第34話 さようならアルテイル魔導学園
夜になったノヴァとアイリーンの居室には、リストリットとニアの姿もあった。
ソファで待機する四人の前に、深刻な顔のテスティアが姿を現す。
「ノヴァ様、所在を知る新しき神の元を全て訪れましたが、ことごとくが滅ぼされておりました」
ノヴァは思案しながら答える。
「そうですか。ならばリストリットの言う通り、ブルームスベイルゲイルが異教の側に居ると見た方が良さそうですね」
リストリットが頭を抱えながら悩んでいた。
「そんな危険な異教なら、早いうちに締め出したいが……。
見つけ次第皆殺しじゃ、民衆の反感を抑えきれん。
アルトゲイル程、うちは王家に忠誠心がある国じゃないしなぁ。
すぐにどうこうすることはできない」
アイリーンが疑問に思い、ノヴァに尋ねる。
「ねぇノヴァ、死んだ新しき神はどうなってしまうの?」
「人格を失い、その力が僕本体の元に合流するでしょう」
リストリットが顔を上げて声を上げる。
「なら、その合流する力を追っていけば、お前の本体の場所が分かるのか?」
「理屈の上ではそうですね。
ですが僕の力は星幽界に隠しました。
ブルームスベイルゲイルがこの世界に一度受肉しているなら、彼は自力で星幽界に入ることはできません」
「じゃあ、抜け出したと仮定して、古き神ならどうだ?」
「古き神々はそもそも、星幽界に至ることができません。
それが唯一で来たのが僕です」
アイリーンがノヴァに尋ねる。
「それなら、テディのように星幽界に入れる存在の力を借りている可能性は?」
「それなら有り得ます。
ですが並大抵の存在では、隠された僕の本体を探し出すことはできません。
入念に隠した覚えがありますからね。
合流しようとする力を追跡しても、途中で見失うでしょう」
リストリットが顎に手を置いて告げる。
「だが、可能性は残るんだな?
だとすれば、そのブルームスなんちゃらの目的は『お前を探し出すこと』じゃないか?
今の人間界に、お前の存在が必要だと思ったんだろう」
ノヴァが思案を巡らせた。
「……否定はできませんね。
ですが、何を考えているのかは想像もつきません。
僕は見守る神です。
たとえブルームスベイルゲイルが僕を見つけても、僕は人間を見守り続ける。
それに二元管理社会を運営するにも、異教は邪魔なはず。それをなぜ放置してるのか」
アイリーンがノヴァに尋ねる。
「じゃあ、単純に『貴方に会いたい』というのは、動機になるかしら?」
ノヴァとテスティアの顔が歪んだ。
「……彼が、僕に? そんな人格を設定した覚えはありません。
彼がそんな存在だった覚えもありません。
むしろ、反抗する姿しか思い出せません」
テスティアが続いて告げる。
「私も同感です。私ならまだしも、ブルームスベイルゲイルがノヴァ様を求めてそんな行動を起こすなど、とても思えません」
リストリットが告げる。
「だが神も人間と同じ心を持つなら、長く敬愛する主人と会えないと本心が出る。
『会いたい、傍に居たい』とな。
元はお前の力を分けた存在なら、お前に帰属する本能があるんじゃないのか?
傍に居る時は反抗していた臣下が、長く離れていると主を欲するなんてのは、そう珍しい話じゃない」
ノヴァが考え込みながら答える。
「……そうですね。僕に帰属する本能はあるでしょう。
それがあるから、滅んだ後に力が僕の元へ戻ります」
「ならやはり、今は納得できないかもしれないが、その可能性は高いと思う」
ノヴァが小さく息をついた。
「その真相は、異教を叩き潰す時にわかるでしょう。
本当にブルームスベイルゲイルが異教に味方をしていれば、いつかは会うことになります」
リストリットがきょとんとした顔で尋ねる。
「叩き潰すって、どうするんだ? テスティア女皇のように、教徒を皆殺しにするのか?」
「テスティアは新しき神の中でも穏健派です。
その彼女ですら皆殺し以外に手がないと判断した。
この為政者であるリストリットにはできないでしょうが、僕らが裏で潰して回ります。
貴方はそれに対して目をつぶっていれば良いんです」
リストリットは複雑な表情で黙って俯いていた。
ニアはそっとそれに寄り添い、共に部屋から出ていった。
テスティアはリストリットたちを見送った後、ノヴァに尋ねる。
「ノヴァ様、『隠れて叩き潰す』とはどいう意味ですか?」
ノヴァが肩をすくめて答える。
「そのままですよ。僕が自ら、この町の異教の根城に踏み込みます。
異教徒たちの魂を目界へ送り届けてあげましょう。
異教が古き神に通じているなら、直接会うこともあるかもしれませんね」
テスティアが慌てて声を上げる。
「そんな! 危険です! 今のノヴァ様では古き神に勝てません!
