3.推し活に目覚めた子爵令嬢のひとりごと
ちょっと短いです。
この度、私に素敵な友人ができました。アリア・テオドール伯爵令嬢です。アリア様は、非常に稀有な思考回路をお持ちの方です。いささかぶっ飛んでいるとしか言いようのないものではありますが、しかし、100%の善意をベースとした彼女の言動は、高い確率で欲にまみれた者どもの思惑をぬる〜っと潰していくのです。
かく言う私も、アリア様の天然発言に救われたひとり。長年私を苦しめてきた不実で頭の悪いマティアス・ガロン伯爵令息との婚約が、令息有責で解消の運びとなったのです。まさに奇跡と言っても過言ではありません。
アリア様の真っ当すぎる指摘や質問で、マティアホのひとりよがりな考えと行動が、少なくないギャラリーの前で露呈することとなり、その噂が広がったことにも後押しされて実にスムーズに婚約は解消へ。
その後マティアホは、ガロン伯爵から「平民の恋人と別れるか、廃嫡か、選べ」と言い渡され、あっさり真実の愛と別れたそうです。そしてしばらくは領地にて謹慎という名目の労働に従事しているとか。
まあ、控えめに言って、ざまみろです。ふふふ。アリア様、最高。邪気のない瞳をキラキラさせながら、欲深く身勝手な輩を再起不能に至らせる、鮮やかな手腕。しかも本人は無自覚で可愛らしいときた日には、これはもう、推せる以外の何ものでもないっっっ‼︎
心の中で叫んでおりましたら、私の肩にそっと手が置かれました。
振り返ると、そこには氷のナントカとかいう二つ名を持つ侯爵令息が。こ、怖いぃぃ。
結果から言いますと、全然怖いことはありませんでした。サルーシャ様の要件は、「アリア様を見守る会」の信者にならないかというお誘い。もちろん、二つ返事でオッケーです。
私が会員番号2番というのも魅力です。1番はもちろんサルーシャ様。ですが、サルーシャ様はアリア様の婚約者ですから、その立場は身内・主催・運営だと言えます。つまり、実質的に会員第1号であるのは、この私。ふふふ。
さて、アリア様の友人として、そして信者第1号としての初めての活動は、嬉し恥ずかし推しとのお茶会という、素晴らしい催しです。生きてて良かった。
し・か・も! その場でなんと、アリア様がありがたくも尊いやらかしを披露してくださったのです。生きてて良かった(2度目)。
我らが女神を崇め奉る司祭サルーシャ様は、信者第1号である私に、女神の奇跡の背景をすかさず卒なく語ってくださいました。
先日、街でサンドラ・エルム男爵令嬢がフェリシア・アスペン伯爵令嬢をまるで使用人のように扱っていたこと。アリア様はお二人との面識がなかったため、主人のように振る舞いアスペン伯爵家の馬車に乗り込んだサンドラ様のことを「アスペン伯爵令嬢」と間違って認識したこと。
さらにその数日後、池のほとりでサンドラ様がフェリシア様に罪をなすりつけるべくひと芝居打っていたところ、アリア様がその一部始終を目撃。それが悪意による行為だという発想が1ミクロンもないため、アリア様は「学園祭の演劇の稽古」と思い込んだこと。
そこへ登場したのが、クロード・チェスナット子爵令息。サンドラ様に駆け寄り、ただならぬ間柄を見せつけますが、実はこの方こそ、フェリシア様の婚約者。なんだか、マティアホと同じ匂いがします。
そして今、目の前で二幕目とも言うべき場面が展開されたのです。かなり見応えがあったであろう一幕目を見逃した私としては、今回こそ推しの勇姿をしっかりとこの目に焼き付けなくては。
フェリシア様を呼び止め、思い込みで糾弾を始めたクロード様。マティアホと同じ遺伝子を持ってるのではと疑いたくなるようなアホ男です。
そこへ降りかかる、アリア様の素晴らしいダメ出し! 待ってました!
「より素晴らしい演劇にするため」という、あさって方向の使命感に燃えたアリア様は、敏腕演出家さながらの痛烈なアドバイスを披露。あくまで “セリフ” のダメ出しをしてるつもりのアリア様ですが、その言葉の一つひとつがクロード様を抉る抉る。大爆笑を堪えるのが、これほどまでにキツイとは思いませんでした⋯⋯。
アリア様にとって誇れる友人でありたいと、心の声を隠し知的な令嬢として振る舞っていましたが、早くもボロを出してしまいそうな予感⋯⋯。アリア様、恐るべし。
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