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苛烈であるも温かく見守る鬼教官

ドラゴンクエストⅢ:勇者の洞窟


「ふん、また来たのか、ひよっこども。言っておくが、ここは子供の遊び場ではないぞ。覚悟があるなら、せいぜい足掻いてみるといい。」


勇者の洞窟は、そう吐き捨てて体内の薄暗い通路を見下ろす。かつてロトの洞窟と呼ばれた頃の穏やかな気配は、そこには微塵もない。壁はひび割れ、不気味な瘴気が立ち込め、彼女の内部は常に重苦しさに満たされている。彼女の最深部にある巨大な爪で抉られたような深い傷跡にも見える底なしの穴、その忌まわしさから魔王の爪痕とも呼ばれることもあるのだ。


彼女の日常は、ロトの洞窟だった頃とはうってかわってしまった。かつては、ただ静かに冒険者の旅立ちを見守るだけの存在だったが、今は違う。彼女は、来るべき勇者を育てるための「訓練場」であり、同時に「(ふるい)」でもあるのだ。


「おやおや、呪文を使うなとあれほど言ったであろう!ここではそんな甘えは通用しないぞよ。さっさと己の力で切り開いてみせるのじゃ!」


彼女の体内で呪文を使おうとすれば、すぐに洞窟を満たす瘴気がそれらを打ち消す。それは彼女の意思でもある。呪文に頼りきった者には、真の勇者となる資格はない。肉体と、己の知恵と、そして何よりも折れない心がなければ、この洞窟を突破することなど夢のまた夢なのだ。


訪れる冒険者は、ロトの洞窟時代とは比較にならないほどレベルが高くなった。彼女の苛烈な性格と、その難易度の高さは、すでに巷に知れ渡っているからだ。真の勇者を目指す猛者たちが、血気盛んな若者たちが、彼女の中に入ることを諦めることは決してない。


「ほう、なかなかやるではないか。だが、まだまだだ。その程度の技量で、魔王に勝てると本気で思っているのか?」


彼女は、冒険者たちが苦戦する姿から目を背けることはない。罠にはまり、モンスターに囲まれ、時に力尽きて倒れる。その一つ一つの光景が、彼女にとっても「試練」なのだ。しかし、それは決して悪意から生じるものではない。むしろ、彼女は誰よりも、この世界の平和を願っている。だからこそ、生半可な気持ちで魔王に挑む者を、彼女は決して許さないのだ。


彼女の内部は、常に危険に満ちている。ロトの洞窟だった頃にはいなかった凶悪なモンスターたちが、冒険者たちを待ち受けている。曲がりくねった通路は、どこへ続くかも分からず、進むほどに方向感覚が麻痺する。


「その宝箱を本当に開けるのか。後悔せんのか。ほれ見ろ、言わないことはない。ミミックではないか。貴様には、もっと確かな技量と多くの経験、それに鋭い感が必要じゃな。」


そして、彼女の最奥には、勇者にとって最強の盾、「ゆうしゃのたて」が隠されている。しかし、それを手に入れるのは至難の業。その盾は、彼女の最後の試練であり、真の勇者であることの証でもある。彼女は、その盾を安易に与えようとはしない。それに相応しい器の持ち主にのみ、彼女は惜しみなく力を貸すのだ。その盾には、古の勇者の魂が宿るとも言われ、真の勇者でなければその輝きを引き出すことはできない。


「よくぞ、ここまでたどり着いた。その盾は、貴様が真の勇者であることの証。さあ、世界を救うのだ。我は、ここから貴様たちの旅を見守っていよう。」


ゆうしゃのたてを手にした冒険者を見ると、勇者の洞窟は、初めて満足げな表情を浮かべる。彼女の厳しい言葉の裏に隠された、深い愛情が垣間見える瞬間だ。彼女は、冒険者たちが新たな決意を胸に、次の目的地へと旅立っていく姿を、静かに、しかし誇り高く見送る。


しかし、時にはこんなことも。


「ったく、こんなところで野宿するな!瘴気が充満しているだろうが!病気になっても知らんぞ!」


「いくら呪文を唱えようとも無駄なのが判らぬか!何度試みようが発動せぬものは発動せぬのじゃ!」


たまに、無謀にも彼女の内部で野宿しようとする冒険者や、呪文が使えないことに納得せずに詠唱をし続ける者までいる。そんな時は、勇者の洞窟も、思わず怒鳴りつけてしまう。彼女の体内にいるはぐれモンスターが、その波動に反応して怯える羽目になる。


「はぁ……。驚かせてすまなかったな。お前を保護してくれるものが早く現れるとよいな

。」


彼女の日常は、ひたすら試練を与えることの繰り返しだ。しかし、その試練には、限りない期待と、未来への願いが込められていた。彼女は知っていた。いつか、己と仲間の力で試練を乗り越え、魔王を打ち倒し、世界に平和をもたらす真の勇者が現れることを。


その日のために、彼女は今日も静かに、しかし厳しく、その場所にあり続ける。かつてのロトの洞窟時代とは異なり、彼女はもはや単なる「番人」ではない。彼女は、世界を救うための「教官」なのだ。時折、雷鳴が彼女の体内で轟き、その決意を強めるかのように響き渡る。


そして、また一人、新たな冒険者が彼女の入り口に立っている。勇者の洞窟は、今日も静かに、そして苛烈な目で見守るのだ。


「さあ、来るといい。貴様が真の勇者であるならば、我の試練を乗り越えてみせろ。」


これは、かつて多くの冒険者たちがその力を試され、真の勇者へと変貌を遂げた、とある洞窟の、とある日常である。その名は「勇者の洞窟」。来るべき勇者を育てるため、厳しく、そして誇り高くあり続ける、宿命を背負った教官だ。


名称:勇者の洞窟

所在地:ラダトーム北西の砂漠

知名度:★★★★★

来訪者数:380万人

リピート率:★★★☆☆

見どころ:第三層の地割れ 飛び込むと地響きの後に吐き出される

どうか哀れな筆者にリアクションのお恵みを (人ω<`;)

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