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第四話 ゴブリンは思ったよりもデカかった

「これが、フィリアさんとソラさんのギルドプレートになります。再発行には銀貨が一枚必要になってくるので、大切にしてくださいね。それと、冒険者ギルドの登録料、小銀貨三枚の支払いをお願いいたします。これは依頼の報酬から引くこともできますが、一年以内に完済されなかった場合は、冒険者資格の剥奪という措置をとらせていただきますので、十分にご注意下さい」


「はい!ありがとうございます!」

私は受付のお姉さんからギルドプレートを受け取る。


「ありがとうございます」

そのあとすぐに、ソラもギルドプレートを受け取った。


私たちは貰ったギルドプレートをあらかじめ用意しておいたチェーンに通して、首にかける。


そう、実はこのチェーン、私が創造魔法で作ったものだ。


創造魔法は、魔力を物質に変換する魔法だ。

仕組みは他の魔法と同じだが、物を再現するための創造力が必要になってくる。

結構細かいところまでイメージしないといけないので、意外と難しい。

だから、チェーンとかは作れても、スマホとかは作れない。


試したのかって?

ええ、そりゃあもちろん試しましたとも。

……失敗したけどね。


あぁ、スマホ使いたかったな〜。


そう、皆さんお察しの通り、前世の私は立派なスマホ中毒者であった。


まあ、それはさておき。

早速依頼を選びに行こうじゃあないか。


私たちは依頼が貼ってあるボードの前まで歩いていき、目ぼしい依頼を探す。


「えっと、Fランクの依頼は、F-の道のゴミ拾い、Fの薬草採取、F+のゴブリン討伐。だね」


「Fの薬草採取で良いんじゃないか?」


「私もそう思う!初依頼と言えば薬草採取だよねー!!」

私はそう言うと、薬草採取依頼の紙をボードから剥がす。


「いや、そういう意味で言った訳じゃないんだけど……」


冒険者ギルドにはたくさんの依頼が寄せられ、中には冒険者ギルドからの依頼もある。

それらの依頼は適切なランクに振り分けられ、冒険者は自分のランク以下の依頼しか受けることができない。

私たちは登録したばかりでまだFランクなので、Fランクの依頼しか受けることができないという状態だ。


また、これらの依頼は同じランクの中でも難易度に応じて三段階に分けられている。

仮にFランクの依頼で説明するとしよう。

F-はFランクの中でも比較的簡単なもの。

FはFランクの中でも標準的な難易度のもの。

F+はFランクの中でも比較的難しいもの。

という感じになる。


私たちはカウンターまで行くと、「この依頼を受けたいのですが」と言い、依頼書を手渡す。


「Fの薬草採取ですね。かしこまりました。資料室はご利用になられますか?」


「はい。お願いします」


冒険者ギルドの資料室では、無料で薬草や魔物に関する資料を閲覧することができる。

ただし、破ったり汚したりした場合には、弁償する必要がある。

現物で弁償するにしても、お金を払うにしても、かなーりお高いので絶対にやっちゃいけない。


……フリじゃないからね?


