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第九話 初心者講習は丁重にお断りしたかった

スタンピードから五日後、私とソラは依頼を受けに冒険者ギルドに来ていた。


扉を開けると、そこには……ユリアおばさんが立っていた。


「待ってたわよ、ソラ、フィルちゃん」


よし、帰ろう。

嫌な予感がする。


「今日はちょっと覗きに来ただけだから……これで」

そう言って私は後ろを振り向く。


「俺も」

ソラも同じことを思ったのか私に続こうとする。


が、その瞬間、私とソラは何者かにガッシリと肩を掴まれた。


何者かって?

ユリアおばさんに決まってるじゃないか。


「逃がさないわよ?」

ユリアおばさんは、般若の形相で私たちに笑いかけてくる。


あっ、これ、逃げられないやつだ〜。


「行くわよ〜」

私たちは、ユリアおばさんに引き摺られながら訓練場に入った。


「みんな〜。ソラとフィルちゃんを連れてきたわよ〜!!」


「ほんとだ〜!」

「やったー!」

「本物だ!!」

「今日の昼食には新メニューのチキンオムライスがお勧めだよー!」


なんか一個おかしな反応が混ざっていると思ったら、子供たちの中にリリアが居た。


まさかリリアに冒険者の才があったとは。

だってここに居るっていうことは、あのビート試験官を倒したってことでしょ?


冒険者ギルドは、試験に受かりさえすれば何歳でも登録できるので、私たちより年下の冒険者も少人数ながら居る。


「やっぱりこうなったわね。客寄せパンダに丁度良いわ」


心の声ダダ漏れなんだけど。


「それに、無給で働いて貰えるしね」


何処のブラック企業だよ。


でも、ありそう。

「妖怪ユリアブラック株式会社」みたいな?


その瞬間、背筋が凍るような感覚がしたので振り返ると、ユリアおばさんがまたもや般若の形相でこちらを見ていた。


ごめんなさい。

嘘です。

そんな会社なさそうです。


聞くところによると、ここに居る子供たちは全員、私たちがワイバーンを倒した現場を見たことに影響を受けて、冒険者登録をしたようだ。


へぇ〜。

そっか〜。

照れちゃうな〜。


正直、満更でもないフィリア・シュテルンであった。


「それじゃあまずは、基礎訓練から。体力向上のために訓練場を十周走るわよ!」


子供たちは、はーい!!と元気よく返事をして、訓練場の端を走り出す。


「ほら、アンタたちも!早く走りなさい!!」


「えっ、私もやるの!?ソラだけで良くない?」


「俺が走る前提なのやめろ」


私の抵抗も虚しく、結局みんなと一緒に走らされてしまった。


グスン……。

回復役って、ただその場に突っ立っているだけで良いんじゃなかったの?


途中までは頑張って走っていたが、残り五周を切った所で私の体力は尽きてしまった。


致し方ない。

ここは、ちょいとドーピングさせていただきやしょう。


私は体全体に魔力を循環させる。

そう、俗に言う、【身体強化】というやつだ。

これで疲労を感じにくくなるし、筋力も増える!


しかし、異常なほどに様子が変わった私に気づいた者がいた。


「フィルちゃん!身体強化しないの!」


そう、妖怪オババだ。


「何勝手にあだ名作ってるのよ!しかも原型ないじゃない!」


「何で分かったの!?」


私は潔く身体強化を切って走るが、その代わりに脚が悲鳴を上げる。


やっとのことで10周を走り回った私の周りには、もう誰も居なかった。


つまり、最下位だった。


「はい、じゃあ次は、武術組と魔法組に分かれて訓練しましょうね!武術組は私とソラで教えるわ。魔法組はフィルちゃんに教えてもらってね」


「えっ!?私!?聞いてないんだけど!?」

突然のご指名に私は狼狽える。


「実はね、最初はパーティー全員で初心者講習をする予定だったのよ。でも晴天の剣、というよりかはリリノアに指名依頼が来てね?急遽、二手に別れることになったのよ。で、私は魔法を教えられないからフィルちゃんにやって貰おうって話」


「成程…….」


責任重大なんだけど……。


「それじゃあ、よろしく〜」

そう言って、ユリアおばさんはソラと共に去っていった。


「えっ、丸投げ!?」


「フィルお姉ちゃんよろしくねー!」

「よろしく〜」


「こちらこそよろしくね」


や、やるしかないか……。


「じゃあまず、名前を教えてくれる?あっ、リリアは分かってるよ」


「じゃあ僕だけか〜。僕の名前はルワンだよ〜」

薄紫の髪をマッシュにした男の子が答える。


「そっか〜。ルワン君か〜」


「フィルお姉ちゃん、喋り方うつってるよ」


リリアの指摘に私は、はっ、と口元を抑える。


「ところで二人は、どんな魔法を使うの?」


「私は治癒魔法!」


「えっ、治癒魔法!?すごいね」


治癒魔法を使うためには、ものすごい量の魔力が必要である。

と、世間一般では言われている。

しかし、これが間違いであることを私は知っている。

何故なら、私の魔力量は雀の涙だからだ。


治癒魔法の使い手である母の魔力量は見事なものだが、残念ながら私の魔力量は父似だ。

父は魔法使いではあるものの、風魔法しか使わない。

そこには、「魔力がすぐになくなるから」という理由があった。

風というのは、気圧が高い場所から低い場所に空気が流れ込むことでできるものだ。

即ち、空気を動かせば風ができる。


火魔法を使うためには火を作らなければならない。

水魔法を使うためには水を作らなければならない。

土魔法を使うためには土を作ら……なくてもその辺にあるが、街中では使えない。

その点、空気なんて何処にでもあるので、わざわざ作らなくても大丈夫!

