第八話 ワイバーンが来るとは聞いてない
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「フィル、ソラ、戦おう」
そう言うと、ノルドはワイバーンの前に進み出る。
「フィル、俺も先に行ってるぞ。お前なら、絶対に立ち向かえる」
ソラも、ノルドの隣に立つ。
私だって、戦えるもんなら戦いたい。
でも、無理だ。
そもそも体が動かないし、魔力も上手く操作できない。
やっぱり私、冒険者向いてないのかな……。
ワイバーンは風魔法を放ち続ける。
そりゃあ、そうするだろう。
ノルドの魔力が切れたら、もう誰も止められる者は居ないのだから。
ワイバーンからしたら、飛んだまま魔法を放つだけで私達を全滅させることができる。
このままじゃジリ貧だ。
私も加わりたい。
一緒に戦いたい。
どうやったら、どうやったら恐怖を無くせる?
私はただ、ノルドとソラの戦いを眺めていた。
それしかできなかった。
私は、ふとノルドの手を見る。
まだ大人になり切れていないノルドの小さな手は、小刻みに震えていた。
そっか、恐怖って、無くせないんだ。
誰にでも恐怖はあって、それに立ち向かっているだけなんだ。
私はどうやったら立ち向かえる?
本当の私は怖がりで、臆病で、恐怖に立ち向かうこともできない。
でも私は、強くなりたい。
恐怖に立ち向かえる、強い自分になりたい。
じゃあ、なれば良い。
今の私は、恐怖に怯えるフィリア・シュテルンじゃない。
恐怖に立ち向かえる冒険者、フィリアだ。
その瞬間、私の中で何かが変わった。
よし、行ける。
「ごめん、私も戦う」
私は戦いに加わるために、前に進み出る。
「フィル、何か、顔つきが変わったな」
ソラが私に話しかける。
「まぁねー。フィリアから、冒険者フィリアになったって感じ?」
「何だそりゃ」
そう言いつつも、ソラは柔らかい笑みを浮かべた。
「お前なら、できると思ってたよ」
「ありがと。じゃあ、作戦を説明しても良い?」
「作戦、あるの?」
ノルドが会話に加わってくる。
「うん、ノルドはあとどれぐらい魔力残ってる?」
「あと、【土壁】何発かで、無くなる」
「おっけー。じゃあ、ノルドには守りに専念して欲しい。魔力が切れそうになったら言って。ノルドは私達の生命線だから」
「了解」
「じゃあソラは、落ちてきたワイバーンの首を切り落として。ソラのあの技じゃないと、ワイバーンの首は切り落とせないと思うから」
「そもそも落ちてこないから困ってるんだが……」
ソラは元気に羽ばたいているワイバーンを指し示す。
「私が落とす」
そう言うと、私はワイバーンを見上げる。
「了解」
心なしか、ソラの口角が少し上がっている気がした。
ワイバーンを落とすためには、翼を使えなくするしかない。
私は翼に向かって【風刃】を放つ。
しかし、風の刃は難なく避けられてしまった。
……駄目か。
当たらないとなると、どうやって撃ち落とすか……そうだ!
ワイバーンの上空から何か重いものを落としたら、支え切れなくなって落ちてくるんじゃない?
上からの攻撃は見えないだろうし。
そうと決まれば。
「【氷岩】!」
私は氷でできた岩をワイバーンの真上に生成し、そのまま自由落下させる。
ドカッ。
そんな音と共に、氷の岩がワイバーンの上に乗っかった。
ワイバーンはその重量を支え切れずに、墜落してきた。
「本当に落ちてきたんだが……」
ソラが微妙な顔をしながらも、ワイバーンに向かって駆け出す。
ソラはワイバーンが放った【風刃】を右に半身を逸らして避けると、ありったけの魔力を放出する。
ノルドは、ソラが避けた【風刃】を【土壁】で防ぐ。
ソラはそのまま刀を振り上げ、ワイバーンの首元を目掛けて振り下ろす。
ワイバーンの首は、血飛沫を上げて地面に転がった。
しばらくの間、辺りは沈黙に包まれていたが、次第に歓声が響き渡る。
そっか、やったんだ、私たち。
カツ丼食べたからかな。
私とノルドは顔を見合わせると、笑顔でハイタッチをした。
ワイバーンにトドメを刺して血まみれになったソラは、私たちが居る場所まで歩いてくると、手のひらをこちらに見せて前に出す。
これは……ハイタッチをしようとしてるのか?
しめしめ。
私は自分の手とソラの血まみれの手を見比べて、迷うフリをする。
すると、ノルドも迷うフリをし始めた。
「おい、迷うなー」
「「ふふっ!」」
私とノルドは顔を見合わせて笑うと、手を差し出して三人でハイタッチをした。
そのとき、突然カルラおばさんが泣きながら私とソラに抱きついてきた。
「ソラ、フィリア、危ないことをする二人を止められない、不甲斐ない大人でごめんね。でも、よく頑張ったねぇ!!」
「アンタも、よく頑張ったね」
カルラおばさんはノルドの方を向いて笑顔でそう言った。
ノルドは、心なしか嬉しそうだ。
「三人とも、金鶏の卵亭に来てくれ。奢る」
トーマスおじさんがそう言うと、ノルドがキラキラした目で「仲間……」と呟く。
もしかして、トーマスおじさんのこと?