私たちはギルドの資料室に入ると、薬草が載っている資料を探す。


「あった、これだ。なになに〜?ふむふむ。なるほど〜」


「お前、本当にちゃんと見てるか?」


「失敬な。ちゃんと見てるよ」

……イラストだけね。


さて、真面目にやろう。

今回受けた薬草採取の依頼は、治癒草の葉、魔力草の葉、回復草の葉の三種類の薬草の葉が対象だ。

それぞれ葉の部分を二十枚ずつ採取して、ギルドに納品する。

依頼主は道具屋ポラリスで、報酬は小銀貨三枚。

日本円で言うと大体三千円ぐらいかな。

この資料によると、葉は一つの草から全部採るのではなく、それぞれの草から少しずつ採ることで、来年も安定して採取することができるそうだ。


それじゃあ早速、行ってみますか。



☆・..・★・..・☆・..・★



ここは、レイラシア大陸の西方にある国、エルニア王国の辺境都市マルク。

人口約一万人の辺境最大の都市だ。

王国の最南端の都市でありながら、オルソ辺境伯領の領都であり、魔の森に繋がるクイントの森に面している。

魔の森とは、レイラシア大陸の南部に位置する魔郷にある大森林のことで、強い魔物がウジャウジャいる。

その魔の森からのスタンピードにいち早く対処するため、ここが領都になったらしい。

冒険者ギルドは、スタンピードに対処しやすいように町の南端にある。

そして、私の家も町の南側にある。

父と母は冒険者なので、冒険者ギルドに近いほうが何かと便利なのだろう。


辺境都市マルクの周囲にはなだらかな平野が広がっているため、オルソ辺境伯領は穀倉地帯として有名だ。

そんなオルソ辺境伯領の中で、唯一薬草が採れる場所。

それが、クイントの森。


私たちはそんなクイントの森に入るために、辺境都市マルクの南門へと向かっていた。


「あっ、見えてきたよー。あれじゃない?」


「それっぽいな」


実は私たち、まだこの都市から出たことがない。

俗に言う「初めてのお使い」というやつだろうか。


「何か、身分を証明するものは持ってるか?」


門で門番に止められた私たちは、首にかけている冒険者プレートを取り出して見せる。


「Fランク冒険者のフィリアとソラだな。気をつけて行ってこいよー」


「はーい!」

「はい」

私とソラは同時にそう答えると、二人の門番に見送られながらクイントの森へと向かった。


それからしばらくの間、私たちは森へ続く小道を進んでいた。

周囲には、見渡すかぎりの草、草、草。


「茂ってますなぁ」


「そうだな。ほら、着いたぞ。森の切れ目だ」


ソラの示す先には一本の木が生えており、そこから連なるように木々が生えていた。


「よっしゃあ!ここまで長かったぁ〜」


「……ここからが本番なんだけど?」

ソラが呆れたような目で私を見る。


「いいじゃない。初めてのお使いで店に着いたようなもんなんだから」


「いや、比較対象がおかしいって……」


私たちは、それからしばらく森を進んだ。


「あった!!これじゃない?」


「ほんとだ」


「これは……治癒草かな?」


「ああ。一枚目ゲットだ」


「やったね!イェーイ!!」

興奮した私たちは、思いっきりハイタッチする。


「って、痛ったぁ。力強すぎぃ!」

私はヒリヒリする右手を振りながら言う。


「あっ、ごめん」


いくらユリアおばさんのスパルタ教育のせいで馬鹿力になってしまったと言えど、許さんぞ!!

そもそも、利き手じゃないほうでこんな力を出せるのがほんと意味分からない。

ソラの利き手は左手で、今回は右手でハイタッチした筈なのにぃ……。


ちなみに私の利き手は右手だ。


ん?

そんな情報要らんって?

