【第10話】客観的極悪人。
「これ?」
「うーん⋯⋯多分、それだね」
私はその場にかがむと、白い花を2本ほど摘み取った。
「どうやらその花は、傷を瞬時に癒す薬に使われるそうだよ」
と、手に持っている本を見ながらそう言うアスト。
ちなみにその本は、薬草採取に向けて図書館から借りてきたもの。
「ポーション」
「おお、正解。よく知ってるね」
「私の生まれた世界にも似たようなものがあった」
「それにしても傷を瞬時に癒すって、すごい技術だよね」
「魔法でも同じようなことはできる」
治癒魔法──習得はそこそこ難しいけど、その有用性から多くの魔法使いが習得している魔法。
「あはは、魔法って何でもできるね。逆に、魔法にできないことってあるのかい?」
「──⋯⋯」
私は、言葉を発そうと開いた口を、すぐに閉じた。
そして再び、ゆっくりと開く。
「────ある。魔法は万能だけど、全能じゃないから」
そう言って、私は立ち上がる。
「いこう」
これでいい。
それは、アストに話すことじゃないから。
「訳アリっぽいね」
「⋯⋯そういうのは普通、思っても言わない。デリカシーない」
「もしかしたら言ってくれるかなって」
先を進む私の後ろを着いてくるアスト。腰には剣の収まった鞘が提げられている。
「言わない」
「絶対?」
「絶対」
「残念。それじゃあこの話はまた今度だね」
「⋯⋯」
● ■ ●
「順調すぎやしないかい? 結局、その魔物とやらは一度も見なかったし」
「良いこと」
「まあ、それはそうなんだけど⋯⋯何か引っかかるんだよね」
「⋯ん、私も気にはなってる」
門番さんに初めて会ったとき、門番さんは“魔物の活動が活発になっている”って言ってた。だけど、私たちからすると寧ろ超沈静。
私たちの運が良いだけという可能性も捨てきれない。
「というかいつの間にか僕たち、列車の近くまで来てたんだね」
「私がそう歩いてたから」
目当ての薬草も目的数採集し終えたので、ついでに寄ってみる。
「おお、さすが」
もしかすると、丁度助けが来てるかもしれない────、
「い、いたぞっ!!」
────なんて私の考えは、次に聞こえてきたそのセリフによって掻き消される。
「〈破滅〉の星権者だ! 気を抜くな!!」
列車の前には、二十名弱の人間が群がっていた。その一人がこちらに気付くや否や、そう声をあげたのだ。
「⋯⋯」
それが、私を指しているのは分かる。
「そこのお方、今すぐその少女から離れてくださいっ!!」
「ま、待ってくれ! 君たちは何か勘違いを────」
アストの言葉は少しも届いていない。
その証拠に、既に私たち⋯⋯いや、私を包囲するよう陣形を広げ始めている。
「すごい嫌われよう」
極悪人になった気分。
「──横にいる男は絶対に傷付けるな。あの星権者は生け捕りにしろ。〈破滅〉の星権者⋯⋯殺したら何が起こるか分からない」
ざわざわとした集団の中から、低く冷静な声が一つ。
「はいっ!!」
その人物こそ、この集団のリーダーであることは自明。
「うーん──」
「どうしようロゼ。彼ら、聞く耳を持ってないよ」
この状況から、私たちが得ることができる最善の結果は────。
「────私に、作戦がある」