確かにどっちも無口キャラだ。
「フィルお姉ちゃん、ソラお兄ちゃん、土魔法のお兄さん、助けてくれてありがとう!!」
リリアが笑顔でお礼を言ってくれる。
「ありがとう!」
「あっ、ありがとう」
リリアに続いてカイルとイオも言ってくれた。
「どういたしまして」
「気にするな」
「当然のことをした」
それぞれ私とソラとノルドが答える。
って、ちょっと待った!!
お兄さん!?
今、お兄さんって言った!?
お姉さんじゃなくて!?
ノルドがお兄さん呼びを受け入れてるってことはお兄さんってことだからお兄さん?
え?
お兄さん!?
マジで!?
「お〜い!無事か〜!」
「私の可愛いノルド〜!無事でいて〜!」
私が一人混乱していると、誰かの声が聞こえてきた。
お願いだから、これ以上ややこしくしないで〜!
私の心の叫びも虚しく、新たに二名の人物がこの場に現れた。
「た、倒されてるだとぉ〜!?どうなってやがる。はっ、まさか、お前ら……」
ビートの目がこちらに向く。
そう、一人目は皆さんお馴染みのビート試験官。
そして二人目は……。
「私の可愛いノルド〜!無事だったのねー!!はっ、もしかして、これノルドが倒したの?天才よ〜!!!」
燃えるような赤髪と翡翠色の瞳を持つ女性がノルドに抱きつく。
あの、どういったご関係ですか?
ノルドは私の心の声が聞こえたかのように、その女性を指差すと、「姉」と一言呟いた。
そうですか。
姉ですか。
私は一先ず考えることを辞めた。
「このワイバーンは、お前ら三人で倒したのか?」
「はい」
ビートの問いかけに、私が答える。
「よくやった!!」
ビートはそう言うと、私とソラの背中をバシバシ叩いた。
「ぐへぇ」
「いたっ」
何とも情けない声を出しているのが私で、普通に痛がっているのがソラだ。
痛ぇですよビートさん。
ビートはノルドをもバシバシ叩きの餌食にしようとしたが、ノルド姉がサッとノルドの腕を引き、事なきを得た。
やるな、ノルド姉。
「フィル〜!カイル〜!」
「ソラー!イオー!」
母とユリアおばさんが、私たちを呼ぶ声がする。
……また増えたよ。
「フィル!カイル!無事だったのね!良かったわ!!」
母は、私たちを強く抱きしめる。
「ソラ!イオ!アンタ達も無事だったようね。……本当に、良かった」
ユリアおばさんが目の端に涙を浮かべて二人を抱きしめる。
あの妖怪読心ユリアオババが泣くなんて……初めて見た。
そう考えた瞬間、ユリアおばさんがこちらに振り向いた。
嘘です。
ごめんなさい。
心を読まないで下さい。
「お〜い、お前ら!速すぎだ!!」
重いハルバードを担いで、ガレンおじさんが走ってくる。
「待ってくれ、もう走れな……」
父は、全てを言い終える前に「ズリッ」という音と共に盛大にこけた。
うん、私が運動神経皆無なのは、十中八九、父の遺伝子の仕業だろう。
「四人とも今日はもうゆっくり休め」
ガレンおじさんが、私たちの体を労ってくれる。
「四人ともお疲れ。よく頑張ったな」
父は膝から血を垂れ流しながら、何事もなかったかのように言う。
下を見ろ、下を。
血出てんぞ。
「お父さん何してんの?」
私は呆れながらも、父の膝の傷を治癒魔法で治す。
「……」
父は、固まったまま私を見つめる。
「どうしたの?」
「いや、フィルって、治癒魔法使えたんだな」
「使えるよ。言ってなかったっけ?」
「……それをもっと早く言え!!そしたら冒険者登録も反対しなかったのに」
マジで?
「そうよ、フィル。回復役なんて、ただその場で突っ立っているだけで良いんだから」
その割にはあなた、短剣持って動き回ってません?
「ソラ、あのワイバーンは誰が倒したの?」
ユリアおばさんが真剣な面持ちでソラに問いかける。
「俺と、フィルと、ノルドだ」
「そう」
ソラの答えに、ユリアおばさんは地面に横たわるワイバーンの死骸を見ながら、何かを考える素振りを見せる。
「ソラ、首を切り落としたのは、アンタね」
「ああ」
「じゃあ、あの大きい氷はフィルちゃん?」
「そうだ」
「なら、あの土の壁をノルドっていう子が作ったのね」
「それで合ってる」
あの残骸を見るだけでそこまで分かるなんて……。
ユリアおばさん、只者じゃない……かもしれない。
「二人の強さは分かったわ。明日から冒険者活動を再開しても良いわよ」
ユリアおばさんが、穏やかな笑みを浮かべてそう言う。
せっかくだけど、明日はいいかな。
うん、疲れた。
休みたい。
切実に。
私たちはノルドに手を振って別れを告げると、全員で帰路に着いた。
皆さん、
「ソラの刀は何処から出てきたの?」
そう思いませんでしたか?
実は、特訓したときからそのまま着けっぱなしなんですよ。
第九話は、明日の午前五時に投稿します!




