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第三話 食後のデザートは別腹です

「ほら、親子丼五人前だよ。リリアー!少し早いけど、あんたも一緒に食べな」

綺麗な蜂蜜色の髪と紅の瞳を持つカルラおばさんが親子丼を運んでくる。


「はーい!」

店の手伝いをしていたリリアは、笑顔で私たちの席に向かってくる。


そう、ここは「金鶏の卵亭」。

カルラおばさんが夫婦で経営している宿屋兼飲食店だ。


先程まで店の手伝いをしていた少女、リリア・トラットリアはカルラおばさんの娘で金色の髪に紅の瞳を持っている。

断言しよう。

将来絶対美人になる。


私たちはそんな金鶏の卵亭に、昼食を食べにきていた。


「うわぁ、美味しそう!」

カイルが食欲全開で親子丼の登場を喜ぶ。


「やっぱり金鶏の卵亭といえばこれだよねー」

私も金鶏の卵亭の親子丼は大好物だ。


リリアが席に着くと、私たちは「いただきます」と言って、思い思いに親子丼を食べ始めた。


「う〜ん!ほろほろの卵とコカトリスの肉がタレで絶妙にマッチしてて、いつものことながら美味しい!」


「ありがとね。トーマスが喜ぶよ」

カルラおばさんの夫トーマス・トラットリア、通称トーマスおじさんは、この店の料理人をしている。

無口だが優しいおじさんで、皆んなから好かれている。

親の言うことは聞かなくても、トーマスおじさんの言うことなら聞く程だ。

かくいう私もその一人なのだが。


「そういえば、最近の兄さん達は依頼から帰ってくるのが遅いねぇ。何かあったのかね。何もなかったら良いんだけど」


カルラおばさん、それフラグです。

ま、フラグって気づいたから、もう折れたか。


でも、確かに最近は帰ってくるのが遅い。

いつもは昼前か昼過ぎぐらいには帰ってくるのに、最近は毎日夕方に帰ってくる。

一体どうしたんだろう。



☆・..・★・..・☆・..・★



「すみません!スーパーウルトラメガマックスジャンボパフェください!!」


「何だ、その明らかにデカそうな名前のパフェは……」


ここは、カフェ・ラズべリー。

私の行きつけの喫茶店だ。

お小遣いが貯まる度に訪れるもんだから、すっかり常連になっている。

お金が貯まるとすぐにここに来るので、私の懐が潤ったことは未だかつてない。


「この店で一番デカいパフェ」


「まあ、確かにフィルなら食えるかもしれないが……腹、壊さないか?」


「……たぶん」

そう答えた私を呆れたような眼差しで見た後、ソラは「俺も食べようか?」と提案してくる。


「ありがとう!頼んだ!」

私はその提案に一も二もなく頷いた。


「カランカラン」

不意にドアベルの鳴る音がする。


私たちが音のしたほうを見ると、そこには私たちと同じくらいの少女が立っていた。

その少女はシャツにズボンという出立ちで、肩下まである黒い巻き毛と翡翠色の瞳を持ち、中性的な顔立ちをしている。

そして今は私たちの隣の空いている席に座り、メニュー表を眺めている。


「すみません。スーパー、ウルトラ、メガマックスジャンボパフェを、ください」

少女が店員にゆっくりと話しかける。


「お客様、大変申し訳ないのですが、ただ今スーパーウルトラメガマックスジャンボパフェは品切れになっておりまして、お出しできないんです。申し訳ございません。」


マジか、私たちのやつで最後だったのか……。


「そう、なんですね……。また後で、注文しても良いですか?」


