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神を拾った竜殺し~星の少年と炎の少女~・改訂版  作者: みつまめ つぼみ
神を拾った竜殺し

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第4話 誓願

 アイリーンが真っ赤になりながら声を上げる。


『なんで服を脱ぐ必要があるの?!』


 ノヴァが静かな表情で答える。


『検査のためだ。わずかな兆候も見逃したくない。

 恥ずかしがっている場合などではない――それくらいはわかっているだろう?』


『そりゃ……だけど! 別に脱がなくても!』


 リストリットがいたたまれなくなってノヴァに告げる。


「なぁノヴァ、長衣(ローブ)を着てちゃ駄目なのか?」


 ノヴァが振り向いてリストリットの目を見つめた。


『駄目だ。肉体の再構成だぞ?

 何が起こるかわからん。俺とて万全の体調というわけではない。

 わずかな兆候でも見落せば、それでアイリーンが命を落としかねん』


 ノヴァの様子を見ていたアイリーンがため息をついた。


『……わかったわ。お医者様の前で服を脱ぐのに、恥ずかしがる患者は居ないものね』


 そしてアイリーンが長衣(ローブ)に手を伸ばし、脱ぎ始め――手を止めた。


『――ちょっと?! この下は全裸よ?!

 十四歳の乙女に、同年代の男子の前で全裸になれって言うの?!』


 ノヴァが振り返らずに答える。


『何度も言わせるなアイリーン。

 俺はお前を失いたくなどない』


 ニアが眉をひそめて(つら)そうに告げる。


「アイリーンちゃん、貴女(あなた)のためよ? 頑張って!」


 アイリーンが真っ赤になりながら答える。


『無理よ! 貴女(あなた)ならどれだけ恥ずかしいことか、わかるでしょう?!』


 ニアが言葉に詰まり、しばらく言葉を探す様子だったが、がっくりと脱力した。


「……そうね、私にも無理だと思う」


 リストリットが小さく息をついてアイリーンに告げる。


(こく)なようだが嬢ちゃん……可哀想だが、嬢ちゃんの全裸は俺たちは一度見ている。

 今更隠しても、もう手遅れだ』


 アイリーンが羞恥で涙目になりながら体を震わせていた。


『……そう、一度見られてるのね。

 それなら! 二度も三度も同じよね!

 いいわ! やるならやって頂戴! 煮るなり焼くなり好きにして!』


 アイリーンが勢いよく長衣(ローブ)を脱ぎ捨て、涙を流しながらベッドの上に横たわった。


 ノヴァが振り向いてアイリーンに告げる。


『そう興奮するな。お前を悲しませたくて指示しているわけではない。

 必要以上には見たりもしないし、事が済んだら(すみ)やかに服を着てくれ』


 言うが早いか、ノヴァがすぐさま魔法術式を多重並列展開していく。


 おびただしい数の魔法陣が、アイリーンを取り囲んだ。


 ニアが驚いたように声を上げる。


「嘘?! なんて数なの!

 五十を下らない魔法の多重並列展開なんて、人間(わざ)じゃないわ!

 それも一つ一つが高度にアイリーンちゃんに最適化されてる……信じられない』


 ノヴァは淡々と告げる。


『思った以上に状態が(ひど)い。かなり苦しいだろうに……。

 未だに自我があるのが不思議なくらいだ。神経系すら満足に機能していない。

 補佐魔法をかけてこれか。やはり速やかに肉体の愛構築を実行するしかあるまい』


 ノヴァがアイリーンに告げる。


『これから再構築をするが、少し痛むぞ。その間は我慢してくれ』


 アイリーンの返事を待たず、ノヴァは魔法術式を次々と新たに追加発動させていく。


 その数は数百を下らないだろう。


 途端(とたん)にアイリーンが苦しみだし、苦悶(くもん)の表情で硬く歯を食いしばっていた。


 リストリットが思わず声を上げる。


「嬢ちゃん! 嬢ちゃんは大丈夫なのか?!」


 ノヴァが魔法術式を進めながら答える。


『さすがに、全身の体組織全てを一度に作り替えるのは不可能だ。

 正常に再構築された体組織が、隣接する異常な体組織を痛みとして通知してしまう。

 これは避けられん』


 リストリットは(こぶし)を固く握りしめ、アイリーンの悲鳴に耐え続けた。


 ――頑張れ、嬢ちゃん。


 ニアもまた、不安気(ふあんげ)な表情でアイリーンを見守っている。


 一分が経過した頃、アイリーンの悲鳴が止まった。


 体から力が抜けて、ゆっくりと息を吐いた。


 ノヴァは展開していた魔法術式をすべて解除し、大きく息を吐いた。


『――ふぅ。さすがに疲れたな。

 どうだアイリーン、もう痛みも苦しみもあるまい?

