第3話「同僚がクロードなんですが」
八日目の朝、執務室のドアが開いた。
「おはよう、アルディア」
クロードだった。
手に書類を持って、当然のような顔で入ってきた。
「……なんで」
「配属になった」
「いつ」
「今日から」
「聞いていない」
「俺も昨日知った」
クロードは私の隣の机に荷物を置いた。当たり前のように椅子を引いて座った。
(同僚になった。職場に幼なじみが来た)
「クロード・バレンシア、本日より着任します」
アルヴィンに向かって敬礼した。アルヴィンは書類から目を上げずに「ああ」とだけ言った。
(主任、部下が増えたのにリアクション薄い)
「よろしく、アルディア」
「……よろしく」
こうして、職場の人員が三人になった。
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クロードの仕事は「護衛兼調査補佐」という名目だった。
つまり何でもやる、ということだ。
最初の一時間、クロードは私の仕事を眺めていた。
「何してるの」
「見てる」
「なんで」
「お前がどんな風に働くか、知りたかった」
(知りたかった、って何)
「見ても参考にならないわよ」
「そんなことない。お前、仕事速いな」
「慣れてるから」
「何に」
「……色々」
誤魔化したら、クロードは「ふうん」と言って、それ以上聞かなかった。
(この人、昔からこうだ。聞かない。でも見てる)
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昼になった。
アルヴィンは一人で書類を読みながら食べる。私はいつも一人で食べていた。
今日はクロードが隣に座ってきた。
「一緒に食べていいか」
「どうぞ」
「お前、ちゃんと食べてるか」
「食べてます」
「量が少ない」
「これで足りています」
「足りてない」
「足りてます」
「俺の目には足りてない」
(職場でも始まった)
「クロード、ここは職場です」
「だから?」
「心配の圧が強いと、業務に支障が出ます」
クロードが少し笑った。
「業務に支障って、お前らしい言い方だな」
「事実です」
「じゃあ業務連絡として言う。昼食はちゃんと食べろ。体が資本だ」
(業務連絡として言われた)
なんとなく負けた気がしたが、言い返せなかった。
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午後、調査案件が入った。
貴族の屋敷で使用人が一人行方不明になったという話だ。逃げたのか、連れ去られたのか、それとも別の何かか。
「現地に行く」アルヴィンが言った。「二人もついてこい」
初めての外勤だった。
馬車の中、三人並んで座った。アルヴィンは書類を読んでいる。クロードは窓の外を見ている。
狭い空間に、無言が続いた。
(気まずい)
いや、気まずいのは私だけかもしれない。この二人は普通にしている。
「主任」
「何だ」
「現地では私はどう動けばいいですか」
「状況を見て判断しろ」
(また判断しろ系だ)
「クロードは」
「俺はアルディアの護衛だ」
「私の護衛? 主任じゃなく?」
「主任は強い」
アルヴィンが書類から目を上げた。
「俺の護衛はいらないのか」
「いります」クロードが即答した。「でもアルディアの方が危なっかしい」
「危なっかしくないわよ」
「前回、一人で飛び込もうとしたじゃないか」
「あれは状況が」
「危なっかしい」
アルヴィンが小さく、本当に小さく息を吐いた。
笑ったのかもしれない。確認できなかった。
「二人とも、状況判断を優先しろ」
「「はい」」
馬車が揺れた。
(これが、うちの職場か)
悪くない、と思った。
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◇
──クロード・バレンシアの日記より。
『同じ職場になった。毎日顔が見られる。悪くない』
私も同じことを思ったが、日記には書かなかった。
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*次話:「リリアが相談に来た」*
本作は『転生したら悪役令嬢でしたが、攻略手順をうろ覚えすぎました』の続編です。アルディアがなぜ転生者なのかは前作で描いていますので、よろしければあわせてお読みいただけると嬉しいです!