「勿論です。お決まりになりましたら、またお呼びください」


店員さんが去っていくと、少女はしょんぼりとした様子で再びメニュー表を眺める。


「何か、罪悪感が……」

私が隣の少女に聞こえないように声を抑えてそう言うと、ソラも頷く。


「どうせなら、誘ってみるか?」

ソラの予想外の提案に、私は「その手があったか」と小声で言いながら手の平を拳で叩くと、隣の少女に話しかける。


「あの、私たちスーパーウルトラメガマックスジャンボパフェを頼んでるんだけど、良かったら一緒に食べない?あっ、代金は割り勘ね!」


少しの沈黙の後、少女から返事が返ってきた。

「いいの?」


「いいよ!」


「じゃあ、食べる」

こうして私たちは三人でパフェを食べることとなった。


少女が椅子を持ってこちらのテーブルに移動してくる。

少女が座るスペースを空けるために、私が少し右に寄ると、ソラも左に寄る。

最終的に、私たちは円形のテーブルに三角形を描くように座った。


「私はフィリア。フィルって呼んで!」


「俺はソラだ。よろしくな」


「僕はノルド。よろしく」

そうか、ノルドは僕っ娘か。


次々に自己紹介をしていると、お待ちかねのパフェがやってきた。


「お待たせいたしました。こちら、スーパーウルトラメガマックスジャンボパフェでございます。ごゆっくりどうぞ」

さっきの話を聞いていたのか、店員さんは取り皿とスプーンを三つずつ持ってきてくれていた。


何層も重ねたクリームには、所々にフルーツやシリアル、ガトーショコラなどが入っている。

そしてその上には様々なフレーバーのアイスクリームや、多種多様なフルーツが山盛りに。

パフェの頂上で存在感を放っている渦巻き状のホイップクリームには、カラースプレーやチョコレートソース、棒状のクッキーなどがトッピングされている。

そして何と言ってもデカい。

半径約十五センチメートル、高さ約五十センチメートルってとこかな。


「うわぁー!美味しそう!!」

私が感嘆の声を上げると、ノルドがゴクリと喉を鳴らす。

ソラの方を見ると、もう既に淡々とパフェを取り分けていた。

私とノルドも負けじとパフェを取り分け始める。


「ん〜!あまくて美味しい!!」

私が最初に食べたのはトッピングのついたホイップクリームだ。


とにかく甘い。

甘いったら甘い。


次に食べたのはバニラアイスで、すっきりした甘味がホイップクリームを食べた後にちょうどいい。

ソラとノルドは、それぞれ苺アイスと抹茶アイスを食べている。

他にも、チョコレートアイスやピスタチオアイス、マンゴーアイスなんかもあった。


アイスを食べ終えると、私たちはフルーツの山に取り掛かった。

苺にみかんにパイナップルに、葡萄まである。

まさしく、選り取り見取りだ。


山のようなフルーツを食べると、最後にクリームの層が待っている。

所々にフルーツやシリアル、ガトーショコラが入っているおかげで飽きることはない。


「「「ご馳走様でした」」」

言葉の通りご馳走だった。


「もうダメ、私しばらく動けない」

お腹いっぱいになった私は、椅子の背もたれに寄りかかってぐったりとしていた。

痩せの大食い体質を持っている私であっても、甘いものを食べすぎたらダウンするのだ。

ちなみに、弟も私と同じ体質だ。


「右に同じく。しばらく甘いものはいい」

私の右隣に座るソラも心なしか疲れたような顔をしている。


「左に同じく」

私の左隣に座るノルドがケロッとした顔でそんなことをのたまう……って、え?左!?