 お前の全身は今、全てが正常に機能している――早く服を着るといい』


 アイリーンが目を開けて(うなず)き、長衣(ローブ)を着込みながら告げる。


『すごいわ! 体が全然痛くないだなんて一年ぶりよ!』


 その明るい笑顔が、リストリットの胸には痛かった。


 ただ痛みがないだけでこれほど喜ぶほど、生前は(つら)い状態だったということだ。


 長衣(ローブ)を着終わったアイリーンがベッドから降りると、体を確認するように体を動かし始めた。


『わー! 自分の足で立つのも一年ぶりね!』


 リストリットは精一杯の明るい笑みで告げる。


「良かったな、嬢ちゃん。体が治ったんだな。 もう苦しくないんだな?」


 アイリーンがきょとんとした顔でリストリットを見つめ返した。


 そしてとても柔らかい、優しい微笑(ほほえ)みを浮かべた。


『ありがとう。貴方(あなた)、とっても優しい人なのね』


 リストリットの胸がさらに痛んだ。


 こんな笑顔を浮かべることができる少女が孤独のままに病死した。


 そして今、古代遺物(ロスト・アーツ)として現代に(よみがえ)ってしまっている。


 これから彼女を待っているのは、軍事兵器としての未来。


 そんな忌々しい結末に神を呪い、そんな現実に唾棄した。


 ――アイリーンは、そんな結末を迎えるために(よみがえ)ったわけじゃないはずだ。


 リストリット自身、古代遺物(ロスト・アーツ)を軍事技術として確保するためにこの場に居た。


 だがノヴァもアイリーンも人の心がある。


 ならば、彼らを兵器のように扱うのは間違っている。


 アイリーンには、今度こそ救いある人生を送らせるべきだ。それを固く誓った。


 ――まさか、ノヴァも同じような思いを?


 リストリットがふと気づき、ノヴァに(たず)ねる。


「なぁノヴァ、お前もしかして、アイリーンの父親に共感したのか?

 神頼みをしてでもアイリーンの救いを願った父親に共感して、力を貸しているのか?」


 ノヴァが柔らかい笑みをリストリットに向けた。


『さぁな……だがリストリット、貴様の()(よう)は好ましい。

 お前の(そば)になら、アイリーンを置いて置ける。

 俺たちはしばらく、お前に付いていこう』


 リストリットがきょとんとしてノヴァを見つめ返した。


「しばらくって……どれくらいだ?」


『この時代を把握するまでは一緒に居てやる。

 今は時が経ちすぎて、人間社会がどうなっているのか全く想像がつかん。

 アイリーンを人間社会に(まぎ)れ込ませるためにも、勉強せねばならんだろう』


 アイリーンがノヴァに告げる。


(まぎ)れ込ませると言っても、ホムンクルスは年をとれないわ。

 人間社会に(まぎ)れ込むなんて無理よ。

 ――そうか、私は大人になれないのね』


 切ない顔をしているアイリーンに、ノヴァが告げる。


『安心しろ。俺たちの体は二十歳程度まで成長するよう調整されている。

 大人にはなれるだろう』


 アイリーンが花開くような笑みで答える。


『え、本当に?! ――でも、二十歳で止まるなら老化はしないのね。

 普通に老化をさせてくれても良かったのに』


『老化までは許せなかったらしい。お前の父親(ヴォルディモート)も悩んだ末の結論だ。

 これは今更変えられん。諦めろ』


 ノヴァが李スリットに振り向いて告げる。


『いつまでもここに居るわけにはいくまい。

 リストリットの住処(すみか)に移動するぞ』


 リストリットは笑みを浮かべながら、しっかりと(うなず)いた。


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