表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
神を拾った竜殺し~星の少年と炎の少女~・改訂版  作者: みつまめ つぼみ
神を拾った竜殺し

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

6/49

第6話 下山(1)

 竜峰山(ドラゴンズ・ピーク)の中腹を、隣国の騎士の一群が登っていた。


 山を登るため、重装備は持ち込めない。


 だが竜が多数生息するこの山に、皮鎧(レザー・アーマー)では死にに行くようなもの。


 折衷案で軽鎧(ライト・アーマー)と対竜武具を携えて登っていた。


 額に玉のような汗を流しながら騎士の一人が告げる。


「隊長、目標の古代遺跡(ベリド・アーク)まで(あと)どのくらいなんですか?」


 隊長格の騎士が口元を引き締めながら答える。


「弱音を吐くな、愚か者。

 ここから難所に入るはずだ。

 竜の住処(すみか)竜峰山(ドラゴンズ・ピーク)――なんでこんな場所に古代遺跡(ベリド・アーク)があるんだか」


 視界にも遠くの山陰を飛ぶ飛竜が多数見える。


 あの飛竜たちを刺激しないよう、なるだけ岩陰を選びながら騎士たちは進んでいる。


 だが騎士たちがうねった山道の小さな丘を越えた時、そこには絶望が広がっていた。


 中型の竜が山道の至る所に点在している光景――死を覚悟するしかなかった。


 騎士が慌てて竜殺しの剣(ドラゴン・キラー)を抜き放ちつつ叫ぶ。


「隊長! ここは駄目です! 引き返しましょう!」


「馬鹿を言うな! (ふもと)からここまで、一本道だったんだぞ?!

 また入口まで戻れというのか?! これ以上、他国に後れを取るわけにはいかん!」


 隊長格の騎士にも部下の言い分は分かる。


 このまま進んでも命を捨てるようなもの。


 目の前に居るのは体長二十メートルクラスの中型竜たち。


 上空には声を聞きつけたのか、飛竜たちの影もある。


 これほどの竜の群れを相手に、人間が生き残る方法などない。


 だが『新規に発見された古代遺跡(ベリド・アーク)の調査をするべし』と王命を受けている。


 (あら)されていない古代遺跡(ベリド・アーク)ならば、古代遺物(ロスト・アーツ)が存在するのはほぼ間違いない。


 軍事力に直結する強力な古代遺物(ロスト・アーツ)が他国の手に渡っては、国防問題にまで発展する。


 彼らに撤退は許されていないのだ。


 判断に迷う隊長格の騎士が叫ぶ。


「駆け抜けるぞ! 竜の攻撃をかわしながら先へ進む!」


 登山で疲れた体に気合を入れ、隊長格の騎士が駆け出した。


 部下たちもそれに続く――だが、最も近い竜が彼らを目に()めた瞬間、口の中に炎を溜め始めた。


 上空の飛竜たちが甲高い声で鳴き、次々と飛竜たちが騎士に向かって飛来してくる。


 竜たちの視線が騎士たちを捕らえ、それぞれが口の中に炎を含み始めた。


 それでも構わず騎士たちが走り抜けようと、竜を避けるように迂回し――次の瞬間、彼らは周囲から多数の火竜の息吹(ドラゴン・ブレス)を体で受け止めることとなった。


 爆炎に包まれた辺り一帯が、騎士たちの痕跡を跡形もなくこの世から消し去っていく。


 悲鳴を上げる間もなく、隣国の精鋭騎士たちは命を落とした。





****


『――ネズミがまだ居たか』


 ぽつりと(つぶや)いたノヴァに、リストリットが(たず)ねる。


「どうしたノヴァ、何かあったのか?」


『いや、なんでもない。それより先を急ごう。

 空調設備が死んでいて、ここは空気が悪い』


 リストリットが小さく息をついて答える。


古代遺跡(ベリド・アーク)なんて、どこもこんなものだろ?