「いや、ノルド。そんな言葉ないからね!?」

いくら私の左隣に座ってるからって、そうはならないでしょ。


「そっか」

あまり表情は動いてないが、少し目尻が下がっているような気がする。


ノルドさんよ……あんたまさか天然さんじゃないでしょうね。


私が固まっているのを見て、ノルドが首を傾げる。


可愛いかよ。


「フィルにツッコませるとか、相当だな」

ソラがそんなことを言う。


確かに、私がツッコむことってなかなかない。

私、ボケてることのほうが多いからなぁ。

そしてボケ回収係は大体ソラだ。


今回はソラがダウンしてたから、仕方なーく私が回収してあげたのだ。


それから数十分ほど経った頃に、私とソラはようやく生気を取り戻した。


「じゃあ、そろそろ帰ろっか」


「そうだな」


「うん」


私が切り出すと、二人が答える。


パフェの代金を支払って店の外へ出ると、ノルドが「バイバイ」と言って左の道を進もうとする。


「……ノルド、そっちは城壁だよ?」


「ほんとだ」


その方向音痴っぷりで、一体どうやってここまで辿り着いたって言うんだ。

何か、この子を一人で帰すの心配だな。


「ノルドの家はどこら辺なの?」


「真ん中らへん」


「……そうなんだ」


真ん中らへんって、領主の館じゃなかったっけ。

また自慢の方向音痴っぷりを発揮してるよこの子。


「じゃあ、途中まで一緒に帰ろう!」


まあ、住宅街はこっちだし、ノルドの家もこっち方面の何処かにあるでしょ。


「ノルドって、何か武術を嗜んでるのか?」

ソラがノルドに話しかける。


「何で、分かったの?」


「いや、姿勢とか歩き方とかが武術を嗜んでる人のそれだなぁって」


よくそんなこと分かるな。

私にはそういうのさっぱりだ。


でも、私にも分かることがある。

「ノルド、魔法もかなり使えるでしょ」


ノルドが不審者を見るかのような目で私を見る。

いや、何で私だけ?

ソラは?


「ストーカーじゃないからね?」

私はあらぬ疑いを払拭するために弁明する。


「その……ノルドの魔力が安定してるからさ」


「分かるの?」


「うん。分かる」


「すごいね」


「でしょ!ありがとう!!」


「ちなみに、俺の魔力はどうなってるんだ?」


私は腕を組み、ソラの魔力を見極めようとする。

「う〜ん、垂れ流しだね。無駄遣いの権化」


「その言い草はないだろ」

ソラが不満そうに言うので、私は笑い、ノルドも笑みを溢した。


それから、私たちはしばらくの間話しながら歩いていた。


「ここ、知ってる。」

不意にノルドが言う。


「でも、この辺って領主の館しかないよ?本当にこの辺なの?」


「うん」


「一人で大丈夫?」


「大丈夫。子供じゃない。一人で帰れる」


ひとまずノルドを信じてみるか。

まあ、少し歩けば住宅街だし、大丈夫でしょ。

……ノルドが城壁の方に向かいさえしなければ。


心配だけど、ノルドがこれだけ言ってるんだから、これ以上ついて行くのも野暮ってもんだよね。


「分かった。じゃあ、またね!!」


「またな」


「うん。バイバイ」


ノルドと別れた後、私たちはしばらく無言で家に続く道を歩いていた。

すると唐突に、ソラが口を開く。

「なあ、フィル。さっき冒険者ギルドで言われたこと覚えてるか?」


「うん。覚えてるよ」


「フィルは何か、その、覚悟みたいなのはしてるのか?」


「してないよ」


「そうか、してるのか……って、は?してない!?」


「うん。してない」


「じゃあ、フィルはどうすんだよ」


「私は……強けりゃ良いかなって。悪い奴らが手も足も出ないくらい強くなったら、わざわざ傷つける必要ないじゃん?まあ、こういうことを言う奴がいざというときは動けなかったりするんだろうけどさ。それに、あくまでも私にとって冒険者は、目的じゃなくて手段だから」


「そうか……。俺は、積極的に人を傷つけたくは無いんだ」


「うん。そうだね」


「でも、大事な人が傷つけられるくらいなら、俺は傷つけることを選ぶと思う」


「そっか。じゃあ、傷つけずに大事な人を守れるくらい強くならなきゃだね」


「ああ。もしフィルが危なくなったら……自力で頑張れ」


「何でだよ!そこは助けろよ!!」


どうやら、いつもの調子が戻ってきたようだ。


「じゃあ、私はソラの出番がなくなるくらい強くなろっかなぁ」


そしたら、ソラは人を傷つけなくて済む。


「それは話が違うだろ?」


私たちは、どちらからともなく笑い出す。

笑っているソラの顔に、迷いの色は一切見られなかった。

第四話は午後三時に投稿します!!

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