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神を拾った竜殺し~星の少年と炎の少女~・改訂版  作者: みつまめ つぼみ
神を拾った竜殺し

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第9話 下山(4)

 焚火(たきび)の前で朝食を食べながら、リストリットが(そば)に居る竜を眺めていた。


 至近距離だというのにこちらを見つめるだけで、動く気配はない。


「すげーな、あんな近くに竜が居るってのに本当に襲ってこないなんて」


 ニアは肩を縮こまらせながら告げる


「生きた心地がしないわよ……」


 ノヴァがため息をついて告げる。


『だから襲われんと言ってるだろうに。

 奴らは作られた存在、作った通りにしか機能しない』


 ニアがきょとんとしながらノヴァに(たず)ねる。


「先史文明では、竜を人工的に作る技術もあったのね。

 そんな話、聞いたことも無かったわ」


 アイリーンが横から答える。


『そうじゃないわ。“竜”という生物が魔導技術の産物なの。

 本来、この地上に竜は存在しない、空想上の生物だったのよ。

 あの金色の瞳がその(あかし)。魔導技術で生まれた生命に義務付けられた瞳よ』


 ニアが納得したように(うなず)いた。


「ああ、それで貴女(あなた)たちの瞳が竜みたいな色をしてるのね。

 義務付けられたものだから、生前の瞳を再現できなかったということかしら」


『んー、それもあるけど、ああいう瞳を持った生物を作るための技術しかなかったのよ。

 必要がなかったから、発達しなかったの。

 お父様は天才魔導技師と呼ばれていたけど、それでも瞳を改変することはできなかったのね。

 魔導の禁忌を犯したんですもの、ただの義務なら無視して私の瞳を再現したはずよ』


 ノヴァがそれに(うなず)いた。


『試行錯誤していた記録は残っているが、それよりも優先度の高い課題があったからな。

 アイリーンの意識を目覚めさせることが最重要課題だった――それは(つい)に、叶わなかったがな。

 今も俺の補助魔法がなければ、アイリーンは意識を保てない。魂の出力が足りないからな』


 リストリットが(うなず)きながらノヴァに(たず)ねる。


「嬢ちゃんの魂の出力が足りないって、どうしようもなくないか?

 嬢ちゃんの魂を使ってる限り、解決しない問題だろう?」


『一度、魔導工房を用意して、そこで身体機能の調整をする必要がある。

 アイリーンの魂でも意識を保てる体にするか、アイリーンの魂の出力を上げるか。

 どちらにせよ、補助魔法に頼っていては(こころ)(もと)ないというものだ』


 ニアが呆気(あっけ)ににとられたような顔で(たず)ねる。


「そんな技術、現代にはないわ。

 当然、それが可能な魔導工房を作る技術もね――どうするの?」


『俺の体にはアイリーンの父親(ヴォルディモート)の魔導知識と実験記録が全て込められている。

 それでも先史文明最先端の魔導工房を再現するのは不可能だ。

 あれはあの時代の叡智の結晶ともいえるものだからな。

 神の記憶が戻れば簡単だろうが、今だ戻る兆候もない。

 どうにかする必要があるが、手がないな』


 リストリットも困り果てて思案する。


「うーん、ニア(アンジェ)でもお手上げとなると……アルスラーにでも相談してみるか。

 何か思いつくかもしれん」


 ノヴァが肩眉を上げてリストリットに(たず)ねる。


『そのアルスラーというのは何者だ? 役に立つ人物か?』


「古参の宮廷魔導士だ。話の分かる奴で、俺の事情も知っている。

 俺の作った冒険者クランの顧問魔導士もしてもらってるくらいだしな。

 あいつなら、クランの本部に呼びつけることも可能だろう。

 ……あー、そうだよ、お前らの身柄、どこに(かくま)おうか。

 クランで(かくま)えるかなぁ」


 ニアが眉をひそめてリストリットに(たず)ねる。


リストリット(リスナー)?! 王宮に連れ帰るんじゃなかったの?!」


 リストリットが確たる決意を(たた)えて答える。


「俺はこいつらの存在を陛下に知らせるべきではないと考えている。

 知られれば、必ず兵器として利用される。

 ノヴァは当然として、嬢ちゃんもだ。

 そんなことは俺の『人としての矜持』が許さん。

 人の道を踏み外してまで、国を守るべきではない。

 人も国も、死ぬときには死ぬものだ――どうあがこうと、な。

 ならば、誇りを胸に人として死んでいこう」


 ニアが悲しみを込めた瞳でリストリットを見つめた。


「殿下……」


「殿下はよせ! 今は『竜殺しのリスナー』だ」


 ノヴァが楽しそうに笑った。


『為政者としては失格だな! だが、人としてはより高みに居ると言えよう。

 一度口にしたのだ。(ひるがえ)すことはできんぞ?

 しかしお前には恩義がある。今ならば聞かなかったことにして、王宮まで付いていってやろう』


 リストリットは苦悩しながら答える。


「お前らを王宮に連れ帰れば、どうごまかそうと必ず陛下に古代遺物(ロスト・アーツ)であることがばれる。

 そうなれば兵器として利用されることは避けられん。

 ――確かに、王宮なら王子として様々な支援ができる。それは魅力だ。

 嬢ちゃんに新しい生活を用意してやることが容易になるだろう。だが危険すぎる」


 アイリーンがきょとんとした顔でリストリットを見つめた。


『あら、王子様でしたの? 私、王子様ってもっとキラキラした方だと思ってましたわ』


 アイリーンの口調が変わった――彼女もまた、高貴な血筋なのかもしれない。


 リストリットが自嘲の笑みを浮かべながら答える。


「この姿だとよく言われるよ、『むさくるしい』ってな。

 だが今の姿が本来の俺だ。

 腕力だけが自慢の、不甲斐(ふがい)なくて意気地(いくじ)がない、むさくるしい男さ」


 ニアが(あわ)てて声を上げる。


「いいえ! 殿下は人間的魅力にあふれ、王者の風格を持った正しく王子であらせられます!

 人を()きつけ、人を率いる魅力を持った方!

 身なりも整えれば、王族(ぜん)としたものです! どうぞお間違えなく!

 クランだって、殿下の魅力に()きつけられ、大勢の人材が集まっているではないですか!

 殿下の魅力は実績に裏付けされているのです!」


 リストリットが苦笑を浮かべて答える。


「だから、いつも言っているだろう?

 お前も、あいつらも、俺に幻想を見すぎだ。

 それにノヴァが言う通り、俺は為政者失格だ。

 背負うべき国民より、目の前の悲しい運命を救うことを優先しちまう。

 人の矜持なんて綺麗ごとを優先しちまうんだ。

 王位を継承する資格なんてないのさ」


「殿下……」


 ニアの悲し気な瞳を振り払うように、リストリットは立ち上がった。


「さぁ! そろそろ出発しよう!」


 アイリーンを背負い、歩き出したリストリットの(うし)ろをニアが付いていく。


 ノヴァは静かに二人の姿を見守るように歩き出した。


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