オーケー。

前回洗っといて貰った首をチョンパしとくわ。


私たちが最初に治癒草を見つけたところは治癒草の群生地だったようで、治癒草の葉を十枚も集めることができた。

その後、魔力草の葉を十五枚、回復草の葉を二十枚集めたので、あとは治癒草の葉三枚と、魔力草の葉五枚で依頼された量を確保することができる。


「あっ、あそこに魔力草あるよ!!」

そう言って私は魔力草に向かって一直線に進んで行く。


「フィル!止まれ!!」

ソラがそう言った瞬間、木々の隙間からゴブリンが姿を現した。


ゴブリンは真っ直ぐ私に向かってくる。

私は突然現れたゴブリンに対して、恐怖と混乱で動けなくなっていた。

ゴブリンが私の目の前に迫り、棍棒を振り上げる。

その瞬間、ソラが私とゴブリンの間に割って入った。

ソラは刀で棍棒を受け止め、そのまま弾き返す。

そして私に背を向けたまま、後退したゴブリンに追撃した。

ソラはゴブリンの攻撃を躱すと、腹に向かって刀を横薙ぎに振るう。

ゴブリンの腹は上下にパックリと割れ、傷口から血が噴き出した。


心臓がドクドクと脈打っている。

呼吸が、できない。

苦しい。

魔物に襲われる恐怖を感じた私は、軽い過呼吸を起こしていた。


「フィル!大丈夫か!?」

ソラが私を心配して駆け寄ってくる。


私は一度深呼吸をしてから弱々しい声で「大丈夫……」と答えてその場にしゃがみ込む。


……やっぱり、駄目だったか。


前世でも、今世でも、私は恐怖に弱い。

怪我をしたとき、なかなか血が止まらないことに恐怖を感じてパニックを起こし、過呼吸を起こしたこともあったし、洗濯物が幽霊に見えて目眩を起こしたこともあった。


薄々気づいてはいた。

私は恐怖に弱いんじゃ無いかって。

魔物なんて倒せないんじゃ無いかって。


ギルドの戦闘試験では大丈夫だったのになぁ。

今考えると、あれはビートが私を傷つけるつもりが無かったから大丈夫だったんだろうな。


どうしよう……。


私の心は、恐怖と焦りに支配されていた。


「フィル、フィル!」

ソラはしゃがみ込む私の肩を揺さぶりながら声をかける。


「あっ、ごめん。何?」


「このゴブリンはどうするんだ?」


「討伐証明部位は右耳だから、そこだけ切り落として。あと魔石も取り出さなきゃ」


「分かった」

ソラはそう言うと、淡々と作業に取り掛かった。


「できたぞ」


「ありがとう。じゃああとは燃やしとくね。でも、その前にちょっとだけ休憩させて欲しい」


「ああ。分かった」


それからしばらくの間、私たちは無言で体育座りをしていた。



☆・..・★・..・☆・..・★



「さっきはごめん。次は頑張ってみる」


「ああなるのが普通だから、気にすること無いって。……俺がおかしいんだ」


「そっか……。でも、ありがと。助かった」

ソラの突然の自虐にどうしたら良いか分からなかった私は、とりあえず助けてもらったことに対する感謝を伝えた。


ソラはそれを聞いて「ふっ」と笑みをこぼすと、「どういたしまして」と言った。


良かった。

ちょっとは元気になったみたいだ。


突然ソラが自虐し始めたときは、どうしようかと思ったよ。

私、こういう状況で励ますのとか苦手だし。


私たちはそのままマルクへと戻る道を進み、冒険者ギルドに到着した。


「薬草採取の依頼、達成しました。これが治癒草の葉で、これが魔力草の葉、そしてこれが回復草の葉です」

そう言って、私は集めた薬草を受付のお姉さんに渡した。


「確かに確認致しました。依頼達成です」


あっ、そういえば私たち……というよりソラがゴブリン倒してたじゃん。

魔石買い取ってくれたりしないかな?

「すみません。実はゴブリンを討伐したのですが、魔石を買い取って貰えたりしませんか?これがゴブリンの右耳で、こっちが魔石です」

私は袋からゴブリンの右耳と魔石を取り出しながら言った。


ん?

でも、ちょっと待てよ?

このゴブリンってソラが初めて倒した魔物の魔石じゃない?

別に右耳は要らないけど、魔石は記念にとっておいたほうが良いかもしれない。

って言うか、討伐依頼じゃないんだから右耳なんて要らなかったじゃん。

私のバカ。

やっぱり、あのときの私、精神状態ヤバかったんだな。


私はソラの方を向き、小声で尋ねる。

「このゴブリンの魔石、ソラが初めて倒したやつだけど、記念にとっておく?」


「じゃあ、残しといてくれ」


「分かった」


「あの、すみません。やっぱりゴブリンの魔石売るの無しでお願いします」


「……違います」

受付のお姉さんが、ボソッと呟く。


「えっ?すみません、もう一回言って貰えませんか?」

何を言っているのか聞き取れなかった私は、もう一度聞き返した。


「違います!これはゴブリンの魔石じゃありません!!……ホブゴブリンです」


えっ?

じゃあ何?

どういうこと?

ゴブリンを倒したと思ったら、ホブゴブリンだったってこと!?

ソラ、あんたどこの勘違い系主人公だよ!!!


って、そんなことはどうでも良い。

問題は、何であんなところにホブゴブリンが居たのかだ。


ホブゴブリンはゴブリンの上位種で、Eランクの魔物。

クイントの森の中でも浅い地域に居た私たちが遭遇する筈が無いのだ。


「でも、俺たちが居たのはクイントの森の浅い部分ですよ。何であんなところにホブゴブリンが居るんですか?」

ソラが私も感じていた疑問を口に出して質問する。


「あまり詳しいことは教えられないのですが、最近増えているんです。普段よりも浅い場所に出る魔物の目撃情報が。今、ギルドから依頼を出して調査してもらっています」


それってつまり、スタンピ……。


その瞬間、冒険者ギルドの扉が勢いよく開いた。

「至急、ギルマスを呼んでくれ!」


こ、この声は……。


ソラの父親で、私たちの両親が四人で組んでいる冒険者パーティー、晴天の剣のリーダー、ガレン・モーントの声が聞こえてきた。


「はい!今すぐ!!」

受付のお姉さんはそう答えると、全速力で二階に上がっていった。


これはマズイ!!!

私たちは両親たちに背を向けたまま、どうやってズラかろうか必死に考えていた。


すると、ユリアおばさんが突然言葉を発した。


「あらぁ、そこに居るのはソラとフィリアちゃんじゃない」


お、終わった……。


「何ぃ!?」

「何だって!?」

「嘘っ!?」

ガレンおじさんとお父さんとお母さんが同時に驚く。


どうしよう、どうしよう、どうしよう!

絶対バレた!

怒られるぅ!!


「……人違いです」

ソラがそれで誤魔化すのは不可能に近い言い訳を発する。


ほ、本当に言いやがったコイツ!!


「そうか、人違いか。って、それで騙される訳無いだろ!!」

ガレンおじさんのノリツッコミが入る。


ですよね〜。

私もそう思う。


私は絶望と呆れが混ざった苦笑いをして、両親たちに背を向けたまま立ち尽くしていた。

読者を首チョンパしようとする主人公爆誕!!

(本人はユリアおばさんに首チョンパされそうです)

第五話は午後六時に投稿します!

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