プロローグ
今回は、もふもふ森にやってくる前の、
小さな「思い出」のような一幕です。
暖炉の前、メエルと過ごすやさしい時間の中で――
ひとつの物語が静かに語られていきます。
あたたかな暖炉の火が、ぱち…ぱち…と静かに音を立てている。
「メエル、絵本を読んで!」
「いいですよ。……○○は、この絵本が大好きね」
「うん!」
部屋の中には、オレンジ色のやわらかな光が広がり、壁にゆらゆらと影を踊らせていた。
厚手のラグの上には、大きなクッションやもふもふのブランケットが散らばっていて、ぬくもりに満ちた空気が漂っている。
メエルは暖炉の前のゆったりとした椅子に腰かけ、膝の上には小さなもふもふがちょこんと座っている。
「むかしむかし、遠い昔、まだあなたも、私も生まれて居なかったはるか昔の出来事です――」
その子の小さな耳がぴくぴくと動き、好奇心いっぱいのまなざしで、メエルが手にしている一冊の絵本を見つめていた。
「もふもふの森と呼ばれる、動物がいない忘れ去られた土地に、一つの星が落ちてきました。
ある夢を持った旅人は、その森に落ちる星を見かけて、大慌てでやってくると、星はあたたかい光で彼を迎えてくれました。
星は彼の夢を叶えたのです」
メエルの声は静かに、ゆっくりと絵本の世界を紡いでいく。
語られる言葉の一つひとつが、まるで部屋の中に、かすかに光る星の粒となって降り注ぐかのようだった。
「でも……旅人はそれで満足したわけではなかったのです。
彼の願いが叶ったあと、心の中にぽっかりと穴が空いてしまいました。
その穴を埋めるために、彼はもう一度、森の中を歩き始めたのです」
メエルは、ふと語るのをやめて、ページをめくる手を止めた。
膝の上のもふもふは、じっとその続きを待つように目を見開いたまま、まばたきもせずに物語の行方を追っている。
窓の外には雪がちらちらと舞い降り、森の夜が静かに更けていく。
まるでこの場所だけが、時間の流れからそっと取り残されたかのように、あたたかく、穏やかな時が流れていた。
その風景は――
まるで、もふもふ森で過ごしたあの時間を、心の奥でそっと思い出しているかのようだった。
小さなもふもふが見つめていた絵本は、
本当にただの“物語”だったのでしょうか。
もふもふ森のどこかで、誰かが見た夢の欠片――
続きはまた、次のお話で。