【第5話】ほら、やっぱりみんな知ってる。
街を囲む大きな壁。その入り口であろう門の前には、鉄でできた装備を身に着けた兵士が一人。
「もしもし、門番さん。僕たち、この街に入りたいんですけど……」
「ええ、もちろん構いませんよ。見た所、お二人は冒険者の方ですよね。“冒険者カード”を提示していただければ、身分証代わりになります」
私とアストは顔を見合わせる。
「そんなの持ってなもががが──」
「あ、あはは……実は僕たち、いろいろあって冒険者カードを落としてしまって……」
アストは素早い動きで私の口を抑え、そう言った。
“冒険者”──たしか、以前訪れた世界にもそんな職業があった気がする。その世界では、冒険者はあるものと戦ってたはず……あ、そうだ──。
「──すごく強い魔物に襲われた」
口元に当てられた手をスッと退かし、私はキメ顔でそう言った。
「おや、そうでしたか……それは災難でしたね。ひとまず、身体の方はご無事なようで何よりです。それでは軽い審査を行いますので、どうぞこちらへ」
と、門の端にある扉へ向かう門番。
私はアストに軽いグッドポーズをすると、門番の後を追った。
「さすが旅人だね」
……
扉の先は個室になっていて、中には木でつくられた机と椅子が置かれていた。
「そちらのお嬢さんが魔法使いというのは分かるのですが……」
門番は私を一瞥し、続けてアストに視線を送る。
「……あ、あー……僕ですか? 僕はちょっとした剣士ですよ」
「そう、アストはしがない剣士」
「そうそう、しがない感じの剣士です。大事な剣も魔物のせいで失くしてしまって……」
と、アストは如何にもといった悲しげな顔をする。
やっぱり嘘が下手っていうか、わざとらしすぎる。
「本当によくご無事でしたね……同じ剣を扱う身として、貴方の生還を心から嬉しく思います」
わあ、騙せちゃうんだ。というかこの人、すごい良い人だ。
「ここ最近、魔物の活動が活発になってますから。もしまた外に出ることがあれば、十分気を付けてください」
「はい、お気遣いありがとうございます!」
「ほんと気を付けてよ、アスト。剣、高いんだから」
「……」
「では、審査はこれで以上です。ロゼさん、アストさん、スタルツへようこそ!」
個室の中の、入ってきた時とはまた別の扉を潜ると、そこには先ほど坂の上から見た街並みが広がっていた。
「いこう、アスト」
私はアストの手を取ると、迷いのない歩調で街中へと進んでいく。
「僕たちの目的が、ただの旅だったらどれほど良かったか……」
■ □ ■
「いいところ」
「そうだね。活気があって、景観も綺麗。とても豊かな国だ。僕がいた世界にも、こういった異星情緒にあふれた観光地があったっけ」
「それじゃあ、他の世界との交流は結構あったんだ」
「他の星がどのくらいか分からないけど、かなり頻繁に列車や星間船が行き来してたよ」
「なのに、魔法使いを知らなかった」
「うん……でも、僕みたいのは少数派じゃないはずだよ」
全世界を見ても魔法使いというのはかなり希少な存在。私が生まれ育った世界では、そうでもなかったけど。
「あ! まほうつかいのおねえちゃん!」
振り返ると、そこには一人の女の子がいた。
「……私?」
どうやら格好と杖を見て私を“魔法使い”と判断したらしい。
「うん! あのねあのね、わたし、おねえちゃんみたいなまほうつかいになりたい!」
「子供は素直だね」
アストが言う。
「聞いた? アスト。こんな小さな女の子でも、魔法使いを知ってる」
「この世界じゃ、一般的に知られてる存在なんじゃないかな」
「すごい世界」
「──ねえおねえちゃん! なにかまほうがみたい!」
「──ぐはっ!」
バタン、とその場に倒れ込む私。
「まほ、う……」
「わっ! お、おねえちゃんっ!」
「まずい、よくないことを思い出してしまったみたいだ」
うう、よくも私の魔法を……絶対に許さない、あの仮面の男……。
現時点で物語のスケールが代表作より大きいんですけど、この先もっと大きくなる予定なんですよね。