今のノヴァ様より強い力を持った神すら、既に滅ぼされていたのですよ?!」
「まぁそう決めつけないでください。必ずしも会うとは限りませんし。
それに力の強さのみが勝敗を決するわけでもない。
やりようはきっとあるでしょう」
****
翌朝、学園の授業の時間に眠り倒すアイリーンの姿があった。
ついに魔導実技以外の時間でも、退屈に耐えれれなくなったのだ。
授業が終わり、目を覚ましたアイリーンにノヴァが告げる。
『アイリーン、それでは学校に通ってる意味などないぞ』
『でも、どうしても抗いがたい眠気に負けてしまうのよね。
学校の授業がここまで退屈だとは思わなかったわ』
『周囲のメモ、俺たちを皇族として扱い鬱陶しい。学校はもう諦めるか』
アイリーンはしばらく悩んでいた。
『……そうね、このままでは授業をしているムシュメルトさんにも、他の生徒にも失礼だわ。
自主退学してしまいましょうか』
ノヴァが頷いて答える。
『わかった。では教員室に行って、俺が説明しよう』
二人は荷物をまとめると立ち上がり、教員室へ向かった。
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話を聞いたムシュメルトは、直ちに理事長に話を取り付け、二人は理事長室に通された。
ウェシュゲットが悔しそうにノヴァたちを見つめていた。
「そうですか、皇族であることは本来、内密にしておき高田のですね」
ノヴァが頷いて答える。
「ええ、テスティア女皇とビディコンス国王の間で、そう約束されていたものです。
その約束を反故にされたのです。
僕たちは正式な皇族ではありません。
皇族として扱われるのは、僕たちも不本意であり、迷惑なのです」
ウェシュゲットが小さくため息をついた。
「……我々には、国王陛下の通達に逆らう力はありません。
外交問題になりかねないこともできません。
現状が我慢ならないのであれば、自主退学はやむを得ませんね。遺憾です」
ノヴァがニコリと微笑んで答える。
「気にしないでください。この学園に落ち度はありませんでした。
僕たちも、リストリット第二王子の元で教師を付けて勉学を続けます。どうか心配なさらず」
そう言い残し、ノヴァとアイリーンは理事長室を後にした。
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廊下を歩きながら、アイリーンが尋ねる。
『あの言い方だと、ビディコンスさんに対する不信感が募るわね』
『敢えてそう言ったからな』
『あら、どうして?』
『ビディコンスには引退してもらい、リストリットが王位に就けば良い。
ビディコンスが錯乱して妄言を振りまいたことにするんだ。
その後、俺たちが皇族であることをリストリットに国王として否定してもらえばいい』
『でも、リストリットさんは王位に就くのを嫌がってたわ。
“ニアさんの負担が大きくなる”って』
『確かに王妃ともなれば、背負うものは大きくなる。
だがニアはもう覚悟を決めている。
覚悟ができていないのはリストリットだけだ。
婚姻が済み次第、速やかに王位が移るよう手を尽くそう』
『あら、それまでは待ってあげるのね!』
ノヴァがニヤリと笑みを浮かべた。
『王の婚姻では、ニアが王妃になれんかもしれんからな。
第二王子妃になってから、王位を移して王妃にしてやれば良い』
アイリーンがニコリと微笑んだ。
『やっぱりノヴァは優しいわね!』




