【第4話】この道、ずっとゆけば。
会話メインパートです。
「舗装された道に出たね。どっちに行こうか」
森を抜けた先、左右に伸びる一本道。その道は綺麗に舗装されていて、今でも人が利用していることが分かる。
「人がいる方がいい」
「どっちかな」
「分かんない」
まるで中身のない会話を繰り広げた後、私たちは勘で歩き始めた。
……
「今更だけど、私すごい後悔してる」
「何をだい?」
「旅の行き先に、ルドス星系を選んだこと」
「ああ……」
以前説明した通り、ルドス星系に属する世界は星によって差はあれど、基本的にあらゆる技術が非常に遅れている。
この舗装された道一つとっても、それが顕著に現れている。例えばここがステラターミナルだったならば、既に何十もの反重力機構が搭載された完全自動運転型車両(以降FAV)がこの道を通り過ぎていたことだろう。
「もしかしたら、外の世界のことすら知らないかも」
「かもしれないね。その時は相当苦労すると思うよ」
「向こう十年は帰れないかも」
「かもしれないね。その時は地道に頑張ろう」
にこっ、と笑うアスト。
「……うん」
……どうして、明るく振る舞えるんだろう。アストだって、不安なはずなのに。
私たちが生きてる内に元の場所に帰れる保証なんてどこにもない。
私と違って、アストにはちゃんと帰る場所がある。会うべき人がいる。
もう、今までの生活には戻れないかもしれないのに。
────どうして、笑えるの?
そんなことを考えている私の横で、アストは「ふう」と息を吐いた。
「……僕はね、本当は旅人なんかじゃないんだ」
アストは、ゆっくりと口を開く。
「ちょっと嫌なことがあってね……家を飛び出して来たんだよ」
「……そう、なんだ」
「そう。最初はヤケになっててさ、“もう二度と帰るものか!”って思ってた」
アストは歩みを止めることなく話を続ける。私はそれを、黙って聞いていた。
「それから行く宛もないまま列車に揺られて──しばらくして頭が冷えた。早く帰って、早く謝りたかった」
「……」
「でも、今は少し違う」
アストは、私の方を見る。
「──ロゼと出逢って、僕は今……、
君と、もう少し話をしていたいと、思ってしまっているんだ」
「だから──こんな状況も、君とならむしろラッキー……なんてね、あはは」
照れくさそうに笑うアスト。
「旅人なんて嘘をついちゃってごめんね。でも、悪気があったわけじゃないんだ」
「…………何となく嘘だって分かってた」
「ええっ!?」
「アスト、嘘つくの下手」
今まで会ったどの旅人とも、雰囲気が違ったし。
「そ、そっかあ……」
しょぼん、とした顔のアスト。
「…⋯⋯…私と話すの、楽しい?」
「うん。まだ出会って間もないけど、僕は君に興味津々だよ」
「そっか」
多分、初めて。
そんなことを言われたのは。
「……私も、ちょっとだけ楽しい。本当にちょっとだけど」
「……ぷっ、あははっ! それは良かった!」
「何がおかしいの」
「いやいや、なんでもないよ──って、あああっ! 見てよあれ!!」
アストの大声に一瞬驚きながらも、私は視線を前方へと戻す。
「街……」
「街だっ!」
そこには、とても大きな街があった。どうやら私たちは少しずつ坂を上っていたらしく、今いる場所からは街を一望できた。
「ここまで長かった」
「あの家を出発してからまだ半日も経ってないけどね」
「列車での出来事からの話」
「それでも一日くらいだよ」
「体感の話」
「ロゼの体感だとどれくらい?」
「二日」
「うーん……誤差かな」
そんなやり取りをしつつ、私達は軽い足取りで街へと向かっていった。