気まぐれでいたずら好き、だけど頼れる冒険者の友人
トルネコの大冒険 不思議のダンジョン:ちょっと不思議のダンジョン
「あら、新人さんね。いい度胸してるじゃない。だけど、そう簡単にいくと思ったら大間違いよ。覚悟しなさい。」
「ちょっと不思議のダンジョン」は、そう言ってニヤリと笑う。彼女の身体は、足を踏み入れるたびに毎回その姿を変える摩訶不思議な構造をしているのだ。そのため、前回通れたはずのところが通れなくなっていたり、手に入ったはずのアイテムもないなんていうのはごく当たり前のように起こる。冒険者は思ったように先に進めずに苦労することになるのだが、彼女はそんな冒険者の反応を見るのが大好きなのだ。
彼女の日常は、まさに「変化」の連続だ。新しい訪問者があるたびにその様相を変えて、冒険者を戸惑わせる。だがしかし、それは決して冒険者に対する意地悪でもなんでもなく、彼女のお節介からくるものなのだ。
というのも、彼女にはさらに攻略難易度の高い兄が二人もいて、自分如きを攻略できないようでは兄たちに挑むなど絶対に無理と思われるからだ。
それ故に、冒険者の成長を促すために敢えて試練を課しているというわけだ。
それに、無理難題を吹っ掛けるというほどでもない。
「ちゃんとあたしの忠告見てくれたのかしら。基本的な戦い方ぐらいちゃんと覚えてよね。」
「いい?お腹が空いたらパンを食べるの。パンがなければケーキを、じゃなくて草を飲むの。じゃないと空腹で死んじゃうわよ!ほら、だから言ったじゃない!」
彼女は、冒険者が最初に戸惑うであろう操作や、ダンジョンの基本的な知識を懇切丁寧に教えてくれる。時には、わざと危険な状況を作り出し、そこからどう脱出するかを考えさせることもある。
彼女の中のモンスターたちは、兄たちと比べるとそこまで強くはないが、それでも迂闊なことをしたり油断すればあっという間に倒されて地上に送り返されてしまう。ちゃんと対策を身につけることが肝要だ。
彼女の喜びは、冒険者が少しずつ成長していく姿を見ることだ。初めて敵を倒した時の興奮、新しいアイテムを見つけた時の笑顔、そして、罠を回避できた時の安堵の表情。その一つ一つが、彼女の胸を温かくする。
彼女には特殊な癖がある。それは、冒険者が同じ階に長々と居座っていると身震いを起こしてしまうというものだ。その身震いは地震となって落とし穴を作り、冒険者をひとつ下の階へと落としてしまうことがある。
「ダメよ、いつまでもそんなところにいちゃ。ああん、早く下に行ってくれないと…やだ…だから言ったのに。」
それは、冒険者に「時間」を意識させるためだ。不思議のダンジョンでは、時間を無駄にすることは失敗に直結する。その厳しさを、この「ちょっと不思議のダンジョン」で学んでほしいと彼女は願っている。
そして、彼女の最奥、地下10階には「王様の宝石箱」が置き去りにされている。それは、このダンジョンをクリアした証であり、冒険者が一人前として認められるための「卒業証書」だ。
「よくやったなわね!あなたは、この「王様の宝石箱」を手に入れるにふさわしい、勇気と知恵を示したわ!だけど、帰り道も気を抜かないのよ。お腹が減らないようにはしてあげるけど、ちゃんと自分の足で地上へ戻りなさい。」
彼女は冒険者を甘やかすだけのようなことはしない。飴と鞭のバランス、メリハリをつけるのがとてもうまいのだろう。
彼女は冒険者の「努力」にも寛大だ。
「あらあら、また失敗してしまったのね。これで20回目よ。仕方のない人ね。王様に言っておいてあげるから、特別に力を貸してもらうといいわ。」
敢え無く20回失敗した冒険者には、王様から「はぐれメタルの剣」と「はぐれメタルの盾」が貸与されるようになる。それは、彼女が冒険者の努力を認め、それでも諦めない心を応援している証拠だ。そして、30回失敗した冒険者に対しては……。
「はぁ……。もう30回よ。あなたも諦めが悪いというか、見どころがあるというか……。でも、あたしが付き合えるのはもうここまでよ。あなたは、ここで多くのことを学んだはずよ。さあ、もうあたしのことは忘れて兄の所へお行きなさい。」
彼女への挑戦には回数制限があるのだった。
うだつが上がらない冒険者も30回失敗した後は、二度と彼女の中に入れなくなる。
彼女としては一人前になるまで面倒をみてあげたい気持ちもあるのだが、世界の理を捻じ曲げるほどの力は彼女にはない。
後ろ髪を引かれる思いで冒険者を送り出すことしかできないのだ。
そして、同様に「王様の宝石箱」を無事に地上まで持ち帰った者にも、彼女の入り口は二度と開かれることはない。
「さあ、王様のところへ報告に行くのよ!そして、次なる冒険へと旅立つの!」
宝石箱を手にした冒険者を外へ送り出すと、彼女は満面の笑みを浮かべる。まるで、さえないはずだった友人がいつの間にか成長し、都会へと旅立っていくのを見送る立場のような心境だ。彼女の言葉は後ろを振り向かない冒険者には届かないし、すぐに忘れられてしまうことだろうけど彼女はそんなことは気にせずに、「不思議のダンジョン」へと思いを馳せる冒険者の背中を押すのだ。
しかし、時にはこんなことも。
「ったく、また同じ間違いを繰り返すのね!学習能力というものが無いのかしら!もっと周りをよく見ることね!」
「アイテムは20個しか持てないっていうのに、後生大事に抱えたままでどうするのよ!ちゃんとタイミングをはかって使わないと!」
同じ失敗を繰り返す者や、彼女の忠告を無視して行動する者を目の当たりにして、思わず身震いしてしまうこともあり、冒険者は慌てふためいてしまう。
「はぁ……。また、冒険者を下の階に落としちゃったわ。」
彼女の日常は、ひたすら彼女がしでかすことへの冒険者の反応を見ることの繰り返しだった。しかし、その根底には限りない優しさが込められていた。彼女は願わずにいられなかった。この場所で学んだ冒険者が、あらゆる不思議なダンジョンを制覇できるようになることを。
その日のために、彼女は今日も静かに、しかし情熱的に、その場所にあり続ける。彼女は、単なる初心者用ダンジョンではない。彼女は、すべての冒険者の「頼れる友人」なのだ。時折、冒険者を鼓舞するかのように、彼女の内部をいたずらな風が吹き抜ける。
そして、また一人、新しい冒険者が彼女の入り口に立っている。「ちょっと不思議のダンジョン」は、今日も静かに、しかし温かい目で見守るのだ。
「さあ、入っていらっしゃい。あたしがどれほどのものか見てあげるわ。」
これは、かつて多くの冒険者たちがその第一歩を記し、成長への階段を駆け上がった、とあるダンジョンの、とある日常である。その名は「ちょっと不思議のダンジョン」。いたずら好きだけど、時に厳しく、時に優しく見守り続ける、頼りになる存在だ。
名称:ちょっと不思議のダンジョン
所在地:不思議のダンジョンの近く
知名度:★★★★☆
来訪者数:80万人
リピート率:★★☆☆☆
見どころ:1000回遊べるRPGだけに千変万化するダンジョン内部