そのため、風魔法を使うと空気を作る分の魔力が浮くのだ。

動かすための魔力は必要だけどね。


おっと、話が逸れた。

つまり何がいいかというと、こんなに魔力が少ない私でも治癒魔法を使う方法がある。

ということだ。


それは、知識。


知識がないと、魔法は使えないのか。

答えは否だ。

しかし、知識がない場合、足りない知識を補う必要がある。

これはまだ仮説の域を出ないが、足りない知識は魔力で補っているのではないかと私は考える。

つまり、知識があれば少ない魔力で魔法を使うことができるのだ。


余談だが、治癒魔法と創造魔法はイコールで表されると私は考えている。

それはズバリ、創造魔法も知識さえあればどちらも少量の魔力で扱うことができるということ。

ちなみに先日のスマートフォンの場合は、仕組みを全く知らなかったため魔力が足りなかった。

チェーンとか、比較的簡単な仕組みのものは作れるんだけどね。


「僕は土魔法だよ〜。あのお兄さんみたいに土の壁を出せるようになりたいな〜」


「そっか〜。一緒に頑張ろ〜ね〜」


「フィルお姉ちゃん、またうつってる」


「はっ、私としたことが……」


さて、二人に何を教えようか。

「ルワン君は土魔法の練習でしょ。リリアは武術組に怪我人が出たときに治癒魔法を使って貰うとして、もう一個、身を守るための魔法を使えるようになっておこうか」


「うんっ!」

「は〜い」

リリアとルワンが同時に答える。


「フィルお姉ちゃん」


「なぁに?リリア」


「覚えるなら、氷魔法がいい」


「おっけー!」


氷魔法ならルワンと被らないし、防御力もあるから丁度良いか。


「じゃあ、まずはルワン君から。今使える土魔法は何?」


「【土弾(アースバレット)】と【土人形(アースゴーレム)】かな〜」


「今できる?」


「できるよ〜」


「じゃあ、まずはアースバレットから。あそこの的に向かって打ってみて」


「は〜い」


「【土弾】」

ルワンは右手を前に構えると、そこに魔力を集めて土の弾を作って撃つ。

土の弾は的の端っこに被弾し、跳ね返って地面に落ちた。


「魔法自体は凄く上手にできてるから、あとは射撃の精度と速度と威力を上げるのと、土の弾の生成スピードを速くすることかな。

精度は何回も撃って上げるしかない。あと、速度と威力を上げる方法なんだけど、魔法って、魔力を物質に変えてからその物質を魔力で押し出すでしょ?この押し出すための魔力の量を増やすと、速度と威力が上がるよ。そして、土の弾の生成スピード。これもひたすら練習かな。あとイメージトレーニングも効果あるかな。魔法ってイメージだからさ、土の弾を速く出すイメージをすることさえできたら、いずれはできるようになる訳。イメージできない場合は、実際に速く出すのを見せて貰うのが効果的かな。あと、上級者用の精度と速度と威力を上げる方法があるんだけど、聞きたい?」


「聞きた〜い」


「じゃあ解説するね。さっき、魔法は魔力を物質に変えてからその物質を魔力で押し出すって言ったでしょ?そのとき、普通は最初の力だけ加えて、あとは自然の力に任せるの。でも、物質に魔力を纏わせて、最初だけでなく常に魔力で押し出し続けると、こんなこともできる」


私はそう言うと、土の弾を生成し、的に向かってジグザグに撃ってみせた。


「おぉ〜!」

「すごーい!」

ルワンとリリアから感嘆の声が上がる。


「物質を常に押し出し続けると、いつでも方向転換できるから確実に当てられるし、推進力が上がるから威力も上がる。ただし遠隔で魔力を操作する必要があるから、魔力操作の練習を沢山しなきゃいけない。だから、今は最初に言ったやつから始めるのが良いと思うな」


「分かった〜」


「うん!頑張ってね!じゃあ、次はリリア。私が作った氷を見ながら、魔力から氷を生成してみて?」


そう言うと、私は手のひら大の氷を作り出し宙に浮かべる。


「うん!やってみる」


魔力から物質を作り出すというところは治癒魔法と一緒だから、おそらくできるはず。


リリアは手のひらを下に向けて魔力を集める。

そうやってしばらく集中していると、手のひらから氷が落ちてきた。


「できた!!」


「おっ、やったね!じゃあ次は、氷で壁を作ってみよう!今から、見本を見せるね」


私は魔力を放出すると、すぐに分厚い壁の形に整えて氷に変換する。

「【氷壁(アイスウォール)】」

すると、目の前に一瞬で壁が現れた。


「壁の出現方法は、ノルドみたいに下から徐々に出したりしても良いけど、一瞬で出現させるほうが咄嗟に攻撃を防ぎやすいからオススメ」


「じゃあ私は一瞬で出現させるね!!【氷壁】」

そう言うと、リリアは目の前に魔力を放出し、壁の形に整え、氷に変換する。


「バッチリ!あとは、生成速度を上げるだけ!生成速度の速さが自分の命を守るからね〜!」


「うん!」


「ルワン、どう?できた?」


「うん、できたよ〜。【土弾】」

ルワンは土の弾をジグザグに撃ち、的の真ん中に見事命中させる。


いや何でできんだよ。

凹むよ私。


私が習得に三年かかった技術を、いとも簡単に……。


私は驚きに言葉を失っていたが、数秒後に我に返る。

「もっとかかると思ってたのに、凄いじゃん!」


「えへへ〜。ありがと〜」


ルワンがこの技術をいとも簡単に習得できた理由を、私はこのあとすぐに知ることとなる。

フィリアの脳内解説についていけるのは、ユリアおばさん、君だけだ……。

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