【第2話】希望と絶望。
「アスト──!!」
消えた、
アストが、
私のせいで。
「……」
謎の人物はこちらを向く。そして今になって、おかしな仮面を着けていることに気付く。更に全身は黒衣で覆われており、その内側には不思議な模様が広がっていた。
あれはまるで、星の海──。
「……アストを、どこにやったの」
「近くの星へ飛ばした。安心しろ、運が悪くなければ死にはしない」
「……」
信じていいのか分からないけど……こんな嘘をついて意味があるとは思えない。
ひとまず、アストは無事なんだ。
……別にアストの身を案じていた訳じゃない。ただ、ちょっとした知り合いが目の前で死んだとなると、嫌な気分になってしまうから。
「次は、お前だ」
やけに聞き取りづらいくぐもった声。声質的には間違いなく男。
私は杖を両手でぎゅっと握る。
やるしかない。
──シュンッ!
「──っ!」
素早い動きで迫ってくる謎の男。その左手は大きく振りかぶられていた。
私はすかさず左へ飛び退き、その手を回避する。
「『エアブラスト』!!」
瞬間、列車にとてつもない突風が巻き起こる。
列車内という空間で発生したそれは、5M程度の樹木ならば容易に吹き飛ばせるほどの威力。
「うそ⋯⋯」
──しかし、男は吹き飛ぶどころか、微動だにしなかった。
「魔法、か──」
こうなったら、列車破壊覚悟で────、
「デルタ・ブレイ──っ!!」
ほんの、一瞬。
男に杖を向けてから、たった一文の詠唱をするまでの間に────、
「──かはっ……!」
男は私の目の前に現れ、右手で私の首を掴み上げた。
──カランッ……
杖が音を立てて地面に転がる。
「この時代に、良いモノを持っているな。それに……良い目だ」
グググ……と、首を絞める力が強くなっていく。
「それが、お前にとっての“希望”か」
「こ、の──……!!」
バタバタと、無様にもがくことしか出来ない私を真っ直ぐ見据え、男は続ける。
「ならば、それは俺がもらおう」
私の首を容赦なく絞めつけている男の右腕が、黒衣の内側に広がる星海模様に染まり、淡く光る。
「──絶望、失意、悲観……人は、深い闇の中でこそ“真の光”を見ることができる」
こ、こいつは何を言って────、
「代わりに、この力をやろう。無限の可能性に満ちた、破滅の力だ」
私の中から、大切な何かが消えていく感覚。それが何かなんて、考えるまでもなく一瞬で分かった。
それは私の生きる理由で、私の存在理由で……、
入れ代わるように、私の中に入っていく得体のしれない不吉な何か。
「返、して──……!! それは、私の──!!」
私の、たった一つの────、
────光……!!
その時、男の手を首から引き離そうと強く握った私の両腕が、男の右腕のように黒く深く光りだす。
「……そうだ、それでいい……」
湧き上がる力──、
腕に力を込めた、その覇気だけで車内はゴゴゴ……と音を立て揺れ始める。
今までの私じゃ考えられない、圧倒的な力。
「その力を、使いこなしてみせろ」
「か、えせ────っ!!」
だけど、それでも尚、この男には届かない。私が死ぬまで力を振り絞っても、この腕を振り解くことはできないだろう。
圧倒的で、絶対的で、絶望的な壁。
「その力を使いこなし、お前の存在がこの俺の耳に届くようになれば……また、お前の前に現れてやろう」
力を込めれば込めるほど溢れていく力、それに比例するように口から溢れていく血液。
「力で証明し、力で奪い返せ────」
「────お前の、光を」
男の背後に現れる、謎のゲート。男は私をその場に放ると、ゲートへと歩き出した。
あれは確か、転移魔法の────。
「わ、たしの……まほう──……」
目の前の景色はひどく歪んでいる。
力の代償によるものなのか、涙で滲んでいるのか、はたまたその両方か。
意識が途切れるその瞬間まで、私には分からなかった。
────ガシャアアアアアアンッッ!!
最後の聞こえてきたのは、そんな音だったと思う。
お察しの方もいるかと思いますが、この物語はとあるゲームにインスパイアを受けています。