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第二話 冒険者登録は秘密裏に

「それじゃ、やりますか。冒険者登録」

ご機嫌斜め上、むしろ垂直な私は、無意識のうちにスキップをしながら冒険者ギルドに向かっていた。


「……言った側からこれだよ」

ソラが呆れた顔をして溜め息を付く。


冒険者というのは、物凄く簡潔に言うと依頼を達成してお金を稼ぐ仕事だ。

ランクはF〜SSSまであり、本人やパーティーのランクによって受けられる依頼の難易度が変動する。

また、SSSランクはほぼ伝説と化しているのでSSSランクの依頼というものは存在しない。

今現在確認されている最高ランクの冒険者はSSランクが三人だ。


しばらく歩いて……いやスキップしていると、冒険者ギルドが見えてきた。

少し時間をずらしてきたので、万が一にも両親たちに遭遇することはない。

筈だ、多分。


「着いたな」


「着いたね」


冒険者ギルドに着いた……のだが、何故かどちらも扉を開けようとはしない。

両親が居るかもしれないという恐怖と冒険者ギルドという未知への好奇心を天秤にかけた結果、

私たちは持ち前の譲り合い精神を発揮した。


「フィル、お先にどうぞ」


「いや、ソラが開けていいよ」


「「……」」

そのまましばらく顔を見合わせていたが、このままでは何も進まないことに気づき、仕方なくソラに問いかける。


「どうする?」


ソラは暫し何かを考える様子を見せるが、考えが纏まったのか口を開いた。

「二人でチラッと開けて、もし母さん達がいたら……即座に退却しよう」


「分かった。もし、見つかったらどうする?」


「う〜ん、『人違いです』とでも言って逃げるか?」


「それは流石に無理があるでしょ!」

私は笑いながらそう言う。

かと言って他に代替案があるわけでも無かったので、ソラの作戦に了承した。


私たちは作戦通りに扉を少し開けて、隙間から中を覗く。

中には、両親どころか受付のお姉さんくらいしか居なかった。


「全然居ないね」


「そうだな」


私たちは扉を開けて中に入り、カウンターの前まで歩いていくと、代表して私が声をかける。


「冒険者登録をお願いします」


「かしこまりました。それでは、必要書類の記入をお願いします」


「「はい」」


必要書類の記入を終わらせると、ギルドの規約について簡単に説明された後、奥の扉へと案内された。


「それでは、戦闘試験を行いますので、ここからは試験官の指示に従って下さい」


「「はい」」

私たちがそう答えると、受付のお姉さんは扉を開けて中に入るよう促す。


扉の先は屋外に繋がっていた。

随分と開けているので、訓練場か何かだろうか。

周囲は高い塀に囲まれており、壁際には訓練用のカカシやら的やらがある。

そして私たちの横に置いてある木箱の中には木剣が積み重なっていた。


「お前らが加入希望者かぁ!俺は試験官のビート・ヴェリノスだ!」

大柄な男が訓練場の中心に立ったまま、こちらに向かって声を張り上げる。


「そうでーす!!私たちが加入希望者でーす!!」

私も大声を出して返事をする。


「そうかぁ!それじゃあ試験を始める!ここにあるものは何でも使って良い!自分の武器を使っても良い!全力でかかってこい!俺に一撃でも当てることができたら合格だ!!」


えっ、なんか急に始まったんだけど。


隣を見ると、そこには自分の刀を鞘から抜くソラが……って、え?

もしかしてやる気満々!?


「ちょっとソラ!?」


「フィル、援護よろしく」

そう言い残すと、ソラはビートに近づいて行った。


「嘘だろ!?」

くそぅ、こうなりゃ自棄だ!!

私は距離を置いたまま、二人が向かい合っている場所の横まで移動する。

そして体内から魔力を放出する。

これで戦闘準備はバッチリだ。


魔法は主に【放出(リリース)】【造形(モデル)】【具現化(クリエイト)】の三段階で構成されている。

魔力を体外に出す【放出】。

放出した魔力で形を作る【造形】。

造形した魔力を物質に変換する【具現化】。

この三段階を行うことで、やっと一つの魔法になる。

尚、これらを一からやっていると結構時間がかかるので、先に魔力を放出しておくという手法が確立された。

こうすることによって、体内から魔力を放出する時間を短縮することができるのだ。


ソラはビートの間合いを探るように近づいて行くと、残り二メートルというところで止まり、刀を構える。

この距離が、ソラにとってのベストなのだろう。

一歩踏み込むだけで攻撃することができ、尚且つ攻撃がソラに届くまである程度の余裕がある。


「どうした?来ねぇのか?」

ビートがニヤリとした笑みを浮かべながら問う。


「勿論行く」

そう答えると同時にソラは間合いを詰めると、ビートに向かって刀を一閃。

ビートはそれを軽々と避けると、ソラに向かって拳を打ち込む。

ソラは打ち込まれる拳を後ろに跳んで躱すと、追撃してくるビートにカウンターを仕掛けるが、難なく躱されてしまう。


「攻撃にキレがねぇぞ?鍛錬不足か?それとも……人を斬ることを躊躇しているのか?」

その言葉に、ソラはビクッと肩を震わせ後ろに跳んだ。


「図星か。そんなんじゃ、この世界ではやってけねぇぞ。殺るか、殺られるかだ。それができないなら……冒険者になるのは諦めな」


何合か打ち合っただけでそこまで見抜くとは……。

この人只者じゃない……かもしれない。


私はこの件については一応考えてある。

まあ、私の意見が果たして答えとして成り立っているのかという問題はあるが……まあ、一旦置いておこう。


ソラがどんな結論に至るかは分からないが、そのときは本人の意志を尊重しようと決めている。

本音を言えば一緒に冒険者やって欲しいけどね。


そのとき、ふと目の端で何かが動いた。

ソラだ。

ソラがこちらに向かってくる。

私の近くまで来るとソラは刀を仕舞ってこちらにチラッと目をやり、急いで木箱の方へ向かう。


成程、そういうことね。


「手ぶらで戦うたぁ、いい度胸だなぁ!!」

そう言うと、猛スピードでソラに向かっていくビート。


私はビートに向かって魔力を飛ばし、足元から凍り付かせるように氷を生成することで、ソラの方へと向かうビートの動きを妨害した。


要は、ソラが木剣を手に入れるまでビートをソラに近づかせなきゃいい訳でしょ。

なんだ、簡単じゃん。


「うぉっ!」

片脚を凍らされたビートは、驚いて前のめりになりつつも、凍っていないほうの脚を使って体勢を立て直す。

その瞬間、私はビートのもう片方の脚も凍らせた。


「っ!無詠唱、しかも遠隔かよ!!」


魔法の遠隔操作は難しいとされている。

何故なら自分から離れた場所で魔力を動かさなければならないからだ。

大抵の人は、自分の周りで魔力を動かすのが精一杯。

しかし私は少しぐらい離れていても動かすことができる。

また、魔法において詠唱というのは概念を定着させるために唱えるものであり、使いたい魔法についてきちんとイメージすることさえできていればわざわざ詠唱する必要はない。

まあ、そのイメージができない人がほとんどなので、基本的に無詠唱は難しいとされている。

私の場合は……ほら、前世効果ってやつ。

私も必殺技レベルの魔法を使うときは詠唱したほうが使いやすいけど、単純な魔法ならイメージだけのほうが使いやすかったりする。

下手に詠唱してしまうと、そっちに意識がつられてしまうのだ。


ということで、実は私、すごいんです。

……褒めてもドヤ顔しか出ないよ!


「うわぁ〜。要らないなぁ〜」とか思ったそこのあなた?

首を洗って待ってろよ?


そこで状況が動いた。

というか、いつの間にか動いていた。

ソラは無事木箱に辿り着き、木剣を手に入れていたのだが、ビートの拳が何と私の目の前まで迫っていた。

呑気に解説なんてしなきゃ良かった。


「ピシッ」

咄嗟に作った【光盾(ライトシールド)】にひびが入る音がする。


前言撤回。

やっぱ簡単じゃないかも。

この人強すぎ!!

もうソラは木剣を手にしたみたいだけど、代わりに私がピンチです。


「何だぁ?……まさか、光魔法か!?おいおい、どうなってんだ!!」

ビートがそう言うと同時に【光盾】が「パリン」という音と共に割れる。


アンタ何で拳だけで【光盾】割れるんだよ!!!


