第11話「決着」
四十日目、動いた。
証拠は揃っていた。ダリオス侯爵家が十二年かけて王家の財源を削ってきた記録、土地争いを意図的に起こした証跡、そして王妃の件に関する状況証拠。完璧ではない。でも動くには充分だった。
「今日、決める」アルヴィンが言った。
「はい、主任」
「三人で動く。分かっているな、アルディア」
「分かっています。単独行動はしません」
「よし」
クロードが私を見て、小さく頷いた。準備はできている。
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作戦はシンプルだった。
ダリオス侯爵を王城に呼ぶ。表向きは「土地問題の協議」として。そこで証拠を突きつける。
問題は、侯爵が素直に来るかどうかだ。
「来ます」私は言った。「来ないと、疑われると思うから」
「根拠は」
「この人たちは賢い。逃げるより、来て白を切る方が得策と判断するはずです。でも白は切れない。証拠があるから」
アルヴィンが頷いた。
「お前が前に出ろ」
「私が?」
「お前の方が、相手を崩すのが上手い」
(上手い、か)
悪役令嬢として生きてきた体が、こういう場面では役に立つらしい。
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ダリオス侯爵は来た。
六十代、白髪、穏やかな顔。悪人に見えない。でも目だけが、計算高かった。
「これはご丁寧に。どのようなご用件でしょうか」
「少し確認したいことがありまして」
私は書類を広げた。
「こちらの土地の採掘権について、過去十二年の記録を拝見したのですが、いくつか不明な点があって」
「ああ、それは」侯爵が笑った。「単純な記録の誤りで──」
「誤りにしては、一定の方向性がありますね」
「……どういう意味ですか」
「全て王家の財源に影響する方向に、誤っています」
侯爵の笑顔が、わずかに固まった。
「さらに、こちらの書類をご覧ください」
一枚ずつ、丁寧に並べた。土地争いの記録。ヴァイン伯爵家との繋がり。資金の流れ。
「これらを全部偶然と解釈するのは、難しいと思います」
侯爵が私を見た。
「クレシェント令嬢、あなたは若いのに、随分と」
「お仕事ですから」
「脅しのつもりですか」
「証拠の提示です」
後ろからアルヴィンが一歩前に出た。
「ダリオス侯爵。これ以上は王家として見過ごせない。今ここで、全ての関係を清算するか、王家の法廷で判断を仰ぐか、どちらかを選べ」
侯爵は長い沈黙の後、椅子の背もたれに寄りかかった。
「……負けましたな」
静かな声だった。
「若い方々に、ここまでやられるとは」
「十二年、かかりましたが」アルヴィンが静かに言った。「終わりにします」
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全てが片付いたのは、夜遅かった。
三人で執務室に戻った。
誰も何も言わなかった。でも、それでよかった。
クロードが「飯でも食うか」と言った。
「いいな」とアルヴィンが言った。
(主任が「いいな」を使った。初めてだ)
私は小さく笑った。
「行きましょう」
三人で夜の王城を歩いた。
十二年分の何かが、今夜終わった。
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*次話:「辞表、出しません」*
本作は『転生したら悪役令嬢でしたが、攻略手順をうろ覚えすぎました』の続編です。アルディアがなぜ転生者なのかは前作で描いていますので、よろしければあわせてお読みいただけると嬉しいです!




