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【第3話】急募、魔法が使えない魔法使いの呼び方。


 「──うっ⋯⋯」


 まず、私を襲ったのはひどい疲労感と混濁した意識だった。つまり、最悪の目覚め。


 重いまぶたを頑張って開いてみると、見知らぬ天井。どうやら私は仰向けになって寝ていたらしい。


「……」


 私は先ほどの出来事を思い出す。

 ……いや、あれからどれくらい経ったのか分からないから、本当に“先ほど”かはともかく。


「──ファイア」


 私は仰向けのまま天井に手を伸ばし、そう唱える。



「……」


 しかし、何も起こらなかった。



「…………ひどい」


 一粒二粒と、止めどなく雫が頬を伝っていく。



 ────私は、本当に魔法を失ったんだ。



 どうしてこんなことになっちゃったんだろう。


 ただ、列車に乗っていただけなのに。

 何も悪いことなんてしてないのに。



 私には、魔法以外何も無いのに。



 溢れる涙を服の袖で拭う。だけど、どれだけ拭っても涙が止まる気配はない。



「──あああああっ!! 目が覚めたんだねっ!? 本当によかっ──ってあれ、泣いてる……?」


 聞こえてきたのは、聞き覚えのある声。今まで出会い、聞いたことのある声は数知れず……とはいえ、この声は強く印象に残っている。


 若い男の人の声。

 この声は────、


「────アスト……?」


 私は袖を避け、声の方を見る。


「おはよう、ロゼ。気分は……最悪みたいだね」


 言って、アストは私に手を差し伸べる。


「…⋯⋯…うん、ちょー最悪」


 私はそう返すと、アストの手を取って立ち上がった。


 辺りを見渡すと、どうやらここは民家の中らしい。

 と言っても、到底今でも人が住んでるとは思えない廃屋。家具もほとんどなく、耐久的にも結構ギリギリの状態。


「ここはどこなの?」


「森の中にある一軒家だよ。もう使われてないみたいだったから少しばかり借りてるんだ」


「森……」


 私は窓枠らしき部分(窓ガラスがない)から外の景色を軽く見渡してみる。

 確かに一面樹木が広がっていて、“森”以外にこの場所を呼称するにおいて最適な言葉はないだろう。


 すると、視界の隅にあるものが映る。

 

「……あれって──」


「ああ……」


 私の視線の先には、この森には相応しくない物体が一つ、悲惨な姿で転がっていた。


 そう、私とアストが乗っていた列車だ。


「気付いたらここに飛ばされてて……よく分からないまま右往左往してたら、空から突然列車が降ってきてさ。さすがに死ぬかと思ったよ」


 と、苦笑するアスト。


「近付いてみたら列車のそばに君が倒れててね。それからここまで運んで……大体半日と少しかな、君が目を覚ましたのは。はい、これ」


 アストの手には帽子と杖が握られていた。


「はあ……列車を使えば安心安全に移動ができるって言ったのは誰?」


 言いながら私は服を軽くはたき、帽子と杖を受け取る。


「ホントにね。さて、それじゃあステラターミナルの管理組織にクレーム入れるためにもまずは────」


「戻る方法を探さないと」

「戻る方法を探そうか」


 私は帽子を被ると、かろうじて機能している扉を開けて外へ出た。



☆ ★ ☆



 森の中を進む私たち。


 アスト曰く、この方向をしばらく進むと森を抜けられるらしい。すぐに引き返したので、森を抜けた後の地理はさっぱりとのこと。



「それにしても、よく無事だったね」


「それ、私のセリフ」


「いやいや、絶対僕のでしょ。空から列車ごと落ちてきて、生きてるどころか傷一つないときた」


 言われてみればたしかに。


「もしかして、それも“魔法”ってやつのおかげかい?」


「……ま、ほう……」


 その単語を聞いた途端、反射のように涙が込み上げてくる。


「ええっ?! ど、どうして泣くんだい?!」


「わ、私……魔法、使えなくなっちゃった……」


「使えなく……? ああほら、ハンカチあげるからとりあえず涙拭いて……可愛い顔が台無しだよ」


 私は受け取ったハンカチで涙を拭い鼻をかむと、そのままアストに差し出した。


「えっ」


「なんか、あの黒い服の人に奪われた」


「そ、それは大変だね」


 ハンカチを数秒見つめ、何事もなかったかのように相槌を打つアストに軽く敬意を表しつつ、私は続ける。


「それで返してほしかったら……」


 ああ、そうだ。そういえばあの時、“代わり”とか言って別の力を押し付けられたんだっけ。


「返してほしかったら?」


 たしか……〈破滅の力〉とか言ってた。あの星海みたいなピカピカがその力のことなのかな。


「“力を付けて有名になって、俺から奪い返せ”って」


「ふうん……返すつもりがあるなら、何のために奪ったんだろう」


「多分だけど、“力を付けて”ってとこに意味があるんだと思う。私、変な力を押し付けられたみたいだから」


「……それって、もしかしてその()が関係してるのかな」


「眼?」


「さっき気付いて、いつ言い出そうか迷ってたんだ────」



「────ロゼ、君の眼に何かの模様が浮かんでるんだ」



「……なにか? なにかって何?」


「ご、ごめん。お互い歩いてるからうまく見えなくて」


「じゃあちゃんと見て。大事な情報」


 そう言って、ぐいっと顔を近付ける。


「わ、ちょっ……」


「どう?」


「……六芒星だね」


「六芒星?」


 六芒星……魔法使いにも何かと縁のある模様だ。時期的に考えて、あの〈破滅の力〉と関係があると見てもよさそうだ。


「き、綺麗だよ」


「言ってる場合じゃないよ」


 アストから顔を離し、再び歩き出す。


「何か他に情報は……あっそうだ。私以外に、あの列車に乗ってた人はいないの?」


「他の乗客か……いたにはいただろうけど、僕はここに来てから、ロゼ以外の人は誰も見掛けてないよ」


「そう……」


 あの時、あの車両内には私とアストだけだった。だけど、他の車両にも人はいたはず。


 その人たちは一体どこへ……?


「……まあ、ひとまずいいや」


 今ある情報じゃ、どれだけ考えても答えに辿り着くことはできないだろうし。


 それよりも──、


「──アストって戦えるの?」


「え?」


「もし私たちにとっての“敵”が出てきたらどうするのって話。今の私、戦いじゃ何の役にも立たないよ」


「ああ……」


 アストは少し考える素振りを見せ、それから、


「大丈夫! 僕が話し合いで何とかしてみせるから!」


 自信満々に、そう言い放った。


「……」


 呆れに近いじとっとした目を向ける。


「はあ……この先出てくるのが、その“話し合い”が通じる相手だけだといいね」



 それからほんの数分後、私たちは森を抜けた。


【備考】

・ロゼ 白銀髪ロング 黄金眼 161cm 52kg

・アスト 金髪 蒼眼 178cm 70kg

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