絶体絶命の状況に陥ったそのとき、急いで駆けつけてきたソラが、ビートの脇腹に木剣を打ち付けようとする。

ビートはそれを避けるために横に跳ぶ。


「俺のこと、忘れてないか?」

ソラがビートを挑発するように言う。


「あぁ、居たんだな!影が薄すぎて気付かなかったぜ」


ビートが今思い出したような素振りで言うと、ソラの動きが固まった。


「……」


「すまん。冗談のつもりだったんだが」


笑えねぇですよビートさん。


落ち込んだ様子のソラを見て、私はすかさずフォローを入れる。

「大丈夫だよソラ。影が薄いのも才能だよ」


「……二人して酷くないか?」

助け舟を出そうとしたのに、間違えて泥舟を出してしまったようだ。

まあ、わざとだけど。


「フィル、アイツの動きを一瞬でも止めてくれたら、絶対に一発入れる」

ソラが小声で私に作戦?を伝えてきた。


「分かった。任せて!」


「おう、任せた」


最後にグータッチをして私たちはそれぞれ位置につく。


「作戦会議は終わりか?」


「まあ、一応?」

ピートの言葉にソラが答える。


正直、作戦と言えるのか怪しいところではあるよね。


「じゃあ、次はこっちから行くぞ」

そう言って踏み出したビートの脚を凍らせようとするが、危険を察知したビートは途中で進路を変え、元の進路には氷だけが残った。


「そう何度も同じ手に引っ掛かるかよ」

そう言いつつも、私の妨害を邪魔に思ったのか先にこちらを潰そうと向かってくる。


「速っ!?」

ビートは一瞬で私との距離を詰めると、右腕を振りかぶる。

私はこちらに飛んでくる拳を起点に、ビートの体を頭を除いて凍らせた。


「っ!?生成速度バケモンかよ!!」

そんな声を上げるビートの後ろにソラが現れ、ビートの頭頂部を木剣でちょんと叩いた。


「一撃入れたぞ?」


「……何故そこを狙った」


「いや、「氷は俺の体に入らない!」とか屁理屈言われたら困るなぁって」


「そんなこと言わねぇよ……」

ビートは呆れ顔でそう言うと、私が生成した氷から「バキッ」という音と共に出てきた。


そういえばこの人、さっきもいつの間にか出てきてたよね?

一体どうなってんの?


「とにかく、二人共合格だ。よくやったな」

そう言うと、ビートは私たちの肩をバシバシ叩く。


「坊主、刀では躊躇いを感じるから木剣に変えるということを咄嗟に判断したのはよくやった」


ビートが先ほどまでの顔から一変して真面目な表情になる。


「坊主、試験中に俺が聞いたこと、ちゃんと考えておけよ?」


「ああ。ちゃんと考えておく」

ソラは少し沈んだ顔でそう言った。


「ところで、問題はあんただ」


「えっ!私!?」

「やっぱり不合格だ」なんて言わないよね!?


「あんた、何処であんな魔法覚えたんだ。誰に教えて貰った?勿論、言いたくないなら言わなくてもいい」


「?独学ですけど」


「はあっ!?独学だとぉ?嘘つけ!!」


「本当ですよ。俺、フィルが練習してるところ見てましたし。……庭を燃やしてるところとか。」


一言余計だよ!!


「庭を燃やし……まあそこには触れないでおくとして、一先ずそれで納得しておこう」


もう触れてるって。


「それは置いといて。坊主、あんた、身体強化はしてたのか?」


「?いえ」


「くっ!お前もかよぉ!!普通子供にあんな動きできるか!?」


「まあ、ソラはスパルタ教育されてるもんね……」

私はソラに憐憫を含んだ眼差しを向けながら助け舟を出す。

ふぅ、やっとまともな船出せたわ。


「そうか……。もう俺はこれ以上驚かんぞ」

ビートは何処か遠くを見つめるような眼差しで呟く。


「あっ、そういえば私の氷からはすぐ出てきてましたけど、凍傷とかになったりしてませんか?良かったら、治癒魔法で治しますよ?」


「ち、治癒魔法だとぉー!?」


あれ、さっき「もう驚かん」とか言ってなかったっけこの人?


「国内にある冒険者ギルドの中でも五指に入ると言われているこのマルク支部でさえ、治癒魔法を使える奴なんて一人しか居ねぇんだぞ……」


おう……。

解説ありがとよ。

そして、その一人……多分私のお母さんだ。


ビートは頭を抱え、溜め息を吐く。


「まあいい、とにかく合格だ。ギルドプレートを作るから、また後日取りに来い。」


「「はい!!」」

元気よく返事をした私たちは「さようなら」と挨拶すると、冒険者ギルドを後にした。

第三話は午後零時に投稿します!

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