴィンは少し間を置いた。
「……ああ」
「今じゃなくていいです。準備ができたら」
「なぜそう思う」
「主任が今言えないなら、言えない理由がある。それが解消されるまで待ちます」
アルヴィンが、こちらを見た。
「……信頼するのが早い」
「仕事で信頼できると分かりましたから」
「仕事だけか」
「…………」
返答に詰まった。
アルヴィンは小さく笑って、また書類に目を落とした。
(今のは何の質問だったの)
頬が少し熱くなったのは、執務室が暖かいせいだと思うことにした。
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◇
──私のメモ帳より。
『ダリオス侯爵家。要調査。主任語録追加:「仕事だけか」←意味不明』
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*次話:「アルヴィンの秘密」*
本作は『転生したら悪役令嬢でしたが、攻略手順をうろ覚えすぎました』の続編です。アルディアがなぜ転生者なのかは前作で描いていますので、よろしければあわせてお読みいただけると嬉しいです!