 お前さんは贅沢(ぜいたく)を言いすぎだ」


 通路の先に明かりが見える――遺跡の入口だ。


 ノヴァがリストリットに告げる。


『リストリット、アイリーンを背負え。

 山道を裸足(はだし)で歩かせるわけにもいかん』


 リストリットが頷き、背負い袋を下ろしてしゃがみこんだ。


「嬢ちゃん、背中に乗れ」


 アイリーンがおずおずとリストリットの首につかまり、体を預ける。


 リストリットはアイリーンの足を抱えて立ち上がりノヴァに告げる。


「ノヴァは裸足(はだし)で平気なのか?」


『問題ない』


「なら俺の荷物を背負っておいてくれ。

 中身は減ったが、魔力装填薬(カートリッジ)は貴重品でな。

 置いていくわけにもいかん」


 リストリットの背負い袋を代わりに担いだノヴァが(たず)ねる。


『さきほど“帰り道で使う”と言っていたな。

 どういう意味だ?』


 遺跡の入り口に向かって歩き出したリストリットが答える。


「ニアの対竜用≪隠遁≫魔法が生命線だ。

 効果は往路(おうろ)で確認済みだが、魔力の消耗が大きい。

 どうしても魔力装填薬(カートリッジ)で補給しながらの下山になる」


 ノヴァがため息をついた。


『なんだ、そんなことか。ならばもうその必要はない。

 この荷物の中身は、別のことに使うとしよう』


 歩き出したノヴァにニアが(たず)ねる。


「必要ないって……どういう意味かしら?」


『そのままの意味だ。外に出ればわかる』


 ――この竜が多数生息する難所で、竜除けが必要ない?


 リストリットとニアは、小首を(かし)げながら遺跡の入り口から外に出た。





****


 表に出たリストリットは戦慄していた。


 目の前には大型の飛竜が一頭、待ち構えるかのように(たたず)んでいたからだ。


 嬢ちゃんを下ろして剣を――いや、それじゃあ嬢ちゃんが死ぬ。


 急いで遺跡内部に駆け戻れば、まだ助かる目があるかもしれなかった。


 だが背を向ければ背負ったアイリーンを盾にするようなもの。


 彼女を守ると誓ったリストリットにできる行動ではない。


 一瞬の逡巡で動きを止めたリストリットを、ノヴァが手で制する。


『安心しろ、問題はない』


 ノヴァが飛竜と見つめ合うと、飛竜は何事もないかのように飛び立っていった。


 その飛竜の姿をリストリットは茫然(ぼうぜん)と見送りつつ(つぶや)く。


「なぜ……助かったんだ?」


 ノヴァが周囲を見渡しながら答える。


『この山の竜たちは魔導工房の警戒装置――俺やアイリーンを襲うことはない。

 俺たちが同伴しているリストリットやニアもまた、攻撃対象とはされない』


 ニアがノヴァに(たず)ねる。


「この古代遺跡(ベリド・アーク)は魔導工房だったの?」


『そうだ。アイリーンの父親(ヴォルディモート)の研究拠点、それがこの場所だ。

 竜たちもアイリーンの父親(ヴォルディモート)が作り出している。

 言うなれば、俺たちの親戚のようなものだな』


 リストリットはようやくノヴァの言葉を飲み込んだ。


「――となると、残る脅威(きょうい)は他国の兵士たちか。

 ニア、警戒魔法を――」


『その必要もない。

 現在この山に、侵入者はリストリットとニアだけだ。

 魔力を無駄遣いするな』


 ニアが唖然(あぜん)としながら(つぶや)く。


「なんでそんなことがわかるの?」


 ノヴァが歩き出しながら答える。


『俺は研究所の警戒システムと接続されているからな。

 警戒網の情報は、俺に流れ込んでくる。

 心配は不要だ』


「便利なのね……」


 リストリットが声を上げる。


「そうとわかったら、とっとと下山しよう!」


 ニアとノヴァが(うなず)き、先頭を歩き始めたリストリットの(あと)を追った。





****


 竜が多数生息する山道を見下ろし、リストリットは戦慄していた。


「おいノヴァ、本当に大丈夫なんだろうな?」


 ノヴァが小さく息をついて答える。


『問題ないと言っただろう。

 食料事情の都合もある。最短距離で下山するぞ』


 ニアがノヴァに(たず)ねる。


「食料事情って……どういう意味かしら」


『ホムンクルスは魔力を“食べる”。

 この時代にホムンクルス用の食料などあるまい?

 さきほどの魔力装填薬(カートリッジ)とやらで代用するしかないだろう。

 ――おいリストリット、一番近くの町までどのくらい日数がかかる?』


 リストリットが付近の地図を思い出しながら答える。


「この道なら、下山まで三日。

 馬が無事なら、登山口から二日でピークスの町に辿り着けるはずだ」


 ノヴァが(うなず)いて歩き始める。


『それならば魔力装填薬(カートリッジ)にはかなり余裕があるな。

 野営を張ったら俺の体を修復するとしよう』


 ニアが(あお)()めて声を上げる。


「――そうよ! ノヴァくんも体が腐り落ちてるんじゃないの?!

 貴方(あなた)、痛くはないの?!」


『問題ない。先を急ごう』


 先を行くノヴァを追いかけるように、リストリットとニアは竜たちの群れに向かって歩き出した